ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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今回は、難しい話をしているようでそうでないのが半分を占めています。
内容がわかりにくいぞという方は、本文を一通り読んだ後あとがきを読んでください。


第十二話『アニヤ・オリント戦争史』

 突然教室内に響いた声に、全員が一斉に教室の入り口を開けた三人の方を向いた。博士は動じずに、壇上にいるてっぺん禿の白髪眼鏡の老人に向かって言い返す。

「十五秒遅れただけですよハギス博士」

「十五秒でも三十秒でも時間がもったいないんじゃ!早く座りたまえ」

 ハギス博士は拳をつくりプルプルと震わせてミュケーナ博士たちに早く座るように促す。博士は二人に目でついてきてと合図して、教室の前の方に進んでいく。教室は階段教室となっていて、机が弧を描くように並び最下層に設置されている壇上が全体から見えるような位置にあり、まるで劇場のような形態をしていた。

 セルピルたちは、博士の名前が書かれたプレートがある机のところに座った。机には、今日の学会で使う資料が三人分用意されていた。博士がアイスに電話して用意する資料を一部増やすように根回ししたからだ。

 だがセルピルは、資料よりも目の前の者に興味を注がれていた。壇上にいるハギス博士容貌があまりにも珍妙で滑稽であった。教室の入り口が壇上のある所と高低差があり、その背丈が分らなかったがあまりにも小さすぎて着ている白衣が地面を引きずっていた。もしかするとセルピルとあまり身長が変わらないのではないかと思ってしまった。

 背丈だけでない、細身の体に卵頭。その卵頭の側面にはムースをかけたかのような白髪と牛乳瓶の底のような眼鏡をかけていた。ミュケーナ博士があまり学者然とした格好でなかったため、まるで絵に描いたような小柄でひょろっとした研究者であるハギス博士の容貌に思わず吹き出しそうになった。

 ハギス博士がプロジェクターを始動させ、背後のスクリーンに映像が映し出される。ハギス博士は、助手からマイクを受け取りしわがれ声がスピーカーを通じて拡散する。

『それでは、本日のポケモン史学学会を開催させていただきます。本日の議題は――百年前に出現した二体の伝説のポケモンの正体についてです』

 先ほどの老人のようなしゃべり方から一変して正された口調になった。スクリーンには、題名と二つのシルエットが浮かび上がった。

 セルピルは、内容がどんなものか先にみておこうと資料を見てみたが、セルピルには読めない文字や高尚な文章が並び理解しにくく、添付された写真と一部の文章しか読み取れなかった。では、ハギス博士の説明を聞こうと耳を傾けるが抑揚がなく淡々とした話し方で眠気が誘われてしまいそうになる。

 いっそのこと寝てしまえばどんなによかったのだろうか。隣の壮年の顎髭を生やした男性がチラチラとセルピルの方を見るので、眠ってはいけないと思い必死で眠気と戦った。しかし話の内容が入ってこないのでは、もはや拷問だ。そこでセルピルは、隣に座っていたアイスに資料の内容をこっそりと尋ねることにした。

「アイスさん。今あの博士が話していることってどんなことなんですか?資料の内容が全然読めなくって」

「セルピルちゃん、アニヤ・オリント戦争まだ学校でしていないの?」

 アイスは目と手のみ動かして、セルピルに分かりやすいように資料の裏面を使って二つの地方の図を書き、他の人に聞こえないように小声で説明する。

「百年前にアニヤ地方とオリント地方で戦争があったことは知っている?」

 それはセルピルが旅にでる前に、二つの地方が半国交断絶の原因となった出来事だとレイに教えてもらったことなので覚えていた。アイスは図に二つの人の絵を書き足した。

「二人の王様がいて、互いが互いの地方を支配しようとして二体のポケモンを使役して戦争を起こした。多くの人やポケモンも巻き込んでね」

 今度は、二つの大きな影の絵を二人の人の絵の近くに描き足す。

「二体のポケモンはそれぞれ凄まじい力を持っていて、二体が争うところには天変地異が次々と起きたんだ。でもそのポケモンの正体がいまだ学者たちの間で意見が分かれているんだ」

 二つの地方の絵に、雨や火山噴火に大きな雲が描かれ、天変地異がどのようなものであったかを見せた。一連の説明を受けてセルピルは、ようやく理解できたというところでハギス博士の長ったらしい話もようやく終わるところだった。

『そして、二体のポケモンは相打ちとなり、首謀者の二人も民衆とポケモンたちによって倒されました。これが歴史の概略であります。現在この戦争に関する資料は、奇妙にもこれほど新しく歴史的な戦争にも関わらず多くが紛失または焼失しておりその全容が完全に明らかにされておりません。そして今日の本題である。二人の人物が呼び起こして戦争の引き金となった二体のポケモンの正体を、私の長年の研究結果により最も最頻値であるポケモンが判明しました』

 教室にいる全員が固唾を飲み、スクリーンに視線を集めた。長年の研究者たちが研究し論争してきた伝説のポケモンの正体が明らかになる瞬間を。ハギス博士はひと呼吸おいて、教卓に立っている助手に合図を送り、助手はパソコンを操作する。

そしてスクリーンに現れたポケモンは、片方は二足歩行の赤い体に腹部は灰色のポケモン。もう一方は明らかに水ポケモンとわかるほどの大きなヒレが特徴的で青の体と白の腹部のポケモン。

『グラードンとカイオーガであります』

 ハギス博士の発表に教室が大きくざわつき始める。ミュケーナ博士は、スクリーンに映し出された瞬間手帳や持ってきた本や資料を広げ始めていた。ハギス博士は、ざわつく教授陣を無視するかのように再び説明を行う。

『かつて、この二匹はホウエン地方で局地的な日照りと大雨を起こしました。その日照りは海をも蒸発させフエン火山の大噴火の恐れがあるほどであり、大雨は常に暗い雲に覆われ降り続き大津波で決して来ることがない所にまで波が押し寄せました。これとほぼ似た現象があの戦争時に起きたのです!』

 助手がまたパソコンを操作すると、海面図や山の周辺の地図が数枚現れた。

『まず海では、土地の調査により海の中にしか存在しない微生物の死がいを陸上で発見し、計算上で見ても海水がそこに到達することはありませんでした。次にアニヤ地方の火山ですが地層調査した結果大噴火によって生じるテフラの産出を見るに……』

 今度は白黒で表された形が異なる柱状の図形が現れた。あの図形は、前に校外学習で博物館の人があれに似た図形を見せてくれたことを薄っすらと覚えていた。しかしその後も専門用語の連発で、セルピルの頭の中では処理できなくなっていた。

『――でありまして、これらのテフラの年代がいずれも百年前近くと同時期の物であることが判明し、両ポケモンの進撃したルートとも照らし合わせましても一致しまして。グラードンとカイオーガはアニヤ地方の北西沿岸部から南部へと移動しているのであります』

 すると、ミュケーナ博士が資料から目を離し、手を挙げた。ハギス博士は、質問を許可すると促してミュケーナ博士が質問する。

「ハギス博士、質問です。ということはグラードンはアニヤ地方を移動しながらカイオーガと戦ったというのですか?」

『ええ。グラードンは地面を潜ることができるとホウエン地方からの資料に記載されています。カイオーガが海に潜って移動するように』

「ですが、グラードンの移動は地震にも似た振動を起こしますわ。ですが、コンヤストリートに住んでいた人々の証言では雲行きは悪かったが地震のようなものはなく伝統的な建物や道の大規模な修繕もなかったというのです。博士のおっしゃるルートではコンヤストリートを通っていますわ」

 たしかに、スクリーンに映し出されている赤と青の二つの矢印のうち、赤の矢印はコンヤという地名の上を通っていた。その質問に対して、ハギス博士はしばらく沈黙してゴホンと咳払いして言葉を濁す。

『グラードンはたまたまコンヤストリートを迂回して進んだのでしょう』

「ではカイオーガはどうやって決戦場の岩の旧市街に入ったのでしょうか。ルネシティでは海がつながっていましたが、あそこは完全な陸地です」

 次の質問に映ったとき、ハギス博士は完全に沈黙した。学者然とせず美形な容姿も相まって戦う女性の姿がそこにはあり、教室はもうミュケーナ博士に注目していた。

「加えて、オリントでは伝説の二体が海上で戦ったという漁師の伝承や急激に気温が下がり白い雨が降ったという伝承があります。またアニヤの伝承では、アッラー山からポケモンが降りてきて岩の旧市街へ向かったというものもあります。博士の説は事実のこじつけであり、伝承を顧みないではありませんか?!」

 その時、背後から鋭い目つきをした男性が立ち上がり、ミュケーナ博士に向かって指をさした。

「黙れ!オリント人が!俺たちの説にも噛みつくつもりか!!」

「そこっ!議論とは関係のないことをっ挟むっな!!」

 ハギス博士が、ミュケーナ博士に向かって暴言を吐いた教授に向かって息を切らしながら口角泡を飛ばす。

 ほかの席では、ハギス博士の説に異論を唱える人も現れ始めた。

「たしかに、この説では少し無理があるのではないか?火山はエンテイの仕業であるほうが納得がいくが」

「では、オリントの方のポケモンは何だというのだ?」

 教室は、博士や教授陣たちの議論や怒号が飛び交い、まるでドゴームが一匹投げ込まれたかのような状態になった。ミュケーナ博士は他の教授や博士たちの質疑応答に対して髪を乱しながら声を荒げ、アイスも博士の質疑応答を手伝うために資料の提示や反論に追われていた。セルピルはもうついてこれず早く終わってほしいと耳を塞ぎこんだ。

 

 それから一時間経った後、大学関係者が収拾がつかないため終了するようにと警告があったため学会は閉会となった。

 ミュケーナ博士は、乱れた髪を整えてアイスとセルピルと一緒にバラバラになった資料の整理に努めていた。そこに壇上から降りてきたハギス博士が助手を引き連れて早々頭を下げた。

「すみませんな、ミュケーナ博士。あやつのせいで神聖な学会が罵詈雑言大会になりますとこじゃった」

「いえ。あの時いの一番で止めてくださったのはハギス博士です。しかし、グラードン・カイオーガとは意外な説でした」

 そうミュケーナ博士が言うと、ハギス博士は不機嫌になりフンと鼻息を吹き出した。

「ふん。大自然を動かすほどの強さとでグラードンとカイオーガであると至っただけじゃ。しかし旧市街の地下の調査が進まんことにはなぁ。特にあの氷の地下都市は」

 二人の博士が話し合っている間、セルピルは、地面に落ちていた資料を咥えて持ってきたゴトラから物を受け取り、資料を番号順にまとめ始める。セルピルは、もう議論などこりごりで聞こえないようにしていた。

 資料の整理も終わり、教室にいる人もだいぶまばらになったころにミュケーナ博士が戻ってきた。博士はアイスとセルピルを引き連れて研究室に戻るように伝えた。 

 時間が昼頃になり、太陽の日差しがますます激しさを増しつつある中、資料を運びミュケーナ博士の研究室に戻ると、扉の前に一人の男性が小さな小包を持って立っていた。

「ミュケーナ博士。お届け物が届いています」

 男は大学関係者で、博士に荷物を渡すとそのまま階段を下りて行った。博士は小包を持ったまま部屋に入り、自分のデスクの上にそれを置いて宛先を見ると一つため息をついた。

「全く、トレーナーよりこっちが先に来てしまうなんてカタス社はなんて仕事が早いのかしら」

 皮肉交じりに博士が小包を丁寧に開封し、そこから二つの機械が出てきた。博士はそれを見つめてしばらく考えこむとふとあることを思いついたかのように、セルピルの方に振り向いた。

「セルピルこれひとつあなたに譲るわ」

 博士に渡されたものは、起動ボタンがモンスターボールを模したスマートフォンのような機械だった。

「博士、いくら何でも大盤振る舞いではないですか?だってこの後も」

「いいのよアイス。大学が必要ないのに研究の発展のためにって支給されたものだし。私たちには宝の持ち腐れだわ。それにセルピルは私の臨時助手なんだから連絡手段はあったほうが良いでしょ」

「博士この携帯電話は何ですか?」

 博士は、小包に入っていた説明書を取り出しページをめくった。そしてある程度読み終えると説明を始める。

「これは、ホウエン地方にあるデボンコーポレーションの新製品のポケナビツーよ。ポケモンマルチナビの改良版で、携帯電話機能にポケモンのコンディションチェック・GPS機能・カメラ機能・テレビ機能を盛り込んだものをカタス社がアニヤ地方に対応できるようにしたものだそうよ」

 セルピルは仰天した。まさか携帯まで渡してくれるなんて、気前が良すぎて怖くなった。本当にもらってよいのかと博士に聞くと、博士は気前よく答える。

「もともと一つは待ち合わせている男の子に渡すものだったし、もう一つどうしようって前から考えてたの。ポケナビツーは、トレーナー用につくられているからトレーナーに使ったほうが良いと思ってね。それにわたくし今の携帯で十分ですし」

 ちょうどその時に博士の携帯に着信音が鳴り、博士が携帯を確認するとほころんだ表情をした。

「セルピル朗報よ。ポケモン協会からメールがあって、他のジムはいつでも挑戦できるって。特にタッシーマジムが猛烈にラブコールを送っているわ」

 だが、セルピルは喜ばない。なにせ今朝のようにジムリーダーが休養で挑戦自体を受け付けないなんてことがあるかもしれないからだ。

「本当なんですか?」

「この時期に休養でジム挑戦を行わない偏屈なジムなんてファトゥラジムだけよ。行くとしたらタッシーマジムはどう?ここからなら三日で行けるわ」

「歩いてですか?」

「いいえ。自転車でよ。古いけど私の前の自転車を貸してあげるわ。あっ、ちょっと待ってて」

 再び着信音が鳴って博士は電話に出て部屋の奥の方へ移動する。

「セルピルちゃん本当に行くんですか?ポケモンリーグは本当に受験より厳しいですよ」

 アイスが、こっそりと耳打ちするとセルピルはすぐに返した。

「行くわ。私の旅だもの。アレクサンダーって人がどんだけ自信家なのか知らないけどここまで来たんだもの。引き下がれないわ」

「よく言ったわ!さあ、荷物をもってきて」

 先ほど電話を済ませた博士が奥から戻ってきて、セルピルを自転車のある所まで案内しようとする。セルピルは荷物をもって博士についていく。

 案内された場所は、大学の駐輪場だった。何百台とある自転車の中の一つに前かごのついた自転車の前で博士は止まり、セルピルにその自転車のカギを渡そうとする。

「博士。一つだけよろしいですか。どうして何かに挑む女の人を応援しようと思ったのですか?」

 セルピルは博士に尋ねた。セルピルは知りたかった。たまたま出会っただけの自分にここまでしてくれる

「腑に落ちない?わかったわ。学問の世界ってねいまだに男の世界なの。アララギ博士とか女性の研究者はいるけど、ほとんど男ばっかり。おまけにわたくし、オリント地方の人だから昔の戦争のことで快くない人もいてね。そんな荒波の中で揉まれてわたくしは生き延びたけど、他の女性は荒波の中」

 ミュケーナ博士が、セルピルの方をじっと見つめる。

「そんな荒波の中を必死で泳ごうとする他の女性を、わたくしは今持っている収入と力で少しでも引っ張り上げようと決めたの。あなたもアイスもその荒波から引き揚げたの。これが理由よ」

 セルピルは深々と頭を下げてお礼を言い、カギを受け取ってロックを解除し、自転車にまたがろうとする。同じ女性を助けようとする慈悲を持つ美しい人がいるとは、旅とはこんなに素晴らしい人と出会えるのかと歓喜に包まれた。

「それとセルピル!あなたは今もわたくしの臨時助手だから、もし近くにあなたがいたら手伝いに来て頂戴ね!」

「わかりました博士」

 ここまで礼をされては嫌とは言えなかった。心の中ではどうか手伝いの連絡がありませんようにと願いつつ、博士に手を振って自転車を漕ぎ始める。

 目指すは、タッシーマシティ。今度こそジム巡りの旅が始まる。期限まであと四十九日。




ハギス博士の新説と反論の内容
 ∧∧
(,, ゚Д゚)<つまり伝説のポケモンとはグラードンとカイオーガだったんだ!!
ΩΩΩ<な、なんだってー!?
 ∧ ∧
(*゚ー゚)<いやデータ見ただけのこじつけでしょ。
 ∧∧  
(,,゚Д゚)< なんだとゴルァ!

ちなみに、ドゴームが二匹だと窓ガラスが割れます。
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