「年上だから」
「単純な理由ね」
「じゃ、なんでゆまは呼び捨てなんだよ」
「格下に気を使う必要なくね?」
「ゆま、こいつキライ!!」
((最低だ……))
「わけがわからない……事もないな」
((自覚してる分、余計に性質が悪い……))
「先輩達も大変だねぇ」
「「原因がそれを言う!?」」
SIDE 佐倉杏子
あたし達が、見滝原の
特に、大きな出来事が起きたわけじゃない。そう簡単に起きてたまるかっての。
必ず最初に目を覚ましてる琢磨と挨拶。起きてきたマミと3人、或いはゆまを加えた4人で、朝食。
「大分、上達したわね」
「だよねぇ」
朝食は琢磨が作ってる。マミが学校に行っている間、家事をするのがおいてもらってる条件の一つだと、琢磨から聞いていた。
そんなことしなくても、マミが追い出すって事はないと思うけどな。
「最初の頃は、ひどかったものね」
「何故、卵焼きが紫色になったのか、コレガワカラナイ」
「……なにをどうしたら、そうなるんだよ……」
「それがわかれば、苦労はしないって。
流石に、巴先輩に食べて貰う訳にもいかず、捨てたら材料がもったいないんで、独りで完食したけど」
「気にしなくても、よかったのに……琢磨君って、変な所で律儀よね」
「まあ、食い物を粗末にしなかったのは、誉めてやるよ」
「ちなみに、椎茸の味がしました」
「マジで!?」
そんな感じの、朝食風景。
ちなみに、ゆまは寝てるか、一緒に食べてるかのどちらかなんだが。
……琢磨との仲は、変わらずだ。
その反動なのか、マミにはよく懐いてる。
「いってきます」
「「いってらっしゃい」」
そして、マミは学校へ。
日中は基本的に別行動。
あたしは、ゆまを巻き込んだ織莉子の情報を探しに街に出て。琢磨は家事。
もちろん、ゆまはあたしと一緒に行動してる。流石に琢磨と二人きりにさせると、どうなるかわかったものじゃない。
情報は、ほとんど手に入れていない。
「流石に、名前だけじゃ無理があるって。
せめてフルネームが解ってれば、いくらでもやりようがあるけど」
とは、琢磨の弁。いくらでもやりようがあるって点に、ツッコミたいんだが。
そして、マミの帰宅にあわせてあたし達も帰宅。全員でパトロール。
それが終われば、帰って夕食。その後は、魔法少女としての勉強会。
適当な時間で切り上げ、風呂に入って就寝。
これが、今の日常だ。
別に、平和ボケしているわけじゃないし、それほど長い時間が経った訳でもない。
ただ、決して人並みとは言えない、独りだった頃と比べてしまうと……。
「どした?」
思考に嵌りかけていたあたしを、琢磨の声が現実へ引き戻す。
「なんでもねーよ」
そう言って、あたしは自分の横に立つ少年を見る。
同時に、思い出すのは最初の風景。よっぽどインパクトが強かったのか、今でも鮮明に思い出せる。
「それで、病院に来たのはいいけど、ここに
今日、あたし達は4人でパトロール中に、
マミを先頭に、進んだ先にあったのは大きな病院。
「
問題は、どこに結界があるか、ね」
「確かに、病院で人が死ぬのは当然の事。
でも、そこまで反応が大きくないって事は、あるのは結界じゃなく、孵化直前の卵の方かもしれないぜ?
ちなみに、オレにはさっぱりわからない」
索敵に関しては、琢磨は使い物にならない。戦闘能力は間違いなく高いのに、それ以外が全然ダメ。
ほんと、なんなんだよ、こいつ……。
「病院で、魔女結界が展開してたら、地獄絵図しか浮かばない件」
「琢磨君、もう少し言い方を考えて」
「逆を言えば、魔女は孵化していない。
と、オレは判断するんだが、どうよ?」
マジ、こいつの頭の中はどうなってんだよ?
「……可能性はあるわね。
なら、孵化する前に回収するのがベストかしら」
あたしの心情に気付く事無く、マミと琢磨が会話を続ける。
きっと、あたし達が来る前から、二人はこんなやり取りをしていたんだろう。
「孵化してないが、
浄化には使えないだろうな」
「回収には反対?」
「反対なんて言ってたら、見滝原の
ねぇ、リーダー?」
マミが琢磨の事を“よくわからない子”だって言ってたのを、嫌でも実感する。
最初に会った時は「犠牲者が出る? だろうねぇ」とか言ってたの覚えてんのか、こいつは。
「それじゃ、
目的を決め、進もうとするマミに、群雲がストップをかける。
「探すのは当然なんだけど……」
「どうしたの?」
首を傾げるマミ。あたしも琢磨の真意がわからない。
だが、次の言葉で、あたし達は頭を抱える事になる。
「オレ、病院の中には入れないぞ?」
SIDE 巴マミ
「どういうこと?」
意味を図りかねた私は、琢磨君に聞く。
それを、琢磨君は眼鏡を外し、前髪を持ち上げながら答える。
「オレ、眼帯着用。
下手に患者と勘違いされると、身動きがとれなくなるんじゃね?」
……それは、想定外だったわ。
病院の中を、自由に歩き回るのは難しいわね。
「巴先輩は『知り合いの見舞いに来ました』と言えば、ある程度は何とかなるだろうけど。
オレの場合、見た目的にむしろ患者側。
その上で、歩き回ってたら間違いなく面倒な事になるふいんき」
「
「何故か変換できないと言うボケを潰されたッ!?」
本当にこの子は……。
でも、ボケはともかくとして、病院内の散策は難しいかもしれないわね。
[……そうなると、ゆまもマズイな]
追い討ちをかけるように、佐倉さんから念話が届く。
[ゆまには、親からの虐待の痕が残ってる。
琢磨と同じく、患者側に見られる可能性があるぞ]
ゆまちゃんに聞かれないように、配慮したのね。
でも、反応はあった。ここの周辺に
そして、下手に孵化してしまえば、琢磨君の言うように、地獄絵図が待っている。
そんなの、許せるはずがないわ。
「なら、琢磨君はここで待機?」
「してもいいが、
自身での索敵が出来ない分を補うように、琢磨君は頭をフル回転させている。
「魔女結界ならともかく、孵化前の
それが出来るなら、しているわね。
でも、反応を察知してここに辿り着いた。
魔女結界。使い魔の結界。
どれかがあるのは、間違いないはず。
私の脳裏に、一つの案が浮かぶ。
きっと、琢磨君も考えただろうし、佐倉さんも思いついているかもしれない。
二手に分かれる。
順当に考えれば、建物の中を調べる組と、建物の外を調べる組。
[マミも思いついたと思うんだけど……不安しかないぞ?]
佐倉さんからの念話。やっぱり考えたみたいね。同じ事を。その問題点も。
私達はチーム。単独行動は認められない。それは危険な行為だし、リーダーとして認める訳にはいかない。
なら、二手に分かれるなら、2:2になるのは必然。
問題なのは、その内訳。状況的に、私と佐倉さん。
琢磨君とゆまちゃん。
どうしよう? 不安しかないわ。
「嫌な二択だなぁ」
琢磨君が、眼鏡をかけながら呟く。同じ結論みたいね。
「でも、選ぶ方は確定してないか、これ?」
…………。
「見滝原の
なら、リーダーとして私が指示を出すわ。
[本気か、マミ!?]
佐倉さんからの念話。不安なのは私も同じ。
でも、琢磨君の言葉の通り、選択は確定しているわ。
[私達は、魔法少女よ]
[でもっ!]
[選択の時よ、佐倉さん。
険悪な二人を一緒にするか。
魔女に抗えない一般人を見殺しにするか。
極端だけれど、ね]
[それは……]
ゆまちゃんの事を、心配しているのは、私も同じ。
だから、私は琢磨君へ念話を送る。
[信じてもいいかしら?]
[……その聞き方は卑怯だと思います]
眼鏡を中指で押し上げる。琢磨君がよくする仕草。
「私と佐倉さんで、建物の中を。
琢磨君とゆまちゃんで、建物の外を」
「!?」
ゆまちゃんが、驚愕の表情を見せる。でも、ここは譲れない。
「使い魔、結界、
どれか一つでも見つけたら、念話で連絡」
「いいか、ゆま」
佐倉さんが、ゆまちゃんの前に屈んで、視点を合わせる。
何かを言おうとしていたゆまちゃんは、言葉を必死に飲み込んだみたいね。
「琢磨の事が嫌いなのは知ってる。
でも、あたし達は魔法少女なんだ。
“琢磨とゆまの仲が悪かったから、普通の人が魔女に襲われた”なんて。
そんなの、あたしが認めない」
本当なら、時間をかけて、ゆっくりと。
琢磨君とゆまちゃんの仲を修復させたいけれど。
状況が、それを許さない。
ままならないものね。
[お願いね、琢磨君]
[善処はするけど……正直に言うが、保障は出来ないぞ?
オレはすでに割り切ってるが、ゆまはそうじゃないだろ?]
[琢磨君の、最初の態度が原因なんでしょ?]
[自業自得ですね、わかってますともさ。
諸悪の根源はオレですよ、充分に自覚してますとも]
それでも、琢磨君なら。
“絶対にゆまちゃんを見殺すような事はしない”
そうよね?
[反省も後悔も絶望もしないけどな!]
……信じてるわよ?
次回予告
少女には、少女の想いがあり
少年には、少年の誓いがあり
少女には、少女の心があり
少年には、少年の核があり
少女は、少年が嫌いで
少年は、少女が――――――――――
九十二章 ガキ二人