ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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読みやすくするために改行使いました。


第三十一話『ファトゥラジム 怨霊使いの導師グアバ』

 朝日がとっくに昇った時刻。セルピルの朝はイワンにベッドから体を持ち上げられる時から始まる。暴走族と一番過ごした翌日の夜にファトゥラシティへ到着したセルピルたちは、一日中自転車をこいでいて疲労困憊となっていたためポケモンセンターで早めに寝てジム戦を挑むことにしたのだ。

 朝の洗顔も終えて、セルピルがセロのいる部屋をノックしてみるが全く返事がない。時刻は九時前。予定では八時前に起きるはずが完全に寝坊してしまった。

 先に出て行ってしまったのだろうかと、ポケモンセンターの受付に下りるとジョーイさんがセルピルを呼び止めた。

 

「セルピルさん。あなたにセロ君からお手紙預かっているわ」

 

 渡された紙は、急いで書いた様子の筆跡で書かれていた。

 

『セルピルへ、もう遅いから先にジムに行ってバッジゲットしてくるね。場所はわかる?地図もジョーイさんに渡してくれるように頼んだから早く来てね。セロより P.S.最近ポケモンの行方不明が起きているから気をつけてね』

 

 確かに、ジョーイさんから受け取った手紙のほかに、ジムへの行き方が記されたパンフレットも渡されていた。

 

「ジョーイさん。ポケモンの行方不明って本当ですか?」

 

「ええ。少し前から手持ちのポケモンが行方不明になる話は聞いていたのだけど、最近その件数が増えてきたのよ。名前の入った首輪をしているポケモンまでもいなくなっているから誘拐の線が濃厚だって警察の人が言っているわ。セルピルさんも十分気を付けてね」

 

 そう言われて。セルピルはポケモンたちが入ったポーチのチャックが閉まっているか確認して、ポーチを見えやすい体の前の方に動かした。

 

 久しぶりのファトゥラシティは、週末の金曜日ともあってビジネスマンの往来が多く、やや混雑していた。ポケモンセンターの前の大通りでもその混雑が見えたので、徒歩でジムに行こうとしたが悪手だった。

 都会特有の車の多さから出る排気ガスとコンクリートによる照り返しによるヒートアイランド現象で他の町よりも数度も気温が上昇し、汗ばんでいた。セルピルは早くクーラーの利いたジムにたどり着くために足取りを早くするが、人ごみの多さでなかなか先に進めない。

 ようやく、ジムの前に着いたときは服が汗で引っ付いていた。ジムは、すぐそばに公園があり車の往来も少なくほんの少しだけ涼しく感じられた。ジムは前回とは違い開かれていて中に人が入っていく姿もあった。セルピルも半円の形のしたジムの入り口に入っていく。

 

「ようこそ。本日はどのようなご用件でいらっしゃいましたか?」

 

 セルピルは入ってすぐにいた受付の男性の言葉に不思議がった。ここはポケモンジムのはず。なのに、どうしてどのようなご用件という言葉が飛び出したのか理解できなかったのだ。ジムの場所は間違いなくここだった。セルピルは、受付にここは本当にジムなのか問い合わせる。

 

「あの、ここはポケモンジムですよね?」

 

「はい、ここはポケモンジムでもあり礼拝堂でもあるのですよ。今日は平日なので参拝客も少ないのですが。今朝も一番に来られました人も同じことをおっしゃてましたよ」

 

 恐らく、セロのことだとわかった。とにかく、礼拝堂には用はないのでジムの方に案内してもらうように言うと、案内係がセルピルをジムの方へと連れて行った。

 ジムへの通路は、香の匂いが漂っていた。スヨルタウンで見かけたお香が通路の壁に置かれていて、そこからさまざまな匂いの煙を吐き出していた。案内係が、案内がてらに説明する。

 

「ここでは、スヨルタウンで買い付けたおこうを焚いているのです。本日は金曜日と人々の疲れが一番溜まる曜日ですのできよめのおこうです休日前に厄を払いのけるという意味を込めましてね」

 

「毎日おこうは替えているのですか?」

 

「はい。水曜日はさざなみのおこうと曜日に合わせまして替えています。おこうの匂いが好きな人が多くてスヨルタウンまで買いに行く人が多いのです」

 

 なるほど、スヨルタウンのお祭りでファトゥラシティの人が多いわけが分かった。そして、次の角を曲がるとそこは見事な装飾が施されたドーム状の天井があり、その下はタイルで敷き詰められたバトルフィールドがあった。奥の祭壇の上にはゴーストポケモンの姿が描かれたステンドグラスがあり、いくつものガラス窓が光を取り込んでいて、まるでヴァディタウンの礼拝堂のように幻想的であった。

 その中で敷設されたバトルフィールドでは、グアバとセロがジムバトルを繰り広げられていた。グアバはゲンガーを、セロはラッタを繰り出していた。バトルの様子を見届けるために、セルピルは観客席でバトルの推移を見ることにした。

 

「シャドーボール!」

 

「ラっち!かわしてかみくだく!」

 

 ゲンガーが黒い塊をいくつも打ち出すが、ラッタはそれを俊足の脚でかわしゲンガーに迫りむき出しの前歯でかみくだく攻撃をする。

 

「甘い!ふいうちだ!」

 

 グアバは狙いすましていて、ふいうちによるカウンターパンチをラッタに喰らわせた。パンチが頬に突き刺さり床に撃ち伏せられると思われた。

 

「構うな!一気にいけっ!!」

 

 だが、セロの言葉にラッタは態勢を直してゲンガーの手に文字通り食らいついた。そして、そこからかみくだく攻撃を開始する。弱点である悪タイプ技に喘ぎ苦しむゲンガーが振りほどこうとするが、一度くらいついた獲物をラッタは離さない。

 そして、ゲンガーが無理やりにでも引きはがそうと、自らの体ごと倒してラッタを床に叩きこむがラッタの姿はもうなかった。すでにラッタは、腕から離れ、ゲンガーにとどめを刺すために飛び上がっていたのだ。そして、ゲンガーの頭に止めのかみくだく攻撃を喰らわせるとゲンガーはバランスを崩し勝負あった。

 

「勝者。セロ選手!」

 

 審判がセロの勝利宣言をすると、勝利者はラッタと抱擁しラッタも鼻の先でセロの体をこすりつけて抱擁に答えた。グアバは被っていたトルコ帽を脱帽してゲンガーをボールに戻した。

 途中からの観戦であったが、セロの勝利を祝いセルピルはパチパチと拍手を送った。それに気づいたセロが、セルピルがいる客席に向かってブイサインを出した。

 

「セルピル。やっと起きたんだ。どう?僕たちのバトル」

 

「最後のほうだけだったけど。見事だったわよ」

 

 そう返すとセロは、もう片方の手もブイサインをつくりセルピルに向けて見せた。

 グアバが、ジムトレーナーにポケモンたちを預けてセロの所へ向かう。セロに勝者の証であるスピリットバッジを渡した。

 バッジを受け取ったセロは、いの一番にセルピルに怪しく光る紫色のバッジを見せつけた。自慢だろうかそれとも早くバッジをゲットしようよという意味なのかはっきり分からないが、セロのことだろうから両方の意味が含まれているのだろうと思った。

 

「それともう一つ渡したいものがある」

 

 先ほどのジムトレーナーとは別の人が紫色の布を持ってきた。グアバがそれを持つと、向こうが透けて見えたが少し動かすと今度は向こう側が見えなくなったしまった不思議な布だった。

 

「れいかいの布だ。君のヨマワルに持たせておくとよいだろう。それを持たせておけばヨノワールに進化するぞ」」

 

「ありがとうございます。これで、ワマっちがヨノワールになれるんだ」

 

 セロは、新しいおもちゃも買ってもらったかのようにウキウキしたが、グアバはその濃いあごひげをさすりながらセロを睨んだ。

 

「簡単ではないぞ。ポケモンとの絆だけではヨノワールに進化できぬぞ。さて、次の挑戦者は……」

 

 その鋭い眼光が、客席にいたセルピルの方を睨んだ。ヴァディタウンの時とは全く異なるそれに気づいたセルピルは、まるで見えない冷たい矢に撃たれたかのようにゾクリとした。

 恐怖に似た焦燥に駆られすくりと席から立ち上がり、セロと入れ替わりにバトルフィールドに入っていく。だが、バトルはすぐに始まらなかった。

 

「しばし待たれよ」

 

 そういうとグアバは、三つのボールをヒトモシ型のろうそくで灯された祭壇の前に置いた後、両ひざを屈め両腕を天に向けるとそのまま体を祭壇の前に倒して拝んでいた。その際、耳慣れない言葉を早口で呪文のように言っているためセルピルの耳では聞き取れなかった。

 

「グアバさんは、試合の前はああやってあの方角にあるアッラー山に祀られているポケモンに祈りを捧げているのです。祀られているポケモンは、アニヤ地方の大地をつくったといわれています」

 

 グアバのしている儀式を解説したのは、先ほどまでセロの試合の審判をして、一週間前にセルピルを門前払いにした男だった。

 

「グアバさんは厳格な導師で副業の司祭業も評判よいのです。ただ、ジム公式戦は必ず自分でやらなければならないという信念から副リーダーである私にジム戦はさせないようにしています。この前は本当に申し訳ありません」

 

 副ジムリーダーが謝罪すると、まもなくジム戦だというのにセルピルは急に謝れてしまい判断に困った。そして、グアバが祈りの言葉を終えると、祭壇に置かれていたボールを手に取りセルピルの方へと向き直った。

 

「さて、始めようかセルピル。ジハード(聖戦)の始まりだ!」

 

 ジム公式戦に則り、グアバが先にオーロットを繰り出した。オーロットは枯れ木のような姿で空いた穴から一つ目がのぞきだしてまさしくゴーストポケモンという雰囲気を醸し出していた。セルピルは、木の姿から草タイプも含まれていると判断してニチャモをバトルに出す。

 お互いのポケモンが場に出て副ジムリーダーである審判が試合開始の宣言をする。

 

「それでは、ジムリーダーグアバと挑戦者セルピル選手によるジム公式戦始め!」

 

 試合が始まると、わずかな差でオーロットが巨木の腕から先制のシャド―クローを繰り出す。ニチャモは直撃を避けるが、オーロットの影から生み出された爪がニチャモの左腕に傷を負わせた。

 

「ニトロチャージよ!」

 

 反撃に出るために、ニチャモは体に炎を纏わせるためニトロチャージを発動させる。ハサンは、ニチャモの体が完全に火で纏われる前にオーロットにやどりぎのタネを放つように命令する。

 ニチャモは、タネをかわしながら体に火を纏わせて接近する。オーロットは頭上からやどりぎのタネを放出させ、シャドークローを両腕から遠隔攻撃をして近づけさせないようにするが、速度を上昇させるニチャモには全く当たらなかった。

 そして、ニチャモのニトロチャージが炸裂するとなった瞬間。グアバはニチャモに向けて不吉な言葉を放つ。

 

「呪われよ」

 

 弱点の炎攻撃が当たり、体の樹木がオーロットの足の先まで引火し始めると、審判が一時中断のサインを出してオーロットの消火活動に当たる。すでに審判の判断によりオーロットは戦闘不能の状態になったのだ。

 消火器で燃え広がっていた火が鎮火すると、グアバはオーロットをボールに戻して、新たなポケモンを繰り出した。そのポケモンは気球のような紫色の体をしたフワライドだった。

 

「フワライドはたしかゴーストと飛行タイプ。ニトロチャージの速度上昇を維持したいし、このままいこう」

 

 セルピルがニチャモの続投を決断した後、バトルが再開される。ニトロチャージで速度が上がっているニチャモは、その速さを活かしてフワライドに接近する。

 

「あやしいかぜで吹き飛ばせ!」

 

 フワライドが左右の羽を大きく羽ばたかせて、風を送った。トレーナーポジションにいるセルピルにもその風が届き、その感覚は嫌に生暖かく湿っていて背後に何かいると錯覚を起こしブルリと背筋が凍った。ニチャモも同じ感覚であり、動きを止めてしまった。

 

「フワライド、かぜおこしで移動せよ」

 

 フワライドは、先ほど起こした風とは異なる強い風を周囲に起こすとその場でふわふわと浮いていたフワライドの体がフィールドの上空を舞った。フワライドの移動手段は風に乗って移動するのが特徴である。風が吹かないときでも自力でかぜおこしを使って移動するのだ。

 セルピルはフワライドが気流に乗りきる前に撃ち落とそうとニチャモにひのこを命じるが、ニチャモの様子がおかしいことに気付く。ニチャモはゼーゼーとフワライドが起こしたかぜおこしで息が上がっていたのだ。

 

「なんで?ニチャモは格闘タイプもあるけどかぜおこし程度じゃあそこまで体力を削られないはずじゃ」

 

 あまりにも不可思議すぎてセルピルが理解できなかったのを観客席にいたセロが叫んで説明した。

 

「もりののろいだよ!それでニチャモに草タイプが追加されたんだ!」

 

 もりののろい。オーロットのみが使え、相手のポケモンに草タイプを付与させる技だ。オーロットがニトロチャージの攻撃を喰らう直前にニチャモにのろいをかけたのだ。飛行タイプに弱い草と格闘が合わさり四倍弱点となったことで体力が通常よりも減る原因となったのだ。

 審判に客席からのアドバイスは禁止と注意されながらも教えてくれたセロに感謝したセルピルだが、もりののろいを解除する方法が見つかったわけではないのだ。ニチャモは気力を振り絞って上昇していくフワライドに向けてひのこを放つが、フワライドにはあたらずあっという間にひのこが届かない所まで到達してしまった。

 

「そんなに燃やしたいのか?ではフワライド、点火せよ!」

 

 グアバがそういうと、フワライドの体から赤く燃えるような玉のようなものが映った。すると、フワライドはさらに上昇しついにはドームの天井の所まで行きついてしまった。

 

「事前にかえんだまを仕込んで点火させたのだ。ききゅうポケモンフワライドの特性はねつぼうそう。体の中に火が入ると温かい空気でより上にへと上昇するだけでなく火力も上昇する」

 

 セルピルは絶句した。遥か天井高くまで飛んでしまっては、もはやどんな攻撃も届かないのだから。そして、フワライドが両羽から黒い塊を形成してニチャモに向けて射出する。ねつぼうそうにより火力が上昇したシャドーボールにニチャモは耐えきれず戦闘不能となった。

 セルピルは苦虫を食い潰したようにニチャモを戻した。ニチャモが負けたことよりも問題は、天井高く飛んだフワライドをどうやって攻撃を当てるのかが問題であったのだ。

セルピルは、ポケットからハンカチを取り出してアロマを着けて精神を落ち着かせて考える。周りにはすでにおこうが焚かれているがセルピルにはこの匂いが一番の好みであった。

フワライドに対抗できるポケモンはセルピルの手持ちにいるにはいるが、果たして天高く舞う気球に届くか不安であった。

 

「賭けてみるしかないわ」

 

 セルピルはポーチからイワンを繰り出した。特性ノーガードを持ち飛行タイプに有効な岩タイプと絶好の相性ではあるもののそれは図鑑上でのこと。目測でも五メートルもある所にいるフワライドに攻撃が当たるか疑問であった。だが、当のイワンは天井のドームの中で体を跳ね返らせているフワライドを凝視していた。

 

「イワン、いわおとしでフワライドに攻撃して!」

 

 イワンは命令通りに地面のタイルを破壊して小さな岩をつくってフワライドに向けて投げたが、距離が遠く届かなかった。逆にフワライドのシャドーボールは地面に届き何度もイワンに当たる。

 やはり、攻撃が届かないとわかりどうすればよいか思案を始めるセルピル。だが、ドームの付近に届くための足場となるものはない。ふと、ルガルガンが壊したタイルだったがれきの上に乗っているのを見てふとあることを思いつく。そしてセルピルは審判に質問するため一時タイムを取った。

 

「すみません。客席とフィールドギリギリからの攻撃や移動は禁止されていますか?」

 

「客席からの攻撃やは禁止されているが、客席の壁なら認可されています」

 

 セルピルはタイムを解除してすぐさまイワンに命令する。

 

「イワン、岩を持って客席の壁からジャンプして!」

 

 イワンが両腕に岩を抱えて、客席の壁を足場にしてジャンプする。だが一メートルもある壁を足場にしても二メートルほどしか届かない。

 

「岩を投げて、それを足場にして!」

 

 イワンが空中に投げた岩を足場にして、それを足掛かりに飛び上がり、それでも届かなければまた岩を足場にする。フワライドはシャドーボールで迎え撃つが、イワンが投げつけた岩で相殺される。フワライドがいるドームは、地上からの攻撃には向いているが相手が向かってくる場合には逃げ場がなく、しかも降りようとかえんだまを消してもゆっくりと降りるしかできないので逃げきれない。

 イワンの投石が届く距離にまでたどり着くと、持っていた残りの岩をすべてフワライドにぶつけていわおとしをする。岩で体に小さな穴が開き、フワライドの体内にある空気が抜けていき落ちていく。その隙を逃さず特性ノーガードの本領発揮でフワライドにかみつく。

 フワライドは追撃のかみつく攻撃で戦闘不能になった。フワライドの体は柔軟で、普段空中で空気が抜けて地面に落ちても大丈夫なようにできているので落下の衝撃で重症にはならないのだ。一方のイワンは、フワライドの体に残っていた空気がクッションとなり無傷だった。

 セルピルは難しいと思われた作戦がうまくいき、イワンとハイタッチした。しかし、グアバの顔色が優れない。

 

「吾輩のフワライドが天井に到達した時点で倒されたときは全て、空を飛べるポケモンか電気タイプなどの特殊攻撃の技で倒された。だがセルピル、空を飛べず物理攻撃で倒したのは君が初めてだ。やはり君は天性の才能がある。塔の時の作戦でもそうだった。なら悪霊使いと言われる吾輩のエースヨノワールで相手しようではないか」

 

 グアバは、両手を下にしてダークボールを持つとボールの蓋が開かれる。中からは黒い霧のようなものが周囲に漂い、そこから一つ目のポケモンヨノワールが出現した。

 

「ヨノワール!シャドーパンチ!」

 

 ヨノワールのシャドーパンチがイワンの腹に当たる。だが、イワンは臆さずカウンター攻撃で反撃する。互い攻撃の反動で後ろに下がるとグアバは吼える。

 

「おにび!」

 

 ヨノワールの目が光ると、イワンの周りに青白い炎が舞い踊る。すると、イワンの赤い目がヨノワールとは別方向に向かって攻撃し始める。

 

「うそっ!?混乱!?」

 

 ヨノワールは、おにびで注意をひきつけたと同時にあやしいひかりでイワンを混乱させたのだ。セルピルは、以前セロのヨマワルで同じ現象を見ていたのでわかったのだ。

 

「イワン、右よ。右にいるわ!」

 

 セルピルは、イワンを誘導するが今度はセルピルの方を向いて攻撃し始める。今度は左というと、イワンは右側を向いた。

 ヨノワールは、こぶしから黒い塊を形成しつつあった。セルピルは、シャドーボールが来ると見て、後ろに下がるように命令するが、イワンは前に動く。混乱で全く()()()()を取るイワンに頭を悩ませる。

 

「シャドーボール。発射!」

 

 ヨノワールが特大のシャドーボールを発射し、イワンに直撃しようとする。

 

「イワン!()()()()!」

 

 セルピルの命令がイワンの耳に届くと、イワンは逆に飛び上がりシャドーボールをかわした。狙いどうりだった。セルピルはあえて()()()()を下したのだ。今までの動きを見て、イワンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とわかったのだ。

 

「そのまま後ろに下がって!」

 

 今度は()()()()()()()()前方向に動く。そしてヨノワールにかみつく攻撃をする。

 

「ヨノワワワワワ!!」

 

 ヨノワールは引きはがそうとシャドーパンチを連続でイワンに打ち込む。

 

「ワン!」

 

 シャドーパンチの衝撃でイワンが目覚め吼えると、そのお返しと言わんばかりに今まで受けたダメージの倍以上のカウンターを喰らわせる。

 グアバはトルコ帽を取りヨノワールをボールに戻すと、セルピルとイワンに向かって礼をした。

 

「見事なだった。この者たちに幸あれ」

 

 そして、審判がセルピルの勝利の宣言をする。

 

 ジム戦の後、近くのハンバーガーショップでセルピルとセロは、モモンの実のジュースが入ったコップを手に取っていた。お互いの健闘を称えるのとジムバッジゲットの乾杯をした。

 

「セルピル、二個目のジムバッジゲットおめでとう!」

 

「セロも初めてのバッジ獲得おめでとう!」

 

 お互いのガラスのコップを打ち付けてチンッという軽い音で鳴らた。セロはグラスいっぱいに入っていたジュースを飲み干し、セルピルは四分の一ぐらいまで飲んだ。二人はそれぞれ注文したチーズバーガーをほおばりながらこれからどこのジムへ行くか話し合った。

 セルピルはすでにタッシーマジムを攻略し、残りはアニヤ地方の東部にあるジムだけだった。しかし、セロはファトゥラジムだけなので西に行くか東に行くか決めなければならなかった。

 

「セロは、これからどっちに行くの?」

 

「そうだな~カリチィンシティだと列車で二日もかかるし、タッシーマシティもエシリタウンまでしか列車が通ってないから同じぐらいかかるし」

 

「でも、デミルシティまでだと道中がきついわ」

 

 セルピルがポケナビツーのマップ機能を起動して、道中の拡大図を見せた。ファトゥラシティからデミルシティへは、四番道路を通り朝日の洞窟の北側を抜け五番道路を通らなければならない。マップが示すところには、ポケモンセンターの一つもなく宿場も長い道中で一つしかないという不便な場所だ。

 しかもデミルシティは丘の上にある街で、高低差のある道を走らなければならない。いづれにしても先を急ぎたいセルピルにとってどこかでセロと別れなければならなかった。

 すると、ポケナビの画面の表示が電話の着信画面に変わりセルピルは着信を受け取る。

 

『セルピル今大丈夫?』

 

 電話の主は、ミュケーナ博士だった。電話の向こう側では、行き先案内を告げるアナウンスと車輪がレールの継ぎ目を通る音が聞こえ、博士が列車の中にいることがわかった。

 

「はい、さっきセロと一緒にファトゥラジムのバッジを手に入れたところです」

 

『あら二人ともおめでとう。実はね急なんだけど、明日、岩の旧市街の調査の手伝いに来てほしいの』

 

 また頼み事かと肩を落としたが、旧市街という聞き覚えのある言葉を頭の中を探った。セルピルは、それが一週間前に大学で聞いたことがあったのを思い出した。

 

「たしか岩の旧市街って、大学の時に話していたところですか?」

 

『そう!昨日の夜にハギス博士から、岩の旧市街の調査をするってメールが届いたの。わたくしも今列車で急いでファトゥラシティに戻っているのだけど、もし間に合わないときのことを考えてセルピルにも手伝ってほしいの。アイスだけじゃ不安だし。もちろん何かしらお礼はするわ』

 

 博士は、普段の優雅な話し方と異なり興奮気味に話していた。博士が興奮するほどその調査は待望のもののようだ。セルピルはセロの方をちらりと見た。セロは博士の助手でもないのでついてくる義務も何もない。セルピルは、助けてもらった義理があるので行かなければならずここでお別れかと思っていた。

 すると、セロがスピーカーモードにしてと頼むとセロは電話越しの博士に話しかける。

 

「僕もついて行っていいですか?」

 

『良いわよ。人手は多いほうが良いし、セロ君もわたくしの信頼できる人だし。集合場所はアニヤ大学だから』

 

 電話が切られ、ツーツーという音を残した。 

 

「いいの?調査に同行して?一番時間のかかるルートよ」

 

「平気平気。ポケモンリーグの予選は、本選の八月三十一日の二日前が最終日だし、まだ時間もあるから」

 

 それを聞いて、セルピルは顔をぐっとセロに近づけた。八月三十一日と言えば、アレクサンダーが期限に定めた日の最終日だ。セルピルの予定では、早く中央都市に入ってポケモンリーグに挑戦することを前提に急いで旅をしていたのに、その意味がなくなってしまった。

 

「えっ!?それまで、中央都市に入れないの!?」

 

「そうだよ。予選に向かう列車はその二日前と十六日前まで来ないんだよ。それに、早く()()()()宿()()も片づけないとポケモンリーグに集中できないし」

 

「しゅ、宿題?夏休みの?」

 

 セロが放ったその言葉でセルピルの体は一気に凍り、持っていたハンバーガーの中の具材がポロポロと落ちていく。

 

「えっ?もしかして、忘れたの?!先生に延期するように頼んだ?」

 

 聞くと、リーグ開催時には学校が始まっているから夏休みの提出期限を伸ばしてもらうようにセロは先生に頼んでいたようだ。旅の準備に集中しすぎて、夏休みの宿題のことをセルピルはすっかり忘れてしまっていた。

 

「どうしよう!?そうだ、セロの夏休みの宿題のプリント。まだ書いていないところコピーさせてよ。それで何とか」

 

「けど、僕の宿題半分ぐらいやっているからプリントできる枚数ないかも……」

 

 セロが見せた夏休みの宿題のプリントには、全教科の半分にあたるページが書き込まれていた。セロが性格に反して結構マメなことを知ったが、セロ残りの無記入の部分をコピーしても到底間に合わない事実を知ることになった。

 期限まであと四十二日なのだが、夏休みの宿題を期限に終わらせられないのは避けられなかった。セルピルの虚しい悲痛な叫びがハンバーガーショップに響いた。

 

「どうしよう!!」

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