ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第二話『親の目からの挑戦』

 手紙を返信してから半月がたった。町は半月前よりも蒸し暑さが増し、人々は、道に水を撒いて涼ませたり日除けの帽子を外では常にかぶり直射日光を受けないようにしていた。

 セルピルも衣服をノースリーブのシャツにハーフパンツと風通しのよい格好で、学校の帰り道を歩いていた。だが、セルピルは家の方向ではなく、山の道沿いにある友達のレイの家に向かっていた。あるものが来ているか確認するために学校の帰りに寄っていた。

 セルピルが友達の家の前に着いて呼び鈴を鳴らすと、数分もしないうちに玄関の扉が開き、レイが一枚の封筒を持って出迎えた。

「セピー、着てたよ!手紙! 」

「待ってました! 中身はまだ見てない? 」

「もっちろん。だってこれは、手紙にはあたし宛ってあるけど、本当はセピが受け取るもの手紙だもの」

 セルピルは、手紙が返ってきた事を親に見つからないように、半月前に送った手紙の送り主と住所をレイのものにして送っていた。もちろん、手紙を送る前に、レイに事のあらましをを伝えてから送っていた。

 こんな細工をしたのは、手紙を送ると言ったときの親の怪訝な顔を見て、手紙がセルピルの家に届いたら間違いなく内容がどうであれ、親に破り捨てられるだろうと考えたからだ。セルピルにとって親をだます行為というのは、初めてだったが申し訳なさよりも手紙が返ってくることが何よりも重要だった。見知らぬ相手からの挑戦というのは、生まれて初めてのことだからだ。

 レイの自室に案内されて、ベッドの上に座るとそこで眠っていた先客が目を覚ました。

「チャモ!? 」

「チャモちゃんごめんね起こしちゃって。代わりに、お目覚めのナデナデをしてあげるから」

 突然の来訪で目を覚ましたのは、レイ家のポケモンのアチャモであった。レイの家は、ポケモン牧場を経営していて多くのポケモンを飼育しており、このアチャモも他にも九匹のアチャモと進化系のワカシャモがいる。レイも牧場を手伝っていて、いつでも手伝えるように部屋の中に作業用のオーバーオールを吊るしてあるほどだ。

「セピ、早く手紙を読んでみてよ」 

 自分のイスの反対側に座り背もたれに腕を乗せていたレイに急かされ、セルピルは封筒の封を切った。中には、三折にされた紙が四枚入っていて、一番上の紙にはアレクサンダーからの返事が入っていた。

『レイ様へ このたびは、私めに挑戦いただき誠にありがとうございます。さて、挑戦につきましては、フィリヤ・ドスルックシティにおいてポケモンバトルを行うこととします。フィリヤ・ドスルックシティに入るためには、いくつか方法がございますがポケモンリーグ公認のジムの四つのジムバッジを集めた上で街に入っていただくようお願い申し上げます。もし、先の方法以外で街に入られた場合、挑戦は無効とします。期間は、この手紙が到着してから六十日後までとします。また、ジムリーダー挑戦の際に必要書類も同封しておきます。なお、この手紙につきましては、返信は不要でございます。あなたの御武運をポケモンたちにお祈り申し上げます アレクサンダー』

 半月前に送られてきた文面とは打って変わり、なんとも丁寧な文面で同一人物が書いたとは思えないものだった。残りの二枚の紙は、手紙に書かれていたとおりジムリーダー挑戦の用紙と証明書発行の必要用紙であった。

「どうどう? 挑戦なんだって、料理?クイズ?まさか喧嘩!? 」

「今日から六十日後までにフィリヤ・ドスルックシティでポケモンバトルだって。おまけに返信不要。まったく、何でメールじゃなくて手紙なんだろうね」

「セピ知らないの? アニヤ地方とオリント地方は、国交断絶状態だから手紙でしか伝達手段がないのよ」

「国交断絶? 」

 セルピルの疑問に、レイは答えた。アニヤ地方とオリント地方は、ちょうど百年前に大きな戦争が勃発し、戦争の傷は癒えたものの両地方の遺恨は、戦争により深いものとなりそれが交通・情報・教育とあらゆる面で両地方の交流を断ってしまった。現在でも、二つの地方とつながる方法は限られていて、郵便だけが――国際便としてであるが両地方の情報を手にできる方法であるのだ。そして、アレクサンダーが指定したフィリヤ・ドスルックシティは、アニヤ地方の人とオリント地方の人が最も盛んに交流できている唯一の場所であるのだ。

「それよりも、訂正の手紙とか出さなくていいの?実際挑戦するのは、セピなんだから、もし途中でばれたら失格になるんじゃないの?」

「いいんじゃない。アレクサンダーって人をフィリヤ・ドスルックシティに来ていたら直接会って話せばいいし。バッジ四つきちんと集めて挑戦する人を土壇場で無碍にできないでしょ。それに、四つのバッジってアニヤ地方のジムだけで済むから、レイがジムを受けてないなんて相手が知るわけないじゃない」

 セルピルは、たまたま以前テレビでアニヤ地方のポケモンジムを取材した番組を見ていて、アニヤ地方にはポケモンジムが四つ存在していることをそれで知った。それに情報断絶となればアニヤ地方の情報が届かないオリント地方にいるアレクサンダーは、実際にジムに挑んでいるのがセルピルだとわからない。

 そもそも、あの無礼な手紙の内容では、アニヤ地方の人に挑戦を申し出たのは、他でもなく、あのアレクサンダーだ。アニヤ地方の人である条件はクリアしているから問題ないと見越していた。

 だが、セルピルは挑戦の内容や手紙の誤りなんて問題にしなかった。とにかく何か変化を求めていたのだ。しかし、セルピルに届いた内容は予想を超えていた。ジムリーダーに挑戦することつまりこのアニヤ地方を旅することであった。今まで遠くに出る機会といえば、隣のブッスシティに買い物に行くぐらいしかなかった。

 今まで見たことがない様々な人と出会い、街や自然の景色を見る旅は何度もあこがれていた。しかし、目的もなく旅をするのはつまらなく、下手すれば立ち往生してしまうと考えていた。

 学校は、来週には一ヵ月半以上の夏休みに入る。スタートには遅れるが、それでも五十日以上の猶予がある。夏休みに入る前に旅の支度をする算段をすれば遅れを取り戻せると計画を立てていた。

「それで、この書類どうするの?これ親に書いてもらわないと挑戦受けられないし」

「どうせ書類なんて、親が直接書いたかなんて関係ないし。親のサインを写し書きして判子押せば大丈夫なものよ。家のクラスの男子が、学校の書類を親が出張でいないから自分で書いて出したけど注意受けなかったわよ」

 セルピルは、まるで自分のベッドのように大の字になって倒れた。そばにいたアチャモは、セルピルが倒れる直前で避難して、セルピルの顔のそばでひざを屈めて座った。

「じゃあ、ポケモンはどうするの? セピのうちのポケモンは、イワンちゃんだけでしょ」

 セルピルは、そばにいたアチャモを腕に抱き寄せ、上体を起こしてレイに自分の考えを伝えた。

「レイのアチャモを一匹貸して! 名目は、そうね。スヨルタウンに行きたいから道中のお供にって」

「名目はって、もしかして親に黙って行く気?! 本気で?! 」

 それまで、イスを揺らしながら会話していたレイが、特徴である大きな目がより大きくなり危うくイスから落ちそうになった。

「本当に一生のお願い。帰ったらレイの牧場一ヶ月、ううん二ヶ月レイの代わりに手伝うから」

 セルピルは、手を合わせてレイに頭を下げてレイにまるで祈りをささげるかのようにお願いした。レイ自身、アチャモを貸し出すこと自体は、何度もあったし、セルピルが何度もレイの牧場の手伝いをしているから牧場のポケモンたちの扱いには慣れていた。しかし、今度のことはあまりにも長期にわたって貸し出し、しかもセルピルの親に黙ってやり過ごすという今までになかったことだ。

 それでも友人の頼みで、しかも二ヶ月も辛い牧場の手伝いを抜け出せることは、何よりも魅力的だった。

「わかった。うちのアチャモ貸してあげる。もちろん、いつも貸しているニチャモをね。約束忘れないでね」

「ありがとうレイ!! 」

 セルピルは、感極まり腕に抱いていたアチャモのことを忘れて、締め付けてしまった。拘束状態から抜け出そうとアチャモは、嘴からひのこをセルピルに向けて吐き出した。幸いにもセルピルも部屋も、アチャモのひのこによって怪我や大惨事には至らなかったが、レイの家族が大騒ぎにしたこととセルピルの前髪が黒焦げになったことですんだ。

 挑戦の期限まで残り六十日であるが、彼女が出発するのは来週。それまでにセルピルは、黒焦げになった髪を戻すのと旅の支度に奔走した。そして、旅の準備ができたのは終業式の翌日、期限まで五十五日残していた。

 

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