ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第三十九話『EXODUS エクゾダス』

 日が沈み、あたりが暗闇になり始めるときに二匹のポケモンは背中に人を乗せながら空中戦を繰り広げていた。

 カイリューは、ドラゴンクローでオニドリルの急降下攻撃をけん制しながらかわしていく。地球を十六時間で一周するほどの速さを持つカイリューであるが、人を乗せている場合その速度を出すことができず、しかも素人のセルピルに配慮して普段より速度を落としているためオニドリルの追撃を振り切れないでいた。

 一方のオニドリルは、人を乗せ慣れているようで二人も乗せながらも何度も上昇や急降下を繰り返し続けていた。

 一気に急降下したオニドリルは、急上昇しながらドリルくちばしをカイリューの腹目がけて突撃してくる。

 カエデは、セルピルの体をしっかり握るとカイリューを大きく傾けて回避させる。

 

「他のジムトレーナーたちは来ていないのですか!」

 

 あまりにも心臓に悪い状況が続き、セルピルはカエデに向かって叫んだ。位置を元に戻しカエデは、気流による風の音に消されないように大声で返す。

 

「空を飛ぶことができるのは私だけで、他の人たちは来れないの!」

 

「じゃあ、ワイスさんはどこへ行ったのですか?!ワイスさんに戻ってきてもらえば!」

 

「もう中央都市へ帰ってるわ。中央都市の人間は、基本的に他の地方の地面を踏むことは許されないの。あの時は、特例だったからもうこっちにはこれないの」

 

 援軍も期待できないという最悪な状況に追い打ちをかけるように、カイリューがゼーゼーという声を上げていた。船の上で放ったはかいこうせんの反動やオニドリルの猛追の反撃で疲弊しているためスタミナも落ちていた。

 オニドリルの方はというと、一日中飛べるほどのスタミナ所以か全くつかれたそぶりを見せなかった。

 前を見ると、陸地が見えてきている一歩手前でこのままカイリューが追撃を振り切ってたどり着けるか不安だった。するとカエデは、カイリューの耳に何か吹き込むとセルピルにモンスターボールを一つ渡す。そして隣にチルタリスを出してその背中に飛び乗った。

 

「セルピルちゃん、先に行ってカイリューを頼むわ。目の前の陸地にあるポケモンセンターに向かわせるように伝えてあるわ」

 

「ダーコスシティじゃないんのですか!?」

 

「そこまで持たないわ。でも必ずそこのポケモンセンターに迎えを出すようにするから!」

 

 そういうと、チルタリスは口からりゅうのいぶきをオニドリルに向かって吐き出し注意を引き付ける。

 

「リュウ!」

 

 そして、カイリューが一つ鳴き声を上げると、先ほどよりも明らかに速度を上げて陸に向かっていく。

 その速度は、ワイスのメガリザードンYよりも超えるほどでセルピルは、気流で流れてくる冷たい風で目が開くことができないほどの速度に圧倒されそうになるが、ここで吹き飛ばされては元も子もないと必死でカイリューにしがみついた。

 一分ほどしがみついたぐらいの時、カイリューの速度が下がったのを感じ目を開けると、陸地が眼下にあり木々や建物が見える位置まで来たのだった。

 そのままカイリューは、飛行機が降下するように高度を下げて赤い屋根の建物の横に胴体を地面に滑らすように着陸させた。

 セルピルがカイリューの背中から降りるとカイリューは、立ち上がるほどができないほど疲弊していて口から舌を出しながら呼吸をしていた。セルピルはすぐさまカエデから渡されたモンスターボールにカイリューを入れると、隣の赤い屋根の建物――ポケモンセンターに入っていった。

 ポケモンセンターに入ると、先に入っていった利用者たちが一斉にセルピルの方を眺めいる。カイリューがポケモンセンターに緊急着陸させたトレーナーだと思われているのだなとセルピルは見られていることを感じ取りながらもカイリューやデミルジムのあとからずっと治療していないセルピルのポケモンたちを治すためジョーイさんのもとへ走った。

 

「ジョーイさん、ポケモンたちの治療をお願いします」

 

「はい、それでは簡易治療をご希望ですか?それとも全体治療をご希望ですか?」

 

 セルピルは、色々ありすぎたことで頭が回らず、全体治療をお願いした。ついでに宿泊も希望し、ようやく一息つける場所も得ることができた。

 部屋に入ったセルピルはシャワーを浴びることすらままなく、ベッドの上に大の字になって横になる。久しぶりのベッドに入ったセルピルは目を瞑ろうとするが、ふと窓からフリーが隠れていないか気になり窓を開けてあたりを見渡して安全を確認したのちにブラインドを下げた。

 これで安心して眠りにつこうとするが、今度は通路から聞こえる他の利用者の足音が気になり始め、何度もドアを開けて通路を見てカギがしっかり閉まっているかチェックした。

 今度こそと思った時、また窓の方が気になり始め開けては確認して閉めベッドに横になる。それを経ると今度はドアの方が気になりドアを開けては閉めるという作業を繰り返した。ふと時計を見ると、短針が深夜を告げていて、自分がとんでもない行動をしていることにセルピルは()()()()()()()()()()()()()ことを理解した。

 セルピルはベッドの中に入るが、備え付けられた机の下にいるのではないかという不安からどうしても眠りにつけなかった。

「怖いよ、ポケモンセンターにいるはずなのに、なんで怖いと思えるの?」

 自分でも理解できない見えない恐怖に手が震え始め、震えを止めるために布団にくるまるがそれでも止まらなかった。

 

 

 

 結局セルピルは見えない敵に怯えながら一睡することもできず朝を迎えた。

 朝の生活用具は備えてあった使い捨ての歯磨きセットを使用して朝の洗顔を済ませてポケモンセンターの受付に下りていく。受付ではジョーイさんがセルピルのポケモンたちが入ったボールを抱えて待っていた。

 

「昨日はお騒がせしましてすみませんでした」

 

「いえいえ。大急ぎで来られる人はいますので。カイリューはきちんと預からせておきますので」

 

 カイリューは、未だに体力が戻っていなくカエデがここを訪れるまでここのポケモンセンター預かることになった。

 セルピルはポーチから財布を取り出して支払いを済ませようとした。幸いにも、手持ちのお金は取られておらず四日分の宿泊代と食費が残っていた。

 

「それではお会計が、宿泊費を含めて一万円となります」

 

 ジョーイさんが普段と変わらない口調の中に衝撃的な言葉がありセルピルは一瞬手が止まった。そして財布を力なく落としかけてしまいそうになり、慌てて宙に落ちかけた財布を拾い上げる。

 セルピルは、改めてジョーイさんが言った金額を頭の中で復唱してそれが間違いないことを確認するためにジョーイさんにわなわなと震えながら問いかける。

 

「あ、あの。私トレーナーカードを提示しましたよね。そ、それでこの金額なんですか!?」

 

「そうですよ。トレーナー割引を適用しまして、宿泊費とポケモン六匹の全体治療も含めました金額がこちらとなります」

 

 ジョーイさんが見せた金額明細には、事細かに内訳が記載されていた。その中で六割を占めていたのは全体治療という項目で六匹でこの金額なので、一匹につき千円である。もし簡易治療ならば先ほどの金額の三割引きだと言われたが、それでもセルピルにとって高額な金額だ。

 セルピルの財布には、大きいお札が二枚しか残っていなかった。残りの片方を払ってしまったらあっという間に貧乏生活送りになってしまう。すると、ジョーイさんが伝えた料金の内訳をもう一度思い出すと、セルピルは恐る恐る尋ねた。

 

「食事代は……」

 

「別途料金ですよ。ポケモンのも含めまして」

 

 セルピルは金という生命線の重さに耐えきれなくなり、危うく倒れかけた。

 

 

 

 フードコートの料金は外のレストランと金額が変わらないこともあり、少しでも節約しようと併設されているフレンドリィショップで朝食や持ち物の大半がデミルシティにあるのである程度の物を買い足そうと足を運んだセルピルであったが、ここでも頭を悩ませた。

 ショップには、アクセサリー類やポケモンの衣服や小雑貨が多く並べられている一方で、回復や異常状態を治す部類のものがほとんど置いていなかったのだ。

 驚くべきことに、一番安いはずのきずぐすりがひとつ六百円と()()()()()()()()()()()で売られていることに、セルピルは目が飛び出した。食品類がアニヤと比較してもほとんど変わらない値段であるにも拍車をかけて異様に高いと感じた。

 

「どうしよう、こんなに高かったら何かあったときに困るじゃない」

 

「もしよろしくて?貴方、昨日ここにカイリューちゃんが着陸した様子ご覧になりました?」

 

 ちいさな真珠のイヤリングやネックレスを飾り、深い青の服をまとったふくよかな体型の中高年の女性がセルピルを呼び止めた。当の本人であるもののセルピルは自分を連れ去ろうとした輩かと警戒し、あくまで女性が言うように目撃した人物として肯定した。

 すると女性は手をパンと叩いて何か好奇なものを見つけたかのような目をした。

 

「やっぱり、私その時の様子見れなかったのよ。その時の話聞かせてもらえるかしら。お礼と言っては何だけど朝食を分けてあげるわ」

 

 女性が腕にぶら下げていたバスケットの蓋を少し開けると、そこから食欲をそそる香ばしい肉と木の実の香りが漂い昨日から何も食べていないセルピルの脳を刺激するには十分だった。

 

 

 

 女性の名はダイナと言い、その人に連れられてきた場所は円形状の劇場であった。階段状の観客席の一番下には司会の人たちが何かの最終調整をしている様子だった。

 屋根もない劇場でアニヤよりも暑い太陽の下で、セルピルはダイナが持ってきた朝食を無作法に頬張りながら、自分のことだと知られないように包み隠して話していた。

 

「ということはまだあのカイリューちゃんはポケモンセンターで休んでいるのね」

 

「は、はい。そうみたいなんです」

 

 セルピルがパンにはさまれたオリント風グラタンをもう一枚手に取ったときアナウンスが流れ始める。

 

『それでは、ポケモンコンテストを開催いたします!』

 

 視界がアナウンスすると同時に、劇場にいた人たちは一斉に拍手が湧きあがった。

 ポケモンコンテストは、ポケモンたちが服を着飾りコーディネーターと共に技によるパフォーマンスを競い合う競技であることをセルピルは自宅のテレビで何度か目にしたことがあったが生を見るのは初めてだった。

 初めに舞台から出てきたスレンダー女性がボールを天高く投げると、開いたボールからシャボン玉が一斉に吹き出しその中からマリルリがシャボン玉に向かって水鉄砲を吹き付ける。シャボン玉は割れずに水を内包させるとそのまま自重でマリルリの耳としっぽの上に落ちていく。

 マリルリはシャボン玉を割れさせないよう、お手玉のように放り投げながら開いている手でひかりのかべをつくっていた。ひかりのかべをコーディネーターに渡すと、光の屈折で水の入ったシャボン玉が乱反射して虹色に輝く。コーディネーターが演技しながら反射角度を変えるため様々な色に変化していった。

 そして、マリルリはシャボン玉を高く空中に投げると、丸い尻尾から放たれるアクアテールでシャボン玉を噴水のように散らしてフィニッシュを迎えた。

 初めて生でポケモンコンテストを見たセルピルは思わず拍手を送るほど色めき立っていた。

 

「ポケモンコンテストを見るのは初めてなんですけど、ポケモンたちの技をこんなにきれいに出せるんですね」

 

「あら、セルピルちゃんポケモンコンテストを生で見るのは初めて?実はね、私もポケモンコンテストに何度か出場しているのよ。今のマリルリのパフォーマンスをしたコーディネーター、私の知り合いなの」

 

 ダイナがコーディネーターのほうに手を振ると、コーディネーターもそれに気づいてウインクを返した。

 

「ここ数年、ポケモンコンテストが大ブームなの。一匹のポケモンに愛情を注いで着飾って美しさを競い合うのがもうみんな楽しみでね。私のミミロルちゃんもそうなの」

 

 ダイナがボールから出したミミロルは、可愛らしい紅色のフリフリの衣装を身にまとっていた。耳の体毛についているワンポイントも幼さを引き出して、そのかわいらしさ一層引き立てる。

 セルピルがミミロルを抱き上げると、タグがちらりと見えて見てみるとカタス社という文字があり、持っているポケナビツーの販売元と同じところで、て広く手掛けているのだなと感心していた。

 

「けど、たまにね。ポケモンちゃんたちがコンテスト中にバトルしてしまうことがよくあるのよ。なんでも偉い先生が言うにはポケモンたちの()()()()が原因だというのだけどね」

 

「欲求不満って何ですか?」

 

「なんでも、バトルしていないかららしいのよ。でも、ポケモンちゃんたちの不満解消にバトルをさせるのは引けちゃうわ。それに、()()のこともあるし」

 

 セルピルがダイナにあれとは何かを聞こうとした直後だった。

 

「君、少し話があるからご同行お願いしたい」

 

 後ろから声をかけられたセルピルが振り向くと、体が身の危機を感じ足がバネブーように飛び上がって後ろに下がった。目に映ったのは白い服に襟元にFの字が刻まれたフリーの団員だった。

 

「誰が、あんたたち犯罪者について行くものですか!!」

 

 セルピルがフリーの団員に向かって放った言葉に周りがざわつき始めた。セルピルはこれで相手はうかつに近づけないだろうと思い安心したが、どこか様子がおかしかった。誰もセルピルを守ろうとしたり、警察を呼ぼうとする動きを見せなかったのだ。

 セルピルは、全く状況が呑み込めず困惑していたところに、フリーの団員たちが周囲に向かって呼びかけ始めた。

 

「皆さん、この少女はポケモンをバトルに使おうとしているのです。我々は心を痛めながらもこの少女に正しい教えに導かなければなりません!」

 

 その言葉が会場内に響くと、周囲にいた人たちの目が一斉にセルピルの方を向いた。その目はまるでへびにらみを喰らったかのように冷たく鋭い視線でセルピルはたちどころに硬直してしまった。

 そして、近くにいた数人がセルピルに、罵詈雑言の雨を浴びせた。

 

「あなた、本当なの?ポケモンをバトルさせるだなんて」

 

「恥知らずな!」

 

「大人しくフリー様に教えを請うてもらえ!」

 

 あまりにも予想外で、そして非情な現実だった。周りは誰もセルピルの味方をせずフリーの肩を持っている。見えない敵だけでなく目の前の群衆までもがセルピルの敵と化してしまった。

 セルピルは動悸が激しくなり、ダイナに助けを求めた。

 

「ダイナさん……」

 

「セルピルちゃん、悪いことは言わないわフリーさんたちについて行った方がいいわ」

 

 先ほどまで手をつないでいた者にまで突き放され、セルピルの心臓が一瞬止まった。まるで自分が悪いことをしてるのではと思わずにいられなかった。

 セルピルが止まった時を見計らい、フリーが近づいてくるのが目に入るとセルピルは震える手でポーチに手を入れる。

 

「……嫌だ、嫌だ!」

 

「クラ!」

 

 悲鳴を上げながらナライを繰り出したセルピル。それを見た群衆はより一層セルピルを非難し、フリーを応援する。

 

「ああ、親愛なるポケモンたちよ許したまえ。エテボースなげつける」

 

 フリーの団員がエテボースを繰り出して、手に持っているくっつきばりをナライになげつける攻撃をした。くっつきばりがナライに刺さり、ナライから悲鳴が上がる。しかも動くごとに痛みが続き悲鳴は止まない。

 

「ナライ、かみくだく!」

 

「お前!相手のポケモンに攻撃するなんて、それでもトレーナーか!!」

 

 セルピルは罵詈雑言の中、動悸を抑えながらナライに攻撃を指示し、ナライはエテボースの尻尾に噛みつく。だが、エテボースは大きなダメージを受けていなさそうだった。ナライの鋭く大きな顎ならば大ダメージは確実なはずとセルピルは判断していたのだがまたも予想外のことに嫌な汗が流れだした。

 その時、ナライの大顎がだんだんと小さくなり背中に四枚の羽根が生え始めた。胴体も、亀のような丸い体から細長い体に変形していった。その姿にセルピルは以前見覚えがあった、それはヴァディタウン行の列車の中で図鑑で見たビブラーバの姿だった。

 ナライが生えたばかりの羽を動かすと、脳を揺さぶるはどの超音波が会場に響き渡り、誰彼も耳を塞いで動きを止めた。だがそれはセルピルも同じことで、片頭痛のような痛みを我慢しながらナライに羽を動かすのを止めるように伝える。

 

「ナライ、いったん、止めて」

 

 だが、高速に羽を振動させるナライはまるで演奏を楽しむかのように、羽を休めることなく動かし続けていた。

 セルピルはナライをボールに戻そうと取り出そうとすると、突如、セルピルとナライの間にフーディンが現れた。フリーのポケモンかとナライに攻撃するように口を開こうとしたが、フーディンの目がギラリと光ると辺りの景色が溶けるように変形し始め。

 次の時には、まるでテレビの電源を切るかのように景色が暗転した。

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