ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第五十四話『通信交換と進化』

 普段は静かなスヨルの森、けれどもこの日はあまりにも多くの人間がこの森に入り戦いを始めていた。普段森の中で生活しているポケモンたちは人間たちの争いに怖れて草陰で隠れて収束するのを見るだけであった。

 

「バブルこうせん!」

「きりさく!」

 

 フリーの団員とスヨルタウンの住民たちによる攻防、互いが引けを取らない戦いが続くさなかセルピルたちもセロのヨっちの背中に乗ってフリーを追いかけていた。

 

「ヨっち、ダッシュダッシュ!!」

 

 ヨっちの巨体とその俊敏さに二人の団員はだんだんとその距離を詰められていき息を切らしていた。そして木々が途切れると目の前に川が見えて団員たちは落ちるのを恐れて足を止めてしまい、そのままヨっちののしかかりで押さえつけられてしまう。

 

「よしよしヨっちよくやった」

「私たちを乗せているのにすごく速いね」

 

 セルピルがヨっちを褒め称えてあたりを見回すとそこは自分がスヨルタウンから出て初めて野宿をした場所であることを思い出した。だがあの時と違い、美しい風景を見せてくれたバルビートとイルミーゼの姿はどこにもない。自分たちがこの森で戦っているから隠れているのだろうと思うとセルピルは胸が痛くなった。

 自分たちも好きでここで戦っているわけではないというのに一刻も早くフリーを止めないとという焦燥に駆られる。

 すると、川を超えた先にまた二人の団員の姿が見えるとすぐ逃げだし、そのことをヨっちに伝える。

 

「ヨっち、川の向こう側にフリーがいるわ!」

「バウバウ」

 

 ヨっちはセルピルが指し示したところに目を向けると、数歩後ろに下がると助走をつけて川を飛び越えて団員を追いかける。

 団員を追いかけるヨっち、森の中は獣道しかなく団員たちもヨっちもそれに従って奥へ奥へと進んでいく。セロが何度も方向を変えていくフリーの行く先をヨっちに伝えていると何か違和感を感じたのかセルピルに話しかけた。

 

「ねえ、なんか変じゃない?」

「何が?」

「なんかこう、右に曲がったり左に曲がったりとしているけど同じところをグルグル回っているような気がして」

 

 セロの指摘であたりを見るが、どこを見ても同じような木々や草花が見えるばかりで変化がわからない。ここで気のせいではと言うのは危険だ。敵はこの森から来てこの森に一晩も隠れていたもしかしたら熟知して、何かの機会をうかがっている可能性だってある。

 

「セロ、一旦ヨっちの足を止めさせよう何かあるかもしれない」

「そうだね。停まれヨっち!」

 

 ヨっちがセロの命令を聞き急ブレーキをかけて団員を追いかけるのを止めた、その時であった。ヨっちの本当の意味で目と鼻の先でケンタロスが鳴き声を上げながら草むらから角を前に出してとっしんをしてきたのだ。ケンタロスが通り過ぎると背中にはフリーの団員を乗せていた。

 

「奇襲失敗!バッフロン、先発のケンタロスに続け!」

 

 横の草むらから声が響くと、地響きに似た大地を揺らす音があたりに響くと危険を察知してヨっちは反転して逃げていく。セルピルが後ろを向くと、そこには草むらかと思っていた塊からバッフロンの特徴であるアフロ状の毛が木の葉で隠されていた姿が正体を現して地響きとともに何匹もケンタロスの後ろについてくる。

 フリーを背中に乗せたケンタロスとバッフロンの群れがヨっちたちに向かって突き進んで来る。先頭を走るケンタロスとヨっちの差がどんどん縮まり角がヨっちの毛深い体毛の表面に刺さってくる。

 後ろに乗っていたセルピルは振り向き危機的状況を見てこのままでは追いつかれてしまうとボールを手に取ろうとする。すると、二匹のマンキーが木と木の間を跳び伝う姿が一瞬見えた。その時セルピルはかつて自分がコンヤストリートへ向かっていた道中のことを思い出した。

 

「マンキー?……そうだ!セロ、ここで左に曲がって!」

「えっ!?でも道がないよ!」

「いいから!出ないと()()()()()()()()()()()()!」

 

 セロは言われるがままヨっちに方向転換するように伝えると、ヨっちはそれに従いぐるりと方向を転換して道がない森の中へと進んでいった。急に方向転換をしたことによりフリーはケンタロスと後続にいるバッフロン達に一度停まるように命令する。ケンタロスやバッフロンといった暴れ牛は勢いがつくと方向転換ができず停まる必要があるのだ。

 土と砂煙が舞い上げながら足を止める。すると、急に彼らの周りの木々が騒がしくなり団員たちは上を見上げると、顔面にマトマのみを投げつけられた。一つでもとても辛いマトマのみ、それがここのテリトリーであるマンキー達の集団に投げつけられた日にはその辛さによる痛みは数週間引かないだろう。

 無論それはケンタロスたちも同じで同じく顔にマトマのみが当たると、ケンタロスとバッフロンは痛さに耐えられず団員を乗せたまま当てずっぽうに木にずつきを仕掛けて団員たちを振り落とした。マトマのみの痛さとケンタロスたちが暴れることでそこは阿鼻叫喚の絵図となっていた。

 

「やった!セルピルあそこにマンキー達の縄張りがあることを知っていたの?」

「うん。というか、私自身がうっかりそこに入ってしまったから嫌でも覚えていて」

 

 セルピルが過去の自分の経験をセロに語っているといつの間にか森を抜け、石でできた扉が一つしかない建物がいくつも見えていた。

 

「あれ、この建物って」

「コンヤストリートの裏側だ。もう森を抜けてしまっていたんだ」

 

 セロがヨっちに止まるように伝えて二人はいったんコンヤストリートに降り立つ。裏口だからか人の気配はないがあまりにも人の気配がなさすぎる。おそらく町長の懸念した通りコンヤストリートはフリーに占領されているのだとわかる。

 すると、表通りからポケモンの技を放つ爆発音と砂ぼこりが裏にまで来ると、二人は路地を伝って表の方へと走っていく。

 

「誰か戦っている?」

「モミさんたちやスヨルタウンの人はまだここに来る予定じゃないし、町の人かな?」

 

 

 

 セルピルとセロがこっそりと建物の影から表の方を覗くと、そこには黒服で身を包み仮面をかぶったセルピルたちと同じぐらいの二人の黒服部隊が、ザングースとハブネークを息を合わせながらフリーの団員とステンノー相手に戦っていた。

 

「黒服部隊!?」

「あれって、岩の旧市街で見た奴らだよね。フリーに味方していたのに、仲間割れかな?」

 

 黒服は、次々と団員たちのポケモンを倒すごとに倒されたポケモンの間を掻い潜り団員を一人ずつ直接倒していく。その見事といえる手さばきに思わず二人は見惚れてしまい顔が建物から見えてしまうのに気づかなかった。

 

「あっら、そこにいますのは、我々の敵!スリーパーかなしばりです」

 

 セルピルたちは急いで裏路地に戻ろうとするが敵のスリーパーの方が早く、ボールを出せる暇も与えないまま体がまるで金床にはまった中にいるかのように固まってしまい動けなくなった。続いてスリーパーが手に持っている振り子を揺らしながらサイコキネシスでセルピルたちをステンノーの元に運び出す。ステンノーがセルピルの前に立って憎たらしいと思うような表情をさせてその甲高い声を上げる。

 

「我々を侮辱しオリントの本部へ教化するように計らいましたのに、まさか本部をめちゃくちゃにした挙句戻ってくるとは」

 

 セルピルは動けない状態のまま、ステンノーが自分を誘拐させた主犯だと知り今すぐにでも倒してやりたい衝動に駆られたが体が動けないため歯をギリギリと歯ぎしりさせるしかできなかった。

 

「ではここで永遠にお別れとしましょう」

 

 ステンノーは耳障りなキンキン声を出しながら邪悪な笑みを浮かべながらセルピルを見つめ、スリーパーに次の命令を命じる。スリーパーの振り子が再び揺れ始めると、首元が万力でしめられるような感覚に襲われた。セロも同じ感覚に陥っているようでセロの口元から小さな泡が吹き出し始めていた。だが、ポケモンも出せず体も動けない以上どうすることもできず、だた死を座して待つしかないと思われた。

 すると、ザングースがスリーパーの振り子をブレイクブローで切り裂きスリーパーを足で踏み倒す。その攻撃のおかげか、かなしばりも首を絞めていた状態も解放されて二人は欠乏していた酸素を求めて呼吸を早める。

 息をつく暇もなく、セルピルとセロは先ほどの黒服の二人に担がれてそれぞれ建物の脇にへと逃げていく。

 フリーと戦っていたとはいえ、黒服部隊は自分たちにとって敵、もう一人の黒服に連れていかれ離れ離れになったセロがどんな目に合うか不安で堪らなく、セルピルは酸素が欠乏しフラフラになっている頭に気負いを入れて自分を担いでいる黒服にパンチ一つを入れる。だが黒服は全く反応せず表の方から少し見えない脇道に入るとセルピルをそこに降ろす。

 

「はぁ、はぁ、セロを、セロを返して!」

「セルピル、私です!」

 

 淡々とした口調から発せられる少年の声がする黒服が振り向くと、仮面を外して垂れた金髪の前髪を後ろにやり、懐から眼鏡を取り出す。その姿は、ヴァディタウンでセルピルと出会った()()()()()であり、セルピルはまさかのという表情を隠せずしどろもどろになる。

 

「えっ……嘘。でもルトフィーがフリーで、でも今は敵対してそれで」

「とにかく今の我々は味方なのです。あと、ルトフィーは偽名でポルックが本当の名前なのでそっちで呼んでほしいのです」

 

 ルトフィー改め、ポルックが影から表の方を見ていると、フリーのポケモンが二体自分たちのいる建物の方に向けて構えていた。反対側を見ると別のポケモンが二体反対側の建物に向かって技を放つ姿勢を取っていた。その建物の陰にはセロがいて無事なのを安心すると、先頭に黒服を着たセヘルがいた。彼女もまさか黒服部隊だったとわかると、ヴァディタウンでの出来事は偽物なのかと思うと複雑な気分になった。

 

「あっちは飛行タイプのケンホロウとヘルガーが、そしてこっちにはスリーパーとマグマラシ。私の手持ちがハブネークとシュバルゴであることも踏まえると厄介です」

 

 ポルックが状況を説明すると確かに不利だと言わざる負えない。ナライの地面技は今のところじしんしか覚えていなくそれだと町に使うことができず、エスパータイプに耐性のあるゴドラを出してもマグマラシの炎で倒されてしまう。その逆のニチャモ然りだ。使えるとすればイワンかレイレイだがどっちも攻撃偏重すぎる。

 

「う~ん。一方に有利なタイプが出てももう一方で負けてしまう。セロのワマっちがこっちにいてくれたら、あやしいひかりとかで混乱させれば助かるんだけど」

「ならそれをしましょう」

 

 ポルックの言葉にセルピルは首をかしげる。ポルックのポケットから出てきたのはケーブルのついた手のひらサイズに収まる機械だった。

 

「これはカタス社が開発していた携帯型ポケモン通信交換機です。ポケナビツーの周辺機器ですので使えるのです」

「でも、ネットは今使えないんじゃ」

「赤外線通信なのですよ。この機械自体から発せられるのですからネットなんて関係ないのです。携帯でポンッなのです。ハンドサインでヘレネに通信交換を呼びかけるのです」

 

 そういうとポルックは、反対側にいるセロたちに向かってグーパーや指を曲げたり伸ばしたりを素早く繰り返した。向こうもポルックと同じようにハンドサインするとポルックが「電気タイプはいないか」といってきたのでレイレイが入ったボールを出す。

 

「まず、この機械のケーブルをポケナビツーに接続して、機械の上にボールを置いてスイッチを入れるだけなのです」

 

 ポルックの説明通りに接続してボールをセットし、ポケナビツーのメインボタンを押すと機械の方から赤い光がチカチカと光り始めた。同じ光が反対側の建物からも起きると機械の画面に『通信中』の文字が現れた。数分も経たないうちに『交換終了』というメッセージが出てセルピルは半信半疑のままレイレイからワマっちに交換されたボールを手にする。

 そのままポルックも通信交換を終えると立ち上がりセルピルの方を向く。

 

「交換完了です。さあ出してください」

 

 言われるがまま、表通りに向かってボールを投げる。

 

「出てきて、ワマっち!」

「いきますよ。ザングース!」

 

 ポルックのボールから出てきたのはその言葉通りザングースであったが、セルピルの方から出てきたのはワマっちではない別のポケモンだった。覆面のような布の間から見える一つ目と二本の太い腕、そして顔のように見える腹部。それは()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「どうして!?なんでワマっちが進化しているの!?」

 

 状況が呑み込めないまま、混乱していると、スリーパーとマグマラシがポケモンが出たことに気付く。マグマラシはスリーパーの弱点を付けるワマっちに向かってかえんぐるまをつかって突進してくる。だが、ワマっちはすかさず体をぐいっと上げて大きな顔のような腹部を黄色に光らせてマグマラシの目の前で見せつけておどろかせる技を使うと、ひるんだ隙をついてザングースがマグマラシに飛び掛かる。

 マグマラシとザングースが互いに取っ組み合いをしていると、スリーパーはいつの間にか修復していた振り子をワマっちに向けてサイコキネシスを放とうとさせる。振り子の真ん中の穴にワマっちを捉えてゆっくりと動き始める。辺りの景色がぐにゃりと変化し、同時に振り子の速度がだんだんと早まりいよいよ技が決まろうとする。が、早すぎるとスリーパーが気付くこともなくサイコキネシスは()()()()()()()()()()

 ワマっちはスリーパーがこちらを向いて振り子を揺らしている間にあやしいひかりをスリーパーにかけていたのだ。これによりマグマラシとスリーパーの間で同士討ちをさせることができたのだ。

 

「ワマっち、シャドーボール!」

 

 ワマっちの両手から形成される黒い塊はグアバのヨノワールの技を想起させるほどで、それが放たれたときには無抵抗であったスリーパーはあっという間に倒れてしまった。ザングースのほうも、スリーパーの同士討ち攻撃によってマグマラシが弱っていたこともあってほぼ同時に決着がついていた。

 その向こうでは、ハブネークと見たことのない黒と黄色の体毛で覆われ二本の尻尾が生えているポケモンが別のフリーの団員相手に戦っている姿が見えていた。

 

「もしかして、あれレイレイ?なんでレイレイまで進化しているの?」

 

 レイレイと思わしきポケモンは、丸太を思わせる太い腕からかみなりパンチをケンホロウに喰らわせてボールに戻す手柄を立てていた。

 

「退却、退却です。ほらあなたも!」

 

 ステンノーがヘルガーを出した団員を遅い!と吼えてせかさせると、団員は慌てていたのか石畳に足をつまづき転んでしまった。

 

「その人を捕まえるのです!」

「よし、ツっちあいつを捕まえて!」

 

 セロのボールから出ててきたジャローダことツっちはその長いヘビの体を活かして、体を伸ばし団員の体を巻き付けた。

 すでにほかの団員やステンノーはツっちに捕まえられた団員を見捨てて逃げてしまっていた。セルピルが団員の帽子を取ると帽子の中からだらりと長い髪の毛がだらしなく落ちてきた。

 

「ま、待ってくれ。俺は利用されているだけなんだ」

「今更命乞いなんて、あなたたちがしてきたことがどんなに大きいのかわかっているの!?」

 

 だが、セルピルの言及をポルックとヘレネが前に立って止めた。

 

「セルピル、ヘルメスボスはフリーと距離を置いていたのです」

「そうなのです。セルピルを攫うことは調査の結果から予定していなかったことなのです」

「調査って、一体いつから」

 

 セルピルが二人がどのあたりまで自分を追っていたのか聞きだしていると、セロが未だツっちに巻き付かれているヘルメスと目線を合わせるためにひざを屈めて話かける。

 

「あのさ、どうしてフリーの側についていたの?そんなに嫌いなら最初からつかなければよかったのに」

「ふん。俺はフリーについていたのではない。カタス社の社長として上に立っていたのだ。社長となるためにはフリーと手を組んでこの地位に就いたんだ」

「汚いね大人って」

「利益を求めて何が悪い!人間なんて欲望の塊さ。子供にはわからんだろうけどな汚いこともやってこそ上に上がれるんだよ大人の世界は。だが、フリーのしていることを全部許したら明らかに不利益を持たすからこれでも抑えていた。しかしこの二人がセルピルを追いかけたおかげでドカリモのことが発覚し、抜け出そうとしたら一団員に格下げだ!おまけに今カタス社がフリーに占領されている。そこを取り戻さないと通信設備が奴らに乗っ取られたままだ!急いでファトゥラシティへ戻らなければ」

「なるほど、そういうことかい」

 

 全員が後ろを向くとそこにはモミと付き添っていたジムトレーナーの姿があった。

 モミはのっしのっしと石畳を踏みしめてヘルメスの前に立つと体を屈めてぐいっと顔を近づける。

 

「話は聞いたよヘルメス社長。フリーについてはおいおい聞くとして、アニヤ支社のカタス社を取り戻せば形勢はアタシらに向くんだよね」

「……その通りだ」

「セロ、ジャローダを戻してやりな」

 

 モミに言われるがままツっちをボールに戻して解放させると、ジムトレーナーがムクホークを出してヘルメスをその背中に乗せさせる。ヘルメスは一瞬キョトンとした表情をしたがすぐに状況を理解した。

 

「ファトゥラシティへ行ってカタス社を絶対に取り戻すんだよ!」

 

 モミがそう言うと、ジムトレーナーとヘルメスを乗せたムクホークは翼を何度も羽ばたかせて上へ上へと上昇していく。ムクホークが去っていく背中を見てポルックとヘレネは叫ぶ。

 

「他の黒服部隊もカタス社に潜ませて協力させてやりますのです!」

「奴らにクラブのあわほど吹かせてやってやれなのです!」

 

 ムクホークの姿がだんだんと小さくなり見えなくなるとモミはポルックとヘレネの肩に手を置く。

 

「さて次の街はゴキューズシティだね。黒服の嬢ちゃん坊ちゃんはどうすんだい?」

「我々はもうフリーとは関係ないのです」

「奴らを止めてオリントにいるボスを助けて止めてもらうまでです」

「なら行くよ。目指すはゴキューズシティだ!!」

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