ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第五十三話『立ち上がるオリントのトレーナーたち』

 オリント地方のマールマロシティの丘にそびえたつ巨大な柱に支えられている神殿のような形をしたジムが街を見下ろしている。石造りの街並みが並ぶマールマロシティを見渡せるその場所には、普段なら観光客が大勢いるはずが今日に限っては人っ子一人いなかった。

 その理由は、丘のふもとにある広場にあった。色とりどりの服を着たトレーナー達と白で統一された集団フリーが朝方から不気味に静かを保ち続けていたのだ。この異様な雰囲気もさることながら現在、他のジムのある街にもフリーの集団がこぞってジムの前に集まっていた。その動きを察知したジムトレーナーとオリントのトレーナーたちが先回りしてジムの入り口に立ちふさがりにらみ合いが起こっていた。

 

「貴方たちそこをお退きなさい。自分たちが何をしているのかお判りですか」

「それはこっちのセリフだ!」

 

 メデューサの言葉にテオドールが前に出て反論すると、ルカリオとラグラージを繰り出す。それに続いて後ろのトレーナーたちもポケモンを繰り出してポケモンたちが前に出て、色彩が異なれどぎらついた目をした強固な壁を作り出る。

 

「少し早いですが教化をはじめなさい。放送の前にする予定でしたが繰り上げましょう」

 

 メデューサの手が上がると、フリーの団員たちは一斉にポケモンを出しジムの前を陣取るトレーナーたちに向かって進撃する。

 

「アレクサンダー!」

「ササンドラりゅうのはどう」

 

 冷たい声が進撃する団員たちの足音でかき消されると、先頭にいたフリーのポケモンたちが一瞬にして衝撃波に包まれ倒れていく。テオドールから見て右側に布陣していたアレクサンダーのササンドラが建物の影から技を放ったのだ。

 その背後には、マールマロジムのトレーナーとジムリーダーシャムロックの姿もあった。

 

「皆さん、私たちの場所を守りましょう!」

「「オオーー!!」」

 

 シャムロックの掛け声とともに他のトレーナーたちも一斉に前進をはじめ迎え撃つ。初動に失敗したフリーであるが、メデューサの鼓舞によりすぐさま体勢を立て直して数の有利を活かしトレーナーたちを押し返す。

 フリーの数の多さにトレーナーたちも後退せざる負えなく、丘へと登る。アレクサンダーはジムがやられたた終わりだと判断して、ササンドラに捕まりテオドールたち本体にへと応援に駆け付ける。

 

「アレクサンダー、来てくれたか。くそっ、人とポケモンが足りねぇ。町の人はみんな怯えて引き籠ってしまっているし」

 

 テオドールが吐いた悪態に、アレクサンダーは罪悪感じた。ジムリーダーやアレクサンダーたちが事前に準備ができていたのはフリーが動き始めたという情報が入ってきたことにより動くことができたのだが、ジムリーダーたちがイエロスヴィレッジにも協力を要請したものの無碍に断られてしまった。

 アレクサンダーはマールマロシティにいたため、村の人から強引に引き留められることはなくジムを守ることができたのだが、そこの人間である自分が村のみんなを動かせなかったことにより苦戦を強いられている。この原因は自分になると思っていたのだ。

 それに作用してかアレクサンダーの戦い方に鈍さがあった。いやその鈍さの原因は罪悪からではない。セルピルだ。手紙が交わせると言いつつもそれは村のみんなから秘密ですることでありセルピルとは結局顔を合わせることができない。友達と会うためにアニヤに行くなど流石に許されないのだ。ある種セルピルが偶然オリントにやって来たのが慰めになったのだ。

 何人かのトレーナーが飛行ポケモンを繰り出し。上空からフリーを迎撃する。相手もそれに負けじと地上から複数の色が交った技の砲火を轟音と共に交える。すると、その中に野生だろうか一匹のペリッパーが混じっていて交差する攻撃の間を縫っていた。

 ペリッパーは幾度と羽を動かしたり止めたりしてかわすもののついには翼の一つが当たりペリッパーは回転しながら落下していく。

 それに気づいたアレクサンダーはササンドラに命じて上空に上がらせてペリッパーを救出させた。サザンドラの三つある頭のうちの二つがペリッパーの体を支え、激しい技の応酬を隙間を縫ってアレクサンダーの元にへと降り立つ。

 

「ペリッパー、大丈夫かい?」

「ペリリ」

 

 翼の腕が黒く変色しもう飛べそうになかった。その時ペリッパーの口から一枚の手紙が零れ落ちた。どうやら郵便局のポケモンのようであった。とにかくペリッパーを安全なところへ下がらせてアレクサンダーが持っている手紙も預けてもらおうと考える。

 ふと、この手紙の主が誰かと差出人の方を見るとアレクサンダーは目を見開く。そこにはセルピルという女の子特有の丸い文字で書かれ、宛先にはイエロスヴィレッジのアレクサンダー宛てと書いてあり、周囲の荒れ狂う状況を忘れたかのように封筒を開けて中の手紙をざっと見る。

 その集中力は周りの喧騒が聞こえないほどで、突然動きが止まっていたテオドールが声をかけても全く反応しないほどだった。

 

「テオドール、ササンドラとペリッパーをお願い」

「なに!?」

 

 そういうとアレクサンダーはメタグロスを繰り出してその上に乗りメタグロスと一緒に飛び立とうとする。

 

「おい!こんな時にどこへ行くんだチャンピオン!!」

「絶対に応援を呼んでくるから!」

 

 メタグロスは上空の戦場の流れ弾を鋼鉄の体で受け流しアレクサンダーと共に戦場から離脱した。

 

 突然のアレクサンダーの離脱に困惑したテオドールであるが、事態は刻々と変化し悪化の一途をたどっている。フリーの数が増え始めそれに比例してポケモンの数も増えていき押されていたのだ。アレクサンダーが残したササンドラがりゅうのはどうで押し返そうとするも数の多さにはいかんしがたく砲台となっていたササンドラに疲労の色が見えその吐く勢いも陰りも見え始めていた。

 交代に交代を重ね、ついにジムまであと百メートルもあるかないかまで下がり、守りについていたトレーナーの数も数が減っていた。

 勝利を確信したメデューサは、拡声器を取り出し全体に聞こえるようにぐるりと回りながら言葉を発する。

 

「皆さん、お聞きください。ゴドー司教が我々の正義の行いについてお言葉があります。そして今あなた方がしていること、そしてポケモンがバトルという非道に縛られていることについて耳を傾けなさい!」

 

 メデューサの狙い、それはアニヤでステンノーが放送で呼びかけたように団員を鼓舞させ、自分たちが正義の行いをしていると自覚させ勝利を確固たるものにするという狙いだった。事実、トレーナーが多いアニヤ地方でありながら随所で勝っている報告が届いていてその効果は現れている

 団員たちがテレビと声を拾えるようにマイクを設置し終えると、テレビに色が映る。そこには白で統一された祭壇の上に立つゴドー司教と数人の団員の姿が映し出されていた。

 

『フリーの団員の諸君。そしてポケモントレーナーの人々よ、よく聞き給え』

 

 

 

 セルピルへの手紙、それは自分が三年間名前を知らない友人へ送り続けたものが無駄ではなかったことを現し、そして奮い立たせる内容が書かれていた。

 

『アレクサンダーへ、まず最初に謝りたいと思います。実はあなたが流した挑戦状の入った瓶を私は受け取っていたのです。しかもその手紙は、友達のレイの名前を使ってあなたの下に送ってしまいました。何度も言える機会があったのに直接言えなくて本当にごめんなさい。さて、次はお礼です。私を守ってくれてありがとう。あなたやテオドールが助けに来てくれなかったら、きっとあの狭い独房の中で泣き続けていました。そして旅を続けることもできなかったと思います』

 

 セルピルがあの手紙を受け取り返事も返してくれた。あの中にあるレイという人物はセルピルの物だったということにアレクサンダーは内にため込んでいたものがあふれ出して止まらなかった。

 そして手紙には続けてこう書いてあった。

 

『今私がこうして旅を再開できたのは、最初の目的である自分の旅を最後までやり遂げたいこと。そしてあなたにもう一度会うためにポケモンリーグへ目指したいからです』

 

 この一文、自分に会うことそしてセルピルが自分と再びバトルすることが伝わってきた。今までそれを成し遂げた挑戦者はいなかったのに、彼女はその決意を明確に言葉にして来たのだ。

 

『けど、今アニヤもオリントも危機にさらされそれがなくなってしまいそうです。私はフリーを止めてポケモンリーグをポケモンジムを、ポケモンバトルを消させないために戦います。だからあなたも立ち上がってください。私もさっきまで親に旅を止められそうになりました。けど友達や旅の先輩に止まってはいけない、進んで行けと押され進みましただから――』

 

 いくつもの修正跡があり、何枚ものメモのページを重ねただけの粗末な手紙。だがそれはどんな豪華で立派な紙よりも、どんな達筆な文字よりも彼にとっては何物にも超えることのできない最高の手紙であり今のセルピルの気持ちが伝わってくるものであった。

 そしてメタグロスがオリント山のイエロスヴィレッジのマホガニー宅に降り立つと、アレクサンダーはドアを開けてマホガニーの前に立った。

 

「なんじゃ、アレク。急に入ってきて」

 

 マホガニーは、突然入ってきたとういうのに瞬き一つとして動かさずラジオからイヤホンを片方だけ耳に入れて何かを聞いていた。

 

「おじさん、フリーがポケモンジムを、ポケモンバトルを完全に潰そうと動き出しているよ」

「それがなんじゃ。ワシらは関わらんと言ったじゃろうが。どうせフリーと関わろうとしたとたんにこの村は完全に潰されてしまう。いや、下にあるスクールも巻き込むじゃろうて」

 

 やはり変わらない反応。動かない姿勢と睨みつける眼光にアレクサンダーはすくみあがりそうになるが、セルピルからの手紙を握り締めてそこから勇気をもらい深呼吸する。

 

「おじさん本当は、フリーを倒したかったんじゃないの?でなきゃ、フリーの内部事情を今の今まで収集しないわけがない。おじさんは、フリーを倒したい。そう思って行動してきたんじゃないの!?関わらないって言っておきながら機会をうかがっていたんじゃないの!?」

 

 マホガニーは眉間にしわを寄せるが全く反論はしない。

 

「ソフィさんが、テオドールのお母さんがフリーに攫われたという情報をつかんでいるのに助けようとしなかった。けど僕やテオドールたちでソフィさんを助けられた。フリーの悪事も証拠も手にいれた。結果論だとしても行動を起こしたらフリーを追い詰めることができた」

 

 アレクサンダーはふと、マホガニーの沈黙する姿に()()()()()()()姿()()()()()()()()と感じた。あれはバトルが嫌いだというかつての自分の姿だ。失敗や見えない不安に押しつぶされて誰もその手を引っ張てくれなく籠ってしまった自分の姿なんだと。

 だが、自分はセルピルによって動くことができた。だから今度は自分の番だと感じ取った。

 

「何もしなきゃ変わらないよ。じっとしているだけじゃいつまでも変わらないよ!変えたいともうなら動かないと。僕たちトレーナーやジムリーダーは自分たちの場所を守ろうと今必死で戦っているんだ。僕がその手を引くから」

 

 アレクサンダーは、セルピルの手紙にあった言葉の最後の一節を引用する。

 

『だから前に進もう セルピルより』

「だから、前に進もうよ!!マホガニーおじさん!!」

 

 アレクサンダーの精一杯の内に秘めていた訴えが部屋の中に響く。暫しの静寂の後マホガニーは口を開く。だが、その顔は先ほどの冷めた表情と全く変わらなかった。

 

「青いな。だが、ワシはジジイじゃ。青さでは動けん。勝てる材料がなくては」

 

 だが、マホガニーはその次の言葉を紡がなかった。片耳にだけついているイヤホンに手をあてて一言一句聞き逃さない真剣な表情で聞いていると、ラジオとつないでいたイヤホンから耳を離し、立ち上がり机に置いてあったモンスターボールを手にする。

 

「山を下りるぞ!村の者にも伝えてくれ!」

「どうしていきなり?」

「まさか奴があんな行動をするとは。フリーめ、裏切り者が出てさぞ驚いているだろうな」

 

 マホガニーがイヤホンをラジオから抜くと声が流れてきた。それはフリーの司教ゴドーの声であったが、その内容はアレクサンダーを――いや全ての人が驚く内容を話していた。

 

 

 

『ある少女が連れたポケモンが野生のポケモンだと知ったとき偽りだと思った。だが事実その少女はモンスターボールを持っていなかった。それでもそのポケモンは素直に従った。身を守る本能ではなく、人間と共に戦うために従った。ポケモンは本当は戦うのが本望だという、我が師匠の言葉が真実であるということに気付かされれた。ポケモンバトルは共に戦う兄弟であるトレーナーとのお互いの絆を深めるものではないかと、それが真実ではないかと』

「どういう……ことですの」

 

 メデューサが言葉を失う。それはフリーだけでなくトレーナーたちも同じだった。フリーを束ねるはずの立場にいる人物であるゴドーがあろうことか、ポケモンバトルを肯定する発言をしたのだ。

 画面にいるゴドーの周りに立っている団員やカメラは放送を止めようとしない。明らかにゴドーの息がかかっているもので構成された放送だとテオドールやマホガニーは理解した。

 

『一方で我々フリーは、ポケモンの解放を謳っていた。だがそれは偽りであった。その罪は我自ら告白する』

 

 ゴドーは続けてフリーの悪事を事細かに話し始める。団員たちは完全に戦うことを忘れその手を止めていた。

 

『誘拐、洗脳。これのどこに解放がある?これは支配だ。そして、フリーが崇めているのはポケモンではなく人間である――』

『止めろ!!』

 

 最後に聞こえた怒声とともに画面が暗転し音も機械による高音だけがあたりに響いた。

 

「どういうことだ?あれは本当のことなのか?」

「ゴドー司教が言ったんだろ。だとしたら」

 

 突然の司教によるフリーの内部告白、それもフリー全体に行き渡ったことにより団員たちは動揺を隠せないでいた。

 

「落ち着きなさい!あれはまやかしです!裏切者の言葉に惑わされてはいけません!!」

 

 メデューサが団員たちに向かって先ほどの内容を否定すようと努める。だが、この好機を逃してなるものかとテオドールは止めたる事実を投げつける。

 

「真実だぜ。俺の母さんを誘拐して、挙句にポケモンを洗脳する機械をカタス社と結託して製造していた。もうポケモン協会に証拠を渡している。悪事がバレるのは時間の問題なんだよ。お前たちがやっていることは犯罪なんだよ!!」

 

 止めの言葉、普通の精神状態なら子供の言葉になど耳を貸さないはずが、ゴドーの言葉で判断力や自分たちが信仰していたものが偽りとなり動揺していることもあってすんなりと受け入れてしまった。

 

「犯罪者、悪人?俺はそんなことを……!」

 

 それは憑き物が落ちたかのように、ほとんどの団員が頭を抱え動かなくなる。もうメデューサの言葉は団員たちの耳に届かない。

 メデューサが苦虫を噛み潰したように苦悶の表情を撃甕ていると、一人の団員が血相を変えてメデューサに向かって叫んだ。

 

「オリント山が、オリントの有志が動きました!!」

「ば、馬鹿な!?そんな……あの無気力になった村民が」

 

 メデューサは慌てて自分と団員の口を塞いだ。だが遅かった。まだ戦う気力のある団員たちの気力をそいでしまう発言は今厳禁。それを伝播させてしまった。

 そして団員たちに取って絶望のの、トレーナーたちにとって希望の華が舞い降りてきた。

 マホガニーらイエロスヴィレッジの住民たちがワタッコや飛行ポケモンに乗って来た。そしてワタッコに乗っているマホガニーが力強い声でトレーナーたちに向かって鼓舞をする。

 

「有志達よ。そしてトレーナーたちよ。今こそオリント地方を取り戻す時だ!ダーコスシティ、ミアシティにも援軍が出ている。今こそ反撃の時だ!」

「「オオーー!!」」

 

 援軍。その言葉に完全に勢いが逆転されてしまった。戦う気力をなくした団員たちは立ち尽くす者やポケモンを戻して逃亡を始めるものが出てきた。

 そしてこの逆転劇の立役者であるアレクサンダーがメタグロスに乗ってテオドールの所へ舞い戻ってくると、テオドールは功労者の肩を抱いて褒め称えた。

 

「やるじゃねえかチャンピオン。本当に援軍を連れてくるなんてよ」

「うん。セルピルのおかげだよ。絶対にポケモンジムをポケモンリーグを潰させやしない!約束を果たすために!」

 

 アレクサンダーの手には再会を約束した友人へのそして挑戦者への手紙がしっかりと握られていた。

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