ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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また前後へに分けてしまいました。



第十九話『海風とバトルとバーのタッシーマジム(前編)』

 タッシーマシティの雑居ビル群の間をセルピルがポケナビツーに付属されている地図を見ながら歩いている。

 同じ港町のラーレタウンとは街の雰囲気が異なり、タッシーマシティの夜はバーや酒屋の面妖な明かりで照らされ、港で働いている男たちの喧騒と酒場談義で盛り上がるにぎやかな夜である。男たちは雑居ビルの中にある居酒屋に入って朝まで飲んだり、あるいは街のスポットである時計台の前で寝て朝を迎えるとラーレタウンとは異なる海の労働者たちが闊歩しているのだ。

 そんな故郷とまったく異なる夜の街を歩いている十二歳の女の子であるセルピルがいるだけで目立つのだが、酔っ払いたちは店の女将の娘が親に何か手伝いごとをしているのだと思ってあまり気にしていなかった。

 セルピルはこの街の雰囲気よりもポケモンジムを探すことに気を取られていていた。

「どこなのよポケモンジム。どこもかしこもお酒屋さんばっかり……本当にここなの?」

 ポケナビツーはセルピルの疑問に一言も反応せず、ポケモンジムの場所を画面上に示しているだけであった。

 時刻は八時を回っていた。ポケモンセンターに荷物を置いてすぐにジム戦をする予定であったため晩御飯を食べずにジムを目指したのである。しかし、地図が示す場所を目指してもそれらしい建物もジムの看板一つもなく夜の街をこうして彷徨い歩いていた。

 セルピルは、居酒屋の排気口から流れ出てくる酒の肴の匂いが鼻に入るだけでお腹の虫が鳴りそうなほどお腹が減っていて、ジム戦は明日にして晩御飯を先に食べようとあたりの飲食店を探し回る。しかし、どこも大人のお店や居酒屋と子供のセルピルには敷居が高く、メニューにある食べ物一品一品も懐が心もとないセルピルにとっては手が出しにくい料金だった。

 もうポケモンセンターで晩御飯を食べようかと、来た道をたどろうと振り返ったときにある看板が目についた。

『ポケモントレーナーさん大歓迎!!トレーナーカードの提示でディナー割引実施中!!大人も子供も大歓迎!』

 とカラフルに彩られ、可愛らしいペロッパフの手描きの絵が描かれたセルピルの肩の高さぐらいあるスタンド看板があり、値段も手が届きやすいものであった。セルピルは、看板の矢印をたどって階段を下りていく。

 階段を下りた先にある黒い扉のドアを開くと、そこは外の世界とは一線を画したところであった。薄明りの蛍光灯の下でテーブル席では男たちが酒を酌み交わしながら談笑し、腕相撲をしたりしている。テーブル席の中心にはお立ち台があり不思議にも男たちや酔っ払いは誰一人として上がらず、まるで結界が張っているかのようだった。テーブル席の反対側では、ベストを着用して髪をセットした口ひげがダンディズムを醸し出すマスターと思われる男性が手際よくカウンターバーでカクテルをつくっていた。

 セルピルは、看板につられてきたけどここも敷居高いなと場違い感を感じて扉を閉めようとする。すると、年季の入った木の床板をトントンと軽快な拍子で走ってくる一人の女性のメイドが、ツーテールにまとめた亜麻色の髪をたなびかせながらセルピルのもとへとやって来た。

「すみませんお客様。お待たせしました。どうぞ席へご案内します」

 メイドはこの店の雰囲気とはまた別の意味で異質だった。靴はヒールのないパンプスであるにもかかわらず身長が百七十はあるだろうという女性にしては高身長でロングスカートの古めかしいメイド服からでもわかるほどの胸にある二つの物がはっきりと判別できる。周りの喧騒とはかけ離れるほど穏やかな顔でしかも年もセルピルよりも少しだけ年上な印象だった。さながら亜麻色の髪の乙女ともいうべき女性だった。

「ここって、私のような人でも大丈夫なんでしょうか?」

 メイドはそれを聞くと。肩をすくめて口角を上げながら乾いた笑いを出した。

「あはは。まぁみんなそういうよね。特に女性なんかチラッと開けただけで帰っちゃうし、やっぱ店改装したほうが良いのかな……」

 メイドはセルピルの方を見ずにどこか遠いほうを見てつぶやいていた。そしてふと我に返り、先ほどまでの接客態度に戻った。

「ああ、ごめんなさい。大丈夫ですよ。どうぞバーの方へご案内いたします」

 セルピルはそのメイドの――どこか引っ掛かるものの、存在を見て安心しメイドの誘導に従ってカウンターバーの方に案内された。セルピルは看板に書いてあったことを思い出してトレーナーカードを提示した。

「なんと!?ポケモントレーナーさんでしたか。これは嬉しいです。やっぱりあのサービスやっててよかったです。私リヌムと言います。うち居酒屋兼バーをやっているんですけど、他とは違う名物がありまして」

 メイドがそういうと、テーブル席の方で騒ぎがあり、二人の男性が誰も入らなかった舞台に上がり、それぞれがポケモンを繰り出してきた。お客は誰も驚からず、むしろ囃し立てるように両者を応援していた。中には待ってましたという声も聞こえている。

「ああしてお客さん同士でポケモンバトルするのがうちのウリなんですが。やる人がいつもおんなじ人ばっかりっでマンネリ化気味だから、他のトレーナーが来てバトルして欲しいなってこのサービス始めたんです。あの看板私が描いたのですよ」

「それでお客さん増えたのですか?」

「それが、うちのお客さんってああいった湾港労働者が多くて、みんな節度は守っているんだけどね。やっぱり雰囲気とかがね」

 すると、後ろからカクテルをつくっていたマスターが声をかけてきた。

「別にいいじゃないかリヌム。経営自体はいいし」

「お父さんそんなんじゃダメなのよ。新規客層をつかまないとお店は発展しないし、それに私の仕事にも影響するし。おっと、すみません話が長くなりました。ディナーレディースコースですね少々お待ちください」

 注文を受けたリヌムは、床板を鳴らしながら厨房の方へと駆け抜けていった。

「お嬢ちゃん、飲み物はなににする?」

「えっとじゃあミルクで」

 セルピルの注文を聞いていた隣の席の船員らしき男性がグラスを持ちながら豪快に笑った。

「ファハハハ!!ミルクだってよ!?」

 セルピルは自分の注文したものにケチをつけられ頬を膨らました。その間にマスターが仲裁に入った。

「ごめんねお嬢ちゃん。あの人カルーアミルクで酔っているんだ。同じミルク愛好家として許してやってくれよ」

 船員はそういわれて馬鹿笑いがぴたりと止まった。マスターはそっと一杯のマグカップに入ったミルクをセルピルに差し出した。

「それに、自分に正直なことはいいことさ。ほらあの席にいる双子を見てごらん。大人ぶって頼んだものでひどい惨状生んでいるよ」

 マスターが示すほうを向いてみると、テーブル席に座っている男女の双子がティーカップをつかみながらお互いを睨み合っていた。だが、その表情はどこか恐怖で歪んでいた。

「コ、コーヒーは、ブ、ブリャックで飲むのがが年上」

「つ、つまりぃ。ブリャックを飲めることこそ兄である証明で、です」

 双子は同時にティーカップをあおると、これまた同時に同じ感想を述べた。

「苦~い!!」

「苦ーい!!」

 双子はコーヒーのブラックを飲めるかで競い合っていたようで、マスターの言う通りあんな思いをしてまで飲み物を飲みたくないと思った。セルピルがマグカップを持ってミルクを飲みながら店のあたりを見渡す。

 テーブル席はセルピルのいるバーとは異なり、かなりにぎやかで店内に流れている流行りの音楽を聴くこともせずに各々楽しんでいた。ある席ではモンスターボールの絵が描かれたカードを使ってカードゲームをしている者もいた。舞台の方では、両者のバトルはかなり接戦を繰り広げていた。

「お嬢ちゃん。どうしてこの街に来たんだい?」

「この街のポケモンジムに挑戦しようと来たんです。ファトゥラシティのジムがジムリーダーが休暇で挑戦できなかったから、この街に来たんですが。ジムが見つからなくて、お腹もすいてきたので今日はここで晩御飯を食べて帰ろうと」

 それを聞いた途端、マスターの目がキラリと光った。そのタイミングで、リヌムがセルピルの夕食を運んできた。夕食は、格子状の切込みが入った円形のパンとウブの実で煮込んだ肉と野菜煮込みと緑色のクルトンの入ったスープだった。

「お待たせしました。こちら本日のディナーレディースコースです」

「リヌム。セルピルちゃんに特別コースの準備を」

 マスターはセルピルに聞こえないようにリヌムに耳打ちをする。リヌムはセルピルをちらりと見ると軽くうなずき奥の方へ引っ込む。

 セルピルは二人が何を話しているのか首をかしげていたが、直後にマスターからカスタードプリンが置かれた。

「これは私からのサービスだ。受け取ってくれたまえ」

「ありがとう、ございます」

 セルピルは久しぶりに女性のトレーナーが来たからそのサービスなんだと自己解釈したあと、パンをちぎってそれの上に具をのせた。もっちりとしたパンにスープがしみ込んで具の相性ともよくおいしいものだった。

 食事を終えた時、舞台の方もポケモンバトルが終わっていてセルピルはお会計をしようとポーチから財布を取り出そうとする。突然、店内の明かりが消えて音楽も止まり、舞台のみにスポットライトが灯された。セルピルは突然のことに驚き、財布ではなくあのハンカチを取り出そうとするがすぐに必要なくなった。

 舞台の上にリヌムが上がり、マイクを持っていた。靴も先ほどのパンプスではなく、動きやすそうなブーツを穿いていた。

「レディース……はいるのかな?じゃあジェントルマン……もいないよねこの店」

「いるのは酔っ払いといい男一人だけだぜ。もちろん俺のことだけどな」

 テーブル席に座っていた男性が自分の親指で自身を指さしていたが、リヌムは無視して続けた。

「はいはい。酔っ払い宣言ありがとうございます。さて、本日は特別ゲストが参られております。チャレンジャー、セルピルさんです!!」

 もう一つスポットライトがセルピルの方に当たり、音楽も先ほどとは異なる壮大壮厳な音楽が流れ始めた。突然の指名にセルピルは右往左往していた。

「えっ!?なんで?私?!」

「ようこそ、お待ちしていましたよセルピルさん。Welcome toタッシーマジムへ!!」

 マスターから発せられた言葉にしばらく呆然としたが、ようやく理解が追い付いた。

「ここが、ポケモンジム……ですか!?」

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