ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第十五話『緑と温泉の町エシリタウン後編』

 湯屋から出たセルピルは、すぐ向かいにあるコンビニでフルーツ牛乳を二つ購入し、一つはニチャモに与えた。もう一つは自分用であり、風呂上がりにはフルーツ牛乳と相場が決まっているという自論のもと、左手を腰に当て一気にフルーツ牛乳を飲み干す。

「おや、君は昼間の」

 フルーツ牛乳を飲み干したセルピルは、どこか聞き覚えのある声に呼ばれあたりを見渡すと、アリーとストライクがそこにいた。

「昼間は助かったよ。モンメンの調子はどうだい?いいポケモンだろう」

「実は、モンメンに名前を付けようとしたのですが」

 ポケモンセンターに入った後、譲り受けたモンメンのニックネームに、鳴き声が他のモンメンたちよりゆっくりでム~ンと聞こえたためムーンという名前を付けたのだが、全く反応がないのだ。このままでは、バトルや旅についてこれるか心配だったのだ。

「なるほど。じゃあ、俺とバトルして確認してみようか。そのアチャモももうすぐ進化しそうだしちょうどいいかもしれないしね」

 その言葉で、セルピルは驚いた。どこか頼りなさそうな印象を持っていたアリーであったが一目で進化前と判断できるとは思わなかったのだ。

 バトルの場所は、温泉街からそう離れていない広場であった。アリーは、先にムーンを出すように促し、言われるままムーンをボールから出す。出てきたムーンは表情が変わらずム~ンと鳴き声を発していた。一方のアリーは、ストライクを出した。

「じゃあ、いくよ。ストライク、こうそくいどうで一気に接近するんだ」

 ストライクは、背中の翅をはばたかせ目にもとまらぬ速さでムーンに接近する。

「ムーン。わたほうしで動きを鈍らせるのよ」

 セルピルが指示を飛ばすが、ムーンは反応しない。何度命令を飛ばそうとしてもムーンはわたほうしを発さない。そしてストライクが攻撃範囲まで接近すると、れんぞくぎりを繰り出そうとその鎌を振り下ろす。

 その瞬間、むーんの体から大量のわたほうしが放出されて不意を突かれたストライクは、大量の綿に包まれ身動きが取れなかった。セルピルは、ゴトラのように狙ってやったのかと期待する。このチャンスを逃さないと今度は攻撃の指示を出す。

「ムーンその調子で、はっぱカッターよ!」

 だが、ムーンはこの後期にもかかわらず葉っぱ一枚も出さなかった。また、セルピルははっぱカッターを出すようにお願いも込めて命令するが、ムーンはム~ンと鳴き声を発するだけだった。

「う~ん。別段まったく命令を聞かないってわけでもなさそうなんだけどなぁ。ちょっと看てみるよ」

 アリーがそういって、ムーンに近づくと横の葉からはっぱカッターが飛び出した。驚いたアリーは、急いで頭を下げてはっぱカッターを回避し、残りは身動きが取れないストライクに命中する。

「わかった。このモンメンいやムーンは、すっごくのんびり屋さんだ」

 アリーの言葉で、合点がいった。反応がないのではなく、ものすっごく反応が遅いのだ。昼間も日向ぼっこしてボーっとしていたのではなく、素でボーっとしていたのだ。そして今のバトルもセルピルの命令にかなり遅れて行動を起こしたのだ。はっぱカッターもこの調子でという意味が、今の遅いテンポでいいよという風に受け止められて、遅れて攻撃したのだ。

 あまりののんびり屋に呆れ、名前をむーんにしようかと考えてしまった。その背後では、笑い声が聞こえてきた。どうやら野次馬が見物に来たようでむーんのバトルを一部始終見られたようだ。今日はなんかついていないとセルピルは感じ取る。

 むーんの特徴が分かったからには、さすがにこれ以上バトルに出すわけにはいかないとむーんをボールに戻した。すると、傍でバトルを見物していたニチャモがバトルフィールドに出てきた。

「おやっ?あの頭の羽が二本のアチャモやる気だな」

「そーれ、いけいけ!君のアチャモ、このまま中途半端は嫌らしいぞ!」

 野次馬が、ニチャモとストライクとのバトルを煽り、ニチャモはますますその気になって奮い立てている。そんな状況にアリーは、少しよろめきながら立ち上がり、バトルポジションに戻る。

「君のアチャモ。やる気いっぱいだね。じゃあ、交代ってことでバトル再開といこうか」

 まだむーんの綿がくっついているストライクは、ニチャモに向かって先ほど不発に終わったれんぞくぎりを放とうとする。すかさず、ニチャモはひのこを浴びせる。

 だが、ストライクはかまいたちを繰り出してひのこを吹き飛ばした。やはり火力不足が否めない。その隙をついて、ストライクはれんぞくぎりを当てる。一回、そして二回目の攻撃になるとその威力が増してくるれんぞくぎりは、ニチャモに大ダメージを与える。

「ニチャモ!?大丈夫?もう一度ひのこでれんぞくぎりを封じて!」

 ニチャモは、力を振り絞りひのこを放つが、やはり火力不足。ストライクの鎌で防ぎ切られる。だが、ニチャモはあきらめないの。より喉の奥底から火を出さんと息を吸い、再び吐き出す。

 その時だった。ニチャモの体が光だし、体の頭身が伸び、鳴き声も低くなった。セルピルはニチャモの体に突然起きたことに驚愕し、バトルから引き離そうとボールを取り出す。

 だが、それは杞憂だった。光が収まったとき周りの人々は歓声を上げていた。なんと、ニチャモがワカシャモに進化した瞬間をこの目で見られ大興奮だったのだ。それでも、ワカシャモはひのこを放出する。進化して威力が上がったひのこはストライクの鎌では防ぎきれず大ダメージを受ける。

「すっごーい。ニチャモ強くなってる!!」

 頭の羽は相変わらず二本のままだが、進化したその強さに思わず感嘆の声が出てしまった。向こうのストライクも相手が強くなったことで、その目に闘志が燃え滾ろうとしていた。周囲の野次馬もこれから起こる燃えるようなバトルに手に汗を握る。そして、セルピルがニチャモにひのこを放つよう命令を出す寸前だったときに異変が起きた。

「やめろー!!ポケモンたちにバトルをさせるんじゃない!!」

「あっらその同翼のいう通りですわ!」

 野次馬の中から出てきたのは、ステンノーともう一人は、男性でフリーの白い服を着ていない一般人のような人だった。

「もうポケモンたちを傷つけるのはやめろ!なぜ君たちは、そんな命令をポケモンにできるんだ!」

「その通りですわ。ポケモンバトルは野蛮である。お判りでしょう。あの小さくて可愛かったアチャモが、バトルによって危険な闘争心をむき出しにして進化してしまったのです。危険です!さあバトルを放棄して、ポケモンと人の愛と共存を実現しなければ、この世界は」

 ステンノーがそう言い切る前に、野次馬たちによって広場の向こう側へと押しやられた。もう一人の男性も、野次馬に抵抗しながら、押し出されていく。

 その光景を見ていたバトルの当事者セルピルとニチャモは茫然としていた。そして、アリーが気まずそうにストライクをボールに戻して去ろうとする。

「どうして戻すのですか?」

 振り向きざまに、アリーは申し訳ないという表情とも後ろめたいともとれる表情をして言い残す。

「セルピルちゃん。あの人はオリント地方の人だ。宗教の人ならまだしもあのオリント地方の人が揉めるなら中断するしかないんだ。セルピルちゃんも覚えておいたほうが良いよ」

 広場に残ったのは、セルピルとニチャモだけになった。セルピルは状況を呑み込めなかった。どうして、ポケモンバトルが野蛮といえるのだろうか。セロはバトルありがとうと答え、ミノアさんには互いの健闘を讃えていたのに、あのオリント地方の男性はポケモンを傷つけるとトレーナーである自分を非難した。どれだけ自問自答しても答えは出なかった。

 もうセルピルに燃え滾っていた興奮も湯上りの体ももすっかり冷めてしまった。

 そして、期限の日まで四十八日となった。

 

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