ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第三十七話『四天王・ジムリーダー緊急会議』

 デミルジムの事務所の一室で、ハサンがインカムを耳につけるとパソコンの画面上についていたチャットの音声が聞こえ始める。

 画面上には十一の画面が本来映るはずが、今の色があるのは六つだけであった。そして、中央にいる茶色髪で齢五十代で目つきが鋭く薄いクマができている女性が口を開く。

 

『集まったのは私含め七人か』

『緊急だというのに出席率が悪い。ジムリーダーとしての自覚があるのか?』

 

 そう言ったのは、数日前に修行に行ってジムを閉めていたファトゥラジムのグアバだ。自分のことを棚に上げてとハサンは言いたげだったが本題が遅くなるため黙った。

 

『カエデとワイスは、少女の救出に、他の四天王は副業が忙しくて来られないそうだ。後の二人について知っている者は』

「カリチィンジムのモミはアッラー山に異変が起きたと報告がありました」

『コキノスジムは……用があるからと言ったきりで具体的には何もです』

 

 後ろめたそうにコキノスジムのことを報告したのは、縁が太い無精ひげを生やしたマールマロジムのシャムロックだ。報告を聞くと、女性は少しため息をして会議を始めると告げた。

 

『さて、今回緊急会議を開いたのは他でもない。ついにフリーの尻尾をつかめた。誘拐された少女を救出に行った二人が、船内からの中にアニヤ地方で起きたポケモン洗脳事件の経過について書かれた資料を発見した』

『ということは、ヴァディタウンの件もやはりフリーが関わっていたということですかアザミ総帥』

 

 初めての会議という緊張からか、リヌムはうっかり四天王アザミの役職まで言ってしまった。アザミは、アニヤ地方とオリント地方の大動脈を結ぶ大鉄道オリニア鉄道グループのトップにしてポケモンリーグのリーダーとして君臨している。その人物を画面越しながらも対等に話すというのだから役職までつい言ってしまったのだろうとハサンは思った。

 アザミは、リヌムの発言に気にも留めず肯定した。

 

『そうだ、今回の会議はその報告とフリーの洗い出しの依頼。そして、誘拐された少女セルピルについてオリント地方のジムリーダーたちに保護の依頼を頼みたい』

 

 アザミは姿勢を崩さず、ズンと重い口調で言い放つ。それについて意見したのは、ミアジムのティアレだった。

 

「まず前者については、同意できる。けど、後者のセルピルって子について言うわ。ダーコスシティからオリニア鉄道に乗せてアニヤに送れないの?」

『私もポケモン協会と掛け合って上に頼んだよ。だが答えはノーだ。中央都市の金科玉条、()()()()()()()()()()()()()に抵触するから中央都市を通ってアニヤへ戻すのは不可能だ』

 

 百年前の戦争の戦火から逃れた人々が造り上げた中央都市は、終戦後も戦争を起こした両地方の人たちを信頼せず入国制限をかけた。現在もその制限があるが、アニヤとオリントの人が中央都市で盛んに交流できるのは、二つの地方と中央都市の人間を誹謗・差別しない著名人しか通さないように厳重な審査がされているためである。

 セルピルが入れないのは、普通の子供であるためだ。もし、セルピルがバッジを四つ持っていたら考慮されるかもしれなかったが三つしかないということで無下に断られたとアザミは言う。それを聞いて、ティアレはその長い髪を掻きむしる。

 

『どれだけ融通が利かないんですかね中央都市の上の人間は。誘拐された身だっていうのに、送り返すのに通らせることはしないだなんて……とにかくセルピルをコキノス島まで護衛すればいいというわけね』

『そうだ。唯一両地方の航路があるコキノス島ならばセルピルをアニヤまで護送するんだ。コキノス島までの船を上空から海の底まで徹底的だ』

 

 アザミとオリントのジムリーダー二人は、真剣な面持ちだった。一方、三人の形相にリヌムは一人困惑していた。

 

『あの、すみません。そこまで厳重にする必要はあるのですか?セルピルちゃんをコキノス島まで船で送るだけなのでは?ただの誘拐にフリーが躍起になるはずが』

『フリーを舐めてはいけないよ。あいつらは……本当に厄介なんだ。やられたらやり返すそんな奴らだ』

 

 シャムロックがリヌムの質問に答えた。その時のシャムロックの手はブルブルと小刻みに震えていた。

 

『では諸君。これで緊急会議を閉廷する各自迅速に頼むぞ』

 

 アザミが閉廷を告げると、続々と画面がブラックアウトし始める。残ったのは、アザミの画面だけであった。ハサンはまだ画面を消さずにそのままにしていた。

 

『ようやく二人っきりになれたなミズナラ会長。本日はやけに大人しかったな』

「私の街でトレーナーが誘拐され、それもフリーが地下活動していたことが明らかになったんだ。口数も減りますよ」

 

 ハサンの目は、普段のものと違いアザミと同じく鋭いものになっていた。

 

「アザミ総帥。本当にフリーを追い詰めるのですか?知っているでしょう奴らの組織力、そして底知れない資金源。オリニア鉄道の総帥と言えども貴方の命どころか一万以上の社員の命まで狙われることになるのですよ」

『それでも、今やっとつかめそうでつかめなかった尻尾が見えた。これは好機なんだ。三地方の対立を解消させるのを邪魔するフリーを倒せるんだ。そしてオリントの人たちを目覚めさせるんだフリーは善良な宗教団体ではないことを』

 

 アザミは声を震わせてハサンに語り始めた。それは四十後半とは思えないほどの純粋な信念をぶつけていた。

 

『厳重な警備でも奴らは掻い潜ってもやるだろう。アニヤのフリーとは違うポチエナとグラエナぐらいにそのしつこさは違うさ。フリーのどう猛さを目の当たりにすればオリントの人たちでも目を覚ますだろうさ』

「……!アザミ、貴方はセルピルさんを餌にするのですか!?」

『私の部下も向かわせる。奴らの思い通りにさせないさ』

 

 そういうとアザミは画面を消し、パソコンの画面には真っ黒なウィンドウが残った。ハサンはパソコンを消すと、昔のことを思い出した。それはポケモンリーグができる前、そして自分がまだ社長職に就いていた時のことだった。

 

「五年前ですか……もうそんなになりますね。そして、あの時からアザミは変わりました」

 

 

 

 十五年前、オリニア鉄道総帥になりたてのアザミが突然ハサンの下に訪れある計画を持ってきた。それは、『ポケモン協会及びポケモンリーグ共同設置案』だった。そこには当時完全に国交が断絶していたアニヤ地方とオリント地方そして中央都市の有力企業や団体による共同出資でポケモン関連の施設を整備する事業内容とその経済効果が記載されていた。

 

「アザミ総帥、これは夢物語ではないか?アニヤだけならともかくあのオリントや中央都市も巻き込む政治的大事業だぞ」

「三つの地方は団結しなければなりません!!ポケモンを治療する施設が満足になく、戦争のせいですぐに両地方の人は喧嘩して顔も合わせない。このままではダメなんです!カントーやジョウトはおろか、ポケモンリーグがまだないアローラ地方にも負けてしまいます!」

 

 十五年前のアザミは、しわも少なくエネルギッシュさが溢れていた。目はきらきらと輝き、理想に燃える闘士とはまさに彼女のことを現わしていた。

 ハサンは、当時髭のなかった顎をさすり計画書を眺めてながらアザミに尋ねた。

 

「……一つ聞きますが、オリニア鉄道のみが甘い汁を吸うということはないと言えますか?」

「ありません。むしろ、オリニア鉄道が大々的にジムリーダーたちをバックアップしますので。すでにオリント山の有志にも協力を得ています」

 

 ハサンはその団体の名を聞いたとき、この女は本気だと理解した。これを機に中央都市出身のアザミ、アニヤのハサンそしてオリントの有志であるマホガニーの三人が中心となってポケモンリーグ設置委員会が設立した。

 戦争後、一度も協力しようとしてこなかった地方同士が初めて行う事業が、ポケモンリーグ設置という大事業を行うというものだから、当然のごとくマスコミはこぞって特ダネを求め集まった。

 アザミはマスコミが求める通り特ダネを会見で披露した。それは、制限された都市と言われた中央都市をポケモンリーグの本会場とし、出身の地方のジムバッジ四つと予選突破した者はオリニア鉄道の保証の元、()()()()()()()ことを宣言したのだ。両地方を中央都市を経由しながらも、初めて一つに結ばれたという歴史的前進が行われた。

 そしてアニヤ地方はポケモン関連施設の福利重視を、オリント地方はトレーナーの育成に力を注ぐことを目標にした。

 オリニア鉄道等の企業群の支援もあり、ポケモン関連施設は充実し、人々のポケモンを所持する数が拡大し、ポケモントレーナーを志願する者たちが出てきた。アザミたちも四天王やジムリーダーを厳格な審査の下に採用して、トレーナーを迎える準備をしていた。

 そして十年前にポケモンリーグとポケモンジムが開設され、向かえた第一回ポケモンリーグは、大きな騒動もなく成功に終わった。それによって得たのは経済効果だけでなく、両地方の氷のように冷え切っていた仲が融解し始めたのだ。アザミの理念や計画は成功しつつあった。

 ポケモンリーグ設置の効果は、様々な分野で効果で始めた。郵便局長のモミの主導でオリント地方への国際便が開設され、コキノス島とタッシーマシティを結ぶ両地方を直通する船便ができ、中央都市の審査基準が下がるなど三つの地方は半国交断絶まで融和が進んだ。

 六年前には、アニヤ地方の南部にある田舎町のラーレタウンにオリント山の有志達が来訪するという蜜月の時を向かえた。

 ハサンはその頃になると年を取ったせいか性格も丸くなり、残りの余生とジムリーダーに専念するために会長職に退いた。

 だが、それがもろくも崩れ去ろうとしたのは、五年前マホガニーからの一本の電話からだった。

 

『ハサン、もう限界だ。ワシはジムを辞めるよ』

「何を言うのですか!?そもそも後任は決めているのですか?」

『ここでジムを続けるのはもう無理だ。張り紙や暴言が毎日のように続いてトレーナーたちは近づかん。もうお終いだ、フリーにはお手上げだ』

 

 五年前、フリーがオリント地方で本格的に動き出したことをきっかけにオリント地方のトレーナーの数は減るようになった。そしてオリントのトレーナー育成の象徴であったトレーナースクールが閉校にまで追い込まれる事態になった。

 そのことについて詳細を尋ねるため、オリニア鉄道本社を訪れた時ハサンが見たアザミの姿は痛々しいものだった。机に突っ伏し、机がへしゃげるかというほど拳で何度も叩きさめざめと嘆いていた。

 その頃からだろうか、彼女の目が鋭くなりクマができ始めたのは。

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