船が出てから数時間が経としていた。セルピルに近づいてくる怪しい人はなく、例えそんな人物が来てもテオドールがまたいつもの鋭い目つきで睨みを利かせて護衛していた。いつの間にかエレブーもついてきていて、相も変わらず呑気に船の手すりから海の景色を堪能していた。
この一人と一匹が傍についてくれるので安心であるが、心残りなのはアレクサンダーにとうとう挑戦状のことを言えずじまいだったことだ。あの時あと数分船の汽笛が鳴るのが遅れていたらアレクサンダーに伝えられたのにと嘆き、もしあの時自分の携帯番号を交換すれば船の上で伝えられたのにと自分の判断ミスにも悔いていた。
セルピルは潮風の匂いを嗅いで、少し気分を落ち着かせて気分を変えるためにテオドールに話しかける。
「お母さんと一緒に行かなくて本当によかったの?せっかく会えたのに」
「俺がジムリーダーの所へ行ってもどうやって母さんを助けたのかとか色々聞かされて余計に会えなくなるからチャンピオンに母さんを任せたほうが良いんだ。それに、ポケモンリーグも近いしコキノス島のジム戦をしないと」
前者の事情は理解できた。確かにテオドールは他者から見れば無関係な人間だ。それがフリーの基地の侵入経路を熟知し、誘拐された自分をどうやって助けたかなどの経緯を根掘り葉掘り聞かれるだろう。そうなればソフィとまた離れることになる。
しかし、後者の方はなぜ母親よりもポケモンリーグにこだわるのか理解できなかった。
「どうしてポケモンリーグにこだわるの?」
「ポケモンリーグで優勝して、優勝インタビューでトレーナースクールを復活させるように呼びかけたかったんだ。オリントでは決勝戦しか放映されないからそこでしか呼びかける機会がないんだ。けど、この四年間準決勝戦まで勝ち進めていない。だから今年こそは優勝しないと、あいつらにまたトレーナースクールを復活させてやれないんだ」
あいつらとは、ポケモントレーナースクールにいたポケモンたちのことだとすぐに分かった。しかしながら、テオドールの抱く意志と自分が旅に出た理由と比べてその差は明らかに重みが違うことに自分の小ささを感じられずにいられなかった。
すると、セルピルに近づいてくる一人の老人が現れ、テオドールとエレブーが前に出て警戒する。その素早い動きを見て頼もしいとセルピルは思った。
老人は突然の対応に驚き、両手を上げて敵意がないことを示そうとする。
「そう身構えないでくれ。そこのお嬢さんに久しぶりに話をしたくて来たのだが」
「アレスさん?」
「覚えてくれていましたか。いや嬉しいかな」
「……知り合いか?」
「うん。ダーコスジムの教会で会ったことがあるの」
セルピルがそう証言すると、テオドールは身を引いてアレスをセルピルに近づけることを許した。エレブーは未だにバチバチと言う音を立てていたがセルピルが何とか制止させる。
「見かけた顔だと思ってきましたらと思いましてね。お嬢さん方もコキノス島に行くのですかな?」
「はいそのつもりです」
乗り継いでアニヤに行くと言ったら船の中にいるかもしれないフリーに気づかれてしまうかもしれないためセルピルはぼかしてアレスにそう答える。
「そうですか。コキノス島はいいですよ。特にコキノスの迷宮はなかなか興味深いところで」
「コキノスの迷宮?」
「うる覚えだが聞いたことがある。たしか大昔に人々に危害を加えた危険なポケモンをその迷宮の最奥にくさびを打ち込んで封印したっていう言い伝えがある場所だろ。昔に母さんからその物語を聞かせてもらった」
アレスは頷き、迷宮の補足説明をする。大昔にオリントの王の子供がそのポケモンを封印した後、そのポケモンの封印が解けた際に必要な秘宝とお宝を迷宮に残したと付け加えた。
「という言い伝えがあってな。よかったらそこにもいってみるといいぞもしかしたらお宝が眠っているかもしれんからな。ではお二人とも旅を楽しんでな」
アレスはそう言ったが、セルピルは毛頭そこに行く気などなかった。早くアニヤに戻りたい気持ちが強かったのと、そもそもそういう伝説に興味がひかれなかった。
アレスが去ってしばらくするとスピーカーから船員の案内が流れ始める。
『ご乗船ありがとうございました。まもなくコキノス島に到着いたします』
コキノス島。オリント地方の南に位置しアニヤから見たら東にある大きな島にして人気のリゾートスポットとして人気の場所だ。アニヤのゴキューズシティとは異なりコキノス島はお金持ちが多く集まり、土地のほとんどがその人たち専門の避暑地として利用されている。そのため庶民にとってコキノス島は静かで高級感あふれる場所なため近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのだ。
セルピルたちは船から下船すると目の前には白い砂浜とエメラルドグリーンに輝く海が広がるビーチが目の前に広がっていた。ビーチでは色の白い女性や色黒の男性と様々な人々が潮風と降り注ぐ太陽を浴びてビーチで優雅に楽しんでいた。
「あとはアニヤのタッシーマシティ行の船に乗り換えて、一日もすればアニヤに着く。それでセルピルとはお別れだ」
「うん」
セルピルはいよいよオリント地方からおさらばできると思うとすっきり感がよりも、どこか心にぽっかりと開いた感覚に陥った。ポケナビツーを開いて日にちを確認するとデミルシティから離れて五日しか経っていなかった。なのにまるで何週間もここにいたかのような感覚だった。
「次の船が何時かちょっと見てくるからエレブー、セルピルを見ててくれよ。まあここなら大丈夫だとは思うけどよ」
テオドールの姿が見えなくなるのを確認すると、セルピルは空のモンスターボールを手に取って投げようとする。だが寸での所で腕が止まる。そう、完全には完治していなかったのだ。指でモンスターボールを開閉することはできるのでポケモンを出すことはできるのだが、ボールを投げることができない以上は、新たにポケモンをゲットできることが難しくなる。
心理的には、この腕が止まるということが不安となっていたのだ。自分はまだバトルすることに怯えているのではないかということに。このままアニヤに帰っても元の自分でないまま帰るとセロが心配するかもしれないというのが気がかりだった。だが、もう一つ気がかかりなことがあった。それは旅を続けられるかどうかだった。
「ヘイ、そこのガール。君ポケモン持っているようだね」
片手にサーフボードを手にし焼けすぎないような小麦色と茶髪の髪をした二十後半ぐらいの海パン姿の若い男性がセルピルに声が掛けてきた。男性は右手で親指を立てるとくいっとその手を後ろに動かす。
「良かったら、僕と一緒にしない?」
「結構です。私連れがいますので」
明らかにナンパというものだとわかった。フリーではないのは行動からして明らかだが、ナンパされるのは人生で初めてだがその誘いに乗りたく思わなかった。
「そう固いこと言うなって、ほら行くよ!」
「ちょ、ちょっと!?」
男性がセルピルの手を引っ張りビーチへと連れていかれる。助けを呼ぼうと声を上げようとする。だが、男性の次の言葉で声が止まってしまった。
「行くぜ、DJ!ポケモンバトルだ!!」
なんと、男性は堂々と
だが、ビーチ中に軽快な音楽が鳴り始めるとそこにいた人々全員が一斉に歓喜の声を上げてセルピルは目を白黒させた。
『ハロー、Everybody.今日もやって来たぜポケモンバトル。さぁ、盛り上がろうぜ!!』
「「イエーイ!!ポケモンバトル!!」」
先ほどまで優雅に楽しんでいた上流階級の人々が軽快な音楽に合わせて右手を上げてフィーバーし始めた。未だに戸惑うセルピルにサングラスをかけた色黒の小太りなDJ風の男性がセルピルにマイクを近づけ、ラップ調であいさつをする。
「おーっす!未来のチャンピオン。今日の張り切ってバトルしようぜ!What's your name?」
「え、え~とセルピルです」
「いいね!セルピル!さあ対戦相手はゼラニ!使用ポケモンはthree!Youもthreeだ!Let's Go!」
DJが音楽ステージに戻ると、彼の呼びかけに応じてビーチの人たちが一つになって盛り上がり始める。トレーナーポジションに入ったゼラニがボールを宙に二回投げてバトルフィールドに投げる。
「まずは最初はこいつ、トドゼルガ!」
フィールドに二本の大きな牙を持ちブタ鼻が特徴的なポケモンが姿を現す。トドゼルガの相性的に有利なのはニチャモであるが本当にこの大衆の面前でポケモンバトルをしていいのか半信半疑であった。すると、未だに戸惑うセルピルを見かねて群衆から声が飛び交う。
「ほら娘さん。ポケモン出して出して」
「バトルが早く見たいわ。早く出して頂戴」
ここは本当にオリント地方なのかというぐらいに明らかに周りの人たちの目が違う。ポケモンたちがバトルをするところを本当に楽しみに待っている期待の目線でいっぱいだった。
セルピルはニチャモが入っているモンスターボールの開閉スイッチを指で押すとニチャモがボールから出てきた。
「肩慣らしと行こうぜ。肩を張ってちゃノンノン。肩の力を抜かなきゃ!トドゼルガ、のしかかり!」
トドゼルガがその重量級な体格にふさわしい技をニチャモに向かって飛び掛かる。ニチャモは強靭な足腰でトドゼルガの攻撃を跳んでかわす。
「トドゼルガなら炎も効くけどあついしぼうを持っている可能性もあるからここは。ニチャモ、かわらわり!動ける隙を与えないで!」
ニチャモは空中で一回転すると落下と共に手刀を出してトドゼルガのボディーに振り下ろす。トドゼルガが二本の牙でニチャモを振り払おうとするも進化したことにより動きが素早くなっているニチャモはトドゼルガの牙を難なくかわし切り、もう一度かわらわりをトドゼルガに打ち込む。
タイプ一致技に弱点である格闘タイプを二度も撃ち込まれては体力があるトドゼルガと言えども耐えきれずノックアウトしてしまう。
完膚なきまでにニチャモが倒してしまったセルピルは、やりすぎて不安になった。だが聞こえてきたのは、観客たちの喜ぶ声やセルピルたちを応援する声が飛び交っていた。
「いいよいいよ。バシャーモの動きとてもいいよ!」
「ゼラニ!あっという間に倒されたけどいいかい!?」
観客たちの声を代弁するかのようにDJがマイクでゼラニに伝える。
『Hey,スローリィスローリィ。まだまだよなゼラニ!』
「もちろんだぜDJ!次のポケモンは、みんな腰を抜かすなよ」
ゼラニがボールを海に向かって投げるとボールが開く。だが、出てきたはずのポケモンの姿は見えずセルピルや観客たちが心配そうに海を見つめる。すると、ゼラニが指で笛を吹くと海の色が黒く変化してきた。
黒い部分が一層濃くなってきたとき、海がまるで爆発したかのように海水が大きな飛沫を上げてセルピルや観客たちに降りかかる。塩辛い海の水が口に入り吐き出していると、沖の方にまるで潜水艦と思えるほどの大きさの巨大魚が海に出現していた。
『オーゥ!アメイジング!!アローラの海の魔物だ!!今回ゼラニは海の魔物を従えてきたぞ!!』
観客たちは喜びの悲鳴を上げているものの、対戦者のセルピルにとってそれは信じがたいものであった。ここにいる人たち全員を飲み込むことができるのというぐらいにあまりにも巨大で、本当にポケモンなのかと畏怖してしまった。それはニチャモも同じで、その巨大なポケモンに恐れをなしていた。
「さあ海の魔物の力を見せてやろうぜ。なみのり!」
海の魔物が大きく体を揺らすとどっぷりという音を立てて何重ものの大波が形成される。ニチャモは波の攻撃を受けないように三十階建てのビルをも超える脚力を活かして波を跳び越える。だが、大小の波はニチャモの飛び越えた先を読んでいるかのように次々とニチャモの飛び降りる先に波が押し寄せる。そして一つの大波がニチャモに襲い掛かりニチャモはなみのりを被ってしまう。
弱点である水タイプのそれも最強技の一つと言えるなみのりを受けてしまってはひん死寸前まで体力を削られてしまいセルピルはニチャモをボールに戻す。
「戻ってニチャモ!」
「いい判断だ。けどポケモンを交代しただけで勝てるかな?」
ゼラニが挑発気味にセルピルに勝ち誇った様子で腕を組む。相手は明らかに水タイプ、ならばと考えむーんの入っているボールを取り出すがあることに気付いた。あの海の魔物がいる海に向かってむーんを出すにはボールを投げないといけなかった。浜にボールを置いて出すかとセルピルが一度枠内から出ようとした時、ゼラニがその様子を見て
「ほらほらどうした。稚魚を放流するんじゃあるまいし」
その言葉を聞いてセルピルは少し頭にきて、舐められないようにボールを海に向かって投げた。その時自分の腕は無意識にそして自然にボールを投げれたとこに気付いたのはむーんがボールから出てきた後のことだった。
『Oh!草タイプのモンメン!これは期待満面!白熱したバトルが見れるのか!?』
DJの声に合わせて観客たちが一層盛り上がりを見せる。セルピルはまず防御を固めるためにコットンガードをするように伝える。一方で海の魔物は再びなみのりを繰り出しむーんに波の波状攻撃を仕掛ける。
大津波を思わせる波や小波が連続して連続してむーんに押し寄せるが、それはすべて綿に吸い取られると思っていた。だが実際に見えたのは海水でぐしゃぐしゃになった自分の綿に押しつぶされそうになったむーんの姿だった。
『アウチッ!これは判断ミスだ!海水を吸って綿が重くなって身動きが取れないぞ!』
「はっはっは。水に強いといっても淡水と海水では塩分があるなしでは効果が違うよ。さあ、しおみずでとどめだ!」
海の魔物がその大きな口を開くと口から小さな光がぽつぽつと生み出されていく。まだすぐに放つというわけではないようでセルピルはむーんを綿から脱出するようにいうが塩でべたつく綿がよけいにむーんに絡まり脱出できない。
そして口いっぱいに収まるほどの水の塊が形成されるとそれがむーんに放出される。その勢いはしおみずという範疇を超え、海水入りのハイドロポンプの威力をようしていた。
「うそっ!?草タイプのむーんなのに!?というかあれ、本当にしおみず!?ハイドロポンプじゃないの!?」
「そうさ、これが海の魔物の力!これを超えられるかなセルピルちゃん?」
だが、セルピルの手持ちに水タイプに有効なポケモンはいない。むーんが倒されてしまった以上対抗手段が絶たれてしまったのだ。すると、バトルフィールドに降り立つ一匹の黄色いポケモンが姿を現した。
「エレ、ブー!」
『Oh!?乱入か?それともセルピルのポケモンか?』
現れたのはあの機械を背負っていたエレブーだった。機械は進化したためその体の大きさと比べるとだいぶ小さく見えていた。
「このエレブーは野生の」
とセルピルが言いかけるとエレブーはぎろりと珍しくセルピルを睨みつけていた。もしかしてエレブーはとセルピルは瞬時に理解した。
「私のポケモンです!」
「レヘヘヘ、ブブ」
セルピルがそう宣言するとエレブーは嬉しそうに体中に電気を飛ばす。
『おっと、ゼラニ。これはSo,but苦手な電気タイプが来たぜ!いったいどうするんだい?』
「決まっている。海の魔物の力をあのエレブーに見せてやるのさ。なみのり!」
三度の波状攻撃。エレブーはかわしもせずになみのりを受けて体毛を濡らすがそれでもなんともないようだ。
「エレブー、あのポケモン攻撃力が半端じゃないわよ。一気に決めないと。待てよ、確か電気を通すのは……エレブー、海に向かって電気を流して!」
そういわれて、エレブーは両腕に電気を帯びて海の魔物がいる方面の海に向かってかみなりパンチを撃つ。すると、電気は一直線に海の魔物に届きあっという間に感電する。ゼラニの海水という言葉がカギだった。真水や淡水よりも海水などの不純物が多く含まれている水の方がよく電気を通すことをセルピルは思い出した。
海の魔物は、電気のダメージを負ったもののいまだ健在で、口からしおみずの発射する準備をしていた。そしてセルピルは気付いていたあのポケモンがしおみずを発射する時間が異様に遅いことを。
「エレキボール!!」
エレブーの体から蓄電された電気の塊が稲妻のように海の魔物に向かって撃ち落とされる。大飛沫を上げて海の魔物はあっという間に姿を消してしまった。
あまりにも、その破壊力とは異なるほど霧のように消えてしまった海の魔物にゼラニを除いた全員が心配する。すると、一匹の小さなポケモンが小さな水の音を立ててエレブーに当たる音が聞こえていた。エレブーがそれに触るとすぐに感電して倒れてしまう。そのポケモンはラーレタウン出身のセルピルにとって見慣れていたポケモンだった。
「……
「はっはっは、最後の抵抗だったんだけどやっぱり一匹だけじゃ反撃は無理か」
『OH,MyGot!!なんと海の魔物は最弱のポケモンヨワシだったなんて!!しかもそれから察するにヨワシは集団でバトルしていたとは!』
DJがわざとらしく事のあらましを軽快なノリで説明していく。セルピルは漁師である父から聞こえてきた歌からヨワシの存在やその姿を見たことはあったもののひ弱で小さいとしか印象になかった。それが集団であんな最強クラスの戦いをしかけてくるとはと今後ヨワシを見かけるとなると身震いがした。
「さて、これで俺のポケモンも最後だな。キングドラ締まっていくぞ!」
「ドラララ!」
鳴き声とともに現れたキングドラ。水とドラゴンの複合であり電気タイプが有効とはならない厄介な相手だ。この戦いは純粋な力と力の押し合いとなることが予想される。
「エレキボール!」
エレブーが電気の塊を放ち加速を始める。遅れてキングドラが口からねっとうを放ちエレキボールを相打つ。だが、エレキボールは相手が素早く動いたこともあってねっとうに対して威力が十分でなくあっという間に打ち消されて消滅、ねっとうは勢いそのまま熱い水をエレブーに浴びせる。
水蒸気がエレブーの体から立ち込めるが、エレブーはいまだ健在だった。
「相手さんの方が少し速いか。ならキングドラ、こうそくいどうで近づいてしおみずで引導を渡せ!」
命令と同時に、空中で滑空するキングドラのその姿はドラゴンポケモンにふさわしい動きを見せていた。この動きでは、エレブーの攻撃が当たりそうになく、一方的にしおみずがエレブーの周りを濡らし始めるだけであった。
なんとしてでもしおみずを防ぎかつ動きを止める方法はないかと、セルピルはエレブーにある技が出せるか聞く。
「エレブー、ひかりのかべ出せる!?」
エレブーはうんと頷き、二本の角から作り出されたバチバチという弾け光り輝く電気の壁がエレブーの前に出現する。しおみずがそれにあたると、あっという間に水が感電し蒸発してしまった。これならいけると考え、セルピルは続けて伝える。
「その壁をキングドラの周りにつくって!」
「させるかよ!さらにこうそくいどう!」
エレブーは次々とひかりのかべをキングドラの前や側面に出すが、キングドラは一瞬でかべの包囲網から抜け出す。それを繰り返していく内に、観客たちはひかりのかべが何十ものの層のような壁がフィールド上につくられているのに気づいた。
そして次の瞬間、巨大な壁のように周囲を囲っていたかべから微弱な電流が一斉にキングドラに襲い掛かる。電流はキングドラをしびれさせてその動きを封じ込めた。
『クレイジー!ひかりのかべからでんじはが!これはポケモンの考えか?Orトレーナーの作戦か?』
たしかにその発想はあったものの、でんじはを出したのはエレブー自身だ。セルピルの考えがエレブーに自然と伝わったのかそれともポケモン自身が紡ぎだしたか、その答えはセルピル自身でもはっきりしない。
「かみなりパンチ!」
まひにより動けなくなったエレブーのかみなりパンチがキングドラに向けて打ち放たれ、キングドラはノックアウトとなった。
『Winner!セルピルだー!』
DJが勝利の宣言をすると、観客は一斉に拍手喝采を二人のトレーナに送った。
軽快な音楽の音が小さくなり、集まっていた人々はバトルを観戦していた余韻に浸っていた。人々はセルピルやポケモンたちを労う声をかけてもらえることや手作りの焼き菓子をもらえてしまうなど今までとはことなるほどの対応に困惑するばかりだった。
「なんで、ここの人たちはポケモンバトルを受け入れているのかな?」
「思うよね思うよね。オリント本土から来た人たちはみんなそう思うよね」
DJが間からセルピルに話しかけて理由を話してくれた。
「ゼラニがポケモンバトルを楽しいものだって広めてくれたおかげなんだYO。彼のいるところでいつも俺がPlayMusicして。ポケモンバトルして。最初は反感買っていたけどYO。四年もかけてここをオリントで一番安全にポケモンバトルできるところにしたんだYO!フリーの奴らもここだけはノックアウトなんだYO」
「まあそうやってしないとお金も落とさないし、みんながここを楽しんでくれないしな」
「楽しむ?」
「そう。本土はフリーの奴らの所為でポケモンバトルが楽しめないしギスギスしててさ楽しくないんだよな。だからコキノス島は、ポケモンバトルが純粋に楽しめるいい島だっていっぱい来てもらうため俺はこうやってバトルを広めてきたんだ」
似た目とは裏腹に。しっかりとした信念を持っている人だとセルピルは感じた。オリントでもバトルを楽しませようという努力をする人たちがいるのだなと思ったのだ。
ビーチから戻ると、テオドールが腕を組んでいつもの鋭い目つきでセルピルを睨んでいた。それを見て慌ててセルピルはテオドールに謝罪する。
「勝手にいなくなってごめんなさい」
「はぁ、急にいないと思ったら、お前らそいつに捕まっていたのかよ」
テオドールが後ろにいたゼラニとDJの姿を見てため息をついた。ゼラニはテオドールのことをしていたようで久しぶりとあいさつを一方的にかわした。
「まったく、いつも思うけど。
「へっ?ジム戦?!」
セルピルがすっきょんとうな声を上げたとき、ゼラニは腰のポケットから小さなものを取り出した。それは明らかにセルピルが目にしたことのないジムバッジだった。
「その通り!勝利したセルピルちゃんには、オリント地方公認のジムバッジウェーブバッジを進呈しよう。けど、これはオリント公認だからアニヤに戻ってもジムバッジ揃えたことにはならないけど。まあお土産にどうぞってな」
ころりとセルピルの手の中に、ウェーブバッジが落ちてくる。アニヤでは全く意味をなさないものの紛れもなくセルピルは今しがたジムリーダーとバトルをしていたのだ。それならば、ポケモンバトルを広めようとする理由も符号がつく。
「……つまり最初から私のことを知っていたということ?」
「はっはっはその通り。ちょうど野暮用が終わったところにシャムロックから連絡を受けて、運よく見つけたらちょっと悩んでいたから荒療治でやったのさ。ところで、そのエレブーはまだゲットしないのかい?」
エレブーは、今か今かとセルピルを待っている様子だった。
「それじゃ、エレブー。じゃなくてニックネームを決めないと。エレブーのレに関連して零番のレイレイで」
セルピルがふんわりとボールを上に投げると、エレブーの頭にボールのスイッチが当たる。エレブーは全く抵抗せずにすんなりとボールに収まった。
「うん。みんなのおかげで私は完全に治りました。テオドールも私を助けてくれてありがとう」
「気を付けてな。俺もジムリーダーをさっさと倒してバッジをゲットするから」
「そうはいかないぜ。今回は海の魔物がいるんだぜ。だからしばらくここでバカンスでもしてのんびりしておきな」
ゼラニの挑発にテオドールは目の奥で炎が燃え盛っているのを見届けてセルピルはアニヤ行きの船に乗船した。
セルピルが船に乗って出港した後でも、彼らはセルピルに気付かずビーチでのジム戦に夢中になっていた。それでもセルピルは男って奴はと許してしまった。ここはテオドールのようなポケモンバトルをしたい人にとって楽園のような島なんだからとわかっているから。
これで第三章オリント地方編終幕です。
さて次章はフリーとの対決編です。ポケットモンスターノースサウスも佳境と終局に向けて動き出します。
完結までのプロットはできてますので皆さん最後まで応援お願いします。
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