一台のコンテナトラックが二番道路を一定の速度で走り抜ける。それはロゼが運転するトラックであった。
昼間の捕物帳からしばらくして、二人はタッシーマシティへ向かっていた。ロゼによると、夕方にはタッシーマシティに着くそうだ。しかし、車内は会話もなく沈黙していた。
「セルピルちゃん、乗り物酔いとかない?」
ロゼが尋ねたが、セルピルは首を横に振った。
「じゃあ、喉とか乾いていない?近くに休憩所があるからそこに寄ろっか」
しかし、セルピルはまた首を横に振るだけだった。ロゼは困った顔でトラックの速度を緩めながらセルピルに尋ねた。
「セルピルちゃん、さっきのあたしの声怖かったのはわかるわ。あたしたまに自分を見失うとあの声が出ちゃうの。だからそんな不機嫌にならないでよ。タッシーマシティに着くまであと少しだし」
「違います。ロゼさんのことはそんな気にしていません」
ようやくしゃべったセルピルの声は、ほの暗い小さなものであった。
「私、この先旅を続けられるか不安なんです。さっきみたいな怖いことも起こりそうで、でも今更家にも帰れませんし」
ロゼは横目でセルピルを見て、裏声でありながらも優しい口調で語り掛けた。
「あたしは完全な女じゃないけど、女にはいくつか秘密があるものよ。けどセルピル大丈夫。秘密は守るわ」
セルピルは、ロゼに旅に出たきっかけを話した。セルピルが地元のサッカー部に入れないことなど自分の好きなことができなかったこと、一人で好きに動き回りたかったことを。
「親の言うことにうんざりしてたんです。それに友達にも博士にも協力してもらったからにはもう引き返すなんてできないので」
「だったら、負けちゃだめよ。命短し、恋せよ乙女って言うでしょ。恋も挑戦も今が花なんだから。それに、セルピルちゃんは一人じゃないでしょ。みんな応援してくれるわ」
セルピルは初めて大人の人で自分の考えを思いっきり言える人に出会えたと感じた。自分の考えを否定されない大人の人。セルピルは、ロゼさんならもう一つ悩んでいることを言えるのではないかと判断して口を開いた。
「実は、もう一つ悩みがありまして、エシリタウンでポケモンバトルは野蛮なものだっていう人がいまして。ジム巡りするのにそのことがずっと頭の中を駆け巡っていて」
ロゼはそれを聞いて少し口をつぐんだが、すぐに明るい裏声で返してくれた。
「セルピルちゃんはいま思春期で多感なときだから、仕方ないわよ。一々気にしちゃダメ。ポケモンジムはポケモンバトルをするところなんだから。バッジもゲットできないわ。でなきゃご両親に認めてもらえないでしょ」
ロゼに元気づけられたセルピルの表情は少し明るくなった。そして、ロゼが運転席の脇から携帯電話が出てきた。
「じゃ、あたしの秘密も教えるわ」
セルピルは、ロゼから渡された携帯電話を取り、耳を当てると聞き覚えのある声が流れてきた。
「ロゼさん?どうなされたのですか?」
その声の主は、ミノアだった。まさかの人物にセルピルは携帯を落としかけたが、空中で拾い上げてしどろもどろになりながら話し始める。
「ミノアさん!?久しぶりです。私です。セルピルです。あ、あの今ロゼさんの携帯をお借りしていまして」
ミノアは、スヨルタウンの時と寸分変わらない調子で話し始めた。
「あら、セルピルさん?!まさかロゼさんとお知り合いだなんて驚いたわ。あれからどうしているの?」
「はい!今ロゼさんのトラックでタッシーマシティへ向かっていまして。これから初めてジム戦をするところなんです」
セルピルの顔はミノアと話が盛り上がりを見せると、みるみるうちに元気が戻っていった。ロゼはうまくいったという顔をしてトラックの速度を上げた。そして、タッシーマシティへの表示が書かれた道路の行き先表示看板をくぐり向けると、その先に船が港に寄港する姿が見えてきた。
「起きて、セルピルちゃん。タッシーマシティよ」
いつの間にか眠ってしまったセルピルは、体を揺さぶられて目を覚ました。セルピルは窓の外を見ると、巨大なクレーンやコンテナが並びその向こうには灯台や街の明かりが見えていた。
セルピルがドアを開けて飛び降り、荷台に積んでいた自転車を出してロゼがいる運転席の所に移動する。
「じゃあねセルピルちゃん。ジム戦とご両親に負けないでね。あたしもたまに連絡して、応援するから。セルピルちゃんも、連絡先を交換したのだからあたしやミノアさんに電話入れて頂戴ね」
「ロゼさんありがとうございました」
ロゼのトラックは夕日を受けながら、赤く染まりつつコンテナ置き場を走っていった。トラックの姿が見えなくなったあと、タッシーマシティの本通りの道を目指して、ポケナビツーを起動させるとセルピルは歩き出す。
セルピルのいたコンテナ置き場はあまり人がいなくフォークリフトといった作業機械が動いていないところだった。ここのコンテナは、まだ船がこの港に停泊していない物が置いてあり、船が来るのを待っていた。こっそりと入ってきたセルピルにとっては都合がよかったが、ここまで人がいないのは急に襲われでもしないか不安でもあった。
セルピルは、目線を上げて、タッシーマシティまであとどれくらいなのか目測で見た。ロゼが降ろしたところよりはだいぶ近づいているのが分ってきた。日が暮れる前に早くポケモンセンターについて
すると、すぐそばで声にも満たないよう音が聞こえてきてセルピルはあたりを見まわした。コンテナの角を覗いても人やポケモン一匹もいなかった。だがさっきの物音はまだ聞こえていた。
そしてその物音はセルピルのすぐそばにあるコンテナの中から聞こえていた。セルピルは、そのコンテナに恐る恐る耳を当ててその音を聞こうとした。
「君!そこで何をやっているかね!」
突然後ろから野太い男の声で怒鳴られ、セルピルは体を震えさせて硬直した。こわごわと後ろを振り返ると、ヘルメットをかぶえり作業服を着た男性が目の前にいた。
「ご、ごめんなさい。道に迷ってしまって」
作業員は訛りながらセルピルに忠告した。
「子供がこんなところにいちゃいけん。こっちきんさい」
セルピルは、作業員に連れられてタッシーマシティの本通りへと向かうことができた。
時刻は午後六時半とまだ今日中にジム戦はできると、セルピルの頭の中はそのことを考えていて、もうあの物音のことはすっかり忘れていた。期限まであと四十八日…………
セルピルが作業員に連れていかれている姿を見つめる四つの目が光る。沈みゆく太陽のわずかな光に照らされて、二つの影がうっすらと浮かび上がる。
一つは、ショートカットの黒髪の少女。もう一つは隣の少女と同じ髪の長さで顔つきも少女と見間違えるほど、ほぼそっくりな顔つきの美少年であり、違いといえば髪の色は金髪で身長がわずかばかり高いことが異なるだけである。
「ポルック見ましたか?」
「ヘレネこそ見たのですか?」
二人は同じような質問を返し、同じようなことを無表情で返した。
「見ましたとも、あの女の子作業員でもないのにこんなところにいるとは怪しいです」
「私も見ましたとも。同じくあの子は怪しいとにらんでいるのです」
ヘレネと呼ばれた少女は、ポルックに聞き返した。
「我々へのスパイでしょうか?」
「コンテナ置き場は地元の子供も潜入しないところです。そしてあの動き、我々のコンテナを探っている様子。怪しいです」
ポルックは、セルピルをにらみつけその行き先をたどろうとする。
「探りますよ我々
ヘレネは、右腕を腰の位置にまで上げて、手を握る合図を送る。
「その通りです
ポルックもそれに応えて同じ位置に左腕を上げて、ヘレネの手を握り締める。そして両者の足が一歩前に出てセルピルの後を――
「ところでヘレネ。なぜ私が弟なのですか。私は兄なのです。間違えないでください」
「ポルックこそ、なぜ私が妹なのですか。私が姉なのです」
二人は手を握ったまま、お互い同じタイミングで向かい合った。そしてそのまま先ほどの淡々とした口調と表情が変化してきて、それは人間味のある
「兄なのは当然です。私の方が身長が高いのですから」
「ほんの数センチでしょうが!体重の方は私の方が軽いので、体調管理のできるのは長女の証。だから私がお姉さんなのです」
「なにを!!この間ヘレネ。体重が先月よりも増えたではないですか。食べすぎです。ちゃんと体調管理できているのですか?これでは姉とは言えませんね」
「な、なな、何のことですか!?というか見たのですか!?いくら姉弟とは言え許さないのです!」
「まだ自分が姉だと言い張りますね。では決着をつけましょうではありませんか」
二人が言い争ううちに、セルピルの姿は、だんだんと小さくなっていくのを二人は同時に気付き、長女長男の決着は先送りとなった。
次回はいよいよ。やっと十九話目にしてジム戦です。
ほんとようやくって感じをしてすみません。
新年最初にして初めてのジム戦を面白く書けるようにがんばります。