ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第二章 旅は道連れ編 アニヤ地方北部・中部
第二十五話『夜汽車に揺られながら』


 ファトゥラ中央駅駅を出た列車は、暗闇を月明かりと列車の灯りのみで突き進んでいた。二等寝台車の十一号車の乗降口に近い一角にセルピルたちは二段ベッドに座っていた。

 二段ベッドは壁際に左右設置されて合計四人は寝られるほどのスペースが確保されていた。セルピルと博士は右側のベッドに並んで座り、セロは反対側のベッドに座っていた。

「じゃあ改めてセロ君。この子が私の臨時助手のセルピルよ」

「はい、知ってます。セルピルとは、同じクラスメートで何度もバトルする仲だから」

 セロは博士の前でもセルピルと話すときと同じ口調で話した。セルピルの方は、同じクラスメートでバトルしただけで仲という言葉を使われたことにムッとはしたが、態度には表さなかった。

「僕から質問です。僕とセルピルはこれかどこに行くのですか?」

「私も同じです。どうして私たちを急に夜行列車に乗せてまでどこへ行こうというのですか?」

 博士は、ひとつ咳を払うと二人の方に居直ると説明を始めた。

「ポケモン協会から緊急の連絡があってね。とにかく実力のあるトレーナーをヴァディタウンに連れてきてほしいって言われたの。目的は、休暇中であるファトゥラジムのジムリーダーであるグアバの救援とポケモンたちの暴走を止めることよ」

 暴走という単語を聞きセルピルはハッとして、昼間の発掘現場でのポケモンたちが襲ってきたことを思い出した。

「もしかして、昼間のポケモンたちが襲ってきたことと関係があるのですか?」

「かもしれないわ。起きたのが昨日のだし。だからセルピルを連れてきたのは、バッジ所有者であるのと、怪しい機械を見た目撃者だからよ」

 セロはビィルタウンでの出来事を知らないためついていけてなかったが、それでも話に入ろうとする。

「僕を連れてきたのは、やっぱり実力があるからだよね?!」

「セロ君は、せっかく合流できたのに置いてけぼりにするのは、かわいそうだったから」

 セロは列車の揺れに合わせてコテンと横に倒れた。期待からではなくまさか憐みからだとは思わず、セロは横になったまま頬を膨らませ拗ねた。

「まあまあ、拗ねないでセロ君。君はポケモン協会の推薦を受諾されるほどの期待の新人なんだって認められいるんだから」

 博士がすぐフォローを入れたためセロは体を起こして元気を取り戻した。

「とにかく、ヴァディタウンにセルピルが見かけた機械が見つかれば、ビィルタウンのポケモンたちが襲った理由も説明がつくし、同一犯の可能性もあるわ。わたくしも一応ポケモンたちに襲われた被害者でもあるし」

 確かに、博士が同行しているのは心強かった。いくら怪しい機械や人物を見つけたからといっても、自分はまだ十二歳と信憑性が薄い。そこにミュケーナ博士のような権威があり、自分たちを信頼してくれる人物がいれば他の大人たちが納得してくれるとセルピルは考えていた。

「任せてくださいよ博士。ポケモンたちが悪いやつらに操られているなんて許せないですし、僕のポケモンたちが絶対に捕まえてやりますよ!」

 一方で、事情を知らないからかセロは楽観的に見ているようで、二人の前でシャドーイングを見せて相手を倒すようなそぶりを見せていた。調子いいんだからと呆れてしまった。

「でも、ごめんなさいね。急いでたから、二等車の一室を確保するので精いっぱいだったの」

 二等寝台車の部屋の構造は先ほど述べたとおりだが、部屋と通路を遮るドアのようなものは一切なくベッドから車窓が見えるほどであった。ベッドも硬く枕もかなり使い込まれて厚みがなかった。両サイドのベッドの間にある通りは、人一人分しか通れるほどしかなかった。そのため荷物はすべて二段ベッドの上にある荷物スペースに積まれていて、上の部分は少し狭くなっていた。

 だが、この言葉の真意はセルピルに向けての言葉であった。まだ十二歳といっても、思春期にさしかかっているセルピルが同年代の男子であるセロと一緒なのは嫌がるかもしれないと思ってのことだった。一応セロは上のベッドを使い、女性陣は下のベッドを使うことになっている。

「気を使って大丈夫です博士」

 同じ女性の心情としてもセルピルは同意できていた。しかし、返した言葉は決してお世辞ではなかった。

 そもそも、問題のセロ自身にまったくやましい目が一切ないのはセルピルの目でも明らかだった。女の子よりもこれから向かう事件の方を楽しんでいるかのように目をらんらんとさせていたからだ。

「ちょっと失礼するわね」

 ちょうどその時、博士の電話から着信音が鳴り、部屋から出て博士は客車のデッキへと移動する。部屋にはセルピルとセロの二人だけとなり、沈黙が訪れるかと思われたがしかし、すぐにセロが沈黙を消し去った。

「ねぇねぇ。セルピルはどれくらいポケモン捕まえたの?十匹?二十匹?」

「そんなにポケモンいないわよ。そもそもボール自体そんなに買ってないし」

「え?なんで?」

 セルピルはその質問に答えることができなかった。親に黙って旅に出かけ、全財産を持って行って出発したのだが、そもそも十二歳の子供の全財産などたかがしれている。そのために節約のためモンスターボールは、ショップで買った十個とおまけのプレミアムボールのみしか持っていないのだ。

 もしセロが親にお金を無心しなかったことを根掘り葉掘り深く聞かれてしまえば、自分の状況が悪くなってしまう。

「いいでしょそんなこと。私の勝手でしょ。それより、あなたはどうなのよ」

 セルピルが質問をかわすために、あえてセロに質問を返した。するとセロは、ふふんと鼻息を鳴らして自慢げにボールを四個出した。

「まずコラッタがラッタに進化したでしょ。で、さっきバトルに出したフっちはフシデから育てたんだ。こっちはハーデリアのヨっち。ヨーテリーから育てたんだ。そしてこれが」

 セロが言い終える前に、ボールからポケモンが現れた。青い体に細長い人型の体格で柔道着を着たポケモン、ダゲキだった。ダゲキは、ボールから出たと同時に、からてチョップの稽古をいきなり始めていた。狭い車内の中でいつ当たるともわからなくいダゲキのからてチョップを、通路の前を通っていた他の乗客やセルピルが必死にかわしていた。

「ちょっと、危ないわよ!早くボールに戻して!」

「ご、ごめん。戻れダっち」

 セロがすぐにダゲキをボールに戻したが、騒ぎを聞きつけた乗務員にむやみにポケモンを出してはいけないと注意されてしまった。乗務員が隣の車両に移動したのを見て、セルピルはセロの方を見てふくれていた。

「まったく。怒られちゃったじゃない」

「ごめんごめん。ダっちは捕まえる前から修行好きで、たまにボールから出ちゃうんだ」

 セロが セルピルは未だに腕を組んだままふくれていた。  

「ところで、あんたニックネームをつける派だったの?コラッタはそのままだったじゃない」

「僕もねスヨルタウンからファトゥラシティに向かう道中に、捕まえたヨっちもそのままの名前にしようか迷ったんだけど。やっぱニックネームつけたほうが強くなるんじゃないかなって。ほらセルピルやあのトロピウスを使ってたお姉さんもニックネームをつけてただろ、絆の力で勝利って感じで」

 まるで朝の子供番組みたいな理由を聞いていた時、ふとセルピルの頭の中にあることを思い出してモンスターボールを取り出してポケモンを出現させた。

「うぉ!?そ、それナックラー?!」

 セロが感嘆の声を上げかけたのをセルピルは人差し指を一本立てて静かにのサインを出す。ナックラーは、星のような瞳を瞑りぐっすりと寝ていた。元々砂地に生息していたこともあり、夜は必ず寝る習性が残っていた。

「この子、ビィルタウンの騒動の最中にゲットしたままでニックネームつけてなかったの忘れてたの」

「そういえば、セルピルはどうやってニックネームを決めているの?僕みたいに~っちって感じじゃないし」

「数字よ」

 セルピルはそう端的に言った。だがセロは意味が理解できず首を傾げたので、セルピルが説明する。

「ポケモンは大事な友達。数字も大事なもの。だからニックネームは大事なものって意識してほしいって感じで親に言われたの。イワンは、一の数字が。ニチャモは二よ。頭の羽も二本だし」

「へ~そうなんだ。じゃあ、ゴトラは五なんだね」

 セルピルが眠っているナックラーの体を撫でながらどんなニックネームをつけるか考えていた。アリジゴクポケモンと虫みたいなポケモンであるが、触れてみると体はツルツルとしてどこか虫っぽい感覚ではなかった。

「でもこの子どんな数字を入れるのか全然思いつかないの」

「じゃあ進化先から考えれば?ナックラーの進化先すっごくカッコいいんだ」

 セロはまるでナックラーのことを自分のポケモンのようにウキウキして語っていた。セルピルがポーチから図鑑を取り出して、ナックラーの進化先を見てみる。

 大きな目に四枚の土色の羽のビブラーバが記載されていると目をひそめる。これがそんなにカッコいいとは到底思えなかったどう見てもヤンヤンマのような見た目だったからだ。だが、ビブラーバの次の進化先を見ると、その目が逆に大きく開ききった。

 大きな目はそのままであるが、二本の長い触覚のような角に二枚の緑の羽根。まるで竜のような美しい見た目と均整の取れた体と長いしっぽの姿にセルピルはすっかり虜になり感嘆の吐息を漏らした。

「綺麗……」

「だろ?そのナックラーからフライゴンになるんだぜ。信じられないだろ?」

「決めた!この子はラッキーナンバーの七を入れる」

「じゃあ、フライゴンのフライだと二があって被るから、七を入れてナライはどう?」

「いい。ナライに決定!」

 セルピルはセロの提案に賛成した。七も入っていて響きもよい。セルピルは嬉しさのあまり、ナックラー改めナライを抱き上げて一周ぐるっと回ってしまった。まさかこんな丸っこいポケモンが綺麗な竜になるとは思わず、絶対に育てようと決めたのだ。

 けれどもナライは意にも介さないように、微動だに起きなかった。

『まもなく、消灯時間です』

 アナウンスがそう言ったとたんに、車内の電灯が一斉に消えダウンライトがいくつか灯されているだけであった。セルピルたちの車両を担当する見張りの乗務員が通路を歩き回って消灯時間を告げていた。

「ごめんなさい。電話が長くなっちゃって、他にも話したいことはあるのだけどもう消灯時間だから明日にしましょう」

 先におやすみなさいを言ったのはセロで、二段ベッドに取り付けられている取っ手に足を掛けてスルスルっと上のベッドに登っていった。

 セルピルも博士におやすみを言って、布団に入り目を瞑る。ベッドはやわらかさがなく硬かったが、一日中走り回った疲れがあったためかあっという間に眠りにつけた。だが眠りに落ちる前に、イワンが今までの方法で起こしてくれないことに気付いた時には、もう意識は暗闇の中に落ちてしまっていた。

 

 車内のダウンライトも消え、中も外も同じ夜の空間に包まれた車内では見張りの乗務員があくびをしていた。夜行列車には乗客に何か異常があった時のために、一両一両に見張りの乗務員が駐在している。しかし乗客へのサービスが必要な一等車はまだしも、二等車ではそんなサービスは必要なくただ見張っているだけなので暇なのである。それが夜通しだから見張りの乗務員は、眠気とあくびがつきものである。

 セルピルたちのいる客車の乗務員も眠気に負けてそうになって首を傾けた時に、甘い匂いが乗務員の鼻に入り込みそのまま眠りについてしまった。その横から二つの影がセルピルたちのいる部屋を覗き込んだ。

「寝てますね」

「寝ているのです」

 影の正体は、ポルックとヘレネであった。二人は他の乗客と変わらないよういつもの任務で着ている黒のロングシャツとパンツではなく、おそろいサマージーンズと爽やかな白いワンポイントの半袖シャツを着ていた。一乗客と見られても問題ない服装で動きやすさを重視したチョイスだ。

「今なら探れますね」

「ですが、念には念を」

 ポルックが、ハンカチで口の周りを覆うと草ポケモンのねむりごなが入ったスプレーをセルピルの部屋と隣の部屋にばら撒いた。二人は物音を立てず、こっそりと部屋に侵入する。

 二人が肩車して上のベッドに積まれているセルピルのカバンを開く。ヘレネがカバンの中身をあっという間に記憶すると、ライトも照らさずにカバンを探り始める。

 数分も経たないうちに、セルピルのカバンの物色を終えると、左手で『変わったものはないのです。これははずれです』というサインをポルックに出して、残りの二人の荷物を探り始める。

 しばらくした後、ヘレネが二回先ほどと同じサインを出すと、ポルックはゆっくりとヘレネを床に降ろした。 

 こんどはセルピルたちの手荷物をあさり始めた。二人は手荷物に入っていたモンスターボールの開閉スイッチの部分にケーブルをつなぎ、持っていた端末でボールに入っているポケモンを検索していた。

「これはワカシャモで、これはナックラーと。これは、おおルガルガンとは珍しいです」

「ヘレネ。声が大きいです」

 そして一通り手荷物も調査を終えると、ヘレネはそそくさと、ポーチの中身を記憶したとおりに同じ位置に戻してポーチを元に戻す。

 ポルックの方も調査が終わるのを確認すると、ヘレネが通路に顔を覗き込む。乗客の一人が、二人がいる部屋とは反対側のデッキへと歩いて行ったのを確認して、ポルックに『部屋を出る』のハンドサインを出して物音を立てずに後方の客車に移動する。

 セルピルたちの客車を担当している乗務員は、さっき嗅がせた眠りスプレーで眠ったままだった。それでも、静かに乗務員にそばを通り過ぎ、後方の客車のデッキへ移動した。

「気になったものは、ルガルガンぐらいでしたが、我々を悪評する資料や重要な資料などなかったです」

「ポケナビツーにも気になる画像も電話もなかったのです。先ほど電話番号から住所を調べましても、田舎町にあるただの牧場とか住宅ぐらいです」

 二人は同じ指の爪を噛みながら同じ姿勢で今後の監視を考えていた。髪と性別さえ異ならければ、まるでそこに鏡があるかのようだった。

「ここまで追跡して資料の一つもなければ、あとは証言だけです」

「ですが、誘拐はあの雇われ上司は許さないですよ。利益だ。コンプライアンスだが口癖ですので」

「抹殺もそ、十分に検討を重ねた末に最終判断として下すとか言いますし、まったくやる気がないですね」

 二人が上司の悪口を言いあっていた時、列車の走行音に紛れて足音が聞こえたのを感知して、すぐそばのトイレに飛び込んだ。

 足音の元凶は、この客車の乗務員で話し声が聞こえていたので確認しに来たのだ。ポルックがトイレのドアを少しだけ開けて、乗務員が去ったのを確認した後ヘレネが口を開く。

「こうなれば、カエンジシの巣に入らずんばシシコを得ずです」

 ポルックはそれを聞いただけですぐに理解して何も言わずにうなずき、自分たちの部屋に戻っていく。

日付はまたぎ、あと四十六日となった。

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