ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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ちょっと箸休め回


第十三話『綿いっぱいの一番道路』

 日が少し傾きその向こうでは入道雲が現れようとしているが、それでも夏の強い日差しとアスファルトの照り返しによって灼熱の大地が未だ形成されている。自転車を漕ぎながら頬を伝う汗をぬぐいつつ、セルピルはアスファルトの上を走っていく。

 その脇では何台かの自動車が通り過ぎ、時には反対車線の隣で列車が通り過ぎたりとセルピルの自転車を追い抜いていく。

 ここは一番道路。ファトゥラシティからタッシーマシティへ向かう片側三車線道路と線路が並行して敷設されている道路である。側線には、自転車及び歩行者専用の道路も整備されていて、車や列車に乗れない人でも快適に進めるようになっている。

 アスファルト以外には岩と土しかないという風景で一見さみしい場所ではあるが、途中途中で休憩所があってそこで最高速度で通り過ぎる列車を撮影したり旅の人々と交流するためにぎやかさを補っている。

 そしてセルピルも同じく見えてきた休憩所に入り、そこで乾いたのどを潤そうと自動販売機で飲み物を買おうと休憩小屋の隣にある駐輪場に自転車を停めてカギをかける。

 自動販売機から出てきたおいしい水を手に取り、キャップを開け一気にあおる。口の中の唾液がねっとりとした状態に口蓋が乾いてきてカサカサになっていたのが水が一気に口の中を満たし、元の状態に戻っていく。

 水を半分飲んだところで、セルピルのポーチの中から聞きなれない機械音が発せられた。セルピルは、ペットボトルを口から外してその音源を探った。機械音の正体は博士から渡されたポケナビツーからだった。画面には電話マークがついていて、画面に向かって指をタップする。

『セルピル元気かしら?』

 電話の主はミュケーナ博士だった。セルピルは特に驚く様子もなく応答に答える。

「博士。どうかしましたか?」

『セルピルが今どのあたりにいるのか聞きたくてね。わたくしの携帯だとGPS機能が使えないし、かといって渡す予定のもう一つのポケナビツーを使うわけにもいかなかったし』

「ポケナビツーって、相手の居場所を知ることができるのですか?」

「ええ。相手のポケナビツーの認証取得さえすれば、お互いの居場所がわかるのよ。あと、ポケモンも認証さえすればどこにいるのか探せるわよ。それで今どのあたりなの?」

 セルピルがぐるっとあたりを見回すと、青い看板で第二休憩所とありその上に大きく矢印で上エシリタウン、左タッシーマシティ、右マテ湖と書いてあった。

「第二休憩所ですね」

『ということは、エシリタウン近くね。もうすぐ四時になるし、休憩所だといい施設で休める場所がないからそこで一泊したほうが良いわね。それじゃジム戦頑張って』

「はい。博士アドバイスありがとうございます」

 そういうと電話が切れ、ツーツーという音だけが残った。そしてセルピルがポケナビツーをなおそうとしたが、ふとあることを思いつき、ポケナビツーの電話機能を起動させてあるところへ電話をかける。

「もしもし」

『はい、もしもし。ってその声セピ!?うそっこれ普通電話だよね?!だってセピ携帯なんてもってなかったよね』

 電話を受けた主であるレイは、まさかの相手に驚き困惑していた。

「ふふん。親切な人に譲り受けてね。おまけに、私飛行機のビジネスクラスデビューもしちゃったよ」

『なに?セピ飛行機に乗ったの?!』

 セルピルは、スヨルタウンから出た後の話をして、久しぶりの親友との会話に盛り上がった。

『ええっー!!すっごくラッキーいやハピナスじゃん。羨ましい。アタシもジム巡りの旅に出ればよかったかな』

「でも、野宿もあったんだよ。おまけに、バスが止まって臨時のバスに乗せてくれないわ。船には乗り遅れるわで最悪だったよ」

『いやいや。その後その博士に助けてもらった時点で相殺されるじゃん。野宿なんてアタシポケモンと一緒に小屋で寝ることあるから平気だし』

 親友から羨ましがられて、自分が誰も経験したことがないことを先んじてしていることに良い気分になった。

「へへじゃあ今度はレイも一緒に旅する?いろんな博士みたいな素晴らしい人や町に景色も見られるし、ほら今もこんな大きい入道雲も出てきているし」

『入道雲?そんなの見えないよ』

 レイのその発言にセルピルは疑問に思った。セルピルの向いている方向には、間違いなく今にも太陽を覆い隠さんとする大きな入道雲があるではないかと。場所が違うから見えないのだろうかと思った。

 だが、様子がおかしいと思ったのはその後だった。なんと入道雲に切れ目があるではないか。しかもそれが少し変化している。

 すると、反対車線に一台の古びたトラックがブレーキパッドがだいぶすり減ったけたたましいブレーキ音があたりに響いた。トラックに乗っている青年がクラクションを鳴らし、窓から顔を出しセルピルに向かって大声で叫んだ。

「おーい、君!!そいつらを捕まえてくれ!!」

 セルピルは青年の言葉意味を理解できず困惑した。そしてそれはすぐに分かった。目の前に近づいてくる入道雲になんと鳴き声のようなものが聞こえてきたのだ。

「「モンモン」」

 なんと入道雲のようなものには緑色の目まで付いているではないか。セルピルは、なんとか逃げようと電話を切り小屋の中へ避難しようと走り出す。だが、強風が突然吹き、その集合体は一気にセルピルに詰め寄り衝突する。

 集合体にぶつかったセルピルは、アスファルトに打ち付けられると想定したが、全くその感触はなく。さらにぶつかった集合体も痛みという感覚が全くなく、ふわふわとした感触に包まれていた。

 セルピルが目を開けると、目の前には、上下に綿のついた緑色の目をしたポケモンがセルピルを覆いつくしていた。

「モンモン」

 綿のようなポケモンがもぞもぞと動き出そうとすると、セルピルの右わきから一気にポケモンがいなくなり穴が開いた。そしてそこから人の手がにょっきりと飛び出した。

「君、大丈夫か。つかまって」

 セルピルは、言われるがままに伸ばされた手につかまりポケモンの群れの中から這い出た。出た先にいたのは、先ほどの軽トラックに乗っていた無精ひげを生やした青年がセルピルをつかみ、その横でストライクが自分の周囲に風をつくりポケモンの集合体を次々にトラックに乗せていた。

「怪我はないかい」

「はい大丈夫です。あのポケモンは何なのですか?」

「あれは、うちのモンメンだよ。急にモンメンたちがたくさん集まり始めて、モンメンの習性上集まってくっつくことはあるけど。こんなに一気に集まるなんて初めてだよ」

 セルピルは青年が愚痴を言っている間に、自分の持ち物がなくなっていないか確認していた。すると、持っていた自転車のカギがなくなっていることに気づいた。あたりを見渡してもカギはどこにもなかった。セルピルは大慌てで、青年に食って掛かるように問いかけた。

「あの、私の自転車カギの拾っていませんか?」

「いや拾ってないけど。もしかしたらモンメンの体のどこかに挟まれているかも」

 そういうと、青年は休憩所に停めていたトラックの荷台に乗り込み、ストライクが投げ込んだモンメンの体を探っていた。しばらくして青年が荷台から降りると深刻そうな顔をしていた。

「ここにいるモンメンは持っていなかったよ。もしかしたらこのモンメンの塊の中にあるかもしれない」

 すると、また強い横風が吹き集合体は風に飛ばされようとしていた。

「いけない!流されてしまう」

 青年とストライクはすぐさまモンメンの塊をつかみ、飛ばされないように踏ん張り始める。セルピルもそれを見て、せっかく博士から借りた自転車をここで失いたくないという一心でモンメンの塊をつかみ同じように踏ん張る。だが、モンメンの綿の繊維が引きはがされ塊は分裂してしまった。一つはセルピルたちと共に地面に。もう一つは空へ。

 引きはがされた勢いで青年とストライクはモンメンたちと一緒に後ろ回りに転がり、モンメンたちから出ようともがいていた。セルピルは手を伸ばそうとするが届かない。このままでは見失ってしまうと思ったその時、先ほどの博士の言葉を思い出してポケナビツーを取り出す。幸いにも画面の目的のアイコンは見えやすい位置にあり、それをタップする。

『ポケモン追尾機能を開始します。画面にポケモンを配置してください』

 ナビの言うとおりに、まだそんなに高くない位置にいるモンメンたちを画面に収めて、認証する。すると、再び横風が吹きモンメンたちは北の方角に流されていき見えなくなっていく。

「あぁ。モンメンたちがまた流されていく……」

 青年が嘆いている間に、先ほどの機能のデータ処理が完了し、画面にはさっきのモンメンたちのである小さなアイコンが映し出されていた。セルピルは青年にそれを見せて言い放つ。

「モンメンたちは今この画面のこのあたりにいます。早く行きましょう」

 青年はそれを見て目の前の小さな少女の行動力に驚きつつも、うなずき追いかけようとしてセルピルとともにトラックへ走り出す。荷台では、ストライクが残りの地面に転がっていたモンメンを乗せ、その後青年がセルピルの荷物と自転車を乗せてモンメンたちが飛ばないようにカバーを被せた。セルピルは助手席に乗り、遅れて青年が乗り込むとエンジンをかけてトラックを発進させる。

「モンメンたちは、北の方に流されています。マテ湖に向かっています」

「なるほどこれは便利だ。そうだ、紹介が遅れたよ。俺はアリー。エシリタウンの近くで製糸場を営んでいるんだ」

 セルピルが画面を見ながらモンメンたちの位置を教えていると、青年が遅れて自己紹介をした。だが、セルピルは不服そうな表情をして返事をした。

「なんでモンメンたちをモンスターボールに早く入れなかったのですか?」

「あのモンメンたちのモンスターボールはないんだよ。モンスターボールに入れるとうまく成長ができないからいつも製糸場で放し飼いしているんだ。普段はストライクたちがモンメンたちを逃がさないようにしていたから、まさか外に出たらモンメンたちが急に集まりだして逃げてしまうなんて思わなかったんだ。お詫びはするよ」

 セルピルは、このアリーという青年にどことなく頼りなさそうな印象を持ってしまった。先ほどモンメンたちが分裂したときのアリーの行動に加え、セルピルがこれまであった人達が、人として大人物であったことも拍車をかけそう映ってしまった。セルピルは一刻も早くカギを見つけて、エシリタウンへ向かいたかった。

 トラックが分岐点を右に曲がり、マテ湖の方へ向かっていく。

 マテ湖は、アニヤ地方にあるトリ湖や東のアッラー山のふもとにあるヴァン湖といった巨大湖とは比べ物にならないほど小さな湖であるが、土と岩とアスファルトばかりの一番道路と比べ緑と水源がある癒しスポットであり。旅行者やドライブをする人々が目の保養のために訪れることが多い。

 そして、そこにたたずんでいた人々が空から見慣れないものが降ってくるのを見つけた。モンメンの塊がゆっくりとマテ湖に降下してくる姿だった。アリーとセルピルが乗ったトラックもその姿を目視できた。

 アリーは早く捕まえようとアクセルを全開にして飛ばし始める。すると、トラックの荷台が激しく揺れ、モンメンを覆っていたカバーが大きく波を打ち今にも外れそうだった。波を打ったカバーの音に気付いたセルピルが後ろを振り向き、荷台の状況を見てアリーに伝える。

「アリーさん。カバーが外れそうです。スピードを緩めないと」

「えっ?ととと。危ない危ない」

 慌てて急ブレーキをかけるアリー。おかげでセルピルは背もたれに頭を打ってしまった。荒っぽい運転に、セルピルの不満はたまっていく。

 ようやく到着したマテ湖では、モンメンたちが分裂して湖の周りに散らばっていた。アリーはトラックから降りるとともに、ストライクをモンスターボールから出してモンメンを回収しに背中の羽をはばたかせ飛んでいく。

「すみません。モンメンたちを捕まえてください。お願いします」

 アリーが少し情けない声を出しながら、湖にいた人たちに声をかけてお願いをして回っていた。セルピルもポケモンを出して、一緒にモンメンを回収しに回った。

 ストライクがかまいたちによる風圧でモンメンをトラックに入れ、アリーが休憩中の人たちに頭を下げながらモンメンを回収していく。セルピルのポケモンも同じように回収していく。ニチャモとイワンがその足を活かして、モンメンたちに先回りして、口と嘴で回収する。ゴトラは、がんせきふうじによりモンメンが風でどこか飛んでいかないように壁をつくり回収を容易にする。

 セルピルも自転車のカギを持っているモンメンを探しながら回収していく。そして一匹のモンメンが湖のほとりで日向ぼっこをしていて、ボーっとたたずんでいた。

 セルピルは好機とみてモンメンを捕まえようと両腕を使って捕まえようとする。しかし、その中にモンメンの姿はなくふんわりとセルピルの頭の上に落ちて来た。今度こそと頭上に手を伸ばしたがまた逃げられた。今度はセルピルの目の前に降下した。今度こそという意気込みで、足を駆ける。

 ようやくそのモンメンを捕まえたが、その拍子で足を滑らし、湖に向かって前のめりで倒れてしまう。だが、水の感触はなかった。セルピルの脳内には、前にこれと似た感触を覚えていた。目の前にあったのは、モンメンのわたほうしで放出された綿がセルピルを守ってくれた。水がしみ込んで沈んでいく綿から急いでモンメンとともに湖から離れる。

 すると、そのモンメンの頭部にきらりと光るものが見つかり、とってみるとそれは自転車のカギだった。

「良かった。自転車のカギあった。これでエシリタウンへ行ける」

 セルピルが、回収したモンメンをトラックに投げ込む。すると、モンメンは自力で葉っぱを動かして何食わぬ顔でセルピルのもとへ戻る。セルピルがもう一度投げ込もうとするが、再びモンメンはセルピルのもとへ戻っていく。

「このモンメン。君に懐いているから譲るよ」

「いいんですか?」

「お詫びお詫び。モンメンはの綿は柔らかくて弾力があって織物にもバトルにも役に立つよ。ついでにエシリタウンへ送ってあげるよセルピルちゃん」

 アリーの騒動に巻き込まれたセルピルだが、自転車で漕ぐ労力を少なくしてエシリタウンへ向かえることができ、不満は相殺された。

 そしてその日の夕方にセルピルは、アリーのトラックに乗せられエシリタウン。別名緑の町と呼ばれる町へ到着した。期限まであと四十九日。 

 


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