ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第四十五話『運河突破』

 ゴルーグの手足から放出されるジェット噴射が静かな空に響く中、セルピルは一つ気になったことを思い出し、アレクサンダーに尋ねる。

 

「ねえー!そういえばなんで私の名前を知っていたの!出会った時、お互い名前を言ってなかったはずだけど!」

 

 ジェット噴射の轟音が凄まじく、声がかき消されないようにセルピルは大声で叫んだ。アレクサンダーもそれに応えて、大声で返す。

 

「村にティアレさんから連絡があって!フリーに追われている女の子をかくまってほしいって名前を教えてくれたんだ!」

 

 アレクサンダーは付け加えて、セルピルがポケモンに指示を飛ばせないということも知っていた。実際には症状は悪化しているのだが、流石に声が枯れそうになるので、着陸した後で言おうと決めた。

 しばらくすると、大小のビルが立ち並びその丘の上に何十本の白い柱で二十五メートルプール二つ分ほど入る白く巨大な屋根を支えている神殿のような建物が見えた。シャムロックによるとあれがマールマロジムだという。

 

「その向こうに見えるのがマールマロシティなんですが!ちょっと危ないので、運河を越えた先にあるクローニーシティの港へ向かいます!」

 

 その街に住んでいるはずのジムリーダーからの発言に目を疑った。ジムリーダーさえも危ないというマールマロシティ。この発言の裏には、やはりフリーの手が回っていると流石に感ずいたセルピル。もはやオリント地方にフリーの影響が及んでいないところはないのではと思いなやんだ。

 マールマロシティを後にして再び空を飛んでいくセルピルたち。すると、遠くに陸地と陸地の間に割れ目のようなものが見え、目を凝らす。その割れ目は、陸地に引かれた一本の線のように見えるが底深く陸地を割っていた。その割れ目の中で何か小さいものが跳んでいるのが見えた。

 マールマロシティとクローニーシティの間にあるリント運河だ。北側にある海と南側に広がる海とをつなぐ運河で、主に旅客船がこの運河を行き来するという。

 このまま飛んでいけばすぐに港があるクローニーシティだと思った矢先、ゴルーグがだんだんと降下し始めた。

 

「どうして降下するんですか!?」」

「先に向かっていたうちのジムトレーナーから連絡があって、フリーが運河を見張っているんだ。ゴルーグだと目立ってしまうからいったん降りないといけないんです」

「もう少し高く飛べないんですか?」

「これ以上高度を上げると、ゴルーグの体が安定できなくなりますし。それにセルピルさんが、あまりそらをとぶに慣れていないと聞き及んでいますから」

 

 シャムロックの言葉にセルピルは何も言えなかった。事実、ゴルーグの体は乗り心地が悪く時折姿勢を安定させるたびにしがみつかまなければならず、これ以上高度を上げたら目を回してしまいそうであった。 

 海峡から見えないところにあったゴルーグを隠せるほどの大きさの建物の所で降りると、セルピルたちは海峡にかかっている橋の所へと移動する。橋の前には一目でわかるほど目立つ白い服を着たフリーの団員が橋の入り口と出口に二人ずつ配置されていた。

 橋は車二台分は通れるほどの広さでシャムロックのジムトレーナーが車を用意していたが、フリーがポケモンを放って車を抑えられてしまう可能性がある。

 

「さて、どうしたものか」

 

 シャムロックがそう呟くと脇から黄色い角のポケモンが腕をグルグル回して前に出ようとする。言わずもがな、あのエレキッドだ。だが、エレキッドはすぐにシャムロックのサイドンに押さえつけられる。

 

「エレキッドの電撃じゃ、範囲が狭くて反対側にいるフリーの団員に見つかってお終いです。セルピル君のポケモンは血気盛んですね」

「いえ、私のポケモンではないんですけど……」

 

 抵抗していたエレキッドは、抑え止められた腹いせにあちこちに電撃を放つが地面タイプのサイドンに全く効果がなく、電撃はすべてサイドンの角が避雷針となって虚しく電気が地面にへと垂れ流されるだけであった。

 

「他に橋を探してはどうですか?」

「他の橋もフリーが監視されています。どこも一緒ですよ」

 

 八方ふさがりでどうやって突破しようかと思い悩んでいると、海峡にかかっている橋の上にマンタインやそれにくっつているテッポウオといった水ポケモンが何匹も通り抜けていった。中には、とげとげしい針を持ったポケモンハリーセンまでもが橋の上を通過していくのが見えた。

 ふと、セルピルの頭の上にハリーセンについての説明が思い浮びあることを思いついた。

 

「あの、ちょっと悪いやり方を思いついたのですが」

 

 セルピルがシャムロックにその内容を伝えると、シャムロックは了承した。

 

「非常事態だ。セルピル君を送り届けるためにするほかない」

 

 シャムロックがサイドンに運河の上流に向かってロックブラストを放つように命令する。サイドンは海の上に跳んでくるハリーセンに狙いすまして手に取った岩を投げ飛ばす。投げ飛ばした岩がハリーセンの体にぶつかると、ハリーセンは一度海中に潜る。

 するとセルピルの予想通り、海中で一気に大量の水を飲み込んだハリーセンは体をパンパンに膨らませて自分を攻撃してきた敵を探し始めた。だが、気が短いのか飲み込んだ水を長く維持できないのか四方八方に体中の毒針を橋のあたりに打ち出す。

 

「ハリーセンたちには悪いけど、作戦成功ね」

「セルピルって、策士だったんだ」

 

 アレクサンダーがかつての友人の一面を初めて目にしている間に、ハリーセンたちは仲間が攻撃を受けたとあって徒党を組みその数を増やしていった。

 群れ単位でハリーセンの体から飛び出る無数の針が、橋の入り口を監視していたフリーの団員たちに襲い掛かる。毒のトゲに刺されないように橋の入り口にいた団員たちは任務を放棄して逃げていった。橋の反対側にいた団員もこちらに被害が及ばないように避難をしていく。

 

「いい案だったけど、あの針が車に飛んで来たら危ないね」

 

 確かに、フリーを追い払ったのはいいが、ハリーセンたちが放つ針が止め度目もなく橋に飛んでくる。これでは、車を走らせても針が窓ガラスを破り大けがを負ってしまいかねない。かといってこの機会を逃すわけにもいかなかった。

 

「僕のメタグロスを楯にすればいいと思います。メタグロスは鋼タイプなので毒針も効きません」

「なるほど、それで行ってみよう」

 

 アレクサンダーの提案により、ハリーセンたちがいる上流方面にメタグロスを張り付けて橋を通り抜けようとする。ハリーセンたちはセルピルが乗る車にも毒針を飛ばしたが、アレクサンダーの言う通りメタグロスの鋼鉄の体が車体を毒針から守り、被害を受けずに突破できた。

 運河を抜けて、十分ぐらいたった時に高いビル群がある街が見え始めてきた。あれがセルピルが目指す港がある街クローニーシティだ。

 

 

 

 クローニーシティ、オリント地方の中ではマールマロシティと一二を争うほどの都会である。その理由として、オリント地方最大の大企業カタス社本社がこの街にあるからである。関連企業もこの街に本社や支店を置いてあるほどで、アニヤでいうデミルシティに近いところであるが、カタス社の場合は第三次産業を主体としているため工業地帯らしさがないのだ。

 橋を突破後そのまま車に乗りながら港へ向かうセルピル一行。クローニーシティの港は街の中心よりかなり離れていて乗り物で移動しないと日が暮れてしまうのであるが、今日は交通量が激しくちっとも前に進まないのだ。

 

「これじゃあ、歩きかトラムで乗っていった方が早いかもしれないぞ……」

 

 助手席に座っているシャムロックが呟いたように、十分以上経とうとしているが数メートルも動いていなかった。このままでは万が一フリーに囲まれてしまっては身動きが取れなくなってしまう恐れがあった。

 

「ポケモンで空を飛んでみては」

「だめだねぇ。空を飛べるポケモンがあいにくゴルーグとアレクサンダー君のメタグロスと大きくて目立ってしまうポケモンしかいない。フリーにどうぞここにいますよって言っているものだね」

 

 セルピルの提案も虚しく却下された。セルピルとアレクサンダーは、必死に考えているが全くアイディアが浮かばなかった。

 

「仕方ない、少し危険だがトラムで移動するしかない」

 

 クローニーシティには専用軌道で走る二両編成のトラムが張り巡らされていて、街の交通手段として利用されている。密室空間で顔を知らない人が乗り降りするトラムは悪手ではあるものの、フリーから早く逃れるためにも素早い行動を採ることにしたのだ。

 先頭車両にセルピルとエレキッドにアレクサンダーそしてシャムロックが、万が一に備えて後方車両にジムトレーナー三人が乗り合わせる。トラムの中は座席が埋まっているものの混んでいるというわけでもなく、セルピルの周辺を余裕で守ることができた。

 セルピルは吊革につかまり、アレクサンダーの傍に立っていた。

 

「このままいけば、セルピルをアニヤ地方に帰せるね。そしたら、もうセルピルとは……」

 

 アレクサンダーの言おうとすることはわかっていた。このまま二度と会えなくなるのだと彼は思っているのだと。

 

「あのね、実は言おうと思っていたんだけど。実は」

 

 セルピルが挑戦状のことを話そうとした時、トラムが大きく揺れて駅に停車する。

 扉が開くと、トラムをいっぱいにするほどの大量の乗客が津波のように押し寄せてきた。セルピルは吊革につかまり押し流されないようにするが、シャムロックやエレキッドが人の波にのまれて後方車両に押されていくのが見えた。

 セルピルはまだアレクサンダーが人の波に抵抗しているのを見つけ、引き離されないように手を伸ばす。

 

「手を、手を伸ばして……」」

「あともう少し。――セルピル!!」

 

 互いが懸命にその手を摘まもうとしているのをあざ笑うかのように一人の乗客が間に割り込み、引き離されてしまいアレクサンダーも後方車両に押し流されてしまう。

 そして扉が閉まったその瞬間だった。後方車両をつないでいた連結器が突然外れ、セルピルが乗っている先頭車両のみが発車してしまった。あまりにも突然のことで思考停止してしまったセルピル。そして乗客が一斉にセルピルの方を向き、その肩に手が置かれた。

 

「さて、教化の時間だ」

「あ、あぁ」

 

 嘆息の声を漏らし、思考が停止する中で紡ぎだされた答え。これは()だ。自分を捕まえるための罠だったことに。セルピルとフリーの団体を乗せたトラムは、ポイントが切り替わり普段使うレールから外れて別の路線へと入っていく。

 

 

 

 一方切り離された後方車両では突然切り離されたことに乗客たちは混乱していた。その中にはセルピルを護衛するはずだったアレクサンダーたちも含まれていた。シャムロックたちは急いでセルピルを追いかけようと、トラムから降りて先頭車両を追いかける。

 だが、すでにセルピルを乗せた先頭車両は遠くしかも雲隠れするために路線を次々と変えて行ってしまい、手分けして捜索しようにも手がかりがつかめなかった。

 アレクサンダーはエレキッドとともに、線路の上を走りトラムを捜索した。アレクサンダーは自分が言ったことを守ることができなかったことを嘆き、大粒の涙を流して線路の上でセルピルの名を叫んだ。

 

「セルピル!セルピルー!!」

 

 だが、どれだけ叫んでもセルピルから返事が返ってこない。何百メートルも走り叫び続けたアレクサンダーは膝に手をついて涙が喉につまりむせり、泣き続けた。

 

「あんた線路の上で何しているんだ?」

 

 柵の向こうでアレクサンダーに声をかけてきた人物は、テオドールだった。アレクサンダーにとって彼はリーグで何度か見たことがある人物が直接的な面識はなく一トレーナーとして覚えていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 アレクサンダーは、藁にすがる思いでテオドールにセルピルの乗ったトラムを見たか目に溜まった涙を拭きながら聞いてみた。

 

「一両だけの電車通らなかった?セルピルが、セルピルが」

 

 アレクサンダーはぐしゃぐしゃになった顔でテオドールに聞くと、テオドールのしかめた表情が鋭く鋭利なものに変化する。

 

「まさか、フリーに!?」

 

 アレクサンダーが首を縦にゆっくりと下ろすと、テオドールが「ついてこい」と手招きしてエレキッドと共に続く。

 テオドールに案内された場所は、人気のない裏路地であった。そこにはトラムが止まりそうな場所もあれほどの大人数が入れそうなところもなく全く無関係な場所に見えた。すると、テオドールが手持ちのラグラージを出すとラグラージは重いマンホールの蓋を持ち上げる。

 中には梯子と下水道が流れていて匂い消しのための薬品の匂いが立ち込めていた。

 

「ここから奴らの基地に行ける」 

「どうして君はフリーの秘密基地の場所を知っているんだい!?それにセルピルのことも」

「つべこべ言ってないで行くぞ!」

 

 テオドールに促されるまま、アレクサンダーは地下水道へと入っていく。エレキッドがそれに続き、最後にラグラージが梯子を下りながらマンホールの蓋を閉じる。

 だが、テオドールもアレクサンダーも気付いていなかった。彼らがフリーの基地へと行く様子を見ていた二つの影があったことに。そしてその影は手際よく重いマンホールの蓋を同時に持ち上げて地下水道に入り、テオドールらの後を追っていく。

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