無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「なぜ、杏子はゆまを魔法少女にしたくなかったのだろう?」
「それをオレに聞くか、ナマモノ」
「琢磨は、予想できるかい?」
「そりゃ、商売敵は増やしたくないだろ。
 誰だってそう思う、オレだってそう思う」
「そんなものか」
「そんなものさ」


八十八章 反対よ

SIDE 巴マミ

 

 学校が終わった私は、真っ直ぐに自分の家へと帰る。

 正直、今日の授業内容なんて、覚えていなかったけれど。

 それも、仕方の無い事だと思う。

 朝起きたら、佐倉さんと見知らぬ少女が寝ていたんだから。

 

「おかえり」

 

 玄関を開けた私を、琢磨君がいつものように迎えてくれる。

 

「ただいま。

 佐倉さんは?」

「起きてるよ。

 ゆま……もう一人の少女も起きてる」

 

 そう言って、琢磨君は奥へと向かう。

 私も、逸る気持ちを表に出さないように気をつけながら、その後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 マミが帰ってきて、あたし達はリビングのテーブルに集まる。

 三角形のガラステーブル。一辺にマミ。一辺に琢磨。一辺にはあたしとゆま。

 琢磨が用意した紅茶を飲みながら、あたし達は会話を始める。

 

「まずは、オレからの説明だな。

 正直、オレの紅茶じゃ、巴先輩の足元にも及ばない」

「何の話だよ!?」

「最初に比べれば、随分上達したと思うわよ」

「確かに、初めて作った紅茶は、緑色してたしな」

「ほんとに紅茶なのかよ、それ!?」

「本当に、なんであんな色になったのかしらね?」

「材料は一緒なのにねぇ」

「それで琢磨君。

 本題に入ってもらってもいいかしら?」

「はいよ」

 

 手馴れてやがるな、マミの奴も。

 紅茶を飲んで、喉を潤し、眼鏡を外した琢磨が話を始める。

 

「昨日の夜。

 巴先輩が寝た後に、オレは『電子タバコを買いに』見滝原の外に出た」

「うん、ちょっと待ってね」

 

 そして、一言目でマミからストップがかかる。

 

「色々、ツッコミ所満載なんだけれど」

「解ってるよ。

 ちゃんと説明するさ」

 

 それに対し、琢磨も予想の上だったのだろう。

 順番に話し始めた。

 

「『電子タバコを近所で買ったら、目をつけられるのは当然だ』

 『そうなれば、パトロールに支障が出る危険性がある』

 『それでなくても、本来なら学校に行っている筈のオレが、平日の日中には動きにくいんだ』

 でも、電子タバコは修行道具だし、無くなったらオレが困る。

 『だから、別の街で調達する必要があるのさ』

 巴先輩が寝た後なのは、日中はいつも二人でパトロールしている事がひとつ。

 巴先輩を連れて、電子タバコを購入する訳にいかないのが一つ。

 別の街に行く必要がある以上、学校生活を送る巴先輩に夜更かししてもらえないのがひとつ。

 まあ、こんなところかな」

 

 そこまで言って、紅茶を一口飲み、琢磨は話を続けた。

 

「そして『電子タバコを買って』見滝原に戻る途中に、偶然佐倉先輩達と鉢合わせした。

 で、色々話した結果、巴先輩と会おうって事になって、連れてきた。

 まあ、以前相棒だったらしいし、断る理由はなかったかな」

「……佐倉さんから聞いたの?」

 

 マミの質問に対し、琢磨は首を振る。

 

「見滝原に来る前に、一度だけ佐倉先輩と会って、共闘したことがある。

 巴先輩のノートを見て、そこに書かれている魔法少女が佐倉先輩だと気づいたのは『昨日』さ。

 まさか同一人物だとは、この魔人のタクマの目を略」

「ただの節穴じゃねぇか」

「いや、むしろ後からでも気付けたオレがすげぇ」

「自画自賛かよ」

「佐倉さん、いちいち琢磨君に付き合ってると時間がどれだけあっても足りなくなるわ」

「巴先輩が冷たい……紅茶は温かいけど」

「お前が用意したんだろうが」

 

 こいつ、やっぱめんどくせえ。

 マミは、やっぱり手馴れた感じだ。付き合いの長さを嫌でも実感させられる。

 

「さて、話を戻すか。

 オレとしては、知ったこっちゃない事ではあったが。

 巴先輩の元相棒。

 以前、一度だけ共闘した相手。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)として考えれば、協力してもらう事に異議はない。

 もちろん“実力的には”という言葉が前に入るけど」

 

 そう言って、琢磨は視線をゆまに移す。

 ゆまはゆまで、起きてからずっと琢磨を睨んだままだ。

 その視線を確認して、琢磨は肩を竦める。

 

「まあ、余計なおまけもあるが」

「むー」

「いちいち、吹っ掛けるんじゃねぇよ」

 

 唸るゆまの頭を撫でつつ、あたしは釘を刺す。

 それを完全に無視して、琢磨は話を続ける。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)として、一緒に活動してきた巴先輩。

 一度だけ共闘し、色々話をした佐倉先輩。

 そして二人は以前、共に戦っていたという事実と、今は別行動であると言う現実。

 まあ、過程を仮定すれば、ある程度の予想は出来る。

 詳しく聞きだす気は無いし、話したいなら話してくれても構わない。

 だが、今、重要なのはそこじゃない」

 

 過去の話は、後でも出来る。今、すべき話が何なのかを、琢磨はその言葉であたし達に認識させる。

 こいつ、本当に年下かよ?

 そんなあたしの考えなど知る由もなく、琢磨は話を締めくくる。

 

「話し合いは、巴先輩と佐倉先輩でよろしく。

 まあ、どんな内容になるのかは、これまでの会話で予想出来てくれてると思うけど」

 

 紅茶を飲む琢磨に、考え込むマミ。

 マミの言葉を待つあたしに、琢磨を睨むゆま。

 あまり、いい雰囲気とは言えない時間は、ほんの僅かで。

 

「琢磨君の判断は?」

「巴先輩におまかせ。

 ゆまも未知数だし、そんなやつに時間を費やす気は、オレには無い。

 先輩たちの軋轢は、オレが介入するべきでもない。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)からは抜ける気はないんで、オレの事は度外視で考えてくれていいよ」

 

 そして、琢磨は紅茶を飲み干し、電子タバコを持ってベランダに出た。僅かに吹き込む風が、あたし達全員を撫でていく。

 

 残されたのは、あたしとマミとゆま。

 話をするべきは、あたしとマミ。

 

 別れたのはあたしから。

 離れたのはあたしから。

 

 そのあたしが、どの面下げて、マミに会えるというのか。

 

 それでも。

 

 ゆまが魔法少女になって。見捨てる訳にはいかない、一人前にしなきゃいけない。そう考えた時。

 真っ先に、脳裏に浮かんだのは師匠(マミ)だった。

 マミなら、どうするだろう?

 そんな事が脳裏に過ぎった矢先、現れたのは今の師匠の相棒(琢磨)だった。

 そして、琢磨に「これからどうする?」と聞かれて、あたしは悩んだ。

 ゆまが魔法少女になるように先導したらしい、白い魔法少女織莉子。

 そいつの目的は解らないが、オトシマエだけはきっちりつける。

 でも、それよりも。

 ゆまを放置する訳には行かない。

 出来れば、ゆまには戦ってほしくはない。この世界の冷たさは、独りで戦ってきたあたしにはよくわかってる。

 でも、魔法少女になってしまった以上、せめて自分の身は守れる様になってほしい。

 だが、独りで生きてきたあたしが、うまくゆまを育てられるとは思えない。

 

 でも“マミ先輩”なら。

 

 琢磨と会った事で、あたしの頭にはそんな考えが浮かんだ。

 だから、こうしてマミと会おうと決心した。

 

「それで、佐倉さんはどうしたいの?

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に入る?

 それとも、その子を置いて去るのかしら?」

 

 あたしが言葉を発する前に、マミからの言葉が続く。

 

「悪いけれど、以前のままの貴女なら、お断りさせてもらうわ。

 私は今でも、使い魔を倒す事に後悔は無いし、琢磨君にも協力してもらってるもの」

 

 あいつが使い魔を倒す事に、違和感を持つ。だが、それが事実だという事は、マミを見ればわかる。

 

「……今更、あたしがあんたに謝るのは、筋違いかもしれない」

 

 裏切ったのはあたしだ。傷つけたのはあたしが先だ。

 解ってる、最初から解ってた。

 家族を失い、自棄になってたあたしに、それでも繋ぎとめようと手を伸ばしたのはマミだ。

 

 それを、振り払ったのは、あたしなんだ。

 

「自業自得だってのも理解してるし、言い訳だってする気もない。

 だから、あたしがするのは、ただの“お願い”だ」

「……お願いを聞く気があると思う?」

 

 だから、こうやって、振り払われても当然だ。

 

「私は、琢磨君と一緒にいると決めた際、色々な条件を提示したわ。

 あの子は、私とは真逆。

 それを、嫌でも理解してしまったから」

 

 だから、否定されて当たり前なんだ。

 

「きっと、琢磨君とは真逆の事を、私は言うわね」

 

 そして、マミさんはゆまに視線を移して、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その子“だけ”なら、反対よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

人との関わりは、優しいだけじゃない

人との係わりは、楽しいだけじゃない

それを知りつつ、求めてしまう




だからこそ、人は

他の動物が持ち得ない物で、それを確立させようとする

その手段 そのひとつ








八十九章 O☆H☆A☆N☆A☆S☆H☆I

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