ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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あかん。更新するたびに字数が増えていく。


第二十三話『火照る洞窟夕日の洞窟』

 昼も過ぎた五時前の時刻、セルピルとミュケーナ博士はビィルタウンから東の方へ向かっていた。博士が歩きなためセルピルは自転車を押して同じ速度で並行して歩いていた。

 発掘現場で起きた突然ポケモンたちが襲ってきた騒動とセルピルが見た怪しい機械と白い服の人物。あの爆発音と同時にポケモンたちの動きがなくなったため関連性があると見てアッバス教授たちは警察に届け出を出した。取り調べということもあり、ビィルタウンを出る時間が予定よりも遅れ、博士は今なら近道があるからそこを行こうと言って西の本道から外れた舗装されていない軽石で敷き詰められてた道を歩いている。

「結局ポケモンたちの大騒ぎはわからないってことですよね」

「ええ。セルピルが捕まえたナックラーは、巣をつくって待機するポケモンだから他のポケモンと行動することなんてほとんどないし。特に作業員たちのサンドがトレーナーの言うことを聞かずに野生のポケモンと一緒に人を襲うなんておかしいわ」

 ナックラーやサンドたちはポケモンセンターで診てもらったものの、体に異常は見つからなかったという。あまりにも不可解なことにセルピルは納得できなかったが、どうすることもできず。博士も原因を探るためにファトゥラシティに戻るほかなかった。

 まだ日は高いところに昇っているが夏の熱気も落ち着いてきた時に、セルピルたちは、ぽっかりと開いた洞窟を見つけた。洞窟の上の方を見上げると、洞窟の入り口からでも頂上のあたりが見えるほどの低い山があり洞窟はこの山とつながっているようだった。すぐそばには、『夕日の洞窟。現在通れます。通る際は警察・消防・ポケモンセンターで詳細の確認を!』という不安を誘うような看板が立てられていた。

 博士は先に洞窟に入りセルピルも恐る恐る博士についていった。

 洞窟内は朝日の洞窟と異なり奥に行くとだんだんと暗くなっていった。博士がボールからパチリスを出すと、パチリスは黄色いほっぺをすりすりと擦ると電気を放出しパチリスの周りのだいたい一メートル範囲が照らされた。洞窟内は、ズバットやコロモリといった暗闇を好むポケモンがいて、ダンゴロやガントルといった岩ポケモンもいていたって普通の洞窟でありセルピルは拍子抜けしてしまった。

 しかし、最初の分かれ道に置かれていた看板にセルピルが近づいてみると、『まっすぐ熱いが近道。左遠回り二時間。左を推奨』と書かれていてセルピルは首をかしげる。『熱い』という字が間違っているのだ。気温の暑さなら「暑い」のはずである。

「セルピルどっちを行く?わたくしはどちらでもオッケーだけど」

 セルピルは腕を上げて、人差し指をまっすぐの方向に指さした。遠回りして二時間かかるよりも近いほうを進みたかったのだ。

 二人と一匹はそのまま、まっすぐ進んでいくがその感覚は前に進むというより、下に降りて進んでいくという感覚が近かった。しかも奥へ進むごとに体にも異変が起きてきた。洞窟内は涼しく汗も引いていたのだが、奥に行くと暑さが増し汗がふいてきたのである。

 さらに奥へ足を進めていくとポケモンの種類も変化していた。こうもりポケモンの姿はなく、ブビィやドンメルに巣立ちしたシシコといった炎タイプのポケモンの姿を見かけるようになった。

 一匹の血気のはやったシシコが二人に襲い掛かってくると、パチリスが迎え撃つ。

「パッチー、てんしのキッスで大人しくさせて」

 パチリスが、飛び掛かるシシコをかわしたあと、口をすぼませてその頬にキスを軽くするとシシコはしっぽを垂れ下げて体をゴロゴロと地面に転がった。その隙をついてセルピルたちは洞窟の奥へと進んでいく。

「博士もバトルできるのですか?」

「いいえ。わたくしバトルが苦手ですの。ああやってパッチーにキスをさせてその隙をついて逃げ出すのだけ上手いのですの。パッチーそろそろフラッシュの必要はないですよ」

 そういうと、パチリスは頬から発する電気を止めた。セルピルがどうしてと聞く前にその答えが前にあった。奥の方に鈍い赤の灯りが照らされていたのだ。

 その灯りに近づいてみると、ますます汗が吹き出し、赤い色もより濃くなっていった。洞窟が途切れると、そこに広がっていたのは、大きな自然の吹き抜けとその吹き抜けの真下に見える黒い土の割れ目からこぼれるように出てくるマグマが、その発生源である中心から外へと黒い部分をゆらゆらと揺り動かしていた。セルピルはそれを見てなるほどこれでは『熱い』が正しいわけねと納得した。

 まわりの風景は、明かりが要らないほどマグマの赤い色に照らされてすべてが真っ赤に染まっていた。唯一異なるのは、吹き抜けの一番上である太陽の夕焼け色に染められた空だけである。

「これが夕日の洞窟といわれる所以よ。最も、本物の夕日とは似ても似つかわないけどね」

 博士の言うとおりである。夕日の洞窟という朝日の洞窟の対比と詩的な感覚でつけられたとしたら、それはとんだ勘違いである。朝日の洞窟とは鉱物による幻想さもなければ対比性も全くない。そこあるのは、アニヤ地方の自然の力強さとマグマが心臓のごとく躍動していているのだ。

 吹き抜けの外周には安全のための柵が設けられ、二人はそれに沿って道を進んでいくと、ハイキング服を着て大きな登山用リュックを背負った百八十以上もある大男が壁をロック・ハンマーで叩いていた。大男が叩いた壁から一塊の石がごろりと足元に落ち、男がそれを採ろうとするといきなり手を放してしまった。

「あっちちち。おやま、これはかえんだまですな」

 セルピルは聞き覚えのある響くような低音ボイスが大男から発せられたことに気付き、セルピルは男に向かって手を振った。

「ハサンさん!久しぶりです!」

「おやま。セルピルさんではありませんか。それにミュケーナさんも」

 ハサンはタオルで包んだかえんだまを持っている時に二人の姿をとらえ、空いた手で手を振った。そして最初に言葉を交わしたのは博士だった。

「ハサンさん。休暇ですか?」

「ええ、趣味の洞窟探索へ山越え谷を越えと。しかし、セルピルさんもまた出会えますとは」

 セルピルはハサンに出会えたことや洞窟男と言いながら趣味であるということに驚いたが、ハサンと博士が知り合っている雰囲気を醸しだしていたのが今一番気になっていることである。

「向こう側からということは、博士はビィルタウンでセルピルさんはジム戦帰りですかな。ということはバッジを二つ」

 セルピルがそれを言う前に、博士が含みのある言い方でハサンの言葉を遮った。

「それがね。ファトゥラジムのリーダーが休暇のためにジム戦を門前払いしたのですの。バッジはタッシーマジムのみで、実力のあるトレーナーを休暇のために追い返すのは、どうかと思いましたけどね」

 ハサンは、その立派なあごひげをさすりながら硬直して黙った後、小さくつぶやくように言った。

「…………それは散々でしたな」

 三人が合流したその頃、セルピルたちに気付かれないように一段上の方に登り、双眼鏡で監視していたポルックがその様子を見ていた。ヘレネはというと、同じように監視していたものの、ぶつぶつと文句を言いながらあまり監視に気乗りいていなかった。

「ヘレネ。任務をおろそかにしてはいけないのです。ちゃんと博士とあの少女を見張らなくては」

「……温泉。ポッルクもおろそかにしてたのですのに」

 それを言われたポルックは、暑さとは別の汗が噴き出した。それはあくまで任務の一環というわけであるのだが、ポルックは綿の城で温泉に入ったのは事実だ。ポルック自身温泉に入って罪悪感がなかったわけではない。二人一緒に入りたかったのが本心でありヘレネを一概に否定できなかった。

「で、ですからこの任務を終えたら、温泉に行こうと」

「目の前の温泉をぐっと我慢してもそう言えるのですか?」

 この夕日の洞窟は温泉街エシリタウンへの近道である。だが監視対象がそのままエシリタウンでじっくり温泉に入ることなど考慮できない。なので温泉は任務後と二人で決めていたのだが、ヘレネはまさか監視対象がエシリタウンを通るなど思わなかったので不服だったのだ。

 ポルックは、震えた声でヘレネに話しかける。

「ポルックはヘレネと一緒に入りたかったのです。綿の城で温泉に入ったとき罪悪感で苦しかったのです。でも、任務で、どうしようも」

 ヘレネが双眼鏡から目を離したとき、ポルックの目には涙が浮かんでいた。ヘレネは慌てて金色の髪が赤く煌めくポルックの頭を撫でた。

「止めるのですポルック。私もポルックと一緒に温泉入りたいのです。私はお姉ちゃんなのですから我慢できるのです。ほら」

 ヘレネがなだめながらもポルックは小さく「自分がお兄ちゃんなのです」といつもの言葉を返しながら監視対象を追った。

 その時、ヘレネが思わず野球ボールほどのある石に手をぶつけて、石がゴロンと地面に落としてしまった。その石は石造りのちいさな祭壇から転げ落ちたもので、ヘレネは祭壇の供え物から判断してポケモンを祭るものだと理解し、人ならいざ知らずポケモンを祭るものを穢してはいけないと思い、落した石を戻そうとした。

 ヘレネが石を持つと、硬い岩石に似た感触ではあるがどこか普通の岩石とは異なる触感とその岩石から感じる熱のようなものが手の中から伝わってきた。

 その時、一塊の岩石がヘレネの頭上に落ちてくるのを察したポルックがボールから黒に近い紫色のヘビポケモンを出して技を言う。

「ハブネーク、ポイズンテールです!」

 刃物のように鋭く硬いハブネークのしっぽの先端が怪しく濁るとその先端に触れた岩石が粉々に粉砕された。その後も大小の岩が降ってくてポルックは、ヘレネの腕を引っ張りハブネークに守られながら急いで洞窟を脱出しようとする。ヘレネの腕の中に先ほどの小さな岩を抱えたまま。

 その影響は下にいるセルピルたちにも襲ってきていた。三人は岩が降ってきているのを見る否や一目散に走りだした。自転車に乗って先鋒となったセルピルが前方の道が崖から転がり落ちた岩が道を塞いでいるのを見ると、セルピルはニチャモを出して技を繰り出すよう命令した。

「ニチャモ、にどげりで岩を壊して!」

 ニチャモは、その健脚で岩をひと蹴り、反対の脚で二蹴り入れて岩を壊し人二人分通れるほどの道を開けた。セルピルは遅れてやってくる二人を置いてけぼりにしないように注意を払いながら速度を適度に落としてニチャモに落石を破壊するように命じる。

 そのセルピルの判断を見てハサンは静かにその細い目をうっすらと開けたが誰もが目の前のことに集中して見てはいなかった。

 吹き抜けの外周を四分の一以上まで走り切ったとき、吹き抜けの底で絶えず変わらない動きで躍動していたマグマがその動きを速くさせ、中心部からマグマがせり上がり一筋の炎がセルピルたちに向けて放出された。

「フォレトス、まもるだ!」

 炎が発射される直前でハサンはフォレトスを出してまもるを指示する。フォレトスは高速回転で鋼鉄の殻を回し炎を逃がしてセルピルたちを守った。炎が収まると、マグマの中から一匹の真っ赤な体のポケモンが這い出してきて吹き抜け全体に響き渡る咆哮を発する。

「ドララララーン!!」

 マグマから出てきたポケモンは、ヒードランだ。ヒードランはその四角い顎から焔の塊が渦を巻きマグマを顎でくみ取ると、今度はセルピルたちのいる方向とはまた別の所に向けて炎タイプ最強の技ふんかを放出する。

 セルピルたちから見てはるか後方に放たれたふんかは、吹き抜けの外周の高いところに当たった。そしてそこから水あめのような黒くところどころ赤く煌めく塊がゆっくりと壁を這いずるように降りてくる。その塊はセルピルたちが通った柵のある道まで到達すると、柵が塊に触れたとたんにと粘土のようにぐにゃりと折れずに曲がったと思ったら塊から火が吹き出して柵を包み込んだ。塊は柵を呑み込み、そこのマグマのもとへ戻っていく。

 一瞬後ろを振り向いた博士は、暑さの汗とは異なる嫌な汗を吹き出しながら駆け出して言った。

「まずい。ヒードラン今日すっごく機嫌が悪いわ。いつものふんかだけじゃなくマグマも出しているわ」

 ヒードランという単語を聞き、セルピルはビィルタウンで見た古文書を思い出した。ヒードランは火山を這いずり回るという文面からでは想像できほど凶悪で、ニチャモの炎なんてマッチかライターの火に見えてしまうほど圧倒的な火力だったからだ。実際、傍で一緒に逃げているニチャモはヒードランの吐き出すふんかの威力を見て委縮してしまっている。

「ヒードランってあんなに恐いポケモンなんですか!?」

 その質問に誰も答えられなかった。誰もがここから脱出することに必死だったからだ。ようやく吹き抜けの外周を半周したところで、洞窟の奥に続く道があり、三人と二匹がそこに飛び込んで奥へ奥へと走っていく。それでも、ヒードランの炎はとどまらず吐き出し続けた。

 そこから先は無我夢中だった。いや、野生のポケモンたちも同様だった。ズバットやゴルバットなどのこうもりポケモンは我さきと外へ逃げ出そうとしちゃかめっちゃかに洞窟を飛び回り、体の小さい炎ポケモンたちはダンゴロやガントルといった岩ポケモンたちが周囲を固める形で彼らを守ろうとし、大きいポケモンたちは他のポケモンたちと協力して降ってくる岩を守り、流れ炎をフーバーがその炎の体で防いでいる。

 落下石を戦闘を行くセルピルがニチャモに落ちてくる場所を明確に指示して、ニチャモがけたぐりで岩を壊す。ハサンのフォレトスが殿をしてまもるを繰り出して流れ炎から全員を守った。

 どれくらい走ったかわからないぐらい駆け抜けると、前方の光が燃えるように赤く照らされセルピルは火口に戻ってきてしまったのかと思った。だが、足を止めようにも落石が降ってくる恐れもあり止まるわけにもいかずええいままよと目を瞑りそこに向かって飛び込みブレーキをかけた。

 目を開けた先には、真っ赤に燃えるような日が沈む太陽の姿があった。振り返ると先ほどまでセルピルたちが通っていた洞窟が先ほどまで落石がったとは思えないほど静かに口を開けていていた。低い山の頂上では、入った時とは異なり白い噴煙が上がっていた。

「どうやら、無事に外に出られたようですな。ほら、エシリタウンが見えますよみなさん」

 自転車から降りてハサンが示した先を見てみると、眼下には硫黄の匂いと湯気が高台にまで立ちこんでいるエシリタウンの温泉街が見えていた。すでに温泉街は街灯や建物に明かりがともされていた。そしてセルピルは緊張の糸が切れたのか、プツリと操り人形の糸が切れたかのように脚を崩した。

 それを見かねた博士が手を差し出して、手を取って顔を見上げると、博士の顔は土と砂で泥だらけだった。それを見てセルピルはポケナビツーを取り出しカメラ機能で自分の顔を写してみるとセルピルも同様に顔も服も泥だらけだった。ニチャモも同様に全身砕けた岩石の石や土埃が羽毛に着き汚れていた。それはまるで朝日の洞窟でセルピルがニチャモを見失った時と同じような恰好だった。

 セルピルは思わず腹を抱えて大笑いしてしまった。博士がそれを見て心配したが、セルピルは笑い泣きながらも自分でも答えが出せずに答えた。

「違うんです。なんだか笑いが、止まらないんです。なんでだろ?怖かったからかな。わかんないけど、笑いが止まらないんです」

 

 セルピルと博士は下山してエシリタウンに入った。途中エシリタウンにいる人たちに何があったとせがまれたが、ハサンが代わりに対応してくれたため、セルピルたちは先を急いだ。

 ポケモンたちをポケモンセンターに預けた後、博士がシリタウンの温泉で汚れを落とそうという提案に乗り近くの温泉で汚れを落としたのだった。

 温泉から上がりようやく落ち着いたときに、セルピルは吹き抜けで聞きそびれたヒードランのことを改めて博士に質問した。

「ヒードランはね、まだその生態系がよくわかっていないポケモンなの。火山のある場所に生息しているのは確かなんだけどね。わたくしも専門外ながらも以前ヒードランについての過去の文献を調べようとしたのだけど、見つかったのがビィルタウンで見せた古文書だけなの」

「でも、いっくらなんでもあんな強くて恐いポケモンがいて、あそこを通る人たちは怖くないんですか?」

 それを聞いて博士は苦笑いをして答えた。

「あそこを通る人あんまりいないのよ。普段はヒードランの機嫌を見て入れるかどうかでないと入れなくて、今日はたまたま入れたのだけど不運にも急にヒードランの機嫌が悪くなったたみたいで」

「そんな危ないところだったんですか!?」

「行きは大丈夫だったのだけどね。またしばらくあそこは通れないわね」

 そんなセルピルたちの様子を温泉から上がりたてのポルックとヘレネが観察してた。セルピルたちが温泉に入っていくのを見たヘレネは、これは観察任務に必要なことと称して念願の温泉に入ることができたのだ。

 ヘレネが温泉客たちに交じりながら牛乳を飲みつつセルピルたちを監視している間、ポルックはヘレネの髪を梳かしていた。ヘレネが小さく小声でポロックに状況を伝える。 

「今のところ異常なしなのです。温泉に入れて満足なのですがしかし、不満だったのはポルックと一緒に入れなかったことです」

「全くです。前にホウエン地方のフエン温泉に入ったときは何も言われなかったのに、アニヤ人はケチなのですか?」

 実際には二人が一緒に入るのは、成長しきっていたので番台に止められていたのだ。二人は何度も男風呂や女風呂にアタックをしていたのだが双方とも同じ番台に止められてしまい渋々別々に分かれて入ったのだ。

「ポルック。この監視が終わったらまた温泉に入るのですよ」

「もちろんですよヘレネ。二人一緒に入れる温泉でですよ」

 二組が温泉の余韻を楽しみながらも双方ともその先を見据えていく。期限まであと四十七日。

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