「ここが、ポケモンジム……ですか!?」
「その通り、メールを見たよ。長旅お疲れ様。このジムのジムリーダーは、娘のリヌムだよ。私は副リーダーだけどね」
「さぁ、セルピルさん。どうぞ舞台へお上がりください。ポケモンの回復も選択も今の内ですよ!」
すでにポケモンたちは回復もさせ、道具も準備しているセルピルは、周りのお客の歓声をバックにそのまま真っすぐ舞台に上がった。
「おっと、セルピルさんすでに準備万端ですね。さっすが!ではジム公式戦のルールの説明をしますね」
リヌムがマイク片手に説明を始める。ジムの公式戦はお互いに三対三のバトルで行われる。ポケモンの交代はポケモンの技以外は挑戦者のみができる。ジムリーダーが使用するポケモンは、基本的にはそのジムリーダーのポリシーに則った専門のタイプのポケモンで勝負が行われる。ここタッシーマジムはフェアリータイプのジムである。
セルピルはジムの雰囲気とマッチしないと疑問に思っていたが、それは観客も同意見である。その理由もリヌムは説明した。
「え~、みなさんのご意見は非常にわかります。去年までうちのジムは格闘タイプ専門でお父さんがジムリーダーでした。で、今年から私がジムリーダーとなったのですが、なにぶん交代したばっかりでフェアリータイプを扱うジムトレーナーも募集できず。挑戦者の数もトレーナーも去年と変わらないし、おまけに店も改装する予算も――はぁ、やっぱり私の経営努力が足らないからかな」
最後の方になるとリヌムの声の調子が下がり始め、また苦労話を話し始めた。たしかにフェアリータイプ専門とは言えない雰囲気であるが、もっと言えばここがポケモンジムらしくなく看板もないわかりにくいのが原因だと思うのだがとセルピルは心の中で思っていた。そんなリヌムをセルピルは逆に心配になってきた。
「おっと、失礼しました。それではお父さん審判お願いします」
マスターがベストから半袖短パンの審判服を着て舞台に上がった。袖が短い服から覗き出る太い丸太のような筋肉質の腕と脚が、クールなマスターではなく格闘タイプの元ジムジーダーの雰囲気を醸し出していた。セルピルとリヌムがセンターポジションで握手を交わして、バトルポジションに着くとリヌムが先にポケモンを出してきた。
「ペッロリン」
出てきたのは、二段ケーキのようなピンク色のポケモン、ペロリームだった。ポケモンを出すのはジムリーダーが先に出すというのもジム公式戦ルールである。これは、挑戦者へのハンデという意味合いがあるのだ。
「ゴトラ、初めてのジム戦お願いね!」
セルピルは相性の良いゴトラを先鋒に出した。試合開始の宣言がマスターから下されると、ペロリームは口からかえんほうしゃを吐き出しゴトラにダメージを与えようとする。動きの素早さの差でゴトラに炎が浴びせられるが、岩タイプを複合して持っているゴトラに致命傷とならなかった。
「ううむ。鋼対策にかえんほうしゃを覚えさせたのですが、ココドラではあまり効果が薄いですね。これはセルピルさんなかなかの策士」
リヌムは、マイク片手に実況しながらペロリームに指示を出している。
セルピルは器用だなと思いながらも、ゴトラに昼間にやった疑似的あなをほるの指示を出して、アイアンヘッドを繰り出せる接近戦に持ち込む算段を立てた。幸いにも舞台の地面は、土でできていて穴を掘ることができる。ゴトラは指示通りに穴を掘り始める。深いところに潜ったのか地面の上からではどこにゴトラがいるのかわからない状態だった。
だが、ペロリームの鼻がひくひく動くと、ゴトラの攻撃をかわし始める。ペロリームは、人間の一億倍の嗅覚を持ち、ゴトラの位置を予測して回避していた。
ゴトラは穴から出てきては攻撃が外れ、その隙にかえんほうしゃを浴びせられるというペロリームの攻撃にゴトラはイラつき始めた。そしてセルピルの指示を待たずに地面の中で形成した岩を穴から出してきては自由落下でそれを落としていわなだれをする。ペロリームは岩を回避しようとするが、狭い舞台の上では回避範囲ができず大きな岩石の下敷きとなり身動きが取れなくなってしまった。
動けなくなったことを見てゴトラはペロリームにアイアンヘッドを喰らわせた。弱点である鋼技をもろに喰らいペロリームは、戦闘不能となった。
「なかなか賢いですね。しかしあのココドラを打ち倒すには、グランブルあなたです!」
ペロリームを戻したリヌムは、今度はグランブルを出してきた。地響きを上げて出現したグランブルは、顎をガンガンと打ち鳴らして威嚇した。
「ゴトラ、まだやれる?」
「ココッ!」
ゴトラは首を縦に振って続投の意思を示した。今セルピルの手持ちでフェアリータイプに有効なポケモンはゴトラしかいなく、このグランブルさえ倒せば三対一と優位に立てるためゴトラの続投を決意した。
「さてさて、我がジムのエースグランブル。ちょっとやそっとでは倒されませんよお客さん。さあご覧あれ!!」
リヌムの強気なマイクパフォーマンスにお客は盛り上がりを見せ、テーブルを叩いて興奮する者まで出てきた。
店内の熱気につられたのか、グランブルも雄たけびを上げてゴトラをいかくする。グランブル特有の目つきの悪さに加え、にじみ出る強ポケの雰囲気が漂わせている。
「ゴトラ!アイアンヘッドで一気に倒さないと、半端な攻撃じゃやばいわ!」
ゴトラがうなずくと、マスターが試合再開を宣言する。ゴトラは、一気にグランブルに接近してアイアンヘッドを食らわせようとするが、なんとゴトラの体をグランブルが両手で持ち上げてしまったのだ。ゴトラは脱出を図ろうとするが、グランブルの握力が強く
「アイアンクローでグランブルを攻撃して脱出するのよ!」
ゴトラは身動きの取れる前足でグランブルの腕をアイアンクローで傷をつける。だが、グランブルは汗一つもなくゴトラの攻撃を受け止めている。
「おっと、セルピルさんグランブルから脱出しようとしていますね。でも、させませんよ!対鋼タイプ技そのに、かわらわり!」
グランブルが技を放つために、右腕を高く上げる。ゴトラの体を支え持つ手が左手だけになったその隙をついて、ゴトラはアイアンクローでグランブルの腕を攻撃してグランブルの持つ手が緩み脱出する。
しかし遅かった。グランブルの右手から振り下ろされたかわらわりが、ゴトラの鋼鉄の体に直撃してゴトラが地面に伏す。
「てっぺきよ!」
セルピルの合図でゴトラはてっぺきでその身を固めて防御態勢に入るが、グランブルのかわらわり攻撃をもう一度受けた時、強靭な鋼のボディが太刀打ちできず戦闘不能となった。
「グランブル、強い!やはり我がジムのエースは伊達ではない!!」
セルピルはゴトラをボールに戻すと、アロマ入りハンカチを取り出して匂いを嗅ぎながらグランブルの方をじっと観察する。リヌムの快活な実況のとおり、グランブルの攻撃は一味違う。ゴトラの鉄壁の体を持ち上げ、たったの二回攻撃で戦闘不能に持っていかれるほどである。
セルピルは自身のバトルポジションにむーんを出して、むーんに近づき耳打ちする。バトルポジションは試合再開前であれば、ポケモンに作戦を伝えることは可能であるのだ。
「いいむーん、よく聞いてね。一切攻撃しなくていいのよ。けど――」
「おっと、セルピルさん作戦会議のようです。一体なにを仕掛けてくるのでしょうか。ですが、グランブルはそんなのお構いなしの様子だ!?」
「ブールルル!ウルルル!!」
グランブルが四つ足になってうなり声をあげ、むーんにいかくする。作戦会議が終わったセルピルはフィールドにもーんを出した。そして試合再開だ。
グランブルは試合再開と同時に大きな口を開いてもーんに接近する。かみつく攻撃を仕掛けるようだ。むーんは小さく鳴き声を出したが、抵抗も回避もすることなくグランブルに噛みつかれた。
グランブルは、むーんをがっちりと咥え、その二本の大きな牙でもーんにダメージを与え続ける。のんびり屋のむーんもこの攻撃には顔をゆがませた。
「今よむーん!わたほうし」
むーんが体を震わせて、大小さまざまな綿がグランブルの口の中に充満し始める。綿がグランブルの喉のところまで増え始めると、グランブルはむーんを吐き出した。それを見たセルピルは、ボールを取り出してむーんをボールに戻した。
「交代!ニチャモ、行って!!」
「シャモ」
むーんが交代したことにより、グランブルは口の中に入っていた綿を吐き出すことができた。この行動にリヌムは首を少し傾けながら実況する。
「おや?どうゆうことでしょう。身動きが取れなくなったグランブルを攻撃する絶好のチャンスだというのになぜ交代してしまったのでしょう?まあ、グランブルの口の中の綿も取り出せましたし試合再開ですよ!」
グランブルは三度先手を取ろうと動き出そうとするが、突然膝をついてしまった。さっきまでなんともなかったグランブルの異常に店内はどよめき始める。すると、グランブルの口の中から黄色い粉のようなものが出始めていた。
「どうよ!」
これがセルピルの作戦だった。昼間ロゼとの戦いで使ったしびれごなをわたほうしの中に紛れ込ませた合わせ技である。エースであるグランブルが、わざわざしびれごな入りのわたほうしをもろに受けてくれるはずがないと見込み、わざとむーんに攻撃を受ける形で発動させた。グランブルが確実にわたほうしを放てるかみつくをしてくれたのは幸運だった。
「ニトロチャージ!」
ニチャモは嘴から吐き出した炎を自身の体にまとわせ、動けないグランブルに接近して、膝蹴りで攻撃する。グランブルは、動けないながらも両腕でニチャモのニトロチャージを受け止めてダメージを最小限にする。
だが、ニトロチャージが連続で繰り出され、ますますニチャモの火力と速度が増し始め、グランブルの全身に攻撃され始めグランブルは動きについてこれなかった。直接の連続炎攻撃によりやけどを負ってしまいダメージが蓄積されているのを見てリヌムは起死回生のからげんきを出すように指示を出す。
グランブルがそれを発動しようとするが、まひによって体が動かずニチャモのニトロチャージを喰らい仰向けに倒されてしまった。
リヌムは俯きグランブルをボールに戻した。その時、近くにいた常連客は、リヌムの表情が歪んでいるのが見えて不安になった。まだジムリーダーになって数か月が経ってからも明るく元気にふるまっていたリヌムが、表情を歪めたのは初めてだった。
だが、リヌムは客の心配をよそにするかのように、元気な声でマイク片手に実況を続ける。
「さあー私ことジムリーダーリヌム最後のポケモンと追い込まれてしまいました!ここで出すのは、フラエッテおいでませ!」
出てきたのは、赤い花を持った小さなポケモンだった。セルピルはまだ図鑑で見たことがないポケモンであったが間違いなくフェアリーと草タイプの複合だと思った。草タイプも持っているならば、ニチャモが有利でありニトロチャージによる素早さが上昇している状態を消してまで交代する必要はない判断して続投させる。
「ニチャモこのまま決着付けるよ」
「シャモシャモ!」
マスターの試合再開の合図が出されると、ニチャモが再びニトロチャージで体に炎をまとい、フラエッテに攻撃を仕掛ける。
「おっと、火攻めで来ますねセルピルさん。しかし!その攻撃フラエッテに大ダメージにはなりませんよ」
確かに、フラエッテはニトロチャージの攻撃を受けているが効果抜群のダメージを与えている苦い表情ではなかった。セルピルはこのフラエッテが草タイプではないことがこの時わかった。
「店内は火気厳禁。フラエッテ、あまごいで消火ですよ!」
フラエッテが持っている花に祈りをささげると、舞台の上に雲のようなものが出現し舞台の上に雨が降り始めた。降ってきた雨の影響で、ニチャモがニトロチャージでまとっていた炎が消えてしまった。
「ご自慢のニトロチャージはもう威力がありません。そして必殺のサイコキネシス!!」
その言葉を聞いてセルピルは戦慄した。フラエッテが花に念力を集めると溜めた念力をニチャモに向けて放出する。光線のごとく一直線に放たれたサイコキネシスによって格闘タイプが付属されたニチャモに大ダメージが入る。
爆風と土煙が舞い上がり、両者の姿が見えなくなる。しばらくしてニチャモの姿が顔を出し始める。ニチャモはまだ立っていたが、明らかにサイコキネシスのダメージで膝をつきそうになっている。セルピルはここでむーんに交代させた。やはり弱点を突かれるのは痛く、まだ体力があるむーんで勝負を賭けてみたかった。
「ニチャモ戻って、むーんお願い!」
再びフィールドに現れたむーんは、室内なのに雨が降っていることに驚きと喜びが合わさって普段より素早く動いていた。
「では、モンメンとフラエッテで試合再開と参ります。試合再開!!」
ここで先手を取ったのは、珍しくむーんだった。モンメンの特性のおかげか雨でむーんが張り切っているのかわからないが、むーんはフラエッテにしびれごなを放ち始める。だが、空中に浮遊していたしびれごなが雨のしずくによって吸われてしまいすべて地面に落ちてしまった。
「おーっと!グランブルを苦しめたモンメンの十八番のしびれごなが雨に濡れてフラエッテまで届かない!これではフラエッテを止められないぞ!!」
セルピルは苦虫を噛み潰したように悔しがった。しびれごなでグランブルと同じように動きを封じ込めば勝機があったものを雨で
「むーん、やどりぎのタネを出して!」
セルピルはやどりぎのタネでフラエッテの体力を削ろうとするが、これも雨粒で全て地面に落とされてしまった。そしてフラエッテが花に念力を溜めはじめ、サイコキネシスが放出される。モンメンはグランブルに与えられたかみつく攻撃の余波と、不運にもサイコキネシスが急所に当たり戦闘不能となった。
「ニチャモ、お願い!」
むーんをボールに戻して、再びニチャモを繰り出す。フィールドに現れたニチャモは息を切らしながらフラエッテをにらみつけてまだ戦意を失っていなかった。
「さあこれで両者のポケモンは一体ずつ、しかし!体力の面ではフラエッテが有利です。さあ挑戦者、どうでます!?」
盛り上がり様子を伝える実況のリヌムとそれにつられて両者を応援がますます大騒ぎになる客の様子とは対照的に、マスターは粛々と試合再開の宣言をする。それと同時に、あまごいによって発生した雨が止んだ。
「いきますよフラエッテ!サイコキネシスです」
三度フラエッテが花に念力を集中し始める。するとセルピルはゴトラが第一線で掘った土のあとの地面に緑色のものが生えてきているのが見えた。
「大きく迂回して、ニトロチャージ」
ニチャモはフィールドを大きく迂回してフラエッテに向かってニトロチャージを仕掛ける。フラエッテは体の向きを変えてニチャモへの照準を合わせようとする。そしてフラエッテがサイコキネシスを放出した。
「ジャンプ!」
セルピルの掛け声とともにニチャモは高く飛び上がり、紙一重でサイコキネシスを回避できた。ニチャモは降下しながらフラエッテに向けてにどげりを食らわせる。フェアリータイプに格闘タイプは効果はあまりないが、体重の軽いフラエッテはゴトラが掘ったあとの地面に吹き飛ばされた。
フラエッテが体勢を戻そうと起き上がろうとしたその時、地面からツタのようなものがフラエッテを絡んだ。突然のことにフラエッテもリヌムも驚きを隠せなかった。
「やった!!」
このツタは先ほどむーんが放ったやどりぎのタネであり雨があがったこととゴトラがフィールドの地面を掘ったためやわらかくなりやどりぎのタネが芽生え出ていた。セルピルは一か八かの勝負であったが、やどりぎのタネの所へフラエッテを行かせるように仕掛けたのだ。
これを逃さず、ニチャモはニトロチャージでフラエッテに攻撃する。フラエッテは反撃しようにも、小さなフラエッテを縛るかのようにやどりぎのタネが成長したツタから脱出できず逆に体力を吸われていく。
ニチャモは炎をまとった体のままフラエッテに攻撃すると、追撃するかのようにつつく攻撃も加えたフラエッテに反撃する暇も与えない。
そして審判であるマスターが旗を上げる。
「フラエッテ戦闘不能。よって勝者。セルピルさん!!」
その瞬間、周りの観客の歓声とも雄たけびともわからない大声が店内中に響き渡る。だが、セルピルはその声に負けないようにニチャモに賛美を送って抱きしめた。抱きしめられたニチャモもセルピルの体に腕を巻き、互いを抱きしめる形になった。
「やった!やったねニチャモ!!」
「シャモ!」
「おめでとうセルピルさん。そしてこれが勝者の証ファンタスティックバッジです。今年出来立ての新品ですよ」
リヌムはゆっくりとセルピルに近寄るとピンクのハートマークの形をしたバッジを渡した。セルピルは、初めて受け取る強さの証を手にするとたまりにたまっていた勝利の叫びをあげようと、店内中の空気を全部吸い込む勢いで息を吸い込む。
すると、ポケットに入っていたポケナビツーが振るえ、何事と気分を害されたセルピルは乱暴にポケナビツーを取り出して、電話を受ける。
『セルピル、ヤバイ!!どうしよう。ジム巡りのことばれちゃった!』