無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

91 / 173
「そういえば、何でお前は武器を使わなかったんだ?」
「オレにとっては“戦う=相手を殺す”だからなぁ。
 ぶっちゃけ、手加減なんてした事ない。
 でも、流石に今回は殺すわけにはいかなかったんで、仕方なく素手」
「それで、あの戦闘能力かよ……」
黒く帯電する拳(ブラストナックル)はともかく、最後の電気ショックはぶっちゃけ技でもなんでもないぞ?
 ただ、<電気操作(Electrical Communication)>の電気を外に出しただけだし。
 魔女に通用したの、見たことねぇし」


八十五章 だから戦った

SIDE 佐倉杏子

 

 あたしは、気を失ったゆまを背負い、目的地に向かって歩いていた。

 

 あたしの前を歩くのは、自分よりも小さい少年。

 

 ……あたしは、どうしたいのだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 時は、僅かに遡り

 

「ゆま!!」

 

 倒れたゆまに駆け寄る杏子。その傍らで<一部召還(Parts Gate)>を解除した群雲が、右手に電子タバコを取り出して、口に咥える。

 

「死んではいないさ。

 たかが電気ショック程度で死ぬなら、オレ達は魔女を狩れない」

 

 “魔法少女の真実”を知っている群雲だ。ソウルジェムが()()であるのなら、脳に電気ショックを与えた程度では死ねない事を知っている。

 

「邪魔な奴が寝てくれたんで、ようやく話が出来るな」

 

 言いながら煙を吐き出す群雲を、杏子が睨み付ける。

 

「ここまでしといて、今更何の話があるんだよ?」

 

 その敵意を正面から受け止めながら、それでも群雲は変わらない態度で告げる。

 

「先輩達が見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に加入するって話だろ?」

 

 群雲にとっては、まだ会話の途中に過ぎないのだ。

 途中で邪魔者(ゆま)が割り込んできたので、黙らせた。それだけの事。

 

「まあ、共闘するかもしれない相手の実力が知りたいってのもあった。

 だから、戦ったのさ。

 そうじゃなきゃ、オレがゆまと戦う理由が無い。

 あの状況で、それ以外にオレに戦う理由があったと思うか?」

 

 自分の為に生きる。その目的に忠実な群雲が、成り立てと思われる少女と、わざわざ戦った理由。

 

「まあ、それ以外にもあるんだけど」

「あるのかよ!?」

 

 平常運転の群雲に、杏子が思わずツッコんだ。

 

「まあ、オレは見滝原に戻らないといけないんで。

 佐倉先輩に来る気があるのなら、歩きながら話そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 そんなやり取りの後、あたしはゆまを背負って群雲と歩いていた。

 しばらくは、無言で前を歩いていた群雲だったが。

 

「佐倉先輩は、最初に会った時にした会話を憶えてる?」

 

 その質問から、話が始まった。

 

「あぁ。

 憶えてるよ」

 

 忘れていない。最初の群雲との出会い。あの光景。

 

「自分の願いで家族を壊した先輩と、自分の為に願って、引き返す道を消したオレ。

 まあ、そこはさして重要じゃない」

 

 じゃあ、言うなよ。

 

「重要なのは“家族を失った結果、自分の為に力を使うと決めた先輩が、なぜ今になって巴マミ(かつての相棒)と合流しようかと考えたか”にある」

 

 ! こいつは……!?

 

「そこで、群雲琢磨は過程を仮定する。

 と言っても、情報はおそろしく少ない。

 先輩と一緒にいる少女(ゆま)だ。

 家族の為に願いを叶え、結果として家族を失った先輩が、ゆまと一緒にいた理由。

 普通に考えれば、ただ巻き込まれただけだろう。

 だが、オレ達と“同じ”であるならば、事情は違ったものになる」

 

 こいつは、あの短時間の会話でここまで……!?

 

「最初に会った時と同じ印象であったなら、佐倉先輩にとって他の魔法少女は“GS(グリーフシード)を奪い合う敵”でしかない。

 だが、もしも“ゆまが先輩の為に願って、魔法少女になってしまったんだとしたら”どうか?

 納得いく説明が出来るようになる。

 ……聞く?」

 

 右目に眼帯をしている関係か、左側から振り返る群雲。それでも歩みを止めてはいない。

 

「……聞こうか」

「ん」

 

 あたしの答えに、群雲は再び前を向いて話し出す。

 

「家族の為に願い、家族を壊した。

 なら、自分の為に魔法少女になったゆまを、佐倉先輩は見捨てたりはしない。

 誰かの為に願った結果の絶望を知っているから。

 逆を言うなら“佐倉先輩が裏切らない限り、ゆまが絶望することは無い”と、言い換えてもいい。

 そこで、佐倉杏子は考えた。

 少なくとも、ゆまが一人前になるまでは、自分がゆまを育てよう。

 でも、今まで一人で頑張ってきたから、やり方なんてわからない。

 そこに、かつての相棒(巴先輩)と一緒にいるらしい群雲琢磨(オレ)が現れる。

 佐倉杏子は考えた。

 巴先輩なら、ゆまを任せても安心だと。

 もしかしたら、以前のように自分も巴先輩と一緒に戦えるかもしれないと」

「ちょ、ちょっと待てよ!?」

 

 さすがに、あたしは声を荒げた。それを気にせずに群雲は話を続けやがる。

 

「巴先輩と一緒に戦った経験がある。

 巴先輩のノートに“佐倉杏子の項目”がある。

 それはつまり“佐倉先輩もかつては、巴先輩と同様の目的で戦っていた”事になる。

 魔女の脅威から、一般人を護る為の戦いに、ね」

 

 そして、その言葉であたしを黙らせる。こいつの頭の中はどうなってやがるんだ!?

 

「家族の崩壊が切っ掛けだったんじゃないか?

 と、群雲琢磨は仮定を過程する。

 逆だ、過程を仮定する」

「そして、文字じゃなきゃわかりにくいわ!」

 

 もうやだ、こいつ……。

 

「まあ、未だに“巴先輩が、佐倉先輩の項目を大事にしてる”から、仲は良かったんだと簡単に解るさ。

 ……赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)(笑)」

「はったおすぞ、てめぇ!」

 

 お前だって人の事言えねぇだろうが!

 

「まあ、そんな佐倉先輩のページに、ポツポツと濡れた痕があれば……ねぇ?」

「っ!?」

「<電気操作(Electrical Communication)>で、頭をフル回転させながら、群雲琢磨は考える。

 佐倉先輩との共闘に関しては、反対する理由は無い。

 だが、ゆまに関してはどうか?

 はっきりいって、判断できる材料は一つもない。

 故に、賛成する理由が無い。

 だから、言ったのさ」

 

 あたしだけなら賛成。あれはそういう意味だったのか。

 改めて、目の前の少年を見る。

 魔法による補助があるとはいえ。そこまで考えていたのかと。

 

「そしたら、ゆまが割り込んできたんで黙らせた。

 邪魔だったからね。

 まあ、実力を知る良い切っ掛けだったってのもある」

「他にも理由があるのか?」

「そうだなぁ。

 比率で言うのなら。

 ゆまの実力を知りたかったのが1割。

 会話を続ける為に、黙らせたのが1割。

 妬み8割」

「いや、おかしいだろそれ」

 

 妬み8割って……。

 

「羨ましいと言い換えても良い。

 無知ゆえの純粋さというか、勇気と履き違えた無謀というか」

「誉めてないだろ、それ」

「うん」

「真面目に話せ」

「ちょっ、解ったから槍で尻をつつくな!

 変身してないのに、魔法で出来た武器を取り出せるとか、妬ましいわっ!」

 

 話が進まない……。

 しぶしぶながら槍を消して、ゆまを背負い直す。

 

「契約前も契約後も、オレは独りだったからね。

 誰かの為に願えた事、誰かと一緒に居られた事。

 それが、羨ましくて妬ましい。

 そして同時に、一緒にいる人を巻き込んで破滅しかねない事に、自覚が無い。

 それがちと、ムカついた」

「それを、ゆまに求めるのは酷じゃねぇか?」

「オレと無関係なら、それこそ知ったこっちゃなかったがね。

 共闘する可能性が出てきてる以上、そこを妥協する気は無い。

 巻き込まれて死ぬとか、一番笑えねぇよ」

 

 自分大前提。それがこいつの考え方なのは、最初に会った時に解ってた。

 でも、ここまで徹底しているとは思ってなかったのも事実。

 あたしは、群雲琢磨を計り損ねてたってことか。

 

「まあ、最終的な決定権は巴先輩にあるから、オレの話はここまでにしとこう」

 

 言いながら、群雲はゆっくりと振り返る。それにあわせて、あたしも歩を止める。

 

「どうするかは、先輩達で決めてくれ。

 オレはその上で判断するさ。

 どうするのが“自分の為になるか”をね」




次回予告

合流するか否か

或いはここが、人生の分岐点



そんな、重要な事柄すらも

知ったこっちゃない少年の――――――

八十六章 野暮用

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。