昼を過ぎたころには、怪しげな雲もいつの間にかいなくなり太陽が顔をのぞかせていた。セルピルが機械を止めたおかげで、スレイマンとグアバも最上階へと登ることができたが、セルピルとセロが欄干で腰を抜かしているのには首をひねった。
回収された機械は、グアバのヨノワールが最上階から外へ運び出して今後調査することとなった。
四人が病院に戻ると、そこで待機していた博士が安堵の表情で四人を迎えてくれた。セヘルとルトフィーの姿が見えなかったので博士に尋ねるが、博士も知らなかったので手分けして捜索しようと話し合った。
「お騒がせしました。僕のメレシーここの病院の隅っこに隠れてました」
墓室につながる部屋の方からルトフィーがひょっこりと顔を出した。その腕にはメレシーがきょろきょろとしながら抱えられいた。とりあえず、騒動も収まり全員ヴァディタウンへと帰ることとなった。
ヴァディタウンに戻り町長に異変が収束したことを伝えると、大人たちを賛美した。そのことにセルピルとセロは不満だった。作戦を立てて、機械を止めたのはセルピルなのにお礼の一つもなかったのだから無理もない。
「町長。元凶たる機械を止めたのはあの若人ですぞ」
グアバが、フォローして二人の功績を認めさせようとしたが、町長は半信半疑の様子だった。セロが訴えようとするが、これ以上言っても無駄だと思いセルピルが止めてポケモンセンターでポケモンたちを回復させにセロを連れて行く。
ポケモンセンターでは、先にスレイマンがポケモンを回復させていてどうやら旅の準備を整えていたらしい。
「礼拝堂ではお互い世話になった。自分はもう出発するが恐らく君たちとはもう一度会えるかもしれないな」
「それは、どういうことですか?」
セルピルがそれを尋ねたとき、セロは何か分かったかのような顔をして答える。
「もしかして、スレイマンさんもポケモンリーグに挑戦するんですか!?」
「鋭いな。遍歴の旅のついでにポケモンリーグの挑戦もしていてな。ジムバッジは次の駅にあるカリチィンシティのジムだけなんだ」
「ということはライバルだ。よかったら、電話番号交換しません?セルピルもほら先輩トレーナーにバトルのアドバイスくれるかも」
「ははは。天真爛漫とはこういうことかな。いいだろう」
スレイマンは綻びながらセルピルと一緒に電話番号を交換して、「健闘を祈る」と言って去っていった。そして入れ違いに今度はガリプが入ってきて、目の前にいるセルピルたちに気付いた。
「おっと、セルピルとセロ……だっけか。塔の時はありがとよ」
危ない役を引き受けたのに、なぜありがとうと言われるのかわからず尋ねると、ガリプは頭の被り物をぐりぐりと回しながら照れくさいように答えた。
「俺、いつも礼拝堂の中でしかほえるの鳴きまねできなかったから、外で思いっきり吠えるできたの初めてなんだ。しかも町の奴らの役に立てたからうれしくてよ。俺の吠えるどうだった?」
「病院の中でも聞こえたよ。まるでサイドンが鳴いているかと思うほどだった」
すると、ガリプは「俺の中ではリザードンの鳴きまねをしたんだけどな。まだ練習不足だな」と苦笑いして言った。そしてガリプとも電話交換をした後、ポケモンをジョーイさんに預けようとしたときに入り口からグアバと博士が入ってきた。
「二人ともお疲れ様。実は二人に言っておかないといけなくて、この町の騒動にフリーが関わっていることやあの機械の分析結果をポケモン協会に報告しないといけないからわたくしこの町にしばらく留まることにしたの」
「ということは博士とはお別れになるのですか」
「そうね。けど、今夜の列車の切符は確保したから渡しておくわ」
二日間博士に連れられてヴァディタウンにまで来たが、いざ別れとなると寂しい気持ちがあふれ出た。
「というわけだ。若人いや、セルピルとセロ。だいぶ待たせたがジムの挑戦を再開するために吾輩もファトゥラシティへ戻らなければないが、汽車の出発までまだ時間がある。それまでポケモンとともにゆっくりと過ごされるがよい。この町のパンはみな絶品であるからな」
グアバの言うとおりに、時間をつぶすために町を散策することにした二人であったが、まだ騒動が収まった直後ということもあってかヴァディタウンの店は未だにシャッターが降りたままだった。ポケモンを預けているためバトルもできないし、目当ての店もなくもうあっという間に町のゲート付近にまで到達しそうだった。
二人は、引き返そうと思って元来た道に戻ろうとすると、甘美な小麦の焼けた匂いがセルピルの鼻を刺激する。その根源はどこかと匂いをたどるために、本通りのわき道に入るとそれはすぐに見つかった。
店員がテーブルに置いたのは、きつね色に焼きあがった十枚の薄いパンケーキが重なりそこに甘いミツハニーの蜜が垂れ、その姿はまさに黄金の塔そのもの。その頭頂部には白いホイップクリームが乗せられ視覚的な甘さをより引き立てる。
セルピルとついてきたセロはそれを見て思わず涎が口から溢れそうなほど求めてしまっていた。見ると、その黄金のパンケーキを注文していたのはセヘルとルトフィーで、二人は仲良く均等に一番上のホイップが乗ったパンケーキを分け合っていた。
店に入り、先に店に入っていた二人もセルピルたちのことに気付き、口にパンケーキを頬張りながら頭を下げて挨拶をした。店の中はセルピルたち四人とウェイトレス一人だけでガラガラだった。隣のテーブル席をセヘルたちのテーブルとつなげて席を一緒にした。
「すみません。同じパンケーキを一皿お願いします」
店員が二人の水を置くとセルピルが注文した途端、店員が大急ぎで厨房に駆けていく。どうやら、あのパンケーキは大急ぎでつくらないといけない料理らしい。セロが一口水を飲み、持ち前の積極性で話を始めた。
「へー、二人はタッシーマシティ出身なんだ」
「そうなんです。僕たちそこから旅をしまして」
「そしたら、弟が町でメレシーを見失ってしまい墓場でポケモンたちに襲われそうになって」
セロが二人に話しかけているのを見て、セルピルも話していたのを見て会話に入る。ようやく年の近い女子と話せる機会だと思いセヘルとの女子トークを楽しみにしていた。すると、セロがお腹を押さえながら席を外してトイレに入っていく。
「そういえばセルピルさん。実は、聞きたいことがありまして」
ルトフィーが手を止めて、セルピルに話しかけてくる。セヘルもセルピルの方を向いて話しかけてくる。
「実は見たんですよ。セルピルさんが港でコンテナを探っていたところを。何か探していたんですか?」
二人はニコニコとにこやかに笑顔で語ったが、セルピルはう~んとうなって思い出そうとする。なにせ、この数日あまりにも濃い日々が続いたため、その一場面のことを思い出すだけでも一苦労なのだ。そしてようやくタッシーマシティに着いた時のことを思い出した。
「思い出した。あの時、トラックでタッシーマシティの港まで送ってもらったの。で、街への道を探してたらポケモンの鳴き声が聞こえてどこにも見当たらないからコンテナの中に隠れているのかなって」
二人は、予想と違った答えが返ってきたような顔をしてお互いの顔を合わせると、ルトフィーが聞き返した。
「それで、ポケモンはいたのですか?」
「ううん。勘違いだったみたい。それに一瞬のことだったからあんまり覚えてなくて」
「本当にですか?」
セヘルが鬼気迫るようにセルピルに近づくと、セルピルは気迫に押されこくりと黙って肯定の頷きをするしかできなかった。セヘルは、「そうですか」と力が抜けるように椅子に座った。ちょうどそのタイミングでセロが戻ってきた。どうやら急に腹の調子が悪くなったようだ。
「そういえばさ。さっきポケモンたちに襲われそうになったといったけど、どうやって対処したの?メレシーがいなくなったんでしょ」
「メレシー以外にもポケモンは持っています。セヘル姉さんもポケモンを持っていますし」
その話をしていた時にようやく、皿に乗せられた黄金の塔がセルピルたちのテーブルに竣工した。まず、一番上のクリームが乗っている部分を半分に切り、一口食べてみる。すると口の中にミツハニーたちが集めた甘い蜜がパンケーキの外や中にしみ込んで舌の上がとろけるようになる。そこにホイップクリームがしつこくない程度の甘さと泡を食べているかのような優しい触感が包み込む。
続いて二枚目も取ると、下にひかれていたからか先ほどよりも蜜の甘さはしみ込んでいなかったが、パンケーキのもちもちとした触感がたまらなかった。反対の席に座っているセロが、フォークにパンケーキをさしながらセヘルたちに話しかける。
「ねぇねぇ。これ食べ終わったら、ダブルバトルしない?二人とバトルしたいし、セルピルもダブルバトル慣れていないからその練習に」
確かに、墓室で初めてダブルバトルをしたが今までのシングルバトルとはまったく感覚やタイミングが異なり、ポケモンにうまく指示を与えられなかったからいい機会だと思った。一方の当の二人は、しばらく考えていたが了承してくれた。
セルピルたちがポケモンセンターでポケモンを取りに行った後、町の入り口でダブルバトルをすることになった。まず先にセヘルが出したのは、頭部が赤く青いボディーで二本の羽のようなものがなびくポケモンアギルダーを。ルトフィーは騎士甲冑のような鋼の体に両腕にランスがついたポケモンシュバルゴを繰り出した。セルピルはニチャモを、セロはダゲキを繰り出した。
「あんまり無茶をしないようにしてね」
「シュバルゴも、ほどほどにですよ」
相手側の二人が自身のポケモンを心配しながら呼びかける。どうやらバトルはあまりしていないようだと二人は判断して、バトルが始まる。
先手を取ったのは、セヘルのアギルダーだった。アギルダーは、その俊足で瞬く間にダゲキの目の前に接近しおちょぼ口からアッシドボムを吐き出す。全身に毒々しい液体がかかりジュゥーっと焼けるような音と蒸気が体から立つ。
セルピルは、毒を放つ危険性から先にアギルダーに狙いを定め、ニチャモにニトロチャージを指示する。
「ニトロチャージ!」
炎をまとわせてアギルダーに接近するが、アギルダーの方が一歩素早くかわされた。だが、ニトロチャージはその効果が続くほど素早さを増す技。回避と攻撃の攻防は、ラウンドが増えていくごとに徐々にニチャモがその距離を詰めてくる。ついに、ニチャモの炎をまとわせた足蹴りがアギルダーの体をかすった。もう一息と思っていたセルピルだが、アギルダーにとっては致命的なことだった。
アギルダーは、粘膜で覆って乾燥を防いでいるポケモンで体が乾燥すると弱ってしまうポケモンだ。そこに、数千度のニチャモの火がなんども通り粘液が乾いてしまったのだ。そのためアギルダーの動きが徐々に鈍りついにはかするほどにまで至った。
ニチャモの炎の回し蹴りがアギルダーに襲い掛かかる。その時、一本のランスがニチャモの蹴りを受け止めた。ルトフィーのシュバルゴだ。だが、苦手な炎を受け止めたことでシュバルゴは鎧の下で苦悶の表情を浮かべる。
だが、シュバルゴは、目の前のニチャモに気を取られて、横からくるダゲキのからてチョップに気付かなかった。見た目のとは裏腹に軽い体のシュバルゴは、ダゲキのからてチョップに体をひっくり返されてしまった。
障害となったシュバルゴがいなくなり、ニチャモはアギルダーに向かってひのこを放つ。弱点であるひのこが体中に燃え盛り、慌てて体を回転させて火を消火するが、すでに体は乾燥してしまい、やけども負ってしまっていた。
「へへん。どう僕たちの連携。君たちよりも強いでしょ」
セロが挑発するような発言をしたが、年下に負けるようでは面目がたたない。だが、その言葉が引き金となり、セヘルとルトフィーは殻が割れたかのように表情が変化した。
「そういわれては我いえ、私たちとポケモンたちにとって心外です。本気でいくですよ」
「もちろんです。私たちを舐めては困ります」
セヘルとルトフィーは今までとは異なる雰囲気をまとっていた。まるでそれは、獲物を確実に仕留める暗殺者のような鋭い眼光でトレーナーの方がひるんでしまうほどだった。
「アギルダー、あまごいでやけどを治すのです」
アギルダーが空に浮かんでいる雲に向かって、口から液体を放つとその雲から雨が滴り始める。そして、アギルダーの特性うるおいボディでニトロチャージによるやけどの傷や乾燥した皮膚がみるみるうちに治り、体の潤いが戻ってくる。体が弱った中で作った即席の雨のためすぐに消えてしまったが、アギルダーの体を治すには十分だった。
「「かげぶんしん!!」」
セヘルとルトフィーが同時に唱えると、二匹はいくつもの体に分裂しているように見えるほど高速に動く。ニチャモとダゲキは、アギルダーはともかく動きの鈍かったシュバルゴまでもが分裂しているように見えるほど高速に動くとは思わず動揺してしまっている。
セルピルは、いつものハンカチを取り出して落ち着きと集中力を高める。よく見ると、アギルダーとシュバルゴはニチャモたちを取り囲むようにかげぶんしんをしている。おそらく包囲を狭ませて二匹連続で攻撃を絶え間なくするのだろうと予想した。
「ひのこを放つからダっちを伏せさせて!」
「了解。何か考えがあるんだね」
セロはいわれがままダゲキを伏せさせる。すると、ニチャモがぐるっと一回転して口からひのこを円を描くように放つ。目論見通り、かげぶんしんをしている二匹は炎に包まれてしまう。この火の中を高速で動き続けられない、それで確実に一匹は倒せると考えた。それに合わせて、セロも動く。
「動きが鈍くなっているどちらかに攻撃すればいいんだね。伏せている間にビルドアップはしているよ」
鍛え上げられた筋肉が膨張したダゲキは、修行で鍛えられた動体視力で動きを見極める。一閃。ダゲキが動きが鈍った相手に向かってかわらわりを喰らわせる。しかし、違和感がダゲキの手に起きた。鋼鉄をも割る手刀が何かによって阻まれた。その眼下では、シュバルゴが左腕にあるランスでダゲキのかわらわりを受け止めていたのだ。背後をついて、アギルダーがダゲキの背中にアシッドボムを喰らわせる。驚いたことに、アギルダーの粘液はあの炎の中全く乾いていなかった。
シュバルゴは、身を挺してひのこをアギルダーから守りまるで二匹とも燃え盛っているかのように偽装して燃え盛りながらかげぶんしんを続けていた。アギルダーはシュバルゴの動きを読みながら火をかわし続け、体の渇きを回避したのだ。
「スマートホーンで貫け!」
ルトフィーがシュバルゴに命令すると、右腕のランスをダゲキに向けて突き刺す。アシッドボムによるダメージと奇襲でよけられず。スマートホーンが直撃し、戦闘不能となる。その隙を作らずアギルダーはニチャモにアシッドボムを高速で連続して放ち反撃の動きを与えず、シュバルゴのスマートホーンでとどめを刺される。
セヘルとルトフィーは、目を瞑りながら勝ち誇りハイタッチする。アギルダーとシュバルゴは、主人たちのようにはできないがアギルダーが回転しながらシュバルゴのランスにタッチして健闘をたたえた。
あまりにも息の合った二人と二匹のコンビネーションに、セルピルたちは脱帽してしまい同じ感想を述べた。
「世の中には私たちよりすごい人がいるのね」
「だね。年下に負けるなんて初めてだ」
ポケモンたちの回復が終わったときにはすでに日が傾き。列車の出発時刻三十分前に町の人に駅舎へと送ってもらった。すでにグアバは列車に乗り込んでいて、セルピルたちが車から荷物を降ろしている時、セヘルとルトフィーが窓口で言い争っている姿があった。
「なんで!」
「どうして部屋がないのですか!」
「申し訳ございません。あいにく寝台車は全席埋まっておりまして。三等車でしたら空席がございますが」
二人の抗議に駅員はただ謝るしか対処できなかった。だが、対案に出された申し出にセヘルとルトフィーの怒りは収まらなかった。
「三等車なんてただの座席です。硬い椅子に横になれというのですか!」
「なんとかならないのですか!」
セルピルはセロの耳元で囁くと、セロは親指を立ててポケットに手を入れた。そして二人が、セヘルたちに近づく。
「セヘルほら私の切符渡すわ」
「僕の切符も」
渡したのは、博士が渡した列車の乗車券だった。二人は、渡されたものを見て驚きを通り越してしまった。
「いいんですか!?」
セヘルの反応を見てセルピルとセロはにっこりと微笑んで、セルピルが返した。
「年下に狭い座席で一晩過ごさせるのは酷でしょ。それに私たちには自転車があるし。これでファトゥラシティまで行くわ」
そういうとセルピルたちが二人に手を振って駅舎を出ようとしたとき、セヘルが呼び止めた。その手には、野球ボールほどの大きさの石があった。
「あの。これ夕日の洞窟で見つけた触ると温かくなる珍しい溶岩石です。切符のお礼にはならないですが……」
「ありがとう。もらっていくよ」
セロがそれを受け取りカバンに入れる。二人は駅舎を出て、荷物を自転車の前籠に乗せて薄暗くなる空に向かって二人は漕ぎ始める。目指すは、ファトゥラシティ。期限まであと四十五日。
薄明りも落ちて、とっぷりと夜になった列車の揺れる車内で、セヘルとルトフィーはベッドに腰かけた。ようやく気を張っていたものが取れて硬いベッドに倒れる。
「ホントあの二人いい人でしたね
姉と自称するセヘルが、隣のベッドで倒れているルトフィーに弟の部分をわざと強調して言うと、ルトフィーはムッとした。
「もう私は弟でも、ルトフィーでもないのです。演技で弟役をするなんて不服だったのですよヘレネ」
ルトフィーの特徴であった眼鏡をはずし、髪を元のショートカットに戻したポルックが反対のベッドにいるヘレネにいつもの淡々とした口調で不平を言う。
「私はこのままで姉でいたいのですが、ポルックが弟と認めないのであれば仕方ないのです。謙虚さもお姉ちゃんらしさなのです」
ヘレネもウィッグを取り外し、セヘルの特徴である腰まである長い髪からポルックと同じショートカットに戻った。
二人は同時にうなずきカバンからノートを取り出し、早速報告書の下書きの作成にかかった。まず、一番初めに書くのは、目的である監視対象の監視終了の上申と結果についてであった。ペンを執ったヘレネがポルックにこれまでの調査の振り返りをする。
「タッシーマシティでのセルピルの行動は、全くの白であるのは間違いなしですよね。荷物からも、我々に関する物は入ってなかったですし」
「まあ、裏を取ればそれはわかるのです。セルピルを見つけた作業員は白であることはもう取れてますし、あの日入ってきたトラック運転手を調べればわかることでしょう。わざわざ、セロのグラスに軽い下剤を入れてまで一人にさせたのですから」
ヘレネがこれまでのセルピルの監視のことを振り返り、とんだ気苦労だったとフッとため息をつく。
「まったく、余計な手間をかけてしまったものです。一人の監視のためにタッシーマシティからヴァディタウンまで行くことになるとは」
「しかし、ミュケーナ博士が一緒にいたのは行幸。おかげで、ヘレネのビィルタウンの任務が予想以上の成果だとあの雇われボスも褒めていましたし、それにエシリタウンの温泉にも入れ、ヴァディタウンで美味しいパンケーキを食べれましたし良い旅行になりました」
「それもそうです。おまけに、寝台車を譲ってくれたのはセルピルとセロのおかげなのです」
「しかし」
「しかしなのです」
二人はこれまた同時に、ベッドの上で隣の部屋にまで聞こえるほど喚き散らした。
「「年下にみられたとはこの上ない屈辱です!我々十三と年上なのですよ!!」」
二人が喚き散らしたことに腹を立てたのか、両隣の部屋の客がドンドンと壁を大きく叩いた。その音に反応して、二人は手で口を塞ぎ自制した。二人は目を見て、静かにしましょうとアイコンタクトで返して報告書の作成に戻る。次は、ヴァディタウンの礼拝堂のことについてだ。セルピルの監視のために立ち寄ったのだが、思わぬことに重大な出来事が発生していたので報告書に記載しなければならなかったのだ。
「ポケモンを操っていたのがフリーの構成員ということですか……」
ヘレネが、シャープペンシルのお尻の先で頭を掻きながらつぶやくと、ポルックが反論する。
「ありえないのです。見間違い……と思いたいですが、恐らく我々を騙る不逞の輩が変装しているのが可能性大なのです」
「そうなのです。あの雇われ上司がそんな大それたことをしますかね。それに捨てられた我々を拾い、ポケモンと人に争いの愚かさを教化させてくれましたフリーがそんな非道なことをするはずないのです」
二人は頷き、報告書の下書きとなるノートにこう記した。
『七月十七日。本日午中より、ヴァディタウンの礼拝堂に隣接している墓室にて大量のポケモンを操る事件が発生。原因は大型の機械によるものであり、発見者によると主犯はフリーの構成員二人と判断。対応といたしまして、フリーアニヤ地方支社に事の詳細に相違がないか調査するとともにオリント地方本部に報告する次第である。もし外部による妨害であるなら調査を検討することを提言する』
ポルックは大体こんなものだろうと、ヘレネが書いたノートを確認すると、ヘレネのベッドに横になる。ヘレネは、迷惑そうな顔一つもせずにポルックの頭をなでながら昼のバトルのことを話し始める。
「しかし、怪しまれないためとはいえ、バトルさせちゃいましたねポルック」
「ええ。ポケモンに申し訳ないのです。しかし、アギルダーもシュバルゴもなんだか満足そうな顔をしていたのです」
しかし、それは二人もポケモンと同じ感情を内に秘めていた。だが二人ともバトルで満足するなんてと心から湧き出る感情を自制しながら同じベッドで横になる。夜汽車は多くの乗客を乗せながら、暗闇を走り抜ける。