無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「世界は視点で変わる」
「オレはよく、こう言うんだが」
「それは当然、経験したから言える事」
「オレは以前は、自分が不幸だと思っていたが」
「今考えれば、そうではなかったと言える」
「だって、生きてたんだぜ?」
「生きてたからこそ、オレは契約できたんだから」
「な? 幸せだっただろ?」


八十三章 役立たず

SIDE 佐倉杏子

 

「どういうことだ……?」

 

 再会した公園の一角で、目の前の少年が言い放った言葉。

 

『佐倉先輩“だけ”なら賛成だ』

 

 それはつまり。

 

「ゆまは……この子は?」

「知ったこっちゃないな」

 

 次の瞬間、あたしは魔人に詰め寄り、その襟を掴み上げていた。

 背はあたしの方が高く、僅かに宙吊りの状態になる。だが。

 

「オレは、オレの為に生きる。

 見ず知らずの子なんて、知ったこっちゃない。

 最初に会った時に、そう言った筈だ」

 

 何故こいつは、普通に会話を続けてる!?

 

「過程を仮定して話すが。

 きっとそこの少女は、魔法少女になって日が浅い。

 そして、少なからずそこに佐倉先輩が関わってしまった。

 だからこそ、知名度も高くなった“かつての仲間”に頼るべきなのか?

 そこで迷ってるんじゃないか?」

 

 その言葉に、あたしは思わず手を離して後ずさった。

 何だこいつは? 何なんだこいつは!!

 あたしの心情など無視するかのように、魔人は言葉を続ける。

 

「佐倉先輩の実力は、ある程度の予想が出来る。

 一度だけだが共闘もしたし、独りで生き抜いてきた事実もある。

 まあ、巴先輩のノートに“佐倉杏子の項目”があったのには、正直驚いたけど」

 

 ! そうだ! こいつは今、マミの相棒をしている。

 なら、マミのノートを見ていてもおかしくない。

 

「実力的にも、経験的にも、佐倉先輩を迎える事に異論はない。

 関係的には……まあ、微妙なラインだとは考えてるけど」

 

 そうだ。マミの相棒なら。以前のあたし達の事を多少は知っていて、おかしい事などない。

 

「だが。

 そこの子は、また別問題だ。

 少なくとも、オレはそう考える。

 巴先輩は巴先輩だし、佐倉先輩は佐倉先輩。

 オレは、どう足掻いたってオレだし。

 ゆま……だっけ?

 ゆまはゆまでしかない」

 

 ゆっくりと眼鏡を外し、真剣な左目を向ける魔人の言葉に、あたしは耳を傾ける事しか出来ない。

 

「さて、ここでオレが“足手纏い”を仲間に引き入れるメリットは?

 皆無だろう?

 だからオレは「ゆまはあしでまといなんかじゃない!!」……はぁ……」

 

 言葉の途中、それまで黙っていたゆまが大声を上げ。

 自分の言葉を途中で遮られたあいつは、小さく溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 それまで、状況がよく解らなかったゆまも、群雲の言葉に我慢が出来なかった。

 それに対して、群雲は冷静な目で、ゆまを見つめる。

 

「さっき、キョーコを助けたもん!

 ゆまだって、戦える!!」

「当たり前だ、馬鹿野郎」

 

 感情の高ぶるままに叫ぶゆまに対し、群雲は淡々とした口調。

 

「契約したんだろ?

 魔法少女になったんだろ?

 なら、戦えて当たり前なんだよ。

 オレ達はそう言う風に“造り替えられた”んだからな。

 オレが言ってるのは、そこじゃない」

 

 いつしか会話は、群雲とゆまのものになり。杏子はその会話を聞いているだけになっている。

 

「独りなら、それでいいさ。

 勝手に戦って、勝手に死ねばいい。

 だが、独りじゃない場合。

 チームの場合はそう言うわけにはいかない。

 誰かが失敗したら、当人だけで済む問題じゃなくなる。

 だからこそ、共に戦うべき存在に対し、オレは絶対に、妥協しない。

 自分の命に直結する事だからだ」

 

(ふむ……)

 

 そして、離れた場所にいるキュゥべえもまた、3人の動向を見守っているのだが……。

 

「ゆまも、魔法少女だもん!

 キョーコみたいに!

 キョーコと一緒に!!

 これから魔女と戦うんだから!!!

 だって、ゆまは「夢を見たいなら寝ろ、クソガキ!!」!?」

 

(随分と、琢磨らしくないね)

 

 ゆまの言葉を、それ以上の大声で切り捨てた群雲に対しての、キュゥべえの印象。

 そんな存在がいる事に気付かず、契約者達の会話は続いていく。

 

「甘ったれた考えで、魔女に向かおうとするな!

 魔法少女は、完全無敵でもなんでもない!

 魔女は、決して優しい存在じゃない!

 魔女に殺された魔法少女なんて、いくらでもいるんだ!

 明日、佐倉先輩が死ぬかもしれない!

 明日、お前が魔女に殺されるかもしれない!

 そんな可能性が、当然の世界だ!

 魔法少女なんてファンシーな呼び名でも、襲い来る絶望は紛れもない現実だ!」

「だから、キョーコと一緒に戦うもん!

 ゆまだって、キョーコを守れるもん!!」

「……あぁ!?」

 

(さて、何が琢磨をここまで吠えさせるのか?

 これだから、感情は理解できないんだ。

 まったく、わけがわからないよ)

 

「出来もしねぇ事口走ってんじゃねぇぞ、役立たずが!」

「~~~~ッ!!

 おまえ、ダイッキライだぁぁぁぁ!!!」

 

 口論の果て。

 ゆまは、感情のままに変身する。

 子猫を連想させる衣装に、球形のハンマー。

 

「ゆまっ!!」

 

 流石に状況を認可できなくなった杏子が、声を荒げるが。感情が完全に先行しているゆまには届かない。

 

「だいじょうぶだよ、キョーコ!

 こんなやつ、ゆまがやっつけてやるんだから!!」

 

 それに対し、群雲も変身を完了させていた。

 緑の軍服に、両手足を染める黒。

 

「大人しく、キョーコお姉ちゃんに手伝ってもらえよ。

 お前一人も、役立たずを抱えた二人も、大して変わらん」

「うるさいっ!!」

 

 口の端を持ち上げる群雲に、睨み付けるゆま。

 

「夢見がちで、現実を見る事無く、魔女に向かう者の末路は解りきってる。

 Answer Deadだ」

 

 ゆまの怒気を正面から受け止めて、群雲はいつものように宣言する。

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

少女の想いと願いと奇跡

少年の想いと願いと奇跡

綺麗に言うなら、そのぶつかり合い






















有体に言えば

ただの子供の、下らない喧嘩

八十四章 一部召還

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