暗転した景色がしばらく続くと、再びあたりに色が付きモザイクから鮮明な景色にへと変わり始める。足がしっかりと地面につくと、そこは石で作られた部屋の中だった。部屋は薄い照明で照らされいくつものカーテンが壁に吊り下げられていた。
セルピルは、ビブラーバに進化したナライをボールに戻した後、どこか外へ出られないかと少し奥へ行くと大人一人の体がすっぽりと入れるほどのモデルが使うような三面鏡があった。セルピルは気になってカーテンの中をちらりと覗いてみると色とりどりの衣装が掛けられていた。
『あまり衣装に触らないで、着る予定だから』
その声――にしては奇妙な声を聞いてセルピルは手を止めた。声は耳からでなく脳内に直接届くような不思議な感じがして肝を冷やした。
『フーディンの念力を通じて話しているのよ。今、案内するから』
再び不思議な声が脳に響き後ろを振り向くと、あのフーディンがいつの間にかセルピルの後ろにいた。すると、フーディンの眼が再びギラリと光ると先ほどと同じ光景で、先ほどよりもその時間はあっという間でそれは終わってしまった。
再び地面に足がつくと、セルピルの目の前の舞台にブーピッグに向かって大きな真珠の宝石を投げつける髪を束ねた女性コーディネーターの姿があった。コーディネーターは、見た目の年齢とは裏腹に若々しい動きでソフトボール大の真珠を軽々と投げると、ブーピッグはそれを額で受け取りバランスを取りながらサイコキネシスで真珠を小さく分割させる。
割れた真珠の粉がキラキラと宙を舞い照明の光と交り合い一層輝きを増す。細かくけれどちゃんと形になっている真珠が一粒一粒を、サイコキネシスでコーディネーターの回すリボンに乗せて幻想さを表現させる。
「ブービィックそれまで!」
ブービィックがサイコキネシスを止めると、コーディネーターは真珠を一粒残さず手で受け止める。
「間一髪だったわね。自分はミアジムのジムリーダーのティアレよ」
ティアレが自己紹介をし、舞台を降りるとセルピルに握手を求める。だが、セルピルはティアレの手を受け取ろうとしなかった。
「先にお尋ねします。オリント地方って一体何なんですか?」
セルピルは、眉間をひそませてティアレに向かって疑問をぶつけた。だが、その疑問が大枠過ぎてティアレは理解できず詳細を求める。
「それはどういう意味でのことかしら。土地?歴史?人?それとも、ポケモンセンターのこと?それとも、フリーについて?」
「まずは、先にそれからです。どうして、どうしてあいつらがあんなに慕われているのですか!?礼拝所でポケモンを操り、ポケモンを使って人を攻撃させるわ、誘拐される。私は被害者のはずなのにどうして私は冷たくされるのですか!?私はただ自分の身を守るためにポケモンを出しただけなのに!」
セルピルは始めは普通の調子で話し始めたが、徐々に腹の中にあった怒りが沸々と沸き上がり声を荒げ始める。ティアレはやり場のない怒りに対してただ聞くことに徹した。
「あいつらは、誘拐に洗脳とかしているに何も言われない!!それで、私がしたことは?バトルしただけ!!それで、周りから冷たい目で見られる!それも一人や二人じゃない。全員、全員ですよ!!どうなっているですか!?」
「それは、フリーが
ティアレがその事実を告げると、セルピルはまた疑問を投げ返した。
「どういうことですか」
「フリーは、五年ぐらい前からバトル敵視・廃絶を掲げて人々に布教していったの。逆らう奴は集団で罵倒し、誹謗中傷していったわ。それもジムリーダーの一人が辞めてしまうほどにね」
「そんなことをする輩なら、どうしてもっと早く押さえつけられなかったんですか!?現に私、何の理由もなく誘拐されたんですよ!ポケモンも洗脳されて!」
「
ティアレは突然舞台を拳で殴り、舞台上にいたブーピッグは突然のことに慌て片づけていた真珠をポロポロと落としてしまった。
「……ごめんなさい。ちょっと頭に血が上ったわ。そう、無理だったのよ。フリーの無尽蔵の資金源に新聞を使った宣伝。今アニヤで発行されているポケモン自由新聞がその系統ね、それで人々にバトルはしてはいけないものだって植えつけたの」
「では、二つ目。ポケモンセンターは私の故郷ではトレーナーは基本は無料のはずです。なのに、トレーナーであるにもかかわらず一匹千円もする。おまけに、きずぐすりも三倍もする。どうやってポケモンを休ませればいいのですか」
セルピルは、先ほどのティアレの咆哮に委縮して先ほどの怒りをぶちまけた口調は鳴りを潜ませていた。
「確かに、前からオリントの物価は高かった。けど、それでもいいきずぐすりで差が百円違うだけ。けど今いくらだと思う。千二百円よ」
「なんで、そんなに高くなったのですか?」
「オリントの企業がみんな出資しなくなったんだ。またもフリーの所為で。バトルを推奨する総本山のポケモン協会に協力的な企業や施設はみんなフリーの妨害で潰れたり、撤退したの。おかげでバトルに関係するグッズが売れなくなってこのありさま」
フリーのしていることを聞くと、まるでヤクザのようだとセルピルは思った。気に入らない相手を徹底的に追い詰め、洗脳し、敵対勢力を排除する。これがヤクザや悪党でないなら何だというのか。
ではバトルを禁忌しているかについても質問したが、ティアレは一切わからないという。
「最後に、オリント山ってなんですか?私をそこに連れて行ってどうなるというのですか?」
ティアレはふっとため息をついて答えた。
「カエデは何も言ってなかったのね。オリント山は、オリント地方の有志すなわち実力者たちが住む村があるの。彼らは、フリーに恨みがあるから奴らに協力しないし、あいつらも迂闊に入ってこれない。いわばオリント地方で一番セルピルの安全が確保される場所よ」
「じゃあ、なんであの場所からオリント山へ飛ばしてくれなかったのですか?」
「場所をイメージするのに場所が遠ければ遠いほど体力や精神が必要だから、しばらくしたらまたフーディンと私でリンクさせて」
ティアレが最後まで言い終える前に壁にかかっていた受話器がコールを鳴らしていた。ティアレが、受話器を取ると顔がだんだんと渋い顔つきになっていった。
「なんですって?奴らが来ているの?」
奴らという単語にセルピルは悪寒を感じた。自分の予想が本当であるか確かめるため、近くの窓から覗き込み、姿が見られないように少しだけ顔を出す。
そこにはミアシティの全景が広がっていた。セルピルがいるミアジムの建物の周りは湖で囲まれ、向こう岸には白い屋根の家々が軒を連ねていた。もし、何もなかったらそこは見晴らしの良い場所でしばらくここで景色を楽しみたいところであるが、セルピルがいる城の真下にある岸に一隻の船が桟橋につけられていた。
船から降りてきた人たちは、スーツを着ていたが、最後に下りてきたパーマをかけたような髪をした女性の服は遠くからでもわかるほどの真っ白な服を着ていてフリーの団員だとわかった。
すると体が突然浮き、自分の意志に反して窓から離れていった。そして、三度目の前の光景がぐにゃりと溶け落ちまたも別の場所へと飛ばされた。今度は全くの暗闇で、灯りの一つもない場所であった。
『しばらくそこで隠れていて』
頭に直接響くティアレの言葉通りに従うつもりのセルピルであるが、全くの暗闇でどこが前であるか後ろであるかもしかしたら上か下かすらわからないほどの状態で気が休まらなかった。
ふと、手に何か棒状の物に触れてしまい電子音が部屋にこだますると同時に目の前に明かりが現れた。明かりは、テレビによるもので先ほど触れた物はリモコンだとわかり、ようやく光が入ったことにホッとした。
映し出されていたテレビには、どこかのポケモンコンテストの様子が流れていた。実況の声から最終選考が終了したという声が流れその結果待ちのようであった。審査を待っている三人のコーディネーターたちを見ると、その中にティアレの姿があった。これが撮られていた時期もつい最近のようで今と変わらない見た目だった。
『優勝は、アドナさん!!』
別のコーディネーターが優勝し、ティアレは表情を伏せた。この時はたまたま落ちたのかとセルピルは思っていたが、次に映し出されたものと解説者の声でその様子が百八十度変わった。
『いやあティアレ選手、今回こそは優勝に返り咲くと思われていたのですがねえ。どうしてなんでしょうか?ほぼ完璧な演技でしたのに……毎回最終審査にまで来ているのに、これで
解説者の残念がる声とともに映っていたのは、協賛団体の幕だった。そこには、宗教法人
でなければ毎回最終審査にまで残り、かつて優勝もした実力者が五年も優勝を逃しているのは明らかに不自然だからだ。
すると、頭の中にティアレの声がまた響いてきた。その声は声帯で話していないため淡々とし、だがどこか怒りを抑えているような感じがしていた。
『見たのね。そう、明かな工作で多くの大会に敗退したの。バトルを通じて、技を知りそれを磨けばポケモンはもっと美しさを引き出せる。それなのに、それなのに私がジムリーダーだからという理由で……!』
セルピルはあの時の行動をようやく理解できた。ティアレはバトルもコンテストも愛していた。だが、フリーが妨害してもどちらも捨てるわけにはいかない。工作があったとしても五年もバトルもコンテストも続けてきた。あの怒りは、その愛に対して不正な行動を行っているフリーに対してとその無力さに打ちひしがていることに対してのものなのだと。
セルピルは、この人はもっと長い間耐えてきたのだと理解した。
『……もうあいつらは私が追い返したからこのままオリント山へ飛ばすわ』
横から現れたフーディンが再びその目を光らせてテレポートをさせようとした直後だった。フーディンが突然倒れこみセルピルが呼びかけようとした時、身の毛がよだつような恐ろしい波動がセルピルの全身を覆いかぶす。
「あくのはどう。そして、美しきレパルダスは気配を消して接近し、エスパータイプを封じ込める。口車に騙される無能な部下よりも十分使えることよ」
清らかに透き通るような声の中に、相手を下に見るような高圧的な声が暗闇の中から聞こえた。セルピルは、暗闇の中からなんとかニチャモを繰り出してあたりに小さな火を放って辺りを灯そうとする。放った火の明かりの中から黄色いヒョウ柄の模様が見え、そこに敵いるとわかりセルピルは指示する。
「ニチャモ、右側にいるわ!」
セルピルの指示通りにニチャモはかえんほうしゃを放ち、先ほどの模様が見えた場所を焦がす。だが、悲鳴の一つも聞こえず技は外れてしまったようだ。
「ひどいわね。人のポケモンに攻撃するなんて野蛮なこと」
背後から、ぬるりと囁くような声が耳元に届きセルピルは後ろに退き距離を取るが、そこには暗闇しかなかった。もう一度ニチャモにかえんほうしゃを命じようとしたとき、暗闇がニチャモをきりさいた。
「ほら、痛いでしょ。なのにポケモンを傷つけていいの?相手を傷つけてはいけないって教えてくれなかったの?」
再び背後から声が聞こえる。セルピルは、今度は振り向きざまに爪でひっかいてやろうと後ろに向いたが手は空を引き裂いただけであった。すると二つの光が一種輝くと、ぐらりと景色が揺れるような錯覚が起きた。
敵のポケモンの技だと判断して、セルピルがニチャモにそこに攻撃するように向いたとき血の気が引くような光景が目に入った。ニチャモの爪に何かの肉片がぶら下がり、そこから赤い液体が滴り水たまりができていた。加えてその目は虚ろで焦点があってなく口から小さな火を手あたり次第放っていた。
「ほら、御覧なさい。あなたがポケモンを傷つけるから。あなたのポケモンがこんなことになってしまったわ。あなたがそうさせたのよ」
「違う、違う、違う。ニチャモはこんなことしない。耐えろ。耐えろ。ティアレさんも我慢したんだ。私だって、私だって!!」
見えない敵の声と幻想にセルピルは正気を保とうと目の前のものを受け入れないように拒む。だが、声は壁をかいくぐりセルピルの奥底にへと入ってくる。
「認めないの?そうよね、だってあなたにとってポケモンは物。真の友人として見ていない借り物のポケモン。そんなあなたにポケモンが本当に守ってくれると思うの?だとしたらそれは――
「エルレイド!インファイト!!」
ティアレが部屋に向かって吼えると、目の前に大小の火花がちらつき乱闘しているような物音が聞こえる。
火花のようなものが消え、部屋の照明がつくと状況が明らかになった。セルピルの目の前には大きな宝石のような眼をしたヤミラミが倒れ、刃のような腕を持つエルレイドが息を切らせていた。
「流石、暴力を求める首領。やり方も物騒で嫌ですわ。レパルダス、あくのはどう」
レパルダスが毛を逆立て始めると、先ほど感じた身の毛がよだつ波動が漂い始める。
「セルピル!」
ティアレがセルピルに目をやる。隙ができているエルレイドが攻撃を喰らう前に、タイプ的に有利なニチャモに攻撃を仕掛けるのだと理解して口を開く。
「―――――」
かわらわりを命令しようとするが、まったく声が出なかった。この隙に、レパルダスがあくのはどうをエルレイドに向かって放つ。全く抵抗できなかったエルレイドは、波動による体を壁に打ち付けられる。
「――――!?」
何度も、口で攻撃技を言おうとしてもかすれ声しか出なかった。ニチャモはセルピルの急変に戸惑い右往左往していた。
「なんで……なんでできないの。どうして私のポケモンに指示を飛ばせようとできないの」
「私の?それはね……ポケモンを自分の所有物としか見れていない証拠。本当に愛があるのなら私のなんて言葉を発しますの?それに、ポケモンもあんなにおろおろとして
最後の言葉に、胃の中の物が一気に戻り始め吐き出さないように押しとどめる。だが、内容物は力に反して口にまで到達して、外にへと押し出ようとする。
「ネイティ!お願い!!」
それを見てティアレの脇から飛び出したネイティがセルピルに向かって飛び立つ。レパルダスがネイティにふいうち攻撃で阻もうとするが、体勢を立て直したエルレイドがファストガードによる守りでレパルダスを腕の刃をクロスさせて防ぐ。
そして、ネイティの目が光ると、セルピルの目の前の景色が溶け始めた。またもテレポートされどこへ飛ばされるのかわからないままセルピルは抑えていたものを押しとどめられず吐き出す。