もうもうと絶え間なく巨大な石造りの建物から湧き出る熱気のある水蒸気。火山から形成された石灰棚の白さと温泉の湯気の中にそびえたつ神殿と合わさってここは綿の城と呼ばれている。
石灰棚から流れ落ちる温泉が流れ落ちる様をファイアローに乗っているモミが上から偵察していると、神殿部分の建物の中に多くの人の姿が見えていた。
ぐるっと一回りを終えると、モミはセルピルたちの元へ降りて偵察した状況を伝える。
「綿の城の神殿辺りに人が集めさせられている。多分逃げ遅れた観光客だろうね。その人らを救出する部隊とその間フリーを引き付ける部隊に分けるよ」
「先にフリーを倒すという選択は?」
セロが意見を出すと同行していたスレイマンがノーと否定する。
「神殿にいる人が人質に取られる可能性がある。それに追い込んでいるからと言っても向こうの数はまだ相当いるはず、完全制圧は無謀だね」
「軽率ってやつかぁ」
「そうだ、昨日の反省会で言ったことだよ。最善を尽くして勝つんだ焦るとどうにもなんないよ」
まず、救出部隊の方は侵入経路など知っているポルックが先頭にヘレネとスレイマンとゴキューズシティのトレーナー数人による少数が。残りのモミとセルピルたち大部分がフリーを引き付ける部隊に回った。
石灰棚の地面を踏みしめくぼんだ穴から湧き出る温泉の湯気を潜り抜けるとフリーの団員たちが陽動部隊に気が付き一斉にセルピルらに向かってくる。向かってきた団員たちの中にエウリュアレーの姿はなく向かってくる団員の数も四人と少なくまだ先鋒に過ぎないとわかると後ろに控えていたトレーナーとスレイマンが迎え撃つ。
スレイマンがテッカニンを繰り出すとブブブという背中の羽が羽ばたく音だけを残して団員がボールを出してくる前にみねうちして倒していく。先制攻撃はうまくいったが、後ろにいた一団はすでにポケモンを繰り出していた。
「ここは自分たちが受け持ちます。モミさんたちは先へ進んで!」
スレイマンが団員を引き付けている隙に、セルピルたちは迂回して戦っているフリーの後方に回り込みフリーの本隊を目指して進む。
上を見上げると、観光客が捕まっている神殿が近づきて見えてきて監視しているフリーの団員一人一人の姿が見えてきた。この位置ならばナライやニチャモで飛べる距離であるが、それでは陽動の意味がないそれに向こうの岩陰からフリーの本隊と思われる隊群が見えてきた。そしてその中にあのガマゲロゲのような老婆の姿が見えていた。
セルピルたちは一斉にボールを投げてポケモンたちとともにフリーの本隊目がけて進撃する。セロのペンドラーに進化したフっちがショートカットするため長い胴体が温泉の中に入ると大小の雫が飛び散り敵味方構わず飛び散る。
降り注いだ温かい温泉の水が地面に落ちていくと同時にフっちの長い体がホイーガ時代を彷彿させるような真っ赤な巨大なタイヤのような形状になって丸まるとそのまま団員に向かってハードローラー攻撃をし、団員たちの分断と怯みを同時に行い交戦が始まる。
セルピルとモミがエウリュアレーがいるフリーの部隊に技を放っていく。すると、ニチャモのかえんほうしゃが目の前いる団員よりも後方から土の塊が飛ばされ火が消し去られてしまう。団員たちの間から毒々しい見た目のガマゲロゲと同じような見た目のエウリュアレーが前に出てくると、エウリュアレーは臆する様子もなくじっと垂れた皺の間からセルピルとモミを見据えていた。
「ゴキューズシティでは世話になりました。ですがあなたたちのあがきもそこまでです。まもなくオリントのフリーの応援部隊が到着します」
「ならその前にあなたたちを捕まえるまでよ!ニチャモ!」
ガマゲロゲの口からだくりゅうが流れ出すと、ニチャモは高く跳んでかわす。温泉の水がだくりゅうの泥水と混じるのを気にすることなくエウリュアレーはガマゲロゲに泥水を発射するように命令する。いずれが当たってもニチャモに大ダメージを与える技ばかりだ。モミのエアームドも攻撃に参加しようとしても他の団員がエアームドに対して技を放ってガマゲロゲに近づけない。
ニチャモが苦手な温泉を避けて間にある石灰の地面を飛び石のように跳んでガマゲロゲに近づくとかわらわりをガマゲロゲに叩きつける。ガマゲロゲの頭のコブに突き刺さったニチャモの手刀はブヨンと弾けてダメージを与えていないようである。
「セルピル、火力が足んないよ。このままじゃ綿の城の温泉が汚れちまう。メガシンカさせな!」
メガシンカという言葉を聞いて、セルピルは首にぶら下げていたデバイスを取り出す。ニチャモの首にも同じようなものをひっかけているもののどうやって発動させればいいのかわからなかった。
「どうやれば!?」
「私が教えるよセルピルさん」
突然若い女性の声がどこからともなく聞こえてセルピルは辺りを見る。だが、セルピル以外に若い女性は周りにいなかった。すると上空に丸い物体のような影が見え、見上げると物体からグランブルが飛び降りてきた。グランブルは温泉の中に飛び降りてフっちの物よりも大量の温泉が滝のように降り注ぐと、グランブルの腕の中にはリヌムの姿があった。
「リヌムさん!?」
「いや~久しぶりセルピルさん。以外と降りる場所が高くて私が驚きですよ」
リヌムが頭を振って髪にかかった温泉を振り払ってセルピルにメガシンカのやり方を教わっていると、上空から先ほどの丸い物体が降りてきた。その物体はジバコイルでその上には一組の男女が乗っていた。
「モミ、待たせたな」
「ほうほう。四天王二人も応援に来るとは有り難いね」
長い茶色髪をゴムでまとめたほうれい線が見えている女性と、眼鏡と白衣が特徴的な男性がジバコイルから降り立つ。四天王の二人を降ろしたジバコイルが浮遊して移動すると、両サイドの生体反応のあるコイルの部分からほうでんが四方に落とされると、エウリュアレーのガマゲロゲを除いたフリーのポケモンが倒されていく。
運良くほうでんから逃れた団員とポケモンが顔をあげると、そこには先ほどの白衣の四天王が仁王立ちで立ちふさがっていた。
「四天王のポピー……人間と関わってしまったことでポケモンが戦うことになった。それをかわいそうだと思わないのか?」
「否定する。ポケモンと人間が関わることで影響するのはバトルだけにあらず!ポケモンの生態までも変化するのだよ。このベトベトンのようにね!」
ポピーがベトベトンを繰り出す。一方団員の出しているポケモンはエスパータイプのオーベム、明らかに相性が不利であるのは明らかだ。だがポピーもベトベトンも臆することなくオーベムに歩み寄っていく。
オーベムが三色の指先からサイケこうせんを放ちベトベトンの体に直撃させる。ベトベトンはそれを受けても気にすることなくオーベムへの歩みを止めていない。我慢をしているのかと脇で見ていたセルピルは思っていたが、そんな気配は見受けられなかった。その様子はダメージを受けていないというより全く効いていないというのが正しい表現のように見える。
「アローラ地方でのリージョンフォームされたベトベトンは毒と悪の複合タイプ!臭いもなくなって、性格も大人しくなった人とポケモンが関わることによってポケモンは新たな道を進むのだ!」
ベトベトンは体を油膜のように七色に変色させながらオーベムにのしかかると口の周りにできた毒素の塊である白い結晶でオーベムにかみくだく攻撃をして倒してしまう。
「ニチャモ、メガシンカ!!」
ようやくリヌムからの指導を終えたセルピルはデバイスを起動させると、ニチャモの姿が変化する。体格に変化はないものの、赤と白の体に黒が混じり頭には角が一本生え手首からは炎が噴き出していた。メガシンカしたニチャモが、リヌムのグランブルと拳での殴り合いをしていたガマゲロゲに向かって走り出す。その速度は明らかにバシャーモの時よりも速く、しかも走るごとに増していく。
グランブルとの殴り合いをしているガマゲロゲの側面を突く形で、ニチャモのかわらわりが首元に突き刺さり、ガマゲロゲは手刀された勢いで温泉の中へと落ちて行ってしまう。
泥水と混じった温泉から浮かんできたガマゲロゲは手をぴくぴくさせるだけで起き上がることができないことがわかるとエウリュアレーはガマゲロゲをボールに戻す。ほうでんを一通り終えたジバコイルを引き連れてアザミはその鋭い眼光でエウリュアレーを睨む。アザミの目の下にできたクマも相まってすごみが増していた。
「さて、エウリュアレーとフリーの団員たち。オリントだけでなくアニヤまで指触を伸ばすとはご苦労なことだ。だがこれを聞いてどう思うかな?」
四天王のアザミが携帯を取り出す、そこから海の飛沫とポケモンが技を放っていることを示す爆音ともにゼラニの陽気な声が流れてきた。
『OK、今の戦況はこちらが圧倒的に有利!コキノス島沖にいるフリーの応援部隊と見られる奴らは全部捕捉済みだ!』
「だそうだ。ゼラニはジムリーダーとしては若いが、お前たちが援軍を送ってくるルートを把握していたようだ全く良いジムリーダーを選んでよかった。こうしてお前たちの野望を潰えさせることができるのだからな」
アザミはフリーに援軍が来ないという事実を突きつけ、頼みの綱がたち切れたことを嘲り悪人のように口から半分歯を出した。すると、モミの所にどこからともなくポルックとヘレネが現れてきた。
「報告です。神殿に捕まっていた人たちを開放しましたです」
「我々の目的は達成したのです」
救出作戦が成功し、これでフリーが観光客たちを人質に取ることもなくなった。次々と逆転の可能性が潰され一方的に追い詰められていくエウリュアレーと残っている団員たちは苦悶の表情を浮かべるしかなかった。
ビューという夏の季節に見合ってない
すると、上の方にある石灰棚の中からボルケニオンが咆哮を上げながらセルピルたちとフリーの間に割って入り込んでくる。
「ボルケニオン!?」
今までその姿を見せてこなかったボルケニオンが突然として現れてセルピルだけでなくモミも困惑していた。
『アザミ!こちら、ゼラニ!コキノス島からキュレムが現れてアニヤに向かっている報告あ』
先ほどまでのゼラニの余裕さが一転して悲痛な叫びとなってアザミの携帯から出ると、ブツリという音を残して通信が切れてしまった。先ほどの冷たい風がより勢いを増し全員の肌に叩きつけてくる。空も先ほどまで快晴だった空がどんよりとした薄暗い雲に覆われている。ボルケニオンはその薄暗い雲を見据えながら二本のアームの空に向けて照準を合わせていた。
ポツンとセルピルの鼻の上に冷たいものが落ちてきた。セルピルは雨かと思って手を広げると、落ちてきた物はまるで氷のように冷たくじんわりとセルピルの手の中で溶けて水になっていく。
「ヒュラララ!」
まるで冷たい風の音のような鳴き声が綿の城一帯に響くとそのポケモンが姿を見せる。そのポケモンは、翼が左右非対称で寒色で描かれたドラゴンで岩の旧市街の地下で見た壁画とそっくりであった。あれがハギス博士の言っていたキュレムというポケモンかと即座にわかると、先ほどの冷たいものが一層吹き荒れブラインドが降りたかのように白い壁で視界が見えなくなる。
キュレムがボルケニオンの前へと前進すると、その背中に一人の人間が乗っているのが見えた。キュレムがボルケニオンと対峙して動きが止まり数歩後ろに下がると、その冷たいものが今度はすだれとなってややはっきりと視界が見えてくる。
「「ボス!!」」
「あ、あなたは。そんな……」
キュレムの背に乗っていた人物、それはセルピルが見知った顔であった。紳士服の上に分厚いコートを羽織以前のようなパナマ帽を被っていなく被った初老の男性――アレスだった。
「そう私がフリーのボス、アレスだよセルピルちゃん」
セルピルはあんぐりと口を開けた。フリーのボスであるということに驚いているのではない、親切にセルピルと親しくしていたアレスの優しくおどおどした表情はどこにもなく、この冷たいものの中でもギラギラとした見るものをすくませるような目をしていて同一人物だと思えないほど別人のような印象を受けていたのだ。
ボルケニオンは二本のアームをキュレムに向けると熱い水が太い直線を描いて発射される。キュレムの顔にかかるとジュウという音を立てて目を瞑りながら後ろに数歩下がる。
「伝説のポケモンボルケニオン、私の大事な手駒であるキュレムを倒されては困る。全団員たちよ押さえつけろ!」
「は、はい!」
エウリュアレーたちはそれまで全く動かなかった体を急にきびきびと動かしてポケモンを出すと一斉にボルケニオンに襲い掛かる。
キュレムがボルケニオンと距離を取っている間、ジムリーダーと四天王がそれを追いかけようとした時、セルピルはモミの傍にいた双子の姿がなかったことに気付く。
ガキンという音が辺りに響き、全員が音のした方を向くとポルックとヘレネが金属の獲物を手にしてアレスに切りかかっていた。だがその得物はフリージオの体に阻まれていた。
「ボス、どうして戦うのですか!?」
「ポケモンはバトルをさせず平和を謳歌させ、一体ずつ絆を深め合うという信念はどこに行ったのですか!?」
「そんなのは方便だ。ポケモンはすべて私の手の中に収められるべきで、
フリージオが二人を押し返してキュレムから落とすと、二人はそのまま白い地面に落ちていった。幸いにもすぐに二人は起き上がり頭に白い塊が乗っていただけで大した怪我はないように見えた。
ポルックとヘレネの無事を確認すると、アザミがキュレムに乗っているアレスに向かって罵声を上げる。
「正気かアレス。お前の言っていることは時代錯誤の王様のようなことだ!!そんなことが通用すると思っているのか!」
「通用するもしないも、
「塗り替える……もしかして、私に教えた話が間違ていたのも」
「そうだ。察しがよいなセルピルちゃん。王家の威光のために新たな神話を伝えたのだよ。もっとも、コキノスの迷宮のことは本当だったが、まさかその夢のような冒険話につられないとは、夢のない子供だ。とても大っ嫌いだ!!」
ドンという大きな音が後ろから轟きセルピルが後ろを振り返ると、エウリュアレーを含めた団員たちが這う這うの体でボルケニオンから逃げていた。だがそのボルケニオンは白い息を吐き出しながら疲れを見せていた。
アレスがそれを見てマンムーを出すとじしんを命じる。マンムーが前足を二回地面へ踏みしめると地面が揺れ、ボルケニオンはアームから熱い蒸気を吹き出してマンムーに当てようとするが、じしんが先に来てボルケニオンをじしんによってできた割れ目に落とさせる。
「さあ、キュレムよ。宿敵を倒す時が来たぞ。こごえるせかい!!」
キュレムの口が開くと再び真っ白な世界に包まれる。そしてセルピルがまつ毛や瞼に引っ付いた氷をぴきぴきと音と立てて、瞼の皮が引き裂く感覚が襲われながらも痛みを我慢して開けるとそこには一面真っ白の平面が広がっていてボルケニオンの体が半分埋もれていた。ボルケニオンの二本のアームは雪の重みで少ししか動かせていなかったがアームの中から出てくる水は、あの極太の高圧水のようなものではなく蛇口から出てくる水道水のようにちょろちょろとしか出てなかった。
体を動かそうにも雪の地面に埋まってしまい体が動かせず、しかもセルピルだけでなくジムリーダーや四天王たちも白い雪の中に埋もれていた。
「もしここにレシラムかゼクロムがいればこの技はもっと強力になっていたが、それでも百年前の戦争に現れた伝説のポケモンを封じる力がある。これならば世界を王のもとに支配できる!!」
「狂っている……」
セルピルがそう呟くがアレスの耳には届いていなかった。アレスはキュレムを一瞥すると、どんよりとした雲から降り落ちる雪とあられを見つめて低い声で笑い声を交えて独り言を言い始める。
「私は昔話が大好きでね。自分がオリントの王の子孫だと知って夢が膨らんだものさ。王様になってすべての人間やポケモンがひれ伏すという光景をな。そしてオリントの伝説のポケモンが二つの地方を征服する様を。さあ、邪魔なボルケニオンが弱っている今こそこの技を使う時だキュレム、ふぶき!!」
キュレムの周りに漂っていた寒気が一層強くなり始めると、左右不均等の翼が大きく羽ばたくと雪と霰の混じった白い寒波がセルピルたちに向かって雪崩のように襲い掛かる。
数分とたたないうちに、温泉の名所である綿の城は決して来るはずのない雪と氷に閉ざされた氷の城と化してしまった。