ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第三十三話『企業都市デミルシティの支配者』

 ニチャモがにどげりでギギギアルに打撃を与える。だが、ギギギアルのちびギアは微動だに外れない。続けてニチャモはひのこを放ったが弱点であるはずなのに痛がる様子一つも見せない。

 ギギギアルは、ちびギアの回転を速めると赤いコアがその色を際立せる。コアから発射された閃光がニチャモに直撃し、倒れるとそのまま起き上がらなかった。

 

「勝者、ジムリーダー!」

 

 審判がジムリーダの勝利を宣言すると、ジムリーダーは口周りにたっぷりと蓄えた髭をさすりながら前に出てギギギアルの健闘をたたえた。

 

「おやまおやま。まだまだですなぁセルピルさん」

 

 惨敗だった。相手のポケモンを一匹も倒せずそれも何も手出しできないまま倒された末に、やっと最後の一体であるニチャモが、その一匹倒せることしかできないほどの敗北にセルピルは目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 岩の旧市街の大発見から一夜明け、いつものようにイワンに起こされてカーテンを開けた先に見えるのは、川を挟んだ向こうにそびえ立つ煙突からもうもうと白煙が上がる工場群の姿だった。

 ユタたちジムトレーナーから許可が降りてセルピルたちはデミルシティへ昨日の真夜中のうちに到着した。さすがに真夜中にジムは開いていなかったので、翌日に持ち越すことになった。 

 アニヤ地方の頭脳がファトゥラシティならば、心臓部はデミルシティと言われるほど企業城下町として有名なデミルシティ。近くに良質な鉄鉱石が産出される坑道があり、そこの採掘に当たっていた企業が鉄鋼の生産だけにとどまらず、自動車や新エネルギー開発にも手を広げることによりアニヤ地方を代表する巨大企業となった。

 そして稼ぎを得るために隣の町から遠くの村にまで多くの人が集まり次第にそこに人が住むようになり、将来的な環境の悪化を見越した市長とその企業の社長が協力して都市整備や企業が十分な給与と福利厚生を行ったことでスラムの形成といった貧富の格差の問題の発生を未然に防いだのだ。

 ポケモンセンターを出たセルピルとセロは街を走るバスに乗り込み、ジムへと向かった。ジムは、ジムリーダーがデミルシティを興隆させた企業の会長であるため工業地帯の中にあるというのだ。工業地帯に入ると、ゴーリキーやドテッコツといった力仕事ができるポケモンたちが人と一緒に働いてる姿をバスの窓から見ることができた。

 座席に空きがなかったため吊革につかまっていると、セロが体を傾けてセルピルの顔を覗き込んだ。

 

「ねぇセルピル。セルピルはジム戦でなんのポケモンを使うか決めた?」

「そうね。ユタさんが昨日鋼タイプのプロだって言ってたから、鋼タイプに対象の良い地面と炎と格闘タイプでいくわ」

「ということは、ニチャモとナライは確定だね。僕は、ナゲっちしかいないからどう対策するか大変だよ」

 

 セロは困り顔で、もう片方の手を吊革につかみ体をだらんとさせて口をアヒル顔にした。窓ガラスに反射して見えたセロの顔を見てセルピルは吹き出した。

 

「ぷっ。セロのその顔、まるでチョボマキみたい」

「え?…………確かにそうだぷぷぷ」

 

 窓に映った自身の顔を見てセロも吹き出しそうになり二人は笑いかけたが、他の乗客の視線が気になり始め二人は口を押えた。そして、運転手が次の停留所の名前を車内放送で通達するとセルピルはボタンを押した。

 

『次はデミルジム前。デミルジム前です』

 

 デミルジムは、バーや礼拝堂がジムであった他のジムと違い、隣に二十階建てのビルがあるぐらいで建物のつくりはシンプルで一見倉庫のような見た目であった。二人は意を決してジムの中に入ると紺のスーツを着たOL風の受付嬢が正面に待っていた。

 

「ようこそデミルジムへ。本日はジムの挑戦でございますか?」

 

 セルピルはどこか少し安心した。今までがジムの挑戦でなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったりと本当にポケモンジムかと疑問に思うほどの形式で迎えられたのだから。

 

「そうです。私と()()のセロと一緒にジム戦の申し込みに来ました」

「かしこまりました。それでは受付をいたしますのでどうぞ椅子におかけになってお待ち下さい」

 

 受付嬢に言われるがまま手続きが済むまで待つことにした二人。すると、セロが無邪気ににっこりと微笑んでセルピルの方を見た。

 

「セルピル。僕のことを()()って呼んでくれた」

 

 言われるまで気付かずセルピルはハッとした。そういえば、確かに自然とセロのことを明確に友達と呼んでいた。レイは親友だから別として、今までクラスメイトの女子に友達と軽く言っていたのだが、自分がセロに言った言葉はそんな軽い言葉でなかった。そう、セルピルは深い意味で男子に友達と初めて―――――()()()()()()()

 セルピルの頭の中で、残像のようなものが浮かび上がってきた。そうだ、自分は()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは自分が六歳でまだニチャモの頭の羽が三本あり、何かとバトルをしていた時の記憶だった。だが相手の顔も名前も思い出せない。

 

「どうしたのセルピル?」

 

 セルピルが急に黙り込んだことにセロは心配し、声をかけるとセルピルは我を取り戻した。

 

「ご、ごめん。ちょっと、ぼーっとしていたの」

「お客様。少しよろしいでしょうか」

 

 受付嬢の呼び出しがかかると二人は受付の方へと向かった。セルピルは、もうすぐジム戦だから気にしないでおこうと決めた。

 

「すみませんお客様。ジム戦なのですが」

 

 セルピルは嫌な予感がした。ファトゥラジムの時のようにジム戦ができないのでまた追い返されるのでは思ったのだ。

 

「お二人のジム公式戦の相手はジムトレーナーと副ジムリーダーの予定でしたのですが、先ほどジムリーダーであるわが社の会長が直々に相手したいというお電話がありまして。もちろん、ジム公式戦ですので、勝利した際には規定通りジムバッジを差し上げますのですが、いかがでしょうか?」

 

 それを聞いてセルピルはホッとした。セロも同意見のようであった。

 

「「お願いします!!」」

「かしこまりました。それでは、バトルフィールドの方へご案内いたします」

 

 受付嬢に案内されるがまま、二人はジムの奥にへと歩いて行った。

 バトルフィールドにまで案内されると、対戦者側のトレーナーポジションに人影があった。その人物は、青のツナギを着ていて遠くからでもわかるほどのどっしりとした体格にたっぷりと蓄えたあごひげがある大男であった。

 

「ハサンさん!?」

「おやま、久しぶりですねセルピルさん。いや挑戦者としては初めまして言ったところですかな」

 

 ジムリーダーがハサンであったことにセルピルは驚きを隠せなかった。だが、事情を知らないセロはセルピルが驚いた理由が分らなかった。先にセルピルがバトルフィールドに降り立つと、真っ先にハサンに挨拶をした。

 

「お久しぶりです。まさか、ハサンさんがジムリーダーだったとは思わなかったです。もしかして最初に出会ったときから私を試していたとか?」

「はっはっは。夏休みを取っていた時にたまたまセルピルさんと会っただけですよ。夕日の洞窟で別れた後は急いでジムに戻りましたが。なにせ、ジムリーダーが不在となりますとセルピルさんが不機嫌になりそうですからな」

 

 ハサンは孫に会ったかのような優しい口調で、セルピルの再会を喜んだ。その途中観客席にいたセロが、セルピルのいるバトルフィールドに向かって大声でバトルをするか聞いてきた。

 

「セルピル、先にバトルする?それとも僕が先にしてもいい~?」

「ごめんセロ。私が先にやるわ」

 

 ファトゥラジムでは、セロが先にバトルしたのだから順番的に自分が先行だと付け加えた後、ハサンが審判を呼び試合開始の合図をする。

 

「それでは、挑戦者セルピルとジムリーダーのハサン=ミズナラとの公式戦を行います」

「手加減なしでいきますよ。ジムリーダーとしての、そして会長としてのプライドを以てしてね!」

 

 

 

 セルピルは、気が付くと工業地帯と市街をつなぐ河原に佇んでいた。ジム戦の敗北のショックで自分がどうやってここまで来たのか覚えていなかった。セルピルは朝までの記憶を振り返ったがやはり思い出せなかった。

 セルピルは、川の上流で沈んでいく太陽を見つめながら先ほどのジム戦の反省をした。

 事前に鋼タイプだという情報は、岩の旧市街でユタが話していた通りで間違いなかった。だがジムリーダーのハサンは強すぎた。特殊攻撃で翻弄させるむーんや鋼タイプに相性の良いナライやニチャモを動員したが、倒せたのは一匹だけだった。明らかなレベルと火力不足なのは間違いない。特にニチャモのけたぐりやひのこはギギギアルにまったく歯が立たなかった。

 セルピルには二つの選択肢があった。一度デミルシティを出て次のカリチィンシティへ向かうべきか、それともここで()()留まってみんなのレベルアップに努めるかの方法があった。

 

「セルピル、ここにいた」

 

 セルピルが後ろを振り返ると、河原の上の道路にセロが立っていた。セロが斜面を滑りながら降りていくと、「探したんだよ」といつものように優しい声でセルピルに近づく。

 

「セルピル?泣いている?」

 

 セロに言われるまで気がつかず、セルピルは慌てて涙を手の甲で拭う。泣いたことなんて何時ぶりだろうというよりも、涙を見られたことへの恥ずかしさが込みあがっていた。セルピルは、取り繕い誤魔化した。

 

「泣いてない。ちょっと太陽が眩しかっただけよ」

「そうだよね。負けたら悔しいもんね」

 

 セルピルの誤魔化しを無視し、返ってきた言葉にセルピルはイラつき、意地を張りやり場のない憤りをぶつけた。

 

「泣いてないって言ってるでしょ!何よ、自分が勝ったからって、同情のつもり!?」

「僕も負けちゃった。それも一匹も倒せずにね。セルピルよりも酷い内容だよ」

 

 セルピルはその事実を聞いてすぐに口を塞いだ。セロも負けた。けど、いつものようににこやかな顔をしている。

 セルピルは知りたかった、なぜセロは完膚なきまでに負けてもそんなに笑っていられるのかを。

 

「……どうして、あんたは笑っていられるの。私は、我慢して、必死に悩んだりしているのにどうして?」

 

 セロは、両手を頭にやってう~んと唸りながら考え始めた。

 

「負け慣れしているからかな。ラーレタウンにいた頃は、いつも勝ったり負けたりしていたし、初バトルも負けちゃってたなぁ。たぶん両手の指を何回折っても数えきれないぐらいだよ。あとファトゥラシティの道中で、ダっちを捕まえようとしてみんなひん死になったりして大変だったよ」

 

 少なくとも十回以上いや二十回かもしれない。けど、セロはいつものように笑っている。自分はどうだろうかと改めて振り返る。

 自分の初バトルはいつだっただろうか。ラーレタウンを出たときか。いや勝っている。その対戦相手が目の前にいるのだから。もっと前にバトルしなかったのかと振り返ると、ジム戦前に思い出した記憶が蘇った。

 

「私の初バトルは小さい頃、多分六歳ぐらいの時に一回だけ。でも負けた記憶ないから多分勝っている。あと負けたのはエシリタウンとヴァディタウンでセヘルちゃんたちだけね」

 

 二回、二回も負けた経験はある。けど、セロに比べれば明らかに少ない。そして今日の敗北は明らかに今までのとは悔しさが体から溢れてしまっているほどのものだ。

 負ける経験。失敗の経験。そうだ朝日の洞窟でハサンに言われたではないか。()()()()()()()()()()と、けど自分は負ける経験をたくさんしてこなかった。この街に来るまでに二回しか負けてこなかったのだ。勝ちたい、負けたくないという一心で進んできたつけが今日返ってきた。セロはいくつもの()()()()()して、今日も完敗したのに今自分の目の前で無邪気に笑っている。

 セロが、一歩前に出てセルピルの横に立ち同じ方角を見つめた。

 

「僕ね、旅に出るなんて最初は考えていなかったんだ。ラーレタウンやブッスシティに何の不満も感じていなかったんだ。けどね、ある時変わったんだ。僕も外の世界へ出てみたいって憧れる人がいたんだ、ラっちがポケモンリーグでどこまで通用するのか見てみたいって思えたんだ」

「それって、どんな人?」

「えへへ、秘密。でも一緒にポケモンリーグの予選を突破したら教えてあげる」

「何よそれ。いじわる」

 

 そんなやり取りをしているうちにセルピルの涙や悔しさはどこか風と一緒に飛んで行ってしまった。そうだ、()()()()()()()()()、目の前に友達がいる。一緒に鍛えてもう一度ジムに挑戦しようと決意した。

 すると、セロがくるりと回って、セルピルの前に立つと。

 

「セルピル、修行しよう。一緒に」

 

 

「ニチャモ、かわらわり!」

 ニチャモが手刀を振り下ろし、コンクリートブロックを三つも粉々に割る。だが、師範であるダゲキは首を横に振り、模範演技をする。ダゲキは息を小さく吐くと、手刀を一気に振り下ろす。すると、積みあがっていたコンクリートブロックは数は同じだがまるで機械の裁断機で切ったかのようにぱっくりと割れていた。

 ニチャモはそれを見て唖然とするが、負けじとダゲキと同じ要領でかわらわりの習得の続きをする。

 セロの提案した修業とは、トレーナーを倒してレベルアップだけじゃダメだという。お互いのポケモンの持っている強い技を教え合おうというものであった。

 ダゲキは、ニチャモにかわらわりの技の伝授を。そのダゲキはイワンとお互いにカウンターのタイミングなどを教え合い、ナライとゴトラがハーデリアにあなをほるのやり方を教えている。

 確かに効果は中々実感できるものだった。いずれの技も、対鋼タイプに有効かつ高い威力を持つ技ばかりで、火力不足のニチャモやハーデリアにとっては良い考えだった。おかげで、あちこちにコンクリートの破片が転がり、穴は空き放題だから後始末が大変そうなことは請け負いであるが。

 そして、この場にいなかったセロが目当ての物を抱えて河原の所へと戻ってきた。

 

「セルピル、買ってきたよ技マシン」

 

 そう、これが目当ての物で決定力を補ってくれる目当ての物だった。ポケモンが自力で技を覚える範囲は意外と少なく、高威力の技も覚えるのにレベルがいる。だが、ちまちまとそれを待っている暇もない。そこでポケモンに技を教えてくる機械それが技マシンだ。

 アニヤの心臓部とも呼ばれるデミルシティだけのこともあり、技マシンの種類も()()()()()()も取り揃えていて、セルピルとセロは折半して購入した。痛い出費だが、ジムに勝つための費用となればとなけなしのお金を出したのだ。

 セルピルが説明書を読み、技マシンのCDを付属の本体にセットして ニチャモの頭の上にかざす。そして、一連の操作を終えた後、セルピルはニチャモにある技を命じる。

 

「ニチャモ、かえんほうしゃ!」

 

 ニチャモが思いっきり息を吸い込み口に溜めていたものを放出する。そこから出た炎は明らかに今までのひのことは桁違いの威力だった。その様子をセロがポケナビツーで計測すると驚くべきデータが出た。

 

「ダメだ。威力が半分しか出ていないよ。やっぱり何度か練習しないとダメみたい」

 

 そう、技マシンはあくまでやり方をインプットさせるだけで、実際に放つとなると別問題だ。もし、練習なく今のかえんほうしゃを放っても何も意味もない。きちんと練習を繰り返してものにしなければと思った。

 

「ニチャモ、もう一度――」

「あらら、こんなに散らかして」

 

 呆れた声を出しながら、コンクリートの塊だったものを踏みしめてこちらにやってくるのは、ジムトレーナーのユタだった。

 

「すみません。終わったら片づけますので」

「別に怒ってないよ。心配して来てみたらここで練習していたから、いや~熱心だこと」

 

 ユタは、色黒な肌から覗き出る白い歯を見せて腕を組み感心していた様子だった。すると、セロの目がキランと何か思いついたように光るとユタに駆け寄った。

 

「ユタさん、もし時間あったらバトルの相手してくれますか?」

「いいよ。私のレアコイルでよかったら。ジム戦の良い相手になるだろうし」

 

 セロは、良いレベルアップの相手ができたことに飛び上がり急いでダゲキとハーデリアを呼び寄せる。

 そんなセロのはしゃぐ様子をセルピルがまったく相変わらずなんだからと呆れた様子で見ていると、ユタがセルピルに近寄り耳打ちする。

 

「セルピルちゃん。もし明日ジム戦終わったらジムの横脇に来てくれないかな。ハサンさんが、君に渡したいものがあるみたいなんだ。きっと君の旅に役立つものだと思うんだ」

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