カーテンの間から差し込んできた朝日の光でセルピルは目を開けた。時刻は七時前と珍しく早起きだった。その様子を足元で寝ていたイワンは口をあんぐりと開けながら驚いていた。
ジム戦に勝利した直後にレイからかかってきた電話の内容を聞いた後、勝利の余韻もなく頭をもみくちゃにしながらポケモンセンターに戻って布団を被って一晩考えていた。
そのためセルピルは寝ててなく、目をつぶったまま夜を過ごしていてあまり眠れてなかった。
『ほらセルピルが携帯でちょくちょくかけてきたからその話を母さんに聞かれちゃって、それを母さんがセルピルのご両親に話しちゃったって!』
セルピルの予定では、今日親にジムバッジを見せて自分の力を証明させて本格的に旅を認めさせたかったのだが、今電話をかけても戻ってこいという言葉を言われるのは目に見えていた。サプライズの効果がなければ、もうこの作戦は意味がなくなってしまったのだ。
セルピルは部屋から出て、共用の洗面台で顔を洗いタオルで顔を拭いて自分の顔を見ると目じりが垂れ下がっているような気がしていた。よく見ると髪もいつもより艶がないようだった。セルピルは、昨日お風呂に入っていなかったことに気付き、これからどうするかも考えることも兼ねて朝風呂に入ることにした。
浴場に行くにはポケモンセンターの受付を通らなければならない。これは、観光客を取り入れたい方針のもと火山と温泉のアニヤ地方というイメージを刷り込むために、ホウエン地方のフエンタウンにあるポケモンセンターの温泉をモデルにして設計されたのだ。
受付はまだ朝の七時台ということもあって人がまばらであるが、出発する旅の人やポケモンの治療をお願いする人がいた。セルピルは昨日の夜にジョーイさんにポケモンを預けていたためもうみんな回復しているころだろうと受付の方を見ると、なんとジムリーダーのリヌムが高く積みあがった紙の束を持ってジョーイさんと話していた。
ジョーイさんが奥の方へ下がると、セルピルはリヌムに話しかけた。
「リヌムさんおはようございます。その紙の束どうされたんですか?」
「おっと、セルピルさんおはようです。これうちのジムの広告チラシです。ジョーイさんにお願いして少し置いてもらえないか頼んでいたんですよ。この後、港の入港所やバスの運営会社にもお願いしに回るところなんです」
セルピルがなぜそんなことをするのかと尋ねると、初めてリヌムと出会った時と同じ苦笑いして答えた。
「いや~、うちって目立たないでしょ。お父さんはそれでいいとか言っているんですけどね。私としては、まだジムリーダーに就任して数か月ですけど変えていかなきゃって思うんですよ」
「どうしてですか?」
「だって、私のジムはフェアリータイプ専門のジムなのにむさ苦しくてうるさいおっさんばっかりとマッチングしていないですし。それにポケモンバトルを楽しむことを伝えるのがジムリーダーの役割なのに、新規のための宣伝一つもしないなんてジムの役割を果たしていないですし、お父さんの言う通りなんて絶対無理!って、ああごめんなさいまたいつもの癖で」
リヌムが思わず愚痴を言ってしまいセルピルに謝るが、セルピルの反応はむしろ逆だった。
「リヌムさんって何歳なんですか?」
「ふぇ?今十八ですけど」
「じゃあ六歳上なんですか!?私、リヌムさんスタイルが良いからもっと年上かと思ってました」
リヌムは年下のリヌムにそういわれると、チラシを受付に置き、その豊満な胸を左腕で抑え頬を熟れたリンゴのように染めながら右手を小さく振る。
「いやぁ私なんて体が立派なだけですよ。だって昨日のバトルの最中もグランブルが倒されちゃって、年下に初めて負けそうになって悔しいと思うほど大人げないジムリーダーですよ」
「そんなことないです。私リヌムさんのこと応援します!」
セルピルはリヌムの右手を両手でつかんで握り締めた。リヌムは突然どうしたのだろうと少し小首をかしげた。そしてセルピルは小さく礼をするとそのまま入浴所へと入っていく。
セルピルの考えは決まった。リヌムのように示してやる。徹底的に親に認めてやるまでジム戦をするんだ。自分は旅をしてこんな大変なことがあったけど無事に成し遂げたんだぞとやり遂げるんだと。
「セルピルさん、タオルと下の忘れてますよ!?」
ポケモンセンターを出たのは十時を回ったころだった。セルピルは次のジムを探すためにポケナビツーの地図機能を開いた。アニヤ地方の地図に載っていたジムの場所はどちらも東側にあり、どちらもファトゥラシティを通らなければならなかった。とりあえずセルピルはファトゥラシティへ向けて出発しようと自転車のペダルに足を乗せようしたときポケナビツーから電話が入った。
表示にはミュケーナ博士と書かれていて電話を取ってみる。
『セルピル今どうしている?』
「博士、昨日ジムリーダーに勝ちました。ファンタスティックバッジもいただきまして」
すると博士はまるで自分のことのように手を叩いて喜んでいた。
『すごいじゃない。ということはまだタッシーマシティにいるのね』
セルピルはそうですと答えると、ミュケーナ博士はどこか安堵した声で返答する。
『そこから北西にあるビィルタウンに手伝いに来てほしいの』
それを聞いてセルピルはついに来たかという渋い表情を浮かべた。早く残りのジムバッジをゲットするためにもファトゥラシティへ行きたかったのに、反対方向に行かされるのでは親の追跡に時間を与えると懸念した。
『もちろん損はさせないわよ。セルピル行った時よりも速くファトゥラシティへ着けるようにするから。それじゃビィルタウンで待っているわ』
そういい終えると、一方的に博士の方から電話を切られ、セルピルは強引だなと思う反面、ゴキューズシティとファトゥラシティでの恩があるから仕方がないかと腹をくくり自転車にまたがりビィルタウンへと向かっていく。
そしてセルピルが自転車を漕いでゆく後ろ姿を草むらから見つめていた四つの光る眼があった。
「やれやれ、どうやら別の所へ行くそうですね。どうしますかポルック」
「実行に移すのはまだ早計でしょう。あのセルピルという者がなぜビィルタウンへ行くのか探らなければなりません」
二人は双眼鏡を覗き込みながら、淡々とした口調で今後の方針を立てていた。その目の下にはクマができていた。
「しかし昨日は大変でした。もうブラックコーヒーなんて飲みたくないのです」
「全くです。ですが、あのコーヒーのおかげでポケモンたちが傷つく姿を見ずに済みましたから。止めに入れなかったのは癪でしたが」
「仕方ないのです。我々はあくまで隠密で表に出るのは、白服の奴らの役割なのです」
昨日セルピルやマスターが見た意地の張った双子はポルックとヘレネだったのだ。セルピルとリヌムの試合中、二人はブラックコーヒーの苦さと興奮作用に同時に気絶してしまったのだ。試合が終わった後も二人はコーヒーの作用が抜けず眠っているセルピルの監視をしていたのだ。
二人がセルピルを追いかけようと移動開始したときヘレネのポケットに入っていた電話に着信が鳴った。
「はいヘレネです」
『私だ。緊急で本部からの指令が入った。今どこにいるのだね?』
電話の主は低く銅鑼声な男の声だった。ヘレネは眉をひそめながらその声の主に居場所を伝える。
『好都合だ。そのまま綿の城へ向かいたまえ』
「ですが、今、昨日報告しました怪しい人物の追跡調査をしているところです。そうですあれを持っている者です」
「あれを持っているということそれに貨物を調べていた様子からして、重要人物に違いありません。追跡調査は必要だとポルックは思うのですが。このままでは逃してしまいます」
ポルックはヘレネが持っていた携帯を奪い取るようにひったくり、声の主にセルピルの追跡を訴えた。電話の主は、電話越しでフンと鼻息を鳴らして応える。
『追跡は継続する。あれを持っているなら姿が見えなくなってもこちらで情報を送れる。綿の城へはお前たちどちらかが行ってこい。そしてもう一人が追跡をするのだ』
そのことに二人は、喧々諤々に電話に向かって口角泡を飛ばして抗議した。あらゆる罵詈雑言を飛ばしたが、二人一緒でなければいけないと内容は異口同音であった。
『君たちは優秀な黒服だろう?二人で一人前ではない、二人とも一人前だ。いや一流の隠密だ。すぐに調査も終えることだろう私は君たちを信頼と期待をしているのだよ』
電話の人物は二人を褒め殺しさせて、二人はしぶしぶ了承することを首を縦に振ることで同意した。
「……了解です」
「……了解したのです」
電話が切られた後、二人はじゃんけんでどちらが行くのか決めることにした。そしてポルックが勝ち、綿の城へ行くことが決まった。
「ポルック、これは調査なのです決して惑わされないように気を付けるのですよ」
「わかっているのです。ヘレネも頑張るのですよ。すぐに調査を終えて合流するです」
二人は今生の別れでもするかのように互いを強く抱きしめうっすらと涙を流していた。そんな様子を近くを通っていたマネネが同じポーズでものまねをしていて、たまたまそれを見た通行人は二人と一匹の姿を見てどこか微笑ましく見るものや、つられて涙を流す者もいた。
期限まであと四十七日
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