無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

96 / 173
「魔法少女になると、肉体が強化される」
「本体である魂が、より力を発揮しやすいようになるからね」
「……変身って必要なのか?」
「変身は、言うなれば“最適化”だからね。
 変身後は使えても、変身前には使えない魔法が存在するのは、そこに起因する。
 同時に、より最適な状態になる事も有り得る」
「バージョンアップみたいなものか?」
「普通は、そうなる前に絶望に負けちゃうんだけどね。
 だから、逆を目指してる琢磨は、中々興味深いよ」
「変身後に使える魔法を増やすのではなく、変身前にも魔法を使えるようにする。
 なるほど、確かに逆だな。
 まあ、魔人だしねぇ」
「それは普通、理由にならないんじゃないかな?」
「理由なんて、後から納得する為のものじゃん。
 事実である必要も、真実である意味もない。
 テレビとかで、警察が動機を追及しているとか良く聞くけど、あれ、完全に無意味だよね」
「地球人であるキミが、そこを否定するのかい?
 わけがわからないよ」
「わかれ」
「無茶を言わないで欲しいな。
 僕らには感情がないんだから、キミ達を完全に理解する事なんて不可能だろう?」
「わかるようになれば、お前の仕事の効率だって上がると思うけどなぁ。
 それよりも」
「なんだい?」
「お前といると、前書きが長くなる」
「いきなりメタくなったね」


九十章 誤解されてる気がする

SIDE 群雲琢磨

 

「誤解されてる気がする」

「何の話だい?」

「群雲琢磨くんの話さ」

 

 右肩に乗るナマモノに、オレは簡潔に答える。

 

 今、オレは見滝原じゃない場所で、ナマモノと一緒にいる。

 目の前には、先程オレのSG(ソウルジェム)を浄化した結果、孵化直前となったGS(グリーフシード)

 

 待っているんだ。魔女が産まれるのを。

 

「本当に、琢磨は僕の予想を裏切ってくれるね。

 まさか“GS(グリーフシード)を使い回す”なんて、考えてもみなかったよ」

「お前らにとって重要なのは“SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)へ変換される時のエネルギーを回収する事”であって“GS(グリーフシード)そのものではない”からな。

 求めるモノ(カメラ)の違いさ」

 

 魔法少女は、魔女を狩る。そして、GS(グリーフシード)を手に入れて、SG(ソウルジェム)を浄化する。

 そうすると、GS(グリーフシード)に穢れが溜まる。溜まりきれば、GS(グリーフシード)は魔女を産む。

 魔女を狩る魔法少女が、魔女が産まれるのを容認しない。

 と、普通は考える。だからナマモノが回収する。

 そういうシステムになっている。

 

 “と、魔法少女は()()()()()()()()()

 

 孵化した魔女をもう一度倒せば、また使えるGS(グリーフシード)を落とす事に、気付いていない。

 

「そういえば、聞いてみたい事があったんだが」

「なんだい?」

 

 せっかく“邪魔者”がいないので、ナマモノに疑問を解消してもらおう。

 

GS(グリーフシード)を落とす魔女と、落とさない魔女がいるが、あれはなんでだ?」

「正確な情報があるわけじゃないから、推察になるけれど、いいかい?」

「自分達で創ったシステムなのにか?

 つっかえねぇマスコットだな、おい」

「僕はマスコットじゃないよ?」

 

 いきなり話が逸れた。軌道修正、軌道修正。

 

GS(グリーフシード)は、SG(ソウルジェム)が穢れを溜めきった結果、反転するモノなのは知ってるよね。

 つまり、GS(グリーフシード)もまた“魂の結晶”である事に、変わりはないってことさ。

 それが“魔法少女”のものか“魔女”のものかの違いだけでね」

 

 頭をフル回転して、情報を整理。

 

「なるほど、そう言う事か」

「理解が早くて助かるよ。

 皆が琢磨のようだと」

「世界が滅ぶぞ、多分」

「わけがわからないよ」

「わかれ」

 

 世界に“まったく同じ人間”はいない。双子でさえ“魂は別々”だ。

 そして“魂があるからこそ、SG(ソウルジェム)が生成され、GS(グリーフシード)へと反転”する。

 つまり“SG(ソウルジェム)が反転して産まれた魔女だけが、GS(グリーフシード)を落とす”って事だ。

 

「使い魔が成長した魔女は、GS(グリーフシード)を落とさないって訳か」

「その魔女は“自分を産んだ魔女とは別固体”だからね。

 SG(ソウルジェム)から産まれた訳ではないのだから、GS(グリーフシード)を落とすはずがない」

 

 うわ、めんどくせぇ……。

 結局の所、魔女を殺してみないと、落とすかどうかわからないって事じゃん……。

 

「そして、回収したGS(グリーフシード)から、僕らは穢れを抜き取る。

 穢れとはすなわち“負の感情が具現したもの”だからね。

 だから、先程琢磨が言ったように“GS(グリーフシード)そのものに、僕らは用はない”んだ。

 溜まった穢れこそが、目的だからね」

「まったくの無意味って訳でもないのか。

 でもそれなら、穢れを抜いたGS(グリーフシード)を返してもらえば、万事解決じゃね?」

「それだと“新たな魔女”が生まれないじゃないか。

 僕らの第一目的は“魔法少女が魔女になる際のエネルギーの回収”だよ?」

「それもそうか。

 0よりは良い、程度の事。

 あれ? そうなると回収したGS(グリーフシード)って、その後どうするんだ?」

 

 穢れを回収したら、残るのは穢れのないGS(グリーフシード)だ。

 それはSG(ソウルジェム)ではないのだから、ナマモノが所持する理由が無くなる事に。

 

「当然“穢れが溜まりそうな場所”に置いておくよ。

 一般人にはGS(グリーフシード)は認識できないからね」

 

 最低だこいつら。知ってたけど。オレも人の事言えんし。こいつらは人じゃないけど。

 

「……ん?」

 

 ここで、新たな疑問発生。

 

「なら、お前らは全ての魔女を把握してるのか?」

「いいや。

 使い魔から産まれた魔女は、GS(グリーフシード)を落とさない。

 僕らにとって、価値はないよ」

 

 そうくるか。

 

「なら、全てのGS(グリーフシード)は把握してるのか?」

「ところが、そうではないんだよね。

 中には、使い魔がより良い場所へGS(グリーフシード)を運んでしまう場合がある。

 そうなると、僕らにはどうしようもない。

 なにより、それらを探すよりも、新しい素質者を探すほうが効率が良い」

 

 確かにそうだ。

 “GS(グリーフシード)に溜まったエネルギー”よりも“SG(ソウルジェム)が燃え尽きた際のエネルギー”の方が良いのは、こいつらの話を聞いてれば容易に理解できる。

 同じ“時間”を費やすならば“より大きいエネルギー”を求めるのは道理。

 

「状況によっては、SG(ソウルジェム)から産まれた魔女でも、GS(グリーフシード)を落とさないこともある。

 それに“ワルプルギスの夜”や“キミ”のような“イレギュラー”も存在する。

 ワルプルギスの夜が、今まで抱え込んできた穢れや、キミのSG(ソウルジェム)が燃え尽きた際のエネルギーには、とても興味がある」

「魔人って“GS(グリーフシード)以上魔法少女(ソウルジェム)以下”なんじゃないのか?」

 

 こいつらの話から、回収できるエネルギーを比率するなら。

 

 魔女化>GS(グリーフシード)の穢れ

 

 そして、オレのような魔人は、その間。しかも穢れ寄りのはずだ。

 だからこそ魔人の絶対数が少ない。ナマモノ的にも、素質があっても、回収できるエネルギーが少ないと契約する価値が無いからだ。

 

「イレギュラーだと言っただろう?

 誰も討伐した事のない、伝説の魔女。

 前例のない事を起こした、群雲琢磨。

 回収できるエネルギーを、正確に把握する事は不可能だ」

「伝説の魔女と同義とか、オレすげぇ」

「でなければ、僕らがGS(グリーフシード)を使いまわさせると思うかい?」

「上から目線をありがとよ。

 人間が使えるのに、自分達が使えないシステムに固執する、下等生物」

 

 でも、魔女を確殺できるほど強くないとか、ひどくね?

 むしろ、ワルプリャーに勝てるとは限らんし、聞いた限りじゃ敗戦濃厚っぽいし。

 最近は、どうにも感覚が鈍ってきてるしなぁ。

 だからこそ、変身せずに<電気操作(Electrical Communication)>を使えるようになろうと頑張ってるんだが。

 

「まあ、ある程度の情報は得られたんで良しとするか。

 なにより、そろそろだからな」

 

 本当は、もう少し話をしたいんだがねぇ。

 オレは、思考を切り替えて、近くにあるGS(グリーフシード)に視線を移す。

 

「マミに言って、協力してもらえばいいのに」

「容認するはずないだろ?

 “魔力を回復させる為に、殺した魔女にもう一度生まれてもらって、また殺す”とか」

 

 うわ、言葉にすると、オレも大概えげつねぇ。

 反省も後悔も絶望もしないけど。

 まあ、魔女との戦いは一期一会。同一の魔女と戦う事は、めったに無い。

 そんな簡単に、使い魔が魔女に成長するわけでもないし。

 GS(グリーフシード)はナマモノが回収するわけだし。

 

 だが、()()は当て嵌まらない。

 落としたGS(グリーフシード)から、別の魔女が生まれるはずが無い。

 それは、先程ナマモノが言った事からも、充分に証明されている。

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 ここにあるって事は、オレは一度“この魔女を殺した事がある”と言う事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、サクっと倒して、見滝原に帰らないとな」

 

 ちなみに、わざわざ別の街まできたのは“先輩達に気付かれない為”だ。

 そして、朝までに。先輩達が起きる前に帰らないと。

 

 実は、オレが睡眠をとってない事がばれたら、色々と小言を言われてしまう。

 

 眠る必要は無い。肉体は所詮“魂が動かす道具でしかない”んだから。オレは、その事を知っているのだから。

 まあ、他の魔法少女はそれに気付いておらず“人間として生活している”訳だが。

 

 

 

 知ったこっちゃないさ。

 

 

 

 

「でてくるよ」

 

 ナマモノはそう言って、遠くへと避難する。

 ……何体か、戦闘に巻き込んで殺しちゃったもんね。ごめんよナマモノ。反省も後悔も絶望もしないけど。

 

 そして、オレはいつものように宣言する。

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべっ!?

 空が明るくなりだしてる!!」

「てこずったのかい?」

「<一部召還(Parts Gate)>を試してたけど、全然つかえねぇんだもんよ!

 ぶっちゃけ、<電気操作(Electrical Communication)>のレベルを上げて、物理的に殴った方がはえぇ!

 マジ、なんなんだよ、この魔法!?」

「キミの魔法だろう?」

「わかってるよ、コンチキショウ!」




次回予告

舞台は、準備を着々と進めている

役者は、状況を確実に進めている

そんな一場面が

心を、間違いなく揺り動かす



九十一章 使い物にならない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。