無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)もそうだけど」
「どうして人間は、無駄に誰かと手を組もうとするんだろうね」
「それだと、GS(グリーフシード)が独占できないだろうに」
GS(グリーフシード)がなければ、そもそも生きていく事さえ、出来はしないのに」
「わけがわからないよ」


九十三章 割と切実に

SIDE out

 

 建物の外を走る、二人の少女。

 自らを呼ぶ念話を最後に、連絡が取れなくなった二人に、一体何があったのか。

 それは、明確になったSG(ソウルジェム)の反応を見れば、一目瞭然。

 

「よりにもよって、あの二人の方!

 しかも、至近距離での孵化ってなんだよ!!」

「愚痴っても、仕方がないわ!

 今は、一刻も早く二人と合流しないと!!」

 

 そして、そんな二人の仲は険悪。その状況で楽観視出来る要素は一つもない。

 SG(ソウルジェム)の反応、強くなる結界の気配。

 

「っと!?」

 

 途中、何かに足を取られた杏子は、体勢を崩す。

 

「どうしたの?」

「いや、何か踏んだ」

 

 減速した杏子に、声をかけるマミ。

 答えた杏子は、自分の踏んだ物を見て。

 

「……眼鏡?」

 

 首を傾げた。誰かの落し物かもしれない。

 

「持ち主には、悪い事をしたわね」

 

 杏子の横に立って、マミが言う。だが。

 

「これ……琢磨のか?」

 

 砕けたレンズの欠片。その一つを拾い上げて、杏子は呟く。

 踏まれ、変形したのは眼鏡のフレーム。しかし、拾い上げたレンズは曇りガラス。

 こんな異物。身につけるのは一人しかいない。

 

「なんで、こんな所に?」

「いや、そもそも眼鏡って落とすような物か?」

 

 眼鏡を身につけていない二人には、そのあたりはよくわからない。

 しかし、よほど激しい動きをしなければ、眼鏡を落としたりはしないだろう。

 加えて、ここは結界内ではない。

 

「……わざと、か?」

「そうかもしれないわね」

 

 群雲琢磨という少年は、歪の塊とも言える。それを、二人は充分に理解している。

 ……それだけ、振り回されていると言ってもいいかもしれないが。

 

「ここにあいつの眼鏡があるって事は……」

「結界が近いのでしょうね」

 

 二人は同時に、身に付けていた指輪を(ソウルジェム)に戻し、索敵を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女結界。その最深部。

 

 ハンマーを手に、高すぎる椅子に座る魔女に近付くゆま。

 リボルバーを腰の位置で構え、ゆまの少し後から進む群雲。

 一定距離進んだ後、ゆまは一気に駆け出して、ハンマーを椅子に叩き込む。

 

(……反応が鈍い?)

 

 抵抗なく落ちてくる魔女を見ながら、群雲は観察を続ける。

 そんな魔人などお構いなく、落ちてきた魔女に横薙ぎにハンマーを叩き込んで吹き飛ばすゆまと、やっぱり抵抗なく飛んでいく魔女。

 そう、誰も思わないだろう。

 ぬいぐるみのような風貌の魔女。

 その口の中から。

 巨大な魔女が姿を現すなど。

 

「……え?」

 

 ハンマーを振り抜いた直後である為、無防備なゆまに、魔女がその体躯に見合わぬ速度で迫り、その大きな口を開ける。

 

 その状況をひっくり返すのは、魔人の覚えた最初の魔法。

 

 <オレだけの世界(Look at Me)>

 

「……判断に困るな」

 

 自分だけの世界で、群雲は呟く。

 

「ゆまが弱い訳じゃない。

 威力は身に沁みて解ってるし、直撃したのも確認した」

 

 そのまま、ゆまと魔女の間に立つ。

 

「なら、どう見る、群雲琢磨。

 過程を、どう仮定する?」

 

 リボルバーを6連射。その弾丸は魔女に向かう途中で静止する。

 

「……材料が少なすぎるな。

 凌ぎつつ、様子見が正解か」

 

 あらかじめ、ポケットに入れておいた弾丸をリボルバーに装填する。もっとも、群雲の持つリボルバーは一発ずつ排莢、装填するものなので、相応に時間が掛かる。

 もっとも、その“時間”が停止しているのだが。

 

そろそろ動いていいぞ(Look out)

 

 リロードの終えた群雲が呟くと同時に、時は動き出す。

 迫る魔女は、必然として飛来する弾丸に直進する。

 

 しかし。

 

「全部弾かれた!?」

 

 全ての弾丸は、魔女の表面に傷をつける事無く、あさっての方向へと飛んでいった。

 一気に間合いを詰めてくる魔女。

 

「この……っ!」

 

 群雲は、即座にリボルバーを右腰に戻すと、傍らに居たゆまの襟首を掴んで横に飛ぶ。

 

「きゃっ!?」

 

 無防備状態の上、時間停止を認識できないゆまは、なすがまま。

 そんな二人を横切った魔女が、空中で旋回し、再び迫る。

 掴んでいたゆまを放り出すと同時に、群雲は左手の日本刀を取り出す。

 

「逆手居合 電光抜刀 壱の太刀」

 

 そのまま<電気操作(Electrical Communication)>を発動。

 

「逆風!」

 

 逆手居合の斬り上げで迎撃する。

 その太刀筋を、魔女は完全に見切り。

 

「たあー!!」

 

 体勢を立て直し、振り抜いたゆまのハンマーから発生する衝撃波をまともに受けて。

 

「アーッ!」

 

 群雲が、見事に巻き込まれた。

 

「じゃま!」

「おまっ、仮にも助けた人間にこの仕打ち!?」

「たのんでないもん!」

 

 連携皆無である。

 三者三様に体勢を立て直し、睨み合いになる。

 

「先輩達はやくきてー! はやくきてー! 割と切実に、マジで」

 

 日本刀を<部位倉庫(Parts Pocket)>に戻す群雲。

 

「たくま、じゃま!

 こいつはゆまが、やっつけるんだから!!」

 

 肩に背負う形でハンマーを構えるゆま。

 そんな二人を交互にみる魔女。

 

 次に動いたのは魔女。

 飛び上がるかのように上昇し。

 

 ゆまに迫る。

 どうやら、先に捕食するターゲットに定めたようだ。

 それに対し、迎撃する構えを取るゆま。

 

 そして、その状況を読んでいた群雲。

 魔女がゆまに迫る最短ルート。その上空へ自身を運び、左腰に入れておいた、新たな武器を取り出した。

 

 

 

 

 

「鉄骨!!」

 

 

 

 

 武器ですらなかった。

 しかし、それは的確に魔女を捉えて、押し潰す。

 

 はずだった。

 

「なっ!?」

 

 鉄骨の直撃を受けた魔女。その口の中から、同じ魔女が姿を現す。

 

「脱皮!?」

 

 しかし、迫る魔女に対し、迎撃を行うゆまの行動に、変わりはない。

 振り下ろされるハンマー。発生する衝撃波。

 それに対し、魔女が行った行動。

 それは、脱皮して抜け殻となった自分の体を咥えて、それを盾にする事だった。

 咥えた抜け殻を放り投げ、衝撃波にぶつける魔女。

 その抜け殻は、衝撃波をまともに受け、上空へと吹き飛んでいく。

 そして、魔女本体はそれを掻い潜り、ゆまへと迫り、口を開ける。

 ハンマーを振り抜いた直後の隙。魔女はそれを最初の邂逅で理解し、的確につく。

 

SG(ソウルジェム)のパワーを全開だ!」

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>を発動し、上空にいた群雲は、飛んできた魔女の抜け殻を足場代わりにして、一気に下降する。

 そのまま、ゆまを食らおうとする魔女に迫り、右手を放電させながら振りぬく。

 

 しかし。

 

 ゆまに迫っていた魔女が、突然反転し、上空から迫る群雲に標的を変える。

 

(しまったっ!?

 こいつ、最初からオレを!!)

 

 群雲の思考こそ、正解だった。

 最初にゆまに迫った魔女。それを“一瞬”で距離を詰め、迎撃しようとした群雲。

 魔女を倒す事に躍起になっているゆまと、ゆまを死なせるわけにはいかない群雲。

 魔女は、それを把握していたのだ。

 

 故に、ゆまに迫る“フリ”をして、群雲を確実に射程に捕らえたのだ。

 でなければ、距離を詰める群雲に、標的を合わせられる筈がない。

 群雲が来る事を、完全に予測した動きだったのだ。

 

「てめぇぇぇぇぇ!!!」

 

 下降する体は止まらない。拳はすでに振り下ろされている。

 それにあわせ、口を開ける魔女。

 そのまま、喰らい尽くされる魔人。

 

「なめんなぁぁぁぁ!!!」

 

 ではない。

 上半身の行動を完全に放棄し、群雲は下半身、両足を一気に動かす。

 その動きは、本来有り得ない“下降中に方向を変える”と言う無法をやってのける。

 高速で動く両足が、空気の層を造り出し、それを簡易足場として、下降する方向を変えたのだ。

 

 しかし。

 

 放棄された上半身は、その動きに流されるだけであり。

 突き出された右腕までは、回避しきれなかった。

 

「喰らいたければ、喰らえ」

 

 右腕に喰らいつく魔女。

 

「だが、オレの腕は」

 

 痛覚を遮断したが故に、群雲は口の端を持ち上げて。

 

「ちょいと、刺激的だぜ!」

 

 右腕を失う事を、利用してみせる。

 <操作収束(Electrical Overclocking)>を発動したまま、着地と同時に群雲は駆け出すと、そのまま硬直状態のゆまを掴み。

 一気に魔女から逃げ出した。

 

 一瞬の後、魔女の“体内”で、爆発が起こる。

 

 右腕に噛み付かれ。食いちぎられる一瞬。

 その一瞬で、群雲は右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、先日の野暮用で収納していた手榴弾を取り出していた。

 あらかじめ“ピンを抜いた状態で収納していた”為、取り出された手榴弾は“通常通り”に爆発する。

 

 体内での爆発に、魔女が悶える中。

 群雲はゆまを掴んで、一気に距離をとる。

 右腕から流れる鮮血など、知ったことではない。

 

「…………」

 

 状況に取り残されるゆま。

 <電気操作(Electrical Communication)>及び<操作収束(Electrical Overclocking)>で、思考能力、状況判断能力を高速化している群雲だからこそ。

 

 生き延びる事が出来た、僅か数分の攻防であった。

 

「笑えねぇな、ほんと」

 

 巨大なケーキらしき物の影に移動した群雲が、僅かに揺れる右袖を見ながら、いつもの調子で呟いた。




次回予告

状況の変化は著しく

状態の変化は忙しなく

魔人は対して、右腕以外の変化無く

分岐点は、刻一刻と変化して

選択肢を絞り込んでいく

九十四章 相性は最悪

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