無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「琢磨は何であたしらを先輩呼称で呼ぶんだ?」
「年上だから」
「単純な理由ね」
「じゃ、なんでゆまは呼び捨てなんだよ」
「格下に気を使う必要なくね?」
「ゆま、こいつキライ!!」
((最低だ……))
「わけがわからない……事もないな」
((自覚してる分、余計に性質が悪い……))
「先輩達も大変だねぇ」
「「原因がそれを言う!?」」


九十一章 使い物にならない

SIDE 佐倉杏子

 

 あたし達が、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)のメンバーになって、1週間。

 特に、大きな出来事が起きたわけじゃない。そう簡単に起きてたまるかっての。

 

 必ず最初に目を覚ましてる琢磨と挨拶。起きてきたマミと3人、或いはゆまを加えた4人で、朝食。

 

「大分、上達したわね」

「だよねぇ」

 

 朝食は琢磨が作ってる。マミが学校に行っている間、家事をするのがおいてもらってる条件の一つだと、琢磨から聞いていた。

 そんなことしなくても、マミが追い出すって事はないと思うけどな。

 

「最初の頃は、ひどかったものね」

「何故、卵焼きが紫色になったのか、コレガワカラナイ」

「……なにをどうしたら、そうなるんだよ……」

「それがわかれば、苦労はしないって。

 流石に、巴先輩に食べて貰う訳にもいかず、捨てたら材料がもったいないんで、独りで完食したけど」

「気にしなくても、よかったのに……琢磨君って、変な所で律儀よね」

「まあ、食い物を粗末にしなかったのは、誉めてやるよ」

「ちなみに、椎茸の味がしました」

「マジで!?」

 

 そんな感じの、朝食風景。

 ちなみに、ゆまは寝てるか、一緒に食べてるかのどちらかなんだが。

 ……琢磨との仲は、変わらずだ。

 その反動なのか、マミにはよく懐いてる。

 

「いってきます」

「「いってらっしゃい」」

 

 そして、マミは学校へ。

 

 日中は基本的に別行動。

 あたしは、ゆまを巻き込んだ織莉子の情報を探しに街に出て。琢磨は家事。

 もちろん、ゆまはあたしと一緒に行動してる。流石に琢磨と二人きりにさせると、どうなるかわかったものじゃない。

 情報は、ほとんど手に入れていない。

 

「流石に、名前だけじゃ無理があるって。

 せめてフルネームが解ってれば、いくらでもやりようがあるけど」

 

 とは、琢磨の弁。いくらでもやりようがあるって点に、ツッコミたいんだが。

 

 

 

 そして、マミの帰宅にあわせてあたし達も帰宅。全員でパトロール。

 それが終われば、帰って夕食。その後は、魔法少女としての勉強会。

 

 適当な時間で切り上げ、風呂に入って就寝。

 

 これが、今の日常だ。

 

 

 

 

 別に、平和ボケしているわけじゃないし、それほど長い時間が経った訳でもない。

 ただ、決して人並みとは言えない、独りだった頃と比べてしまうと……。

 

「どした?」

 

 思考に嵌りかけていたあたしを、琢磨の声が現実へ引き戻す。

 

「なんでもねーよ」

 

 そう言って、あたしは自分の横に立つ少年を見る。

 同時に、思い出すのは最初の風景。よっぽどインパクトが強かったのか、今でも鮮明に思い出せる。

 

「それで、病院に来たのはいいけど、ここにGS(グリーフシード)があるのか?」

 

 今日、あたし達は4人でパトロール中に、SG(ソウルジェム)の反応を確認した。

 マミを先頭に、進んだ先にあったのは大きな病院。

 

SG(ソウルジェム)に反応はあったわ。

 問題は、どこに結界があるか、ね」

「確かに、病院で人が死ぬのは当然の事。

 でも、そこまで反応が大きくないって事は、あるのは結界じゃなく、孵化直前の卵の方かもしれないぜ?

 ちなみに、オレにはさっぱりわからない」

 

 索敵に関しては、琢磨は使い物にならない。戦闘能力は間違いなく高いのに、それ以外が全然ダメ。

 ほんと、なんなんだよ、こいつ……。

 

「病院で、魔女結界が展開してたら、地獄絵図しか浮かばない件」

「琢磨君、もう少し言い方を考えて」

「逆を言えば、魔女は孵化していない。

 と、オレは判断するんだが、どうよ?」

 

 マジ、こいつの頭の中はどうなってんだよ?

 

「……可能性はあるわね。

 なら、孵化する前に回収するのがベストかしら」

 

 あたしの心情に気付く事無く、マミと琢磨が会話を続ける。

 きっと、あたし達が来る前から、二人はこんなやり取りをしていたんだろう。

 

「孵化してないが、SG(ソウルジェム)には反応するGS(グリーフシード)か。

 浄化には使えないだろうな」

「回収には反対?」

「反対なんて言ってたら、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は勤まらんでしょ。

 ねぇ、リーダー?」

 

 マミが琢磨の事を“よくわからない子”だって言ってたのを、嫌でも実感する。

 最初に会った時は「犠牲者が出る? だろうねぇ」とか言ってたの覚えてんのか、こいつは。

 

「それじゃ、GS(グリーフシード)を探しましょうか」

 

 目的を決め、進もうとするマミに、群雲がストップをかける。

 

「探すのは当然なんだけど……」

「どうしたの?」

 

 首を傾げるマミ。あたしも琢磨の真意がわからない。

 だが、次の言葉で、あたし達は頭を抱える事になる。

 

「オレ、病院の中には入れないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

「どういうこと?」

 

 意味を図りかねた私は、琢磨君に聞く。

 それを、琢磨君は眼鏡を外し、前髪を持ち上げながら答える。

 

「オレ、眼帯着用。

 下手に患者と勘違いされると、身動きがとれなくなるんじゃね?」

 

 ……それは、想定外だったわ。

 病院の中を、自由に歩き回るのは難しいわね。

 

「巴先輩は『知り合いの見舞いに来ました』と言えば、ある程度は何とかなるだろうけど。

 オレの場合、見た目的にむしろ患者側。

 その上で、歩き回ってたら間違いなく面倒な事になるふいんき」

雰囲気(ふんいき)よ」

「何故か変換できないと言うボケを潰されたッ!?」

 

 本当にこの子は……。

 でも、ボケはともかくとして、病院内の散策は難しいかもしれないわね。

 

[……そうなると、ゆまもマズイな]

 

 追い討ちをかけるように、佐倉さんから念話が届く。

 

[ゆまには、親からの虐待の痕が残ってる。

 琢磨と同じく、患者側に見られる可能性があるぞ]

 

 ゆまちゃんに聞かれないように、配慮したのね。

 でも、反応はあった。ここの周辺にGS(グリーフシード)があるのは間違いないはず。

 そして、下手に孵化してしまえば、琢磨君の言うように、地獄絵図が待っている。

 そんなの、許せるはずがないわ。

 

「なら、琢磨君はここで待機?」

「してもいいが、GS(グリーフシード)が“建物の外”にある可能性は?」

 

 自身での索敵が出来ない分を補うように、琢磨君は頭をフル回転させている。

 

「魔女結界ならともかく、孵化前のGS(グリーフシード)の存在って、明確に察知できないだろ?」

 

 それが出来るなら、しているわね。

 でも、反応を察知してここに辿り着いた。

 魔女結界。使い魔の結界。GS(グリーフシード)

 どれかがあるのは、間違いないはず。

 

 私の脳裏に、一つの案が浮かぶ。

 きっと、琢磨君も考えただろうし、佐倉さんも思いついているかもしれない。

 

 二手に分かれる。

 

 順当に考えれば、建物の中を調べる組と、建物の外を調べる組。

 

[マミも思いついたと思うんだけど……不安しかないぞ?]

 

 佐倉さんからの念話。やっぱり考えたみたいね。同じ事を。その問題点も。

 

 私達はチーム。単独行動は認められない。それは危険な行為だし、リーダーとして認める訳にはいかない。

 なら、二手に分かれるなら、2:2になるのは必然。

 

 問題なのは、その内訳。状況的に、私と佐倉さん。

 

 

 琢磨君とゆまちゃん。

 

 

 どうしよう? 不安しかないわ。

 

「嫌な二択だなぁ」

 

 琢磨君が、眼鏡をかけながら呟く。同じ結論みたいね。

 

「でも、選ぶ方は確定してないか、これ?」

 

 …………。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)として、私達は動きます」

 

 なら、リーダーとして私が指示を出すわ。

 

[本気か、マミ!?]

 

 佐倉さんからの念話。不安なのは私も同じ。

 でも、琢磨君の言葉の通り、選択は確定しているわ。

 

[私達は、魔法少女よ]

[でもっ!]

[選択の時よ、佐倉さん。

 険悪な二人を一緒にするか。

 魔女に抗えない一般人を見殺しにするか。

 極端だけれど、ね]

[それは……]

 

 ゆまちゃんの事を、心配しているのは、私も同じ。

 だから、私は琢磨君へ念話を送る。

 

[信じてもいいかしら?]

[……その聞き方は卑怯だと思います]

 

 眼鏡を中指で押し上げる。琢磨君がよくする仕草。

 

「私と佐倉さんで、建物の中を。

 琢磨君とゆまちゃんで、建物の外を」

「!?」

 

 ゆまちゃんが、驚愕の表情を見せる。でも、ここは譲れない。

 

「使い魔、結界、GS(グリーフシード)

 どれか一つでも見つけたら、念話で連絡」

「いいか、ゆま」

 

 佐倉さんが、ゆまちゃんの前に屈んで、視点を合わせる。

 何かを言おうとしていたゆまちゃんは、言葉を必死に飲み込んだみたいね。

 

「琢磨の事が嫌いなのは知ってる。

 でも、あたし達は魔法少女なんだ。

 “琢磨とゆまの仲が悪かったから、普通の人が魔女に襲われた”なんて。

 そんなの、あたしが認めない」

 

 本当なら、時間をかけて、ゆっくりと。

 琢磨君とゆまちゃんの仲を修復させたいけれど。

 状況が、それを許さない。

 ままならないものね。

 

[お願いね、琢磨君]

[善処はするけど……正直に言うが、保障は出来ないぞ?

 オレはすでに割り切ってるが、ゆまはそうじゃないだろ?]

[琢磨君の、最初の態度が原因なんでしょ?]

[自業自得ですね、わかってますともさ。

 諸悪の根源はオレですよ、充分に自覚してますとも]

 

 それでも、琢磨君なら。

 

 “絶対にゆまちゃんを見殺すような事はしない”

 

 そうよね?

 

 

 

[反省も後悔も絶望もしないけどな!]

 

 

 

 ……信じてるわよ?




次回予告

少女には、少女の想いがあり

少年には、少年の誓いがあり



少女には、少女の心があり

少年には、少年の核があり






少女は、少年が嫌いで

少年は、少女が――――――――――









九十二章 ガキ二人

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