ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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プロローグ 初めての旅編 アニヤ地方南部 
第一話『隣の地方からの挑戦』


 温暖な気候と潮の流れで海の生物が、ラーレタウンの沖合にやってくる。そこの漁民は、キャモメの群れを追って漁に出かける。

「キャモメの一群が海の上で渦潮をするように飛び回るのは、ヨワシの群れがいるしるしである。今日の晩飯はみんな豪華になるぞ」

 という言葉が伝わるほど彼らとポケモンはつながっていた。ある者は、祝言のように唱え、ある者は、自作の歌にして唄った。

 ヨワシというポケモンは、少し前までは最弱のポケモンといわれていたコイキングよりも弱く、何よりもコイキングよりも身があるため他の生物の格好の餌であった。ヨワシは、群れで行動しそれを追いかけるように海中からも空からも狙われていた。

 空から狙われる生物は、もっぱら先ほどのキャモメやペリッパーであった。同じく群れをつくりヨワシの群れを狩猟するときに全体で旋回してヨワシを捕獲する。ラーレタウンの漁民は、ポケモンの技のひとつ『うずしお』に似ているとして目印にし、漁民もヨワシが引き連れた他の生物を獲る恩恵を授かっている。

 漁民の漁の方法は様々あるが、収穫が大きい地引網漁が定番である。引き上げられた網には、獲物である魚以外にもポケモンやごみが混ざっている。ポケモンは海に戻し、ごみはリサイクルや陸地に戻って処分する。

 漁民の一人であるエホバは、いつものように魚とポケモンとごみの仕分けをしていた。その中に飲み口がコルクで塞がったビンを見つけた。エホバは、いつものようにごみと判断して処分しようとビンをごみ用の箱に落とそうと腕を伸ばした。だが、ビンの中に紙が入っているのが見えた。

 エホバは、その手中にある物を作業ズボンのポケットの中に入れて、再び作業に戻った。

 

 不思議な生き物ポケットモンスター。縮めてポケモン。ポケモンと人間は、共存しあい戦いも交えながらも長い歴史の間――人間の文明が発達しながらも両者は良好な関係を保ち続けている。

 しかし、人間は長い間ポケモンと関わりあいながらも未だに未知な部分がある。二十年前にポケモンの権威であるオーキド博士がポケモンの総数は百五十種と唱えていたものの、現在では八百種以上確認されている。ポケモン学者は、常にその進化・発見し続けるポケモンを追い続けている。

 ある学者は、進化を。ある学者は、野生のポケモンの生態を。ある者は、技を卵を、様々な分野で研究している。そして、学者だけに留まらずこの未知なるポケモンに魅了されるのは、老若男女問わずである。

 そして、ここアニヤ地方の港町ラーレタウンに住む少女もポケモンと共に暮らしている。

 

 赤い屋根が太陽の光を浴びてその鮮やかさが一層増す家の窓辺に、二羽のムックルが毛繕いをしながら一休みしていた。ムックルは鳴き声がうるさく、たとえはぐれムックルが一羽でもベランダや窓辺にいようものならそこの住民は追い払って静寂を取り戻すが、この部屋の住人はそれをする気配がない。

 部屋の住人である少女は、布団を蹴飛ばしてパジャマからへそを出しながらも静かに寝息を立てて熟睡していた。暖かい日光が射し込んでもムックルの発する鳴き声が部屋に響いても、寝る体勢を変えるだけで目を覚まさなかった。

 二羽のムックルが日光を浴びてうとうとし始めるとそれを見ていたほかのムックルがつられて集まってきた。今まで下の階にまで鳴き声が響いてこなかったが、ムックルの数が増えて、鳴き声がついに母親がいる台所にまで響いた。

 「もぅ。セルピルが起きないから、またムックルが集まってきたじゃないの」

 セルピルの母が、苛立ちの矛先をムックルではなく娘に向けていた時、テーブルの下で体を丸めていたポケモンに命令を出した。

 ポケモンは、勢いよく階段を駆け上がり、口と自重でセルピルの部屋のドアを開けた。ムックルの群れがいる窓辺は、外の景色が見えないほど真っ黒い塊となっていて、ポケモンはそこに向かって地響きに似た怒りの声で吠えた。

「ワンワン!! 」

 吠えると同時にそのポケモンの特徴である首輪のような岩から光が発し、そこから小さな石の粒がいっせいにムックル達に放たれた。

 岩の攻撃が弱点であるムックルの群れは、攻撃を避けようとそれぞれが右往左往と闇雲に飛び回る。部屋の中は、ムックルが大慌てで羽ばたきまわる音と悲鳴に似た甲高い鳴き声が飛び交い、加えて技を繰り出したポケモンが、ムックル達の動揺する様子を見て吠えるものだから部屋は喧騒に包まれた。

 この部屋の住人であるセルピルは、自分の部屋の異変にようやく気づき目を覚ました。

「うえぇ!? 何このムックルの群れ!? 」

 部屋を飛び回っていたムックルは、一羽ずつ外へと飛び出していき、最後の一羽が出て行ったときには、部屋はムックル達が落とした部屋の装飾と羽毛で床は埋め尽くされていた。

「イワンちゃん。おはよう~」

「ワンッ! 」

 先ほどムックルに吠えたときと違い、主人の目覚めに喜びを表した声で吠えたのは、イワンコのイワンだ。イワンは、セルピル家の愛犬でアローラ地方という南国の島に生息してアニヤ地方には存在しないのだが、父の友人から譲り受けたポケモンである。

 イワンは、セルピルのベッドに乗り、彼女の体に首をこすらせる。

「痛い、痛い。嬉しいのはわかるからコシコシしないで。二度寝もしないから 」

 イワンコは、首にある岩を相手に擦ることは愛情表現であるが、それが棘のように刺さるためイワンコと接するには、避けるか慣れが必要である。ただし、セルピルに限り岩の棘が二度寝防止の効果があるため家族からは、イワンの愛情表現をやめさせなかった。

 セルピルは、ベッドの上の乱れた布団やムックル達が散らかした物を片付けて一階の台所に下りた。

「お母さん、おはよう」

「おはようじゃない。今何時だと思っているのよ? お父さんもうすぐ帰ってくるわよ」

 すでに時計の短い針は、十を越していた。

「ムックル達が、私の部屋を散らかしたからそれを片付けるのに時間がかかったの」

「イワンが起こしに行ったときには、もう十時でした。まったく、あんなにムックルの鳴き声が一階にまで聞こえてきているのに、どうしてグースカ寝ていられるんだろうね。そんなに眠るんならムンナかスリープでもゲットして、夢を食べさせれば起きるんじゃないのかい」

 セルピルの言い訳は虚しくも、一蹴されてしまった。そればかりか、娘の睡眠にまで言及されて不愉快だった。同じ夢を食べるポケモンのムンナなら、花柄の模様とぬいぐるみみたいな見た目でかわいいし抱き心地がよさそうであるが、スリープなんて気味の悪いプリンの色合いとジトッとした眼で横に居られるなんて眠れないことが想像に難くない。

 セルピルは、椅子に座ってスリープがベットの横に居座って、夢を食われることを想像しながら、マーガリンがたっぷり塗られたデニッシュをかじり遅い朝食を取った。

「食べ終わったら、パジャマを着替えて、髪をきれいにして。洗濯物とお使い手伝ってよ。休みだからって怠けるのは、ナマケロしか許さないよ」

「はいはい」

 セルピルは、寝ぼけ眼の空返事で返して、テレビを見た。近々、西の自動車専用道路が工事に入ようだった。そんなニュースを見ながらフォークでベーコンエッグの黄身を潰さないように、器用にベーコンと目玉焼きを一緒に口に放り込んだ。

セルピルは、ラーレタウンにある学校に通っていて休みの土曜日と日曜日は、家事手伝いやクラスメイトと町に出かけて遊ぶことがほぼ日課になっていた。だが彼女には、こんな毎日を抜け出したい思いが膨れ上がっていた。

この町に生まれて十二年、学校のある日は早く起きてつまらない授業を受け、休みはいつもの友達といつもの場所で遊び――たまに朝寝坊したら今朝みたいになる。来年からは自動的に学校が変わって進学するがいつもと変わらないことは確実だ。変わったことが起きてほしいと願っていた。

 

 丁度朝食を食べ終えた時に、玄関のドアが開く音が聞こえ、イワンが一目散に玄関へと走っていった。イワンが玄関に向かってから一分もしないうちに、頬まで髭を伸ばし日焼けした肌で頭に水中ゴーグルをかけた男性が台所に入ってきた。男性の足元には、イワンが男性の足に首をこすりながら周っていた。

「今帰ったぞ」

 髭の男性は、セルピルの父エホバだった。エホバは、町の漁民で深夜に家を出て、いつも昼ごろには帰って昼飯を食べて寝るという昼夜逆転の生活をしている。

「お父さんおかえり」

「セピー、何だそのボサボサの髪は? 俺が帰るまで寝てたのか?」

「そうよ。このお寝坊さん、またムックルが横にいても爆睡だったの」 

 エホバは、娘の眠りの深さにあきれながら椅子に座る。彼は、仕事から帰ったらテレビをつけて彼の妻が昼ごはんを作るのを待つが、今日はひとつだけ違うことがあった。エホバの仕事着の懐から封されたビンがテーブルの上に置かれたのだ。

「お父さん、これなに?」

「これか、俺が漁をしていてたまたま網にかかったのを拾ったんだよ。こいつの中に入っているものが気になってよ」

 ビンは、エホバが洗ったようで海水の痕や汚れが見当たらず、ビンの中にある紙がはっきりと映っていた。

 エホバは、栓になっていたコルクを手で引っこ抜き、中に入っていた紙を取り出した。エホバが、丸められていた紙を広げると、ビニールの袋に包まれた小さな紙片が一緒に出てきた。紙片は、国際便用の切手だった。セルピルは、父の背後からビンの中に入っていた紙を覗き見た。

『この手紙を見つけたアニヤ地方の方へ、

 僕は、オリント地方のイエロスヴィレッジという田舎町に住んでいる男の子です。この手紙を出したのは、友達になるために出したのではありません。なぜならオリントでの友人はたくさんいるのにどうしてアニヤ地方にこんな方法で出す人がいるのでしょうか。

 僕は、アニヤ地方の人に挑戦を申し込むために出しました。アニヤ地方の人は勝負事が好きだがその実力は弱いと聞き及んでいます。僕からの挑戦を受けたいという方は、下記の住所に挑戦申し出るという手紙を書いて送ってください。挑戦の内容は折り返し返信します。なお、返信用の切手は同封されていますのでご安心を アレクサンダー』

 手紙を読み終えたエホバは、この不躾で一方的な挑戦状にあきれ果てた。その手紙を妻にも見せると、妻も大きなため息をついた。

「オリント地方って西向こうの地方じゃないかい。まったくあそこの地方には、アニヤ地方を馬鹿にする輩がまだいるもんなんだね。こんなもの喧嘩の種になるだけだってのに」

「そういえば、六年前だったかオリント地方の偉い人たちがうち町の視察に来てた時もな。あん時もうちの町の若いやつが挑発して揉め事になりかけたからなぁ」

 アニヤ地方とオリント地方の人々は、百年以上前から大小でよく揉め事を起こしていた。時には戦争になることもあるほどの仲の悪さだ。今でも、お互いが挑発していがみ合うことが多々あるが、実際に事を起こすのはお互い血の気の多いやつで、多くの人は挑発があっても無視している。

 エホバは、手紙をクシャクシャにして捨てようと妻の手から取ろうとした。しかし、それよりも先に娘のセルピルが手紙を取り上げた。

「私返事を出してくる。面白いじゃないどんな挑戦かわからないけど、受けてたつわ」

 娘の思いがけない言葉に二人は、顔を見合わせてた。

「おいおい、セルピル。そんなあからさまな挑発をするやつの挑戦なんてどうせ」

「返事が返ってきたら、ちゃんとお父さん達に見せて安全な挑戦か判断してもらうから。危ないやつだったらもう首を突っ込まないから」

 エホバの忠告をセルピルは押し切る形で言い切った。セルピルは、リビングにあるソファに座りアレクサンダーという人物が書いたその手紙を手を離さず見つめていた。その目は、爛々と輝いていた。

「じゃあ、ついでにお使いも頼んでおくわ。郵便局にいくには商店街を通らないとならないからね」

 セルピルは、「はぁい~」と間延びした空返事で返した。

 

 

 セルピルは、返事の手紙を握り締め郵便局へと走り出した。郵便局がある商店街は、今朝の漁の水揚げで商品が通りを狭めていて、人の往来もあるため歩いていてもぶつかりそうだった。それでもセルピルは、人や商品に当たらないように走りぬけていった。

 郵便局に到着して、窓口にいる局員のおばさんに、国際便の証明である宛名の面と切手を見せびらかすように手紙を突き出した。

「すみません! この手紙、国際便で! オリント地方のイエロスヴィレッジまで! 」

 言葉一つ一つを強調して、局員に手紙の行き先を告げた。手紙は問題なく預けられ、郵便局から出た彼女の心には、高揚感が湧き出ていた。

 手紙の内容はともかく、見知らぬ土地の見知らぬ人とただ会って話をするのではなく、戦うという今までなかった出来事に好奇心が生まれていた。手紙を出したアレクサンダーという人物が、セルピルの退屈していた今までの人生を変えてくれるような何かを期待していた。

 手紙の主が、そんなことをしてくれる保障はどこにもないが、それでもセルピルは、ウキウキしながら元の道を歩いていった。彼女は、いつもと違う日常を求めていた。繰り返される毎日に何かしら刺激がほしかった。

 彼女が、手紙の主のことやオリント地方のことを想像しつつ商店街を抜けていったときには、もうお使いなんて忘れてしまっていた。

 

 

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