ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第四十六話『秘密基地の秘密』

 冷たい床の上でセルピルはうずくまっていた。ようやくフリーの教化という名の洗脳と尋問に一時解放されて何時間たったことだろうか。まだ頭の中にさっきの内容が壊れたラジオのように繰り返し鳴り響いてくる。

 

「次は一時間後だ」

 

 一時間、またもあの内容が繰り返されるのかと頭がどうにかなりそうだった。これまでの自分がポケモンにしてきたことを胸倉をつかまれながら団員に供述し、都合が悪かったら嘘をつくなと脅され嘘の供述をする。そしてミアジムでセルピルがポケモンを出せなくなったきっかけをつくった女――名前はメデューサというが、セルピルに直々に教化をするとしてきた。

 セルピルの予想通りに、自分のことを傲慢とか痛みを知らない愚かで矮小な人間だと清らかな声とは裏腹に明かな蔑みをしてきた。これがフリーの教化。それを一時間後にいつ解放されるともわからない悪夢にセルピルは床を濡らしていた。

 ポケモンたちもポケナビツーも取り上げられ、光も通さない独房の中ではここがどこにあるのかすらわからず連絡も取ることすらままならない。扉の鍵は電子キーとなっていて開けられそうにない。もっとも、例え電子キーでなくてもセルピルに鍵を開けることなどできはしない。

 もうポケモンたちとも会えることも、セロやミュケーナ博士、そしてアレクサンダーと二度と会えないということを嘆き悲しみ、そして自分が旅に出たことを恨んだ。アレクサンダーが自分に逢いたい一心で出した手紙を親から離れたいという邪な感情で旅に出た、だからこんな目にあった。自分が今までしてきた旅してきたことがまるで重い鎖につながれた罪のように感じ、自分はその罪人であるかのように感じられた。

 さめざめと泣くセルピルの様子を見ている者は誰もなく、ただ天井につられた蛍光灯のみが見るだけで、彼女のすすり泣く声だけが独房の外に聞こえるのみだった。

 涙腺が未だにセルピルの涙を絶えずに出し続けていた時、扉の向こうで何か音が聞こえた。頑丈な扉では外の声は一切聞こえず、物音のようなものだけが聞こえるのみだった。

 それが止むと、今度は電子ロックが解除される音がはっきりと聞こえた。ああ、もう一時間も経ってしまったのかとセルピルは思った。時計がないから時間の経過が分らなくなっていたのだ。開けた扉からフリーの団員が入って来てあの拷問が始まるのかとセルピルは体に力が抜け諦めた。

 だが、入ってきた白い服の団員は入るなりセルピルに抱き着いた。これは何か新しい教化のやり方か?とセルピルは一瞬困惑するが、団員の被っていた帽子が外れるとその行動が理解できた。特徴的なたれ眼といつもの物憂げな顔が涙でぐしゃぐしゃになっているアレクサンダーがフリーの団員の格好をして抱き着いているのだから。

 

「セルピル!よかった!本当に、ごめん!君を君を守るって言ったのに!」

「こうして助けに、来てくれたじゃにゃい」

 

 まさか会えると思ってなかった人物に、セルピルも思わずアレクサンダーを抱きしめ返し、先ほどとは別の涙が出て感極まり言葉が歪んでしまった。

 

「まったく、不用心が過ぎるぞアニヤ人」

「テオドール!?それにエレキッドまで!?」

 

 扉の間からひょっこりと現れたテオドールとエレキッドにセルピルは驚き、そして冷静になって自分がしていることに恥ずかしさがこみ上げアレクサンダーの体から手を離した。テオド-ルの手にはカードキーが手にしていた。どうやらあれでセルピルの牢を開けたようだ。

 

「ど、どうして二人がここに来れたの?」

「テオドールが、フリーの基地に入れる場所を知っていたんだ。ちょうど子供一人分がギリギリ入れる通気口みたいなものがあってね」

 

 アレクサンダーがその後にフリーの団員服を着ていた経緯とかを話していたが、それよりもどうしてテオドールがフリーの基地に潜入できる方法を知っていたかに疑問が出てきた。だが、テオドールの方からそれを話し始めたので不要になった。

 

「俺はフリーに恨みがあるんだ。奴らの弱みを握ってやるためにある程度場所は把握しているんだ。とにかく、俺たちが倒した団員が他の奴らに見つかる前にずらかるぞ」

 

 そういってテオドールは、セルピルの手をつかみ牢獄から引きずりだす。出してくれた牢の中より明るい通路は、前と後ろにいる希望の光に比べてぼんやりと薄暗く感じた。足元には気絶した団員二人がころがっていた。電流が飛び跳ねているためエレキッドの仕業だとすぐに分かった。

 

「ま、待って!私のポケモン取り上げられて。けど、どこにあるのかわからないの」

「ちっ、面倒くさいことしやがって。探しに行くぞ」

 

 テオドールは頭を掻きむしりながら、彼が先頭になって通路の奥へと行くとアレクサンダーがセルピルに一着の服を渡す。

 

「これを服の上に着るんだって」

「けど、私たちの身長じゃすぐにばれるんじゃ」

「心配ない。フリーには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。特に黒服のやつらはほとんどが子供だ。だから堂々と歩けば問題ないはずだ」

 

 黒服のフリーと聞いてセルピルは思い出した。岩の旧市街で仮面をかぶった二人。確かにあの二人は身長からして自分と同じか少し小さい感じだった。確かにそれならばフリーも味方だと誤認するとテオドールの考えに納得した。

 

 

 

 テオドールの言う通り、幾度となくフリーの団員がすれ違ったが誰一人として小さい団員を怪しむ者はいなかった。ちなみにエレキッドは背負っている機械で顔が割れているため、一番背の高く大人用の服を着ているテオドールの中に入ってやり過ごしていたが、妙にお腹のあたりが膨らんでいるため少し怪しい雰囲気を出していた。

 さて、団員の姿が見えないところでセルピルはなぜテオドールがアレクサンダーを連れてこれたのか聞くとテオドールは呆れた声で質問を返した。

 

()()()()()()()()()が、レールの上でお前の名前を泣き叫びながら走っているのを見てたら誰だって呼び止めるだろ」

 

 その光景を聞いた人はそりゃ誰だってそうだと頷くが、セルピルは最初の言葉に気を取られて後ろの話なんて全く聞こえていなかった。

 

「リーグ……チャンピオン?」

「お前、去年のポケモンリーグ最終戦見ていなかったのかよ?アニヤの方ならもっと多く放映しているはずだと思っていたけどよ」

 

 アレクサンダーは少しセルピルに対して照れくさそうにしていたが、セルピルは何も言えなかった。なにせ去年の今頃なんてポケモンリーグに興味すら湧かなかったのだから、選手の名前なんて知る由もなかったのだから。

 テオドールが、通路の前後を確認して団員がいないことを確認するとボールから一匹のポケモンを出す。

 

「こいつを出す時が来たか。出てこいロトム」

 

 出てきたポケモンは、まるで電波が具現化したような姿をしていた。テオドールが、ハンドサインでロトムに指示を出すと、ロトムはすぐそばの扉のカギ穴の中へと入っていく。

 しばらくすると、電子キーが開く音がして扉が開かれる。

 

「他の扉もこのポケモンで開ければいいんじゃないの?」

「そんなにやったら、いくら何でもすぐに怪しまれるだろうが。これは一回きりだ。それにここの扉さえ開ければ他に用はないからな」

 

 その部屋に入ると、そこにはセルピルのポーチとポケナビツーが無造作に机の上に置かれていた。セルピルはポーチの中を探ったが、ポケモンたちの入っているモンスターボールは一つもなかった。

 

「ボールがない」

「ポケモンたちは別の所にいるのかな」

 

 セルピルは、囚われたポケモンたちのことを憂いながらポケナビツーを取ると一枚の紙きれが挟まれていたのに気づく。そこには『虫タイプ・モンスターボール・二種類のポケモン』と三つの単語が無造作に書かれていた。

 

「これ何かの暗号かな?」

 

 アレクサンダーは意味不明の文章に首を傾げた。

 

「とにかくここの鍵全部持っていくぞ。どこにあるのかわかんないなら全部試してみるしかない」

 

 テオドールがセルピルに投げつけたのは、様々な種類の鍵であった。カードキーのタイプや南京錠を開けるためのカギ、先端が独特の形状をしているものと様々だった。どうやらここは鍵の保管場所のようであった。

 しかし、テオドールのここまでの行動は機敏だとセルピルは悟った。基地に潜入できる場所を知っているだけでなく、鍵が保管されている場所をあて、しかもフリーの組織情報も詳しい。もしやと思いセルピルはテオドールに尋ねる。

 

「ねえテオドール。あなたフリーの内情に詳しいけど、もしかしてトレーナースクールをフリーにつぶされた恨みでいつもここに潜入しているの?」

 

 部屋から出ようとしたテオドールが足を止め背中を向いたまま話始める。

 

「スクールにある俺の写真見たのか。まあ、あそこに行けって言ったのは俺だからばれるのも仕方ないか。そうだよ。トレーナースクールを潰し、挙句に俺の母さんを連れ去ったフリーを逆に潰してやるために調べていたんだ」

「お母さんって、もしかして()()()さんのこと!?」

 

 アレクサンダーの驚く声にテオドールはただ小さく首を縦に振る。セルピルは思い出した。テオドールが家族を壊されたという発言。そして幼いテオドールと一緒に優しい笑顔で写り、一人息子を残してフリーに誘拐されてソフィ。彼の今までの言葉一つ一つには、その背景を思えばとても重く辛いものが溢れかえっていた。

 しかも今の様子では、まだ見つかっていないのは明らかだ。なのに、彼は探すべき母親よりもセルピルの脱出を優先させ、それ以前にも遠回しに回りくどい言い方であるがセルピルにフリーに睨まれないようにアドバイスしてくれていた。

 セルピルは彼の心の強さと不器用な優しさに、今まで自分が彼に吐いた暴言を思い出し自分を恥じた。

 

「とにかく、今はお前のポケモンを探すのが優先だ。行くぞ」

 

 そう言って、三人は部屋から抜け出し、セルピルのポケモンを探し始める。

 捜索は地道にするほかなかった。団員に怪しまれないように、部屋に入りポケモンたちがいないかこっそりと調べるという作業の繰り返しだった。しかも、基地自体が広く、テオドールが目印を付けなければ、セルピルが迷いそうになることもしばしばあった。

 しばらく奥の方へ進んでいくと、今までのとは鍵の異なる扉があった。その扉にはカードキーのほかに零から九までの数字が刻まれた電子キーが一緒についていた。

 

「このパスワードを解除しないと開かないみたい。もしかしたらさっきのやつが役に立つかも」

 

 最初にカードキーを入れても扉は空かないことが分かり、アレクサンダーがさっき鍵の束を手に入れた部屋で見つけた紙きれを広げて考え始める。

 

「僕の考えだと、これは分岐進化する虫ポケモンだと思うんだ。だからケムッソかミノムッチの二体だと思う」

「なるほど、けど数字を入力しないといけないんならなんの番号を入れればいいんだよ」

「図鑑の番号順じゃないかな?それなら、数字を入れられるし。ほら私ポケモン図鑑持っているからそこからナンバーを入力すれば」

 

 なるほどと二人は同意し、ポケモン図鑑を調べケムッソとミノムッチの二匹の図鑑番号である『二六五四一二』を入れる。だが、鍵は開かず『パスワードが違います』という字が刻まれただけであった。

 

「違うか。じゃあカラサリスとマユルドで入れてみるか?」

「その前に、このモンスターボールってのを考えてみようよ。これってモンスターボールも必要ってことじゃないかな?」

 

 アレクサンダーが指摘したモンスターボールという記述。これを合わせるとモンスターボールが必要な二種類の虫タイプのポケモン。三人は頭を悩まし、エレキッドはついてこれず惰眠を貪っていた。すると、セルピルが何かを思い出したかのようにポケモン図鑑のページをめくる。

 

「二九一と二九二を押して!」

 

 問題の答えがわからないままアレクサンダーは言われるがまま『二九一二九二』と押すとピッと言う短い音が鳴り、改めてカードキーを差すと扉が開いた。

「よくわかったな」

「前にね。テッカニンとヌケニンのページを見ていた時に小さく『いつの間にかモンスターボールに入っている』って記述を思い出したの」

 

 

 

 さて、部屋の中に入るとそこは何かの設計事務所のような雰囲気で、いくつもの設計書が所狭しと並んでいた。そのガラスの向こうには工場のような生産現場が見えていた。

 

「あった!」

 

 セルピルは五つのモンスターボールが机の上にあったのを見つけ一目散にそこに駆け寄る。再開のために確認しようとすると、またあの衝動が発現されポケモンたちを確認することができなかった。だがセルピルにはわかる。きっとこの中に自分のポケモンたちはいるはずだと。

 ボールをポーチに戻し、いよいよ脱出を開始しようとする。ふと、ガラス向こうに見える生産現場をセルピルは覗き見る。人の姿はなくただ機械が動いているだけであり不気味な静かさを醸し出していた。そして生産ラインから出てきた一つの奇妙な機械にセルピルは見覚えがあった。それは忘れもしないビィルタウンやポケテウームで見たものより小さめのドカリモであった。

 

「ドカリモ!?」

「ドカリモって何?」

「フリーがポケモンを操るために使っていた機械よ!ここでつくられていたなんて……」

「それだけじゃないぜ。この書類、カタス社の名前があるぜ。この書類に、ポケモンを操る機械の生産現場に設計図。書類も証拠も十分。奴らもその大元もこれで言い逃れできないぜ」

 

 テオドールが持っていた書類を懐に入れると、セルピルとアレクサンダーは持っていた携帯でドカリモの生産現場やこの部屋の写真を撮り始める。

 

「まあ、何て子たちでしょう。ポケモンを誑かすだけに飽き足らず、大人の秘密まで盗み撮りしようだなんて」

 

 清らかに透き通るような声の中に、相手を下に見るような高圧的な声。アレクサンダーは危険を察知して、モンスターボールを後ろに投げそこから出現した一太刀の剣と楯のポケモンに冷たい声で防御を命じた。

 

「キングシールド」

 

 相手が繰り出したのはカラマネロ。そしてそのポケモンも所有者は、ミアジムでセルピルに吹き込んだあの女性であった。

 カラマネロのイカサマ攻撃をギルガルドはその大きな楯で防ぎきる。攻撃を防がれたカラマネロは、体勢を崩されてへたり込んでしまう。ギルガルドのキングシールド、それは相手の攻撃を防ぐだけでなく楯から放たれる呪いで相手の攻撃を下げる効果もあるのだ。

 

「さすがチャンピオン。なんと穢わらしいやり方でしょう。全員、反逆者を取り押さえなさい!」

 

 後ろに控えていた団員が一斉にグラエナを繰り出し、一斉にバークアウトによる咆哮をセルピルたちに浴びせた。セルピルは応戦しようにも、ポケモンが出せない状態であるため行動できず、テオドールが前に出る。

 

「フリーの幹部のメデューサか、厄介な奴だ。ラグラージ突破するぞ!だくりゅう!」

「ブレードフォルムチェンジ。アイアンヘッド」

 

 テオドールがラグラージを繰り出し、口から大量の泥水をメデューサら団員に向かって放水する。だくりゅうの勢いにカラマネロの体は耐えきれず押し流されそのままメデューサとともに壁に打ち付けられる。

 一方、ギルガルドは楯の体を変形させて、目の部分がある剣を前に出し己の刃の体を硬化させて、体を回転させてグラエナたちを切り伏せる。グラエナたちは数の多さで抑え込もうと飛び掛かるが、いつの間にかテオドールの服の間から出ていたエレキッドがギルガルドに飛び掛かろうとするグラエナたちを電撃で次々と撃ち落とし攻撃を防いでいた。

 団員たちのポケモンが次々と倒れていくのを見計らいセルピルたちは部屋から脱出する。

 

「私の髪が……絶対に許さない!ほらっぼさっとするな!!追いかけなさい!」

 

 だくりゅうを浴びてしまったメデューサの長く美しい髪は、水を含んでしまい見るも無残なぐしゃぐしゃの髪となってしまっていた。メデューサは、怒り狂い、団員たちを労ることもせず罵声を浴びせ追い立てさせる。

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