「オレにとっては“戦う=相手を殺す”だからなぁ。
ぶっちゃけ、手加減なんてした事ない。
でも、流石に今回は殺すわけにはいかなかったんで、仕方なく素手」
「それで、あの戦闘能力かよ……」
「
ただ、<
魔女に通用したの、見たことねぇし」
SIDE 佐倉杏子
あたしは、気を失ったゆまを背負い、目的地に向かって歩いていた。
あたしの前を歩くのは、自分よりも小さい少年。
……あたしは、どうしたいのだろう……?
SIDE out
時は、僅かに遡り
「ゆま!!」
倒れたゆまに駆け寄る杏子。その傍らで<
「死んではいないさ。
たかが電気ショック程度で死ぬなら、オレ達は魔女を狩れない」
“魔法少女の真実”を知っている群雲だ。ソウルジェムが
「邪魔な奴が寝てくれたんで、ようやく話が出来るな」
言いながら煙を吐き出す群雲を、杏子が睨み付ける。
「ここまでしといて、今更何の話があるんだよ?」
その敵意を正面から受け止めながら、それでも群雲は変わらない態度で告げる。
「先輩達が見滝原の
群雲にとっては、まだ会話の途中に過ぎないのだ。
途中で
「まあ、共闘するかもしれない相手の実力が知りたいってのもあった。
だから、戦ったのさ。
そうじゃなきゃ、オレがゆまと戦う理由が無い。
あの状況で、それ以外にオレに戦う理由があったと思うか?」
自分の為に生きる。その目的に忠実な群雲が、成り立てと思われる少女と、わざわざ戦った理由。
「まあ、それ以外にもあるんだけど」
「あるのかよ!?」
平常運転の群雲に、杏子が思わずツッコんだ。
「まあ、オレは見滝原に戻らないといけないんで。
佐倉先輩に来る気があるのなら、歩きながら話そうか」
SIDE 佐倉杏子
そんなやり取りの後、あたしはゆまを背負って群雲と歩いていた。
しばらくは、無言で前を歩いていた群雲だったが。
「佐倉先輩は、最初に会った時にした会話を憶えてる?」
その質問から、話が始まった。
「あぁ。
憶えてるよ」
忘れていない。最初の群雲との出会い。あの光景。
「自分の願いで家族を壊した先輩と、自分の為に願って、引き返す道を消したオレ。
まあ、そこはさして重要じゃない」
じゃあ、言うなよ。
「重要なのは“家族を失った結果、自分の為に力を使うと決めた先輩が、なぜ今になって
! こいつは……!?
「そこで、群雲琢磨は過程を仮定する。
と言っても、情報はおそろしく少ない。
先輩と一緒にいる
家族の為に願いを叶え、結果として家族を失った先輩が、ゆまと一緒にいた理由。
普通に考えれば、ただ巻き込まれただけだろう。
だが、オレ達と“同じ”であるならば、事情は違ったものになる」
こいつは、あの短時間の会話でここまで……!?
「最初に会った時と同じ印象であったなら、佐倉先輩にとって他の魔法少女は“
だが、もしも“ゆまが先輩の為に願って、魔法少女になってしまったんだとしたら”どうか?
納得いく説明が出来るようになる。
……聞く?」
右目に眼帯をしている関係か、左側から振り返る群雲。それでも歩みを止めてはいない。
「……聞こうか」
「ん」
あたしの答えに、群雲は再び前を向いて話し出す。
「家族の為に願い、家族を壊した。
なら、自分の為に魔法少女になったゆまを、佐倉先輩は見捨てたりはしない。
誰かの為に願った結果の絶望を知っているから。
逆を言うなら“佐倉先輩が裏切らない限り、ゆまが絶望することは無い”と、言い換えてもいい。
そこで、佐倉杏子は考えた。
少なくとも、ゆまが一人前になるまでは、自分がゆまを育てよう。
でも、今まで一人で頑張ってきたから、やり方なんてわからない。
そこに、
佐倉杏子は考えた。
巴先輩なら、ゆまを任せても安心だと。
もしかしたら、以前のように自分も巴先輩と一緒に戦えるかもしれないと」
「ちょ、ちょっと待てよ!?」
さすがに、あたしは声を荒げた。それを気にせずに群雲は話を続けやがる。
「巴先輩と一緒に戦った経験がある。
巴先輩のノートに“佐倉杏子の項目”がある。
それはつまり“佐倉先輩もかつては、巴先輩と同様の目的で戦っていた”事になる。
魔女の脅威から、一般人を護る為の戦いに、ね」
そして、その言葉であたしを黙らせる。こいつの頭の中はどうなってやがるんだ!?
「家族の崩壊が切っ掛けだったんじゃないか?
と、群雲琢磨は仮定を過程する。
逆だ、過程を仮定する」
「そして、文字じゃなきゃわかりにくいわ!」
もうやだ、こいつ……。
「まあ、未だに“巴先輩が、佐倉先輩の項目を大事にしてる”から、仲は良かったんだと簡単に解るさ。
……
「はったおすぞ、てめぇ!」
お前だって人の事言えねぇだろうが!
「まあ、そんな佐倉先輩のページに、ポツポツと濡れた痕があれば……ねぇ?」
「っ!?」
「<
佐倉先輩との共闘に関しては、反対する理由は無い。
だが、ゆまに関してはどうか?
はっきりいって、判断できる材料は一つもない。
故に、賛成する理由が無い。
だから、言ったのさ」
あたしだけなら賛成。あれはそういう意味だったのか。
改めて、目の前の少年を見る。
魔法による補助があるとはいえ。そこまで考えていたのかと。
「そしたら、ゆまが割り込んできたんで黙らせた。
邪魔だったからね。
まあ、実力を知る良い切っ掛けだったってのもある」
「他にも理由があるのか?」
「そうだなぁ。
比率で言うのなら。
ゆまの実力を知りたかったのが1割。
会話を続ける為に、黙らせたのが1割。
妬み8割」
「いや、おかしいだろそれ」
妬み8割って……。
「羨ましいと言い換えても良い。
無知ゆえの純粋さというか、勇気と履き違えた無謀というか」
「誉めてないだろ、それ」
「うん」
「真面目に話せ」
「ちょっ、解ったから槍で尻をつつくな!
変身してないのに、魔法で出来た武器を取り出せるとか、妬ましいわっ!」
話が進まない……。
しぶしぶながら槍を消して、ゆまを背負い直す。
「契約前も契約後も、オレは独りだったからね。
誰かの為に願えた事、誰かと一緒に居られた事。
それが、羨ましくて妬ましい。
そして同時に、一緒にいる人を巻き込んで破滅しかねない事に、自覚が無い。
それがちと、ムカついた」
「それを、ゆまに求めるのは酷じゃねぇか?」
「オレと無関係なら、それこそ知ったこっちゃなかったがね。
共闘する可能性が出てきてる以上、そこを妥協する気は無い。
巻き込まれて死ぬとか、一番笑えねぇよ」
自分大前提。それがこいつの考え方なのは、最初に会った時に解ってた。
でも、ここまで徹底しているとは思ってなかったのも事実。
あたしは、群雲琢磨を計り損ねてたってことか。
「まあ、最終的な決定権は巴先輩にあるから、オレの話はここまでにしとこう」
言いながら、群雲はゆっくりと振り返る。それにあわせて、あたしも歩を止める。
「どうするかは、先輩達で決めてくれ。
オレはその上で判断するさ。
どうするのが“自分の為になるか”をね」
次回予告
合流するか否か
或いはここが、人生の分岐点
そんな、重要な事柄すらも
知ったこっちゃない少年の――――――
八十六章 野暮用