ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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今回はポケモン成分は少なめです。


第十話『嘲笑う夕焼けと包容の暗闇』

 受話器を取り、発信音が耳にこだまする。そしてしばらくすると目の前のテレビにセルピルの母親エレモアの顔が映った。

『セルピル?昨日なんで連絡入れなかったの?ちゃんと毎晩連絡するようにって言ったでしょ』

「ごめんなさい」

 母親の質問にセルピルは覇気なく謝る。それを見たエレモアは、娘の様子に違和感を感じた。

『どうしたのセルピル?元気ない見たいね。あっ、もしかして……』

 セルピルは母親が何かに気づいたようでドキリと心臓が跳ね上がった。

『スヨルタウンのポケモン大会で負けたでしょ。ちょうどそんな時期だし、セルピルもそれ目当てでスヨルタウンに行きたかったのでしょ』

 全く見当はずれな答えが出てきたので、セルピルは心の中でホッとする。そしてエレモアに悟られないように相槌を打つ。

「うん。そんなとこ」

『そんなに落ち込まないの!セルピルは女の子だしニチャモとうちのイワンも人とのポケモンバトルなんて経験ないし負けても仕方ないよ。トリ湖には行ってきたかい?明日はそっちも天気がいいはずだし、水が気持ちいはずだからトリ湖のきれいな淡水で遊んで気分転換したら?』

「わかったよ。じゃあまた明日ね」

 セルピルは受話器を置いて電話を切る。つくづくポケモンセンターという施設にはありがたみがある。ポケモンセンターは、設計の費用の削減のために同じ構造のポケモンセンターが置かれており、ここゴキューズシティのポケモンセンターもスヨルタウンと寸分狂わないほどの構造であった。だが、ジョーイさんもまさか三つの町とも同じ顔の人が働いているのは、セルピルも驚いてしまった。

 だが、今のセルピルにはそんな感傷に浸れなかった。そしてニチャモを引き連れてポケモンセンターの外へと出ていく。

 外に出ると、飛行機が上空を通り耳をつんざく騒音が聞こえ正面には一面に広い海岸が道路を挟んで堤防の眼下に広がっていた。ゴキューズシティはアニヤ地方有数のリゾート都市として有名である。そこにはセレブが使用する高級ホテルから大衆向けの簡易の宿まであり、ポケモンセンターはそのビーチに面したホテル街の一角にあった。

 セルピルは堤防を降りて、夕日の海を見に来ている観光客の中に交じってその真っ赤に燃える夕日を見つめた。観光客は口々に綺麗や美しいとつぶやいていたが、セルピルにはその夕日が真っ赤に破顔しているかのように見えた。

 バスはタッシーマシティへは向かわなかった。タッシーマシティへの道路が工事のため通行停止となっていてゴキューズシティ止まりとなっていた。連絡船もあったのだが、船着き場の場所がわからず重たい荷物を引きずりまわった挙句乗り遅れてしまった。

 セルピルはまだホテルに帰らない海水浴客の間を潜り抜けて、空いてる場所を見つけて砂浜に座り、ニチャモの頭を撫でた。

「ごめんねニチャモ。またジムに行けなったよ」

 ニチャモは寂しそうなセルピルに向けて自分の頭をこすりつける。ニチャモの羽毛に似た一本一本が肌に伝わる柔らかさと温かさが伝導して落ち着かせるが、それでも彼女の心を完全に癒すことまではできなった。

「私には旅はできないってお告げなのかな」

「セルピルちゃん?」

 不意に自分の名前を呼ばれ振り返ってみると、ミュケーナ博士が手提げかばんを携えていた。

「タッシーマシティへ行かなかったの?バスから降りた途端に飛んでいいったから、もう船に乗ったと思ったのに」

「船乗り遅れてしまって、一応明日にも船が出るのですが……」

 セルピルは博士に目から溢れるものを見せないように海岸の方を向いた。まだ期限までには五十日と余裕はあった。だが自転車を失い、土砂崩れによるバスの運行停止、やっとの思いで森を向けて乗ったバスは道路工事で乗り換え、挙句に船にも乗り遅れと見えない何かがセルピルを阻もうとしているかのようにうまくいかない。加えて、スヨルの森を抜けるだけでも重い荷物に悲鳴を上げていたセルピルにはもう自分の足で行ける自信がなかった。

「もういいかなって思って」

 その発言に、博士は怪訝な顔をして一歩前に詰め寄る。

「どうして?」

「十二才の女の子がジム挑戦の一人旅なんてできなかったんですよ。でもここまで来れましたから私はもう」

 博士にではなく自分に言い聞かせるように言葉を紡いでいったが、最後の言葉が出し切る前に目の奥のダムが決壊し大きな粒が頬を伝い夕日がそれをきらめかせる。

「セルピル!」

 博士が突然吠え、セルピルが振り向くと博士は自分のカバンをセルピルに向けて投げ、セルピルはそれを胸元で受け止めた。

「あなたは今から私の臨時助手に任命します!」

 突然の宣言に頭がついてこれず呆けていると、博士がセルピルの腕を引く。ニチャモはその様子に驚き、慌ててついていく。

「さあ早く荷物を持ってきなさい!すぐ出発するわ」

「ま、待ってください。どこへ行くんですか?」

 セルピルは博士に引きずられながら尋ねる。そして、博士は一言だけ言葉を発して指一本を空に向けて立てる。

「ファトゥラシティよ」

 

 日が間もなく沈みかけ、太陽の光で遮られていた月が現れようとする七時ごろ。セルピルは博士に言われる通り荷物をまとめタクシーに乗せられある場所に到着していた。

『ホウエン地方行きラティアス航空H二十五便の搭乗窓口は、S七番窓口でございます。搭乗手続きがまだのお客様は係員までお申し付けください』

 リノリウムの床に天井が高い建物の中で搭乗客が受付カウンターで長い列をつくる。ここはゴキューズ国際航空である。アニヤ地方に二つある国際空港の一つで、オリント地方の便ないのものの、リゾート都市であるゴキューズシティに来るために多くの入国者がいる空港である。

 セルピルは博士に連れられるまま隣の受付カウンターとは異なり、待機列の人が少ない受付カウンターに並んでいた。そしてセルピルたちの番になると、博士は一枚の長方形の紙を取り出した。

「すみませんが、この飛行機の座席はまだ空いていますか?」

「少々お待ちください」

 係員がチケットを拝見すると、機械を操作して空席があるか確認する。

「お待たせいたしました。この便の座席はビジネスクラスのみ座席がございますが」

「よかった。では、私の席の隣のチケットは取れるかしら。あったらそれを購入するけど」

「かしこまりました。お客様の席は通路側になりますがよろしいですか?」

 淡々と手続きが進む光景をセルピルはただ見ているだけだった。セルピルは飛行機どころか空港にさえ初めてであったが、ビジネスクラスはなかなかの値段がするものでおまけに当日券はそれに輪をかけて高いことは知っていた。今の自分がしていることは荷物番をしているだけと申し訳なく思ってしまっている。

 博士は支払いのためにクレジットカードを係員に渡した後、発券されたチケットを受け取りそれをセルピルに渡す。セルピルはおそらく何万もするビジネスクラスのチケットをおっかなびっくりな様子で受け取った。

「それではお客様、荷物をこちらへ」

 博士と自分の荷物を係員に預けると、また案内放送が空港内に響き渡る。

『ファトゥラシティ行国内線は間もなく出発いたします。搭乗口はK二番でございます』

 

 出発十五分前にセルピルたちは飛行機に搭乗する。飛行機の中は円筒状の機内であることはその天井を見れば理解できるが、その座席はちょっとした個室のようであった。大人でも足を思いっきり伸ばせるほどの広さのリクライニングシートに、横には小さなオーディオが設置されている。その正面にはB五サイズのテレビ画面が前の座席の後ろ側に設置されている。

「セルピル、窓側と通路側どっちに座りたい?」

「えっと、窓側で」

 先にセルピルが窓側の席に座ると、その感覚は座席というよりは少し硬いベッドのようだった。またセルピル自身が大人用の座席に座っていることもあって相対的に広く感じた。

 左の窓から見える景色はもう日が沈んでしまい空港と飛行場から発する明かりのみが照らしているため全体的に暗くほとんど何も見えなかった。だがこの闇がセルピルを嘲笑っていたものを消しさり、安息の時をつくってくれてたとセルピルは思ってしまった。

「いいんですか。座席を代わってしまっても」

「知り合い同士なら平気よ」

 博士はあっけらかんとした表情で通路側の席に座り、座席を倒しキャビンアテンダントに毛布とアイマスクを頼んだ。

「ミュケーナ博士。どうして私のためにこんなにしてくれるのですか?」

「博士でいいわよ。そしてその質問は、単純明快な答えよ。何かに挑もうとする女性を応援したいから。あと、わたくしの傍にいてくれる信頼できる女性の助手も欲しかったこともね」

 シートベルトを締め、機長からの案内などを聞き終えた後、飛行機は定刻通りに離陸してファトゥラシティへと向かう。そしてファトゥラシティへ到着するころにはすでに日をまたいでいて、期限は五十日となった。

 




 さて、今話でついにプロローグは終わりです。
 次話からが第一章に入ります。セルピルは待ち望んだジム戦にたどり着ける……かどうかはお楽しみに。
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