『ZOIDOS Genesis 風と雲と虹と』第三部「動乱」   作:城元太

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第参拾壱話

 水守の館を出立したジークドーベル部隊が筑波のバーサークフューラー部隊と合流し、既に出撃を終えていた石田の荘の部隊を含め、一路鎌輪に向けて進撃を開始したという情報が石岡の常陸国司藤原維幾(これちか)より齎された。

 私怨を晴らすために大規模なゾイド部隊を動かすことは律令によって禁じられている。だがそれを抑えるだけの力を持たない(おおやけ)にとっては、これを飽くまで同族内部の紛争として扱い、国衙は介入することを回避してしまった。

 一方で、形ばかりの警告を鎌輪に発することにより、国府の体面を保とうとしたに過ぎない。その段階では水守の軍勢の数は確認できず、ただ「動いた」という知らせでしかなかった。

 小次郎は既に、掻き集められるだけのゾイドと郎党衆を鎌輪周辺に待機させておいた。多治経明や文屋好立、そして桔梗などの精鋭を揃えていたものの、やはり数に於いて劣勢であることだけは否めなかった。

 意外にも、飛来した敵の使者であるフライシザースによって、水守勢の兵力は下総への侵攻前に鎌輪側に通達される。これにより、両陣営のゾイドの兵力比較が可能となった。

 

○水守側の兵力

 アイスブレーザー(平良正;指揮、館主)

 ジークドーベル(搭乗者不明。機種から判断して兵または上兵、従類)×4

※平国香(石田の荘)よりの増援

 レッドホーン(平国香;惣領)

 レッドホーン(平繁盛;上兵、貞盛の弟)

 レッドホーン(他田真樹;上兵)

 レッドホーン(搭乗者不明;兵、従類)×2

※平良兼(服織)よりの増援

 ダークホーン(平公雅;兵、良子の弟) 

※源家よりの増援

 シュトゥルムフューラー(源扶;惣領)

 ジェノブレイカー(源隆;上兵)

 ジェノザウラー(源繁;上兵)

 ゲーター(搭乗者不明;兵、従類)×2

※その他の増援部隊(一部に明らかな僦馬の党や俘囚の流民が紛れ込んでいる)

 ヘルキャット(搭乗者不明。伴類)×3

 グランチュラ(搭乗者不明。伴類)×2

 ディロフォース(搭乗者不明。伴類)×3

 モルガ(搭乗者不明。伴類)×2

 シェルカーン(搭乗者不明。伴類)

 ボルドガルド(搭乗者不明。伴類)

 フライシザース(搭乗者不明。伴類)

 機種不明ブロックス(搭乗者不明。伴類)×5

 

○対する鎌輪側の兵力

 村雨ライガー(平将門;指揮、惣領、館主)

 ケーニッヒウルフ(平将頼;上兵(じょうへい)

 ディバイソン(伊和員経;上兵、平将文;(つわもの)

 ソードウルフ(孝子=桔梗;兵、実際は上兵)

※平真樹(大国玉郷)よりの増援

 サビンガ(文屋好立;上兵)

※御厨からの増援

 ディバイソン(多治経明;上兵)

※待機

 レインボージャーク(平良子)

 ナイトワイズ(平将平;学士、機体は菅原景行より借用)

 

 小次郎が充分なゾイドを動員出来ない事を見越しての侵攻であり、形の上でこそ指揮は平良正ではあったが、実質上は桓武平氏の棟梁たる平国香による。この兵力開示措置は、可能であれば甥将門との衝突を避け、穏便に下総の土地を割譲させることを国香が目論んだとも考えられる。

 ゾイド部隊の編制を見ると、良子を巡る女論を原因とした場合、最もゾイドを投入すると考えられた良兼が、僅か一機のダークホーンのみしか増援していない。やはり軋轢があるとはいえ、舅として娘良子の夫将門と戦うのを躊躇い、形式的に息子公雅だけを派兵したのだ。

 更には、参戦しているブロックスや小型ゾイド搭乗者に“伴類”と呼ばれる者が多数存在している。これは独立した武装私営田農民“従類”に対する者で、状況に応じ戦闘に参加する自由農民、或いは群盗の類である。

 東方大陸の坂東、及びその奥の蝦夷地に於いての戦は、敵の所領を完全に破壊する殲滅戦であった。勝利者は占領地での資産の略奪を行えるという暗黙の掟があり、戦況を睨んで、強い側、勝ちそうな側に味方する輩なのだ。少しでも兵力差を付けたい水守勢にとって、信用は置けないものの威嚇の必要性からこれらのゾイドの同伴を許していた。よって騰波ノ江の南西付近に水守勢が陣を張る頃には、上記の数に加え更に伴類は寄り集まり、無数の大小のゾイドが並ぶ光景となっていた。

 鎌輪勢に対する水守勢の兵力差は初期の段階で凡そ五倍。敗北は略奪による所領の荒廃を生む。小次郎はこれまでの生涯で最大の局面に立たされていた。

 

「敵部隊は対岸に陣を張り、現在補給を行っている模様です」

 サビンガを使い、騰波ノ江を越えてきた文屋好立が報告する。

「未だ(ちょう)を交わしておらぬので、攻撃は受けませんでしたが、それを差し引いても圧倒的兵力差に油断している様子は確か。多勢とはいえ所詮烏合の衆、攻め崩す手立ては在りまする」

 気休めなのか、本心なのか、呼吸も荒く報告する。サビンガの複合感知眼(センサーアイ)が記録した配置図を前に、小次郎を囲み鎌輪勢の武士達が覗き込んでいた。

「確かに好立殿の報告通り、敵は烏合の衆だ。良正叔父はまだ戦いに慣れていない。その上源扶と国香伯父までいれば、『船頭多くして舟山登る』の(ことわり)の如く指揮系統は必ず混乱する。伴類の小型ゾイドは恐れるに足りん。員経、ここは正面突破か」

「集束荷電粒子砲を砲台とすると、開けた場所からの突進は危険です。寧ろ敵の先陣を野本の湿原に誘い込み、混戦に持ち込めば源家の竜の荷電粒子砲を封じられるかと」

「囮となって誘導するゾイドが必要だな。俺が村雨で出るか」

「兄者、(しょう)自らが先陣を切るなど無謀だ。その役目、この将頼にお任せくだされ」

「三郎様、その役目こそ私が。接近戦である以上、銃より刀が、そして王狼よりも剣狼の方が有利です」

「そうだな。誘導には孝子に願うとする。三郎は石田のレッドホーン部隊を狙撃してくれ。あの重装甲は、村雨のストライクレーザークローも弾かれるやもしれぬのでな」

「止むを得ません。孝子様の方が私より遥かにゾイドの扱いに長けているのは認めます。ですがどうか、無理をなさらぬように」

「ありがとう、三郎様」

「あなた様、私とレインボージャークは」

「身重の躰で飛行は無理だ。良子には四郎と共に館の守りを願いたい。員経と五郎は伏兵となり、万が一館に近づくゾイドがあれば十七門突撃砲で蹴散らせ。怒涛となって押し寄せてきたならば、そのときこそパラクライズを放ってくれ」

「承知しました。馬場にて乗り込み、待機しております」

「四郎は良子を守れ。館が陥ちた時は、良子とともに景行公の処まで逃げろ」

「この様な時にお力になれず……」

「気にするな。お前も自分に出来ることをやれ。

 いいか、皆聞いてくれ。今度もまたあの力――疾風ライガー――に変化できる保証はない。着実に敵ゾイドを一機ずつ葬り、俄か作りの水守勢を打ち崩す」

「小次郎の殿、これは提案なのだが」

「経明殿、何か意見でも」

「もし敵軍が崩壊し、逃げ帰ることがあれば、一度可能な限り追撃してもよいかと」

 大胆な多治経明の提案に、その場が一瞬静まる。敗北するつもりはないが、勝利の可能性も難しいと思える中、その先まで見越した戦術に、誰もが唖然としたのだ。

「度重なる下総への侵攻、これをこのまま許し続ければ後顧の憂いと成ります。一度徹底的に叩いてこそ、所領の安堵に繋がるかと」

「爽快ではないか」

 文屋好立が声を上げる。

「今まで散々荒らされてきたのだ、目にもの見せてくれようぞ」

 大言壮語かと、小次郎は思った。だが、その言葉に座が盛り上がったことも確かであった。小次郎は員経と、そして桔梗と目を合わせると、経明以上に声を張り上げた。

「よおし、良正に一泡吹かせてやろうぞ。鎌輪の意地を見せてやる」

 一斉に上がる鬨の声に、一同の士気は最高潮に達した。

(頼むぞ、村雨。そして疾風)

 小次郎は、見上げる先にある碧き獅子に祈りを込める。

 

 此処に、平将門にとって初めての(いくさ)、『野本の合戦』の火蓋が切って落とされようとしていた。

 

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