ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第三章 オリント地方とその闇編 オリント地方 
第三十六話『脱出』


 体が大きく揺さぶられて、その反動で地面とおでこがごっつんこした時セルピルは目覚めた。セルピルは、自分の手足がロープのようなもので拘束されていた。

 まだ地面は揺れていて、周囲にはコンテナが積まれていてセルピルはここは船の中だとわかった。だが、どうして自分が船内の中にいるのかわからなかった。最後の記憶もぼんやりとあいまいだったのがより拍車をかける。

 そして自分の腰についていたはずのポーチがポケモンたちごとなくなっていることに今気づく。

 なんとか脱出を試みようとコンテナの角の部分で自分を縛っている物を切ろうとするがびくともしなかった。あたりを見渡しても作業台や道具が落ちているといった都合の良いことがなかった。

 

「なんで、こんなことに……」

 

 自分は誘拐された。そして脱出できないというその事実だけが虚しくセルピルに突き刺さった。ポケナビツーもなく誰にも連絡もできない。自分はこれからどうされるのか、誰もポケモンさえも助けてくれないことに孤独さと怖さが交り合って胸が締め付けられ、体が氷漬けにされたかのようにガチガチと震えあがる。

 心臓の鼓動が早まり、自分の危機を伝えるがどうすることもできない。唯一反応したのは目は瞳を潤ませ、雹のように冷たく落ちていくものだけを出すだけだった。

 

「誰か、助けてよ。お母さん、イワン、ニチャモ、セロ、博士。……誰か」

 

 セルピルは名前を言っても誰も来ないのはわかっていた。それでも孤独さを紛らわせ、助けに来てほしいと心の底で願ったのだ。

 

「ぐぁ!?」

 

 突然、断末魔が奥の方から聞こえ、セルピルは動けない体を懸命に動かして声のした方を覗く。そこには扉があるだけで、人の倒れる姿はなかった。

 だが次の時、セルピルが見ていた扉が吹き飛び火に包まれていた。吹き飛ばした扉の奥から赤い玉のようなものがセルピルの前に転がって来た。セルピルは触れないように後ろに下がるが、その赤い玉は元の形態に戻った。

 赤い玉は、ヒヒダルマだった。ヒヒダルマは、床をドンドンと叩き興奮していた。

 

「よくやった。ヒヒダルマ」

「セ、セルピルちゃん。いますか~?」

 

 ヒヒダルマが来たところから二人の女性の声が響き渡る。一人は勝気そうな声、もう一人は弱気そうな声と声からして性格が正反対そうなものだった。自分を誘拐した人物ならば扉を破壊したりしないと判断して、セルピルは思いきって叫んだ。

 

「ここ!私、ここにいます!」

 

 すると、目の前にいたヒヒダルマがセルピルの後ろに回り、力づくでセルピルを縛っていたものを引きちぎった。

 

「さあ、とっととここから引き揚げるよ」

 

 髪をまとめた女性は急いでセルピルの手を引っ張ろうとしたときセルピルは彼女たちが誰なのか問いかけた。

 

「あの、あなたたちは誰なんですか?」

 

 セルピルの質問に、黒髪で腰ぐらいまであるほどの長髪の女性が申し訳なさそうにポケットから一枚のカードを見せた。

 

「そうよね、ごめんなさい。私はオリント地方のジムリーダーのカエデです。こちらは、ポケモンリーグの四天王で私の幼馴染のワイスです。これがジムリーダーの証明書です。ほら、ワイスも」

 

 セルピルの手を引いていた手を離し、ワイスはカエデのものと似たカードを取り出した。ひとつ異なるのは、そのカードが金色に輝いていることだ。

 

「面倒だね。ほら、これでウチらが信用できる奴だとわかっただろ。ほら立った。こんな船からおさらばしようぜ」

「それと、私のモンスターボールが入ったポーチ見かけませんでした?」

 

 二人はそれを聞いて顔を見合わせたが、良い反応がなくどうやらポケモンが奪われたことを知らなかったようだ。ワイスは、舌打ちをして扉の方へ歩いていく。

 

「敵さんも慣れているもんだ。カエデ、ウチがポケモン取り返していくからその子を先に逃げさせな」

 

 だが今度は、セルピルはワイスの服をつかんで引き留める。ワイスが自分のポケモンが見つけることができるのか不安であったのだ。

 

「待ってください!私のポケモンの特徴とかわかるのですか?私のポーチがどんなものかも知っているのですか?」

 

 ワイスは、セルピルの問いに答えられなかった。見切り発車で捜索しようとしていたようだ。

 

「ワイスちゃん、確かに本人の確認が必要だと思うわ。それに、いくらワイスちゃんでも単身で船内に乗り込むのは……」

「わーったよ。あと、他の人の前でちゃんづけすんなっつたろうカエデ。それと、あんたも今ポケモンいないんだからこいつから離れんねよ」

 

 そう言って、ワイスが投げたボールからウィンディが飛び出し、セルピルをぐるっと包み込むように守る始める。ニチャモの羽毛とは異なる柔らかい体毛の一本一本から温かい熱が伝わってくる。それは、セルピルがさっきまであった冷たく冷え切った孤独感を温めるかのようだった。

 船外に出たとき、どちらを見渡しても海面と潮風が漂うだけでセルピルはここが海の上だということを認識した。

 

「とにかく、盗られたポケモンを探そうにもこの船内を手あたり次第探さないといけないのは骨が折れるな」

 

 セルピルのポケットには、ポケナビツーが入っていなくあれのサーチ機能さえあればみんなを探せることができるのにと悔やんだ。すると、カエデがセルピルを覗き込むように体を傾けて尋ねてきた。

 

「セルピルちゃん、ポーチっていつも肌身離さず持っていたの?」

「はい、そうですが」

 

 カエデは、それを聞くとウィンディに何か耳打ちすると、自分を守っていたウィンディがスンスンとセルピルの体を鼻で匂いを嗅ぎ始めた。

 

「ウィンディちゃんに、セルピルちゃんのポーチの匂いを探るようにお願いしたんです。モンスターボールだとポケモンセンターで洗浄してしまうから匂いが落ちますから、匂いの濃いものがあってよかったです」

「こいつの主人は、ウチなんだけど」

 

 ワイスはウィンディがカエデの指示に従っていることに不服そうだった。

 

「ウィンディは、ワイスさんのいうことを聞くのですか?」

「というか、ウチ等のポケモンはお互いの言うこと聞くからね。昔っからポケモンを取り換えてはバトルしていたからその名残なんだよ」

 

 三人は、ウィンディの後をついて行きながらモンスターボールの居場所を探し始める。途中、船員に見つからないように息をひそめ隠れながら船内を捜索する。

 階段を地下二階分降りていったところで、ウィンディが立ち止まり扉を大きな手でがりがりと削り始めるのを見て、ここにセルピルのポケモンたちがいるのだなと判断して、ワイスとヒヒダルマが先頭となって扉を開ける。

 幸いにも、誰一人部屋の中にはいておらず、ワイスは安堵した。その部屋の中には、ガムテープで封された段ボールがいくつも積みあがっていた。三人はもしかしたらこの中に目的のものがあるのではとあさり始める。

 セルピルが無造作にガムテープを剥がし、跡が残るのを気にせずあさり始める。その中には、紙の資料の束が大量に入っていてその中に手を突っ込むがボールのようなものは入っていなくもう一段下の段ボールをあさる。

 そして、隣の段ボールに手をかけて開けてみるとその中には今までの段ボールと異なり、資料の束と一緒にセルピルのポーチとポケナビツーが入っていた。セルピルは慌ててポーチを開き中に入っていたモンスターボールを手にして一斉にポケモンたちを出した。 頭の毛が二本しかないニチャモ、赤い目のイワン、鼻息を鳴らすゴトラ、明後日の方向を見ているむーん、そしてあくびをしているナライと間違いなくセルピルのポケモンたちだった。

 セルピルは、ポケモンたちが見つかったことを報告しようとワイスたちに声をかけようとしたが、二人は、段ボールに入っていた資料とにらめっこしていた。そして、ワイスが手に持っている資料の束に皺ができるほど力を入れ歯を鳴らした。

 

「なんだいこりゃ、ドカリモの稼働率とその実験?」

 

 その言葉を聞いて、セルピルは仰天した。ドカリモといえば、ヴァディタウンの墓室にあった機械の名がこの段ボールの中から出てきたのだから無理もない。セルピルは、ワイスがまだ調べていない資料に手を伸ばしその中身を見る。

 資料の中身は読めない漢字や数字があちこち書き込まれていて理解できなかったが、その中にはドカリモやビィルタウンの発掘現場という文字があり、ビィルタウンでセルピルが見た機械はドカリモだという確信がついた。さらに読み進めると、今度は一番道路の製糸場やモンメンの操作という文字が出てきて目を見開いた。セルピルは、大量のモンメンたちが一斉に集まりだしたというアリーの言葉を思い出した。

 

「うそっ、一番道路のも関わってたの!?ナライだけじゃなく、むーんもドカリモに操られていたの!?」

「こいつぁ、とんでもねぇ爆弾を運んでいた船だぜ。けどこれじゃ、具体的にどいつがやったかわかんねえな」

 

 ワイスが、もっと核心をつかめるものがないか探し当てようと他の段ボールをひっくり返し始める。セルピルも、もしかしたらフリーが本当にかかわっていたのではと思いワイスと同じように段ボールをひっくり返した。すると、カエデが見つけた一束の資料を読み上げたときにセルピルの懸念は確信へと変わった。

 

「こっちのは、岩の旧市街についての報告書みたいですね。それも数日前の」

「それは、関係ないな他の資料を」

「岩の旧市街の報告書ですって!?」

 

 セルピルは思わずいつもの口調を忘れるほどの何度目の驚きの声を出した。カエデが持っていた資料をセルピルに見せると、調査の日付は間違いなくセルピルたちが行った日だった。

 

「岩の旧市街の調査は、私も同行してました!その時、岩の旧市街でフリーの姿を見ました!ハギス博士も目撃しましたし」

 

 そう岩の旧市街では、セルピル一行とファトゥラ大学の研究者たちとデミルジムのジムトレーナー、そしてフリーしかいなかったはずだ。それがセルピルを誘拐した船の中にあるということは、フリーが一連の事件の手を引いていたことになる。

 だが、どうしてそんな大事な資料を船でわざわざ輸送する必要があったのかだ。今ならパソコンで文章を送れる時代なのにとセルピルは疑問に思った。

 

「でもなんで、わざわざこんな大事な資料を船で……」

「アニヤとオリントに海底ケーブルがつないでないし、郵便はジムリーダーの監視にあるからだよ。ウチらはずっと可能性のある衛星通信を監視しまくってたけど、まったくこんな古典的方法で機密情報を運んでいたとはね。しかも他所様の船を使ってまで。たくっ、フリーって奴はどこまで姑息なんだ!」

 

 そう、この船はフリーの所有する船ではないのだ。他所の船の中にセルピルや資料を運んでいたのだ。

 

「とりあえず、資料持って甲板から逃げるよ」

 

 ワイスとカエデは、床にばら撒いていた資料を段ボールに詰め込み始めた。さすがに、量が多くなるため必要な分だけ段ボールに入れていた。

 

「そんなことして、大丈夫なんですか?勝手なことをして警察に怒られませんか?」

「今いるところは、アニヤにもオリントにも属さない海上だから私たちに事件の解決を委任されているの」

「なんせ、アニヤもオリントも隣の地方で起きた問題に介入することにビビッて管轄外だからと言って臆してんだよ。ほら出た出た」

 

 自分の荷物を手元にいれて、ワイスたちと共に段ボールを運び出すセルピル。そしてそのまま甲板に出ようとしたときだった。

 

「侵入者だ!」

 

 出会い頭に船員と鉢合わせしてしまい、見つかってしまった。船員はポケットに入れていた無線で船内に知らせ回る。ワイスとカエデは、ボールからリザードンとチルタリスを出して脱出を図ろうとするが、相手側の動きも素早く三人は囲まれてしまう。

 

「ジムリーダーと四天王さんがこんなとこにいちゃいけないよ!キングラー、クラブハンマー!」

 

 船員たちのリーダーらしき人物がキングラーを繰り出すと、チルタリスの綿あめのよな羽にラグビーボール大の大きさの鋏を叩きつけた。ドラゴンタイプであるためさほど大ダメージは受けていないが、一万馬力ものパワーがぶつけられた勢いでチルタリスは吹き飛ばされてしまう。

 他の船員たちも後に続けと、一斉にポケモンを出し始めた。

 

「ビリリ、ビリリリ」

 

 ビリリダマが十匹も姿を現し、互いがぶつからない程度に寄り添い始める。すると、体の周りに電気の塊を形成させて数珠つなぎのように増えていくエレキボールをリザードンとヒヒダルマに発射する。

 素早さが高ければ威力も上がる十匹分のエレキボールをまともに食らったリザードンとヒヒダルマは感電によるマヒを起こしていた。ワイスはヒヒダルマをボールに戻すと、目をギラつかせて八重歯をむき出しにする。

 

「いい気になんじゃねえよ。リザードン、突破するよ!メガシンカ」

 

 ワイスが叫ぶと同時に、指が光るとワイスのリザードンが一瞬輝きに包まれ、思わずセルピルは目を閉じてしまう。そしてセルピルが目を開けたときにはリザードンの姿はなく、代わりにまるで翼龍を彷彿させる体に頭に三本の角があるリザードンのような姿のポケモンがそこにいた。

 そして、そのポケモンの姿を見た船員たちは焦りの色を浮かべ、リーダー格の船員が苦虫をつぶしたような表情を浮かべて呟く。

 

「メガシンカ……だと」

 

 その一瞬の隙が生まれたときだった。キングラーに命令していたリーダーが目を離したときに、チルタリスがりゅうのまいを使い攻撃を高めると脚の爪でドラゴンクローをお見舞し、キングラーの硬い殻に傷をつけて転倒させた。

 

「リザードン、火力全開のオーバーヒートだ!!」

 

 ワイスがリザードンと呼んだポケモンに命じると、口の中に納まりきらないほどの火の塊が形成され始めると、取り囲んでいたビリリダマたちに向かって炎を放つ。その炎は、ニチャモのかえんほうしゃがチャッカマンの火に見えてしまうほど凄まじく、すべてを焼き尽くす山火事のような勢いもあるものだった。

 ポケモンが火を噴き終えると、ビリリダマたちはその特徴的な赤と白の色が分らなくなるほど真っ黒こげになり、鉄の甲板が一部溶け落ちてしまうほどの惨状が後に残った。

 セルピルは、幸いにもウィンディがセルピルの体を包み込んでいたのでオーバーヒートの巻き添えを受けずに済んだ。

 

「ワイスちゃん、今のうちよ!」

 

 カエデは、チルタリスの背中に乗り込み海上を飛んでいた。後ろには資料の入った段ボールも積み込まれていた。

 ワイスは、ウィンディをボールに戻すとセルピルをポケモンの背中に乗せる。

 

「つかまってな、リザードンの速さにビビッて落っこちるんじゃないよ!」

「このポケモンって、リザードンなのですか!?」

「そうだよ、正確にはメガリザードンYだけどな」

 

 そういってワイスも背中に飛び乗ると、メガリザードンYはその大きく鋭利な翼を羽ばたかせるとすぐに地面から浮き始め、次の瞬間には船から脱出してしまっていた。

 どんどんと、セルピルが捕まっていた船が小さくなるのを見て、その高度の高さと速さに足が震え始め下を見ないように目をぎゅっと閉じてメガリザードンYの体にしがみつく。

 

「ワイスちゃん、速すぎるよ。行き先は、ここから一番近いダーコスシティ何だからそんなに飛ばさなくても」

 

 追いかけていくカエデとチルタリスの姿は、メガリザードンYの速度に追いつけずだんだんと引き離されていく。ワイスはカエデの忠告を聞いていないのか全く速度を落とす気配を見せない。

 ワイスは風が轟と音を立てるほどの風を受けるの中、まるで自転車の走行中のように落ち着いてポケットから通信機を取り出し嬉々として通信機に向かって叫ぶ。

 

「こちら、四天王ワイス。誘拐された少女セルピルの救出成功!および、大戦果だ!!フリーの機密情報を入手!ドカリモはフリーが動かしていた!」

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