『ZOIDOS Genesis 風と雲と虹と』第三部「動乱」   作:城元太

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第弐拾五話

 混迷の極みの中、桔梗は決断した。

 未だに意識が戻らず横臥したままの文屋好立を前に、小次郎三郎を欠く館の家人達は只管(ひたすら)狼狽(うろた)えるだけであった。立て続く混乱により、小次郎の母犬養の君でさえ目に見えて動揺している。幼い弟達は恐れ母にしがみ付き、数少ない郎党も手立てを失い茫然とする。伊和員経は戻らず、四郎将平は菅原景行の元にいる。

「五郎殿、六郎殿、この方の鎧を脱がせ楽な姿勢にさせて。清き水を桶に汲み頸元を冷やすように。母御殿、好立殿の介抱と、幼き弟君達をお願いします。

 郎党衆、すぐにゾイドの準備をしなさい。この方が乗って来た剣狼はまだ動くはず。サーボモーターは外さぬまま関節部に詰まった泥を洗浄せよ。それと背のリーオの剣の展開を確認しなさい。もし刃毀れがあれば教えて。整備と並行してレッゲルを補給、完了次第、私が剣狼で出撃します」

「無茶でございます。孝子様が出撃なさるなど……」

「聞こえぬか。早く行け」

 垣間見せた元群盗の顔に気圧され、郎党達は蜘蛛の子を散らすように馬場に駆けて行った。堀に取水口を放り込むと、高圧洗浄銃で泥に塗れた剣狼を流し始める。吹き飛ぶ水草の下から、鮮やかな丹色(にいろ)の装甲が現れた。

「これより加勢します、小次郎様」

 館裏手での整備の槌音を聞きつつ、桔梗は正面矢倉門の外で威嚇する3匹の竜を凝視していた。

 

 ジェノザウラーとジェノブレイカーが脚部アンカーを展開し固定した。頭部から尾部までを一直線に揃え、集束荷電粒子砲発射の態勢を整えている。口腔に装備された砲身の先には、村雨ライガーとケーニッヒウルフ、そして鎌輪の館があった。

 中央のバーサークフューラーの頭部天蓋が開き、中から煌びやかな大鎧(おおよろい)を纏った武官が姿を現す。操作盤に片足を載せ、周囲を睥睨し高らかに宣した。

「我は源護の長子、(たすく)である。

 鎌輪の館主に申す。先に平真樹が兵、文屋好立の操る剣狼がこの館に逃げ込んだ。大国玉の真樹は、我が伯父平国香殿と所領に於いての折衝中、無礼にも談議の場を蹴って逃れたのだ。非礼は好立方にあり、坂東武者にして有るまじき(ぎょう)である。速やかに剣狼並び好立を我らに渡してもらいたい。

 猶、真樹は鎌輪の惣領殿の姻族故、(かくま)うという覚悟がおありならそれでも結構。但し即座に、我ら源家に仇為す敵として討伐する。惣領殿、返答は如何に」

 小次郎も村雨ライガーの風防を開き、正面のバーサークフューラーを見据える。

「我は平小次郎将門、鎌輪の惣領にして父良持より下総家督を受け継いだ。詳細の事情は知らぬが真樹小父は我が母の血縁、更には館に庇護を求めて来訪した客人をみすみすお渡しするのは坂東武者にとって武侠を欠く。『窮鳥も懐に入れば猟師殺さず』の格言の如く、今文屋好立殿は傷を負っておられる。怪我人を寄って鷹って仕留めたとあらば、源家の勇名にも傷が付くであろう。孰れ機会を見計らい解決に至られよ。ここはこの平将門に免じ、御引取願いたい」

 小次郎は魔装竜や虐殺竜の構える荷電粒子砲の砲口にも怯むことなく道破した。その堂々たる態度に気圧され、源扶は言葉に詰まったかに見えた。

「将門、貴下と論じる気はない。大人しく渡すか渡さぬかの覚悟を決めた上で応えられよ」

「渡さぬ」

 小次郎は即答した。そして扶は激高した。

「良かろう、では集束荷電粒子砲の威力を示すのみ」

 機内に戻った扶がバーサークフューラーを後退させる。ジェノザウラーとジェノブレイカーの頸部と尾部の放熱板が跳ね上がり、それぞれが荷電粒子コンバーターの作動を開始した。

 小次郎は、それが脅しであることも充分理解していた。所領の多くを失い、落魄れた身の上とはいえ、仮にも鎌輪の館を焼き払ったとすれば下総の国府も看過できない。場合によっては都にまで召喚され、煩雑な取り調べと手続きが必要となる。

 だが同時に、全くの無傷で済むとも思ってはいない。仮に直撃を避けるとしても、館或いはゾイドに何らかの打撃を与えなければ源家三兄弟の面目が立たなくなってしまう事態に追い込んだのもまた事実である。

「三郎、国府に訴えられた場合に備え、映像を記録しておけ」

 小次郎の言葉に応じ、ケーニッヒウルフは三連スコープを備えるヘッドギアを装着した。館の前からは動けない。そしてムラサメブレードも展開は出来ない。こちらから手を出したと見做されれば、かえって源家の思う壺に(はま)ってしまう。互いに一歩も引けない状況の中、荷電粒子コンバーターが低く唸り続けていた。

 

 緊張を破ったのは、館の土塀から跳び出してきた丹色の狼ゾイドであった。

「好立殿、気が付かれたのか」

 村雨ライガーが振り向き、竜達が荷電粒子砲の軸を逸らす。双方の先に、ソードウルフの舞う姿があった。

〝小次郎様、加勢します〟

「桔梗……孝子か、乗っているのは」

 小次郎が思わずその名を口走り、慌てて言いかえる頃に、剣狼は睨み合う源家と平家のゾイドの前を駆け抜けていた。

 その出現に末弟源繁(みなもとのしげる)が取り乱し、ジェノザウラーの集束荷電粒子砲が天空に向け放たれた。地磁気により光芒は曲線を描く。青白い線条はやがて地平線を越える辺りで落下し、丁度その下にあった騰波ノ江の湖水を水蒸気爆発へと導いた。

 荷電粒子砲の発射が戦闘の口火を切った。

 ムラサメブレードが氷の刃を展開する。

 ケーニッヒウルフもデュアルスナイパーライフルを構える。

 そしてソードウルフが背中の二振のエレクトロンハッカー(ダブルハックソード)を閃かせ、アンカーを穿ったままのジェノザウラーの頭部を踏み付けた。ロングレンジパルスレーザーライフルが基部から切断され、黒き虐殺竜が横倒しとなると同時に地表に達した。

 村雨ライガーが赤き魔装竜にストライクレーザークローを叩き込む。フリーラウンドシールドを用い、やっとの思いで体勢を整えたものの、赤い盾は大きく歪んでいた。

 後退したバーサークフューラーが、バーニアスラスターによって一気に間合いを詰め、バスタークローを振り翳しケーニッヒウルフに襲いかかる。回転する凶悪な刃を、横合いから入り込んだソードウルフのリーオの剣が受け止めた。

「笑止」

 バスタークローの刃が折れた。バーサークフューラーが仰け反る。源家の長子であっても、桔梗の前には敵わなかったのだ。しかし、それが再び怒りに火をつけた。

 三匹の竜は地表を滑り間合いを取ると、一斉に荷電粒子砲発射態勢をとった。口腔の砲身が燐光を発する。ホバリング機能を持たない村雨ライガーでは、到底間合いを詰めることができない。

 間に合わない。

 小次郎は強く願った。

 村雨ライガーよ、もう一度あの力を。

 表示板が輝く。あの力だ。

「疾風ライガー!」

 

 焔の繭に包まれたかと思うと、次の瞬間、碧き獅子は緋色の獅子へとエヴォルトしていた。

「これが、龍宮の地震竜を破った力……」

 桔梗の前は、変化した疾風ライガーの姿を目の当たりにした。

 

 

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