ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第四十四話『隠棲の村 イエロスヴィレッジ』

 イエロスヴィレッジの傍にある滝。轟々とドラゴンポケモンの雄たけびにも似た音を上げて絶え間のない流水が流れ落ちる。この滝からは落ちた水は、川となりやがて流れに沿って海へと運ばれていく。アレクサンダーがあの瓶を流したのは、この滝から落としてラーレタウンに運ばれたものだった。

 

「ずっと、セルピルに逢いたくて。でも、連絡先も名前も知らなかったからずっとどうやって連絡を取るか悩んでいたんだ。そしてこの滝から出ていった先を調べてアニヤ地方に流れてわかったんだ」

 

 アレクサンダーは転落防止柵につかまりながら、セルピルに今まで自分がしてきた行動を述べていた。

 

「どれくらいやってたの?」

「三年。毎月瓶をこの滝から落としていた。でも、必要なかった。だってこうしてセルピルが来てくれたんだもの」

 

 こちらに振り向いたときに見たアレクサンダーは物憂げな顔を一掃させるように輝いた表情をしていた。セルピルは、その輝きにまるでのしかかりされたかのように押しつぶされた。セルピルは平静を装い、瓶のことを知らないふりをしてアレクサンダーに瓶のことを尋ねる。

 

「瓶にはなんて書いていたの?」

 

 そう尋ねると、アレクサンダーは再び顔を薄暗いものに変化させる。

 

「挑戦状だよ。本当は普通の手紙を送ろうとしたんだ。けど、アニヤ地方に手紙を送ろうとしたら快くない大人たちが出てきてね。内容を書き換えさせられたんだ。ひどいものだよ、しかも年々内容は相手を挑発するものになっていって。もし、あんなものがセルピルの元に届いていたらと思うと届くなって思わずにいられなかった」

 

 だが、彼の思いとは裏腹にその過激な挑戦状はセルピルの下に届いてしまっていた。本人は相手の気持ちも露知らず、自分の願望を叶える期待だと利用してしまった。しかもその挑戦状に別人の名前を使って送ってしまったことに、セルピルは空っぽのはずの胃が痛く感じた。

 一体自分がどんな人物像を描いているのかと思い、セルピルが初めて自分と出会った時どんな感じだったと問いかける。すると、アレクサンダーは照れくさそうに顔を赤らめさせて顔を伏せてると小さくもごもごと言葉を紡ぎ始める。

 

「うんと、その。純粋で優しいくて誰でも受け入れてくれる。だから、あんな挑戦状を見たら、きっと返事なんて返ってこないと思っていたんだ」

 

 自分はそんな人間でない。だが、六年前の友人が自分を未だにそんな人物だと頬を染めて告白したことに卒倒しそうになった。

 

「そ、そういえば、返事が返ってきたものはどうしたの?」

「受けたよ。だけど、今まで誰もリーグまで来なかったよ。今年も何人か挑戦者が来たけどね。一つだけ初めてラーレタウンから来たから、もしかしてこの子がと思ったんだけど違うようで安心した」

 

 アレクサンダーはどこか安心していたが、手紙を出した本人は逆の気持ちになっている。セルピルはあまりにももどかしくてよけい本当のことを言いづらくなる。もしディグダの穴があったらそこにしばらく住んで引きこもりたい気持ちになった。

 

「レキッード!!」

「うわっはっあ!!」

 

 後ろから不意に電撃が起こり、セルピルの心臓と体は宙を飛んだ。もちろんその犯人はいつもエレキッドだった。エレキッドは、セルピルの驚く姿を見てゲラゲラと笑い、おちゃらけた表情をセルピルの顔に近づける。

 

「まーた、あなたなの!?毎回のように電撃を出して驚かして、いたずらポケモンめ!」

 

 さすがにしつこいと感じたセルピルは、エレキッドを払いのけようと手をぶんぶんと振り回すが右へ左へとかわされセルピルの頬を膨らます。

 

「なんだかセルピルのことを気に入っているみたいだね。なんか、元気出してって言ってみるみたいで」

 

 それを聞いてセルピルは手を止めた。どうしてエレキッドは自分を気に入ったのだろうか?自分は、自分の鬱屈した欲望を得るためにポケモンの気持ちを察することのしなかった傲慢な人間だというのに。

 だが、エレキッドは逆に調子に乗って角から発声させた青白い電気をセルピルの指に近づけさせる。静電気の数百倍以上の電流は、静電気以上に痛みが激しくセルピルを悶えさせた。それを見た張本人はゲラゲラと笑って逃げていくを見て、セルピルはエレキッドを追いかける。

 

「君がセルピル君じゃね」

 

 背後からしわがれたで名前を呼ばれて、セルピルは動きを止めた。声をかけた人物は白髪の老人であるが、腰や背中が曲がってなくしゃんとしていて顔のしわの多さによる老齢さをあまり感じさせない印象であった。

 

「マホガニー叔父さん」

 

 マホガニーという名前、セルピルは今朝方いたあの学校にあった写真に写っていた校長兼ジムリーダーのことを思い出した。写真で見たときよりも白髪や皺も多く老けていたが、その輪郭はあの写真とほぼ変わらなかった。

 

「もしかして、下にあった学校の写真に写っていたマホガニーさんですか?」

「行ったのかねあの学校に。なら紹介は省こう、ちょっと家に来なさい」

 

 

 

 案内されたマホガニーの家の一室。部屋は整理されているが、大量のファイルや紙の束が本棚一杯に置かれ、それが部屋の四方を埋め尽くしていた。モモンジュースがセルピルの前に出されると、マホガニーは質問を始めた。

 

「さて、先ほどはゴドーに追われていたが、君はアニヤで何かフリーの癇に障るようなことをしたかな?」

「それはどういうことですか?」

「まずはワシからの質問を先に答えてくれ。でないとその質問に答えられん」

 

 まるで尋問に掛けられているような気分になったが、言われる通りにフリーに関連することを思い出し始める。融解される前にフリーと直接かかわったのは、ヴァディタウンからだ。あの時にドカリモとフリーの一団が悪事を見つけた。それから岩の旧市街の一件、あの時もフリーが何かしていたのをセロと共に邪魔した。確かに相手からすればそれは癪に障ることに思える。

 セルピルはこの二件をマホガニーに伝えると、どうも合点がいかない様子で弛んだ皺が増えていく。

 

「確かに、相手からすれば君は厄介者のように思えるな。フリーからすれば要注意人物として君を敵視する十分な原因になるのはわかる。だが二件も見逃されているとなるとやはりアニヤのフリーは不気味なほどに()()()()

「大人しいのですか?あれでも?」

「ああ、しかもそれを目撃したのは君だけではないはず、なのに直接被害を被ったのは君だけ。報告によるとミュケーナ博士らも何も妨害を受けた様子もない。こっちだったら、多くも少なくも関係なく奴らの被害を被るよ」

 

 そういうとマホガニーは手を白く薄いあごひげに手を添えるが、その手が小さく震えるのが見えた。

 

「他に、誰か幹部級を怒らせるようなことはしたかね。幹部と親しい人物ならばその線があり得る。誰かフリーの団員と直接顔を合わせたことは?」

 

 アニヤの時にいたフリーの団員をセルピルは思い出そうとするが、どの人物もあまり記憶になくほとんど覚えていなかった。だがただ一人だけ、はっきりと覚えていた。キンキン声と羽の装飾が特徴的で、ブッスシティのモールからセルピルと何度も直接顔を合わせたステンノーの顔が鮮明に浮かんだ。

 

「ステンノーという女性とは何度か会いました。そういえばヴァディタウンからファトゥラシティへの道中でその人が率いていたフリーの一団に文句を言った記憶があります」

 

 今思えば、軽率な行動をしたと思わざる得ない。あの時はフリーがそんな強大な組織だとは思わなかった過去の自分の無謀さを呪った。すると、マホガニーは何度もセルピルが挙げた人物名を復唱して、本棚を調べ始める。そして本棚からとった青いファイルをパラパラとめくると、あるページでその手を止めた。

 

「こいつだな。いやはや厄介な。アニヤでフリーの信者を最も増やしている要注意人物だ。しかも、今の地位は一般団員をまとめる司教とくる。君は司教という職によほど縁があるようだ」

 

 皮肉たっぷりにマホガニーは手に取った資料を睨みつけながらそう言う。

 

「それはどういう意味ですか?」

「うん。では先ほどの質問と合わせて答えよう。君を誘拐させたのはそのステンノーという女だ。アニヤでは人が突然行方不明になったという報告がなかったのに、君の事例が発生した。だから君が幹部に何か怒らせることをしたのではないかと聞き及んだのだ」

 

 マホガニーは資料を棚に戻すと、どっかりと椅子に座りカップに入った熱い紅茶をグイっとあおる。

 

「おまけにゴドーにも追われている。ゴドーも同じくオリントの一般団員をまとめている幹部だ。それがまさか、この村からほとんど離れていないことろまで追ってきた。やれやれ、アレクも余計なことをしおってからに」

 

 それを聞いてセルピルはムッとした。アレクサンダーは自分を助けてくれた恩人だ。それを迷惑であると遠回しで言ってきたのだ。

 

「失礼ですが、助けてくれた人を。それも親戚の人の行動をけなすのはどうかと思うます」

「もう、わしら村の人間はフリーと向き合いたくないんじゃ。あの学校をポケモントレーナースクールの惨状を見たじゃろう。ポケモン協会の側に着いた途端にフリーからの嫌がらせを一斉に受けた。通っていた子供にも被害が出て、続けられなくなった。もうポケモン協会とは、義理のためにアレクをリーグに出場させるだけにしているよ」

 

 マホガニーはセルピルの言葉に耳を貸さず、お茶菓子を手に取り口に放り込む。マホガニーにとって、いやこの村の住人はこの山のふもとで起こっている騒動に干渉したくないのだ。

 

「叔父さん」

「なんじゃアレク。まだ話の最中じゃぞ。それとも何か、おぬしがフリーを止められるとでも?無理じゃよ。フリーの勢いはカロス地方のフレア団以上だ。おぬし一人の力でどうこうできまい」

 

 部屋に入ってきたアレクサンダーは、マホガニーに現実を突きつけられ二の句が継げなかったのか、明らかに言いたいことと違う趣旨を震える声で声を発する。

 

「さっきの、話でアニヤで行方不明になった人はいないって聞いたけど、こっち(オリント)ではいるということなの?」

 

 そうであった。アニヤ地方ではないということは、逆にこっち(オリント)では起こっているということを失念していた。そしてマホガニーは事実あると前置きを置いて語尾を下げて言い放つ。

 

「残念ながらな。その可能性が一番あるのは、ソフィじゃ」

 

 ソフィ、あの写真にテオドールと一緒に写って女性の名前であったことをセルピルは思い出した。

 

「ずっとワシにトレーナースクール再開のメールを訴えてきたのじゃが。一年ほど前からぱったりと連絡が途絶えてな、ソフィの息子もかわいそうにな」

 

 そういってマホガニーはまたお茶をすする。そのどこか他人事のような感じにセルピルは椅子から立ち上がった。

 

「身近な人に被害が起きているを知っているのに、どうしてそんな他人事のように言えるのですか?写真と一緒に写っていたソフィさんはマホガニーさんの教頭でしょう!?それに、ここの人たちはオリント地方の実力者がいるはずなのにどうしてフリーに抵抗しようとしないのですか!」

「五年も前のことを言われてもな。あれからソフィとは距離をワシの方からとっていたのじゃ。それに、先ほど言ったようにフリーはこの村の人々が束でかかって解決できる敵ではない。だからワシらは身の安全のために、奴らとは距離を置くのが賢明なのじゃ」

 

 そんな態度を取るマホガニーにセルピルの手はいつの間にか拳を握っていた。

 すると、外からまるで地鳴りのような轟音と部屋を揺らすほどの振動が起こり、セルピルとアレクサンダーは揺れに立っていられず足を崩した。一方のマホガニーは、全く動じずお茶をすすりながら窓の外を見ていた。

 

「やっと迎えが来たか。ほれ、セルピルお前さんを送ってくれる奴が来たぞ」

 

 これ以上マホガニーに何を言っても無理だと判断して、言われるがままマホガニーの家をアレクサンダーとともに出ていった。

 

 

 

「これ、ポケモン?」

 

 外にいたのはポケモンと判断していいのかわからなかった。ゴルーグはそのロボットのような三メートルもある巨体もさることながらまさか足や拳の部分が引っ込んだ状態で、そこから()()()()()()()()飛んできたとは夢にも思わなかった。セルピルはレアコイルやビリリダマといった生き物か怪しいポケモンを今まで見てきたが、このゴルーグは明らかに生き物という範疇を超えていた。

 そしてその肩からゴルーグの体を伝い、眼鏡をかけて無精ひげを生やした男性が降りてきた。

 

「お待たせしました。自分マールマロジムのジムリーダーシャムロックです。セルピルさんはいらっしゃいますか?」

 

 セルピルが手を挙げると、シャムロックは自身が被っているヘルメットとは別の物を取り出しセルピルに渡した。

 

「ああ、よかったです。連絡を受けて駆け付けてきました。どうぞ、ゴルーグ乗ってください。港まで護衛しますので、安全のためヘルメットを被りしっかりつかまってください」

 

 コキノス島へ向かうための港へ行けるのは幸いだが、まさかこのポケモンにしかもヘルメット着用をするとは思ってもみなかった。

 セルピルはヘルメットを被った後、アレクサンダーに手紙のことを言おうか迷いながら言葉を紡ぐ。

 

「アレクサンダー。その、私を助けてくれてありがとう。……さようなら」

 

 セルピルは、やはり伝える勇気が出ず。ゴルーグの体を登っていく。

 ゴルーグの肩につかまると、ゴルーグの足が大きな爆発音を立てると、体が押しつぶさるような衝撃が襲い掛かる。夏場であるにもかかわらずジェット噴射で空気を切り裂いていくため空気本来の冷たさに体が一瞬凍えそうになる。

 そして左右の拳もジェット噴射してバランスを整えると、先ほどの冷たさもいつもの夏場の暑さが体を覆い、揺れはあるものの体が潰される感覚もなくなっていた。ワイスのリザードンの速度に目を回したセルピルだが、ゴルーグのそらをとぶはあまりにもひどく二度と乗りたくない気持ちになった。

 

「セルピル、僕も行く!」

「え!?」

 

 後ろからメタグロスに乗ったアレクサンダーが、セルピルを追いかけてきたのだ。

 

「セルピルは僕をバトルを嫌っていたのを助けてくれた。だから今度は僕が、バトルでお返しする!」

 

 オリント山がいつの間にか全景が見えるほど遠くなっていて、ここまで来て追い返すわけにもいかず。セルピルはアレクサンダーの申し出を受け入れた。

 シャムロックはその様子に不快になることもなく、目的地へと進路を取る。

 

「それでは護衛も二人になりましたし、港へ向かいますよ」

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