真っ赤に燃えるような夕日はあの日セルピルがこのゴキューズシティに到着したときと変わらなかった。だがあの人違うのは、海岸に佇む観光客の姿は一切いないことと飛行機の耳をつんざくような音の代わりにトレーナーとフリーの団員たちが衝突したことによる喧騒が響き渡っていた。
セルピルは道を塞いでいるフリーの団員とポケモンたちをゴドラのとっしんでボーリングのピンのように倒していく。
団員たちは基本二人でペアを組んでセルピルたちトレーナーに相手をしていた。数の差で押し切ろうという魂胆であろうが、トレーナーの中にはスヨルタウンの人だけでなく先ほど解放したコンヤストリートの住民たちもゴキューズシティの解放に参加して、数を増やしていたためその優位性の差が縮まっていた。
セロのラっちがポケモンセンターの前を塞いでいた団員を倒すと大声でトレーナーたちに呼びかける。
「ポケモンセンターを塞いでいた団員を倒したよ!あと少しでポケモンを回復できるよ!!」
セロの言葉にトレーナーたちは一層奮起し士気が向上する。ポケモンが回復できるというアドバンテージは何よりも得難いものだ。特に連戦続きで朝から戦い続けていたスヨルタウンの住民に取って自分やポケモンたちを休ませる場所が確保できることを大いに喜んでいた。セロの行動は、彼の性格上そんなことを見越していないとセルピルはわかっていたが自然とできてしまうその行動力に羨ましく思ったりした。
確実に確保するためにポルックとヘレネがポケモンセンターに侵入して行ったときだった。町中のスピーカーから低くも老齢の女性の声が聞こえ始めた。
『我々フリーに歯向かう愚か者たちよ。私はアニヤのフリー総代エウリュアレー、それ以上歯向かうとこの町の建物を爆破します。ジムリーダーの方はすでにオリニア鉄道の惨状をご存じのはずでしょう』
浜辺というエアームドに有利な場所を選び三人同時に戦っていたモミが声の主からの脅迫に耳を傾けていた。
「……脅しをかけてくるとは言い根性じゃないか。それをやっても今後のあんたらの布教活動に支障が出てくるんじゃないのかい?追い詰められて爆発とは、まるでスカンプーかスカタンクみたいだね」
脅しに対してモミは挑発で返してくる。ジムリーダーとしても人としての年季の違いを見せつけてくる態度で相手の寝技をかわす一種の心理戦が行われていた。
『未だ我々の有利は確実です。田舎町を二つ解放したところで形成は変わらないのですよ。加えて明日オリントより本部からの援軍が到着します。今なら降伏も受け入れます。降伏こそがあなたたちに許された幸福なのですよ』
「何が幸福だ。上手く言ったつもりかい!?馬鹿にすんじゃないよ。連絡網を遮断したつもりだけど郵便局はまだ健在だ。印象操作は無意味だよ!マイク越しじゃなくて姿を現したらどうだい婆さんや」
言っている本人もそうではないかという野暮なツッコミを控えたセルピルの背後にヘレネが近づいて耳打ちしてくる。
「セルピル、エウリュアレーのいる場所がわかったのです。先ほど団員に吐かせたら、あの大きいビルの二十五階にある大広間にいるようなのです」
「どうやって行くの?正面突破はいくら何でも無謀よ。今更変装してもこんな状況ですんなり通すはずもないし」
「心配ご無用なのです。アギルダーの毒液でホテルの窓を開ける作戦なのです。ポケモンセンターはもうすぐ解放できるので、次の作戦の下準備をするのです」
ポケモンセンターがある通り沿いから数百メートル先にあるひときわ目立つ高さ五十階建てはあるガラス張りが特徴的なホテルの近くにいる見張りの団員に見つからないようにそこの脇をヘレネとセルピルは入っていく。
ヘレネがアギルダーを出して、その身軽さを活かして隣のホテルの壁を蹴っては上に飛びを繰り返すと五階ぐらいのところにある窓にしがみつく。その窓に向かって口から毒液を吹き出す。これで侵入できると思われたが、窓は小さな穴一つも開かなかったのだ。
「むむむ。あの窓強化ガラスに加えて、対毒耐性もあるのです。アギルダーの毒では一瞬で溶かせそうにないのです」
「ハブネークとかじゃ無理なの?」
「この高さと壁ではハブネークでは登れないのです」
コンヤストリートから出てからポルックとヘレネの手持ちはずっとそのままだ。同じようにセルピルとセロのレイレイとワマっちもお互い交換したままだった。
二人は何かいい案はないかと考えていたところに、後ろからセロが声をかけてきた。
「ねえねえ何やってんの?」
「セロ?驚いたじゃない。ポケモンセンターはもう解放したの?」
「うん。ポルックももうすぐ来るはずだよ」
ポケモンセンターが解放されたとなると形成はこちらに有利になったということだ。あとはこのホテルにいるエウリュアレー率いるフリーを追い出すだけである。
セロの背中の上にラッタがぴょこんと飛び乗ると、爪で前歯をこそいだり隣のホテルの壁に向かって前歯を当てると顔を上下に動かして前歯を磨き始めた。どうやら伸びた前歯が気になっていた様子だ。前歯が研磨するごとに隣のホテルの壁が少し穴が開いたようにそこだけへこみ始めた。
「何度もガラスに穴をあけるしかないのですね。トライアンドエラーなのです」
「待って、セロのラっちなら窓を開けられるかもしれない」
ラっちがアギルダーと同じように壁キックをして先ほどの開けられなかった窓にしがみつくと、ラっちは窓ではなく窓枠の周りをガリガリと削り出すと窓が枠ごと外れてラっちはホテルの中に侵入できた。
セルピルは先ほどのラっちの行動と図鑑の中でラッタの前歯はコンクリートの建物を倒壊させるほどの威力を持っていることを思い出してそれを実行させたのだ。ラっちが持っていたロープを垂らすと先にポルックとヘレネが登り、ロープをしっかりと固定させた後セルピルたちも後に続いた。
「すごいやセルピル。ラっちの特徴を見てまさか窓を枠ごと取り出すなんて」
「そんなことないわ。ただ図鑑に書いてあったことを覚えていただけ。すごいのはポケモンの方よ」
セルピルがホテルの中に入ると窓を開けた場所は給湯室のようでカウンターの上にポットが数台置かれていた。ポルックが先に通路を覗いてみるとどうやら誰も見張りは配置されていない様子だった。
ポルックが先発して先に進み、その後ろにセルピル・セロそしてヘレネという順で進み階段を登っていく。
階段に灯された薄明りの中、ようやく二十五階までたどり着くとセルピルとセロは息を切らしていた。任務等で鍛えられているポルックとヘレネとは違い二人はまだ子供の体力しかないのだから仕方がないといえる。
「あと少しだ。敵も見かけないかったし、このままいけば大丈夫よ」
「人が出払っているのかしら」
そう、今まで団員の目を避けるためとエレベーターを止められてしまわないように階段を登ってきていたが、不思議なほどに団員の姿は全く見かけなかった。すると、二人はボールからアギルダーとシュバルゴを突然出した。
「どうしたの?団員が来たの?」
「いいえ。もしかしたら団員が我々を取り囲んで押さえつける可能性があるのです」
「エウリュアレーはカタス社を乗っ取ったときも用意周到でしたので念のためになのです」
やはり伊達にフリーの黒服部隊をしていないポルックとヘレネではなかった。今度はヘレネが先頭に立ち二十五階の通路につながる扉を開くとまたしても団員の姿は見えなかった。
そのまま四人は奥へ進み金文字で『ルギアの間』と書かれた金色の両開きの扉を慎重に開く。大広間は、海岸に面した所に大きなガラスがフロア前面に張られ入り口からでも海岸を一望できるほどの眺めを演出していた。クロステーブルが掛けられた円形状のテーブルが見積もって十五個ぐらい置かれ、壇上にはマイクや録音機器が放置されていた。おそらくあの壇上の上でエウリュアレーが町中に声を流していたのだろう。だがその本人の姿が一切見当たらなかった。
突然、バタンという開けていた扉が急に閉まり鍵が掛けられる音がする。
「やっぱりです!」
「罠だったのです!」
それを見て、セルピルとセロもボールを手にして備えようとすると、テーブルクロスの下から四匹のスカンプーが飛び出すとお尻をセルピルたちの方に向けて毒ガスを放つ。四匹同時の毒ガスはセルピルとセロの目と鼻を刺激し、涙や鼻水が止まらなくなり口からは何度も咽きだしていた。ポルックとヘレネはとっさに伏せれたものの、その強烈な毒ガスは避けようにも避けれず、目から涙があふれ出ていた。
奥のテーブルクロスの下からは、別のポケモンたちが一斉に襲いかかってきた。団員たちの声が一切聞こえなく、まるでポケモンが自分の意志で四人がスカンプーの毒を浴びた隙を見計らったかのように襲い始めていた。セルピルは涙で前が見えないのを必死で視線を合わせようとする。すると、襲ってくるポケモンたちの目が赤いことに気付くと唯一動ける双子にそのことを伝える。
「エヘッ、エヘッ。二人とも、ドカリモ、エヘッ探して、操られているエヘッエヘッ!」
スカンプーの毒が口の方にまで回り咳が出ながらも二人に伝えようとする。だが、流石の二人でも相手の数が多く、毒が回っていることも相まってドカリモがある場所を探すことができなかった。
すると、腰のポケットがバイブレーションを鳴らし始めセルピルはそれを何の疑問も持たずに手に取り
『頭を伏せろ!』
「伏せて!!」
突然の電話の主からの命令に必死で同じ命令を叫ぶとセルピルの声に反応して四人は頭を伏せる。広間の特徴である長大な窓ガラスがガタガタと音を立て始めるとその振動は一層激しくなりついに限界点に達してガラスが一斉に割れ始めた。
割れたガラスの中から現れたのは、一匹の巨大なトンボを思わせるメガヤンマとそれに乗ってきたスレイマンであった。スレイマンが広間に降りるとハッサムを繰り出してスカンプーの毒を出さないように切り伏せる。
ガラスが割れて換気できていなかった広間の空気が一気に外に出されると空気中の毒も一緒に外に流れ出すと、セルピルとセロは目をショボショボさせながらも手持ちからそれぞれワマっちとレイレイを繰り出した。
「ワマっち、シャドーボール!」
「レイレイ、かみなりパンチで薙ぎ払って!」
二匹のポケモンが同時に放つ雷と黒の塊が操られたポケモンたちを薙ぎ払い一瞬の静寂が訪れる。壇上から音響機器のものとは明らかに違う不気味な機械音が流れ出てくるのが聞こえると、ポルックのシュバルゴが飛び上がり腕の槍を突き出して壇上の台ごと破壊する。
破壊された壇上の中から小型のドカリモが火花を散らして先ほどまで放っていたであろう光が消えかかっていくと、セルピルたちを襲っていたポケモンたちは動きを止めて自分たちが何をしていたのか困惑していた。
「スレイマンさん!」
セルピルとセロがスレイマンに駆け寄るとスレイマンは先ほどのバトルでずれた緑の三角帽子を直してメガヤンマとハッサムをボールに戻していた。
「久しぶりだね二人とも。義によって助けに来たよ」
「どうやってここに来れたんですか?僕たちの携帯使えないから連絡取れなかったのに」
セロは気付いていないようであるが、セルピルは先ほどの電話が鳴ったことで通信が元に戻ったことを知っていた。
「ファトゥラシティでフリーと戦っていた時に、セルピルたちを知っている暴走族に会ってね。ファトゥラシティの情勢が有利になったから君たちの応援に行こうとしたら、ホテルの窓から君たちが危機に合っていたのが見えてね。まさか救援になるとは。ところでそのヨノワール、墓地でゲットしたポケモンだね。通信交換したのか」
「「通信交換進化?」」
スレイマンがそれについて説明すると、交換の際に特定のポケモンが進化するという進化の現象である。セロのワマっちはグアバからもらったれいかいの布で、セルピルのレイレイは今まで背負っていた機械の影響でそれが起きたのだという。
日が暮れて、フリーをゴキューズシティから撤退させたもののアニヤのフリーの首領であるエウリュアレーを採り逃してしまっていた。
セルピル一同四人はポケモンセンターの一角でモミと対面する形で一列に並んで座っていた。その様子は、今にも雷が落とされそうな雰囲気だった。
「お前たち子供が先走って敵地に無断で忍び込んだこととか言いたいことはいろいろあるけど、ゴキューズシティは無事解放され、通信設備もヘルメスがカタス社を取り返したおかげで回復した」
通信設備の復活は、隣に座っているスレイマンがその証だ。
「情報が一気に来ているからごたごたしているけど。明日向かう場所は決まっている。綿の城だこれを見てくれよ」
モミが取り出したのは一枚のアニヤ地方の地図とボルケニオンに着けた発振器の場所を示している探知機の画像だった。探知機がある場所は、ちょうどモミが指示している綿の城の場所を示していた。
「フリーはその数を減らしてここから西に移動していった。おそらくエウリュアレーもそこにいるだろう。綿の城の北はタッシーマシティだ逃げる場所もない。そしてボルケニオンの動向だけど昨日までかなりの距離を移動していたのに、今日に限ってはこの綿の城に留まっている。よって明日は綿の城でアニヤ地方のフリーを指揮しているエウリュアレーの捕縛とボルケニオンの追跡が任務だ!」
「うん。じゃあ、明日に備えて今日は」
「そう明日に備えて、じっくりと反省会だ!このままお開きだなんてそうはいかないよセロ坊や」
セロの軽率な発言がなくてもセルピルはやはりそう来たかとこの後のモミからの説教を覚悟して聞くことになった。
説教は夜の零時を回るまで行われたが、そこまで伸びた原因としては、セルピルたちをホテルまで誘導させたポルックとヘレネの二人が何度かあくびや不真面目な態度をとったことによるものでモミは二人を蛇蝎のごとく怒った。
さすがに何度も怒られて二人はすっかり委縮しまっていた。
「「あんなに怖い大人は初めてなのです」」