ゆっくりとセルピルが目を開くと、視界には真っ白なベッドと点滴が映っていた。病院?とまだぼんやりとする意識のなかで単語が浮かぶ。視界を左側に移すとレイが瞳に涙を浮かべてセルピルに抱き着いた。
「セピ、やっと起きた!もう、寝坊助なのは知っているけど何日も眠らないでほしいよ全く、あたしがどれだけ心配したと思って!」
レイからこぼれる涙がセルピルが着ている白の病院服を濡らしていく。
「私、何日寝ていたの?」
「二日よ二日。セピとずっと連絡が取れなくなったと思ったら、今度はフリーがジムのある町を襲ったニュースを聞いて、それだけでも心配したらカリチィンシティでセピがフリーに襲われてファトゥラシティの病院へ運ばれて目を覚まさないって。もうあたしが死にかけたわよ!本当に死んだら、ゲンガーみたいにセピに取りついて無理やりにでも起こしてやろうと何度思ったか!」
「……二日?そうだニチャモ、ポケモンたちは?レイのニチャモがバシャーモに」
「ああもういいのいいの。もともとニチャモはセルピルに懐いていたからあげるつもりだったし、気にしていないって前に電話で言ったでしょ。セルピルのポケモンはポケモンセンターで預かっているから大丈夫だって」
体を無理に起き上がらせて降りようとするセルピルをレイが止めて、寝起きの赤ん坊をそっとあやすようにセルピルをベッドへと戻していく。
未だにボーっとしている頭であるが、はっきりとレイの言葉の中に自分が一度も足を踏み入れたことのない
「セルピルご苦労だったな」
レイはいきなり入ってセルピルの名前を読んだひげを蓄えた怪しげな男と認識したのか、すかさず自分を盾にしてセルピルから守ろうとした。さすがにこれはまずいと思ったセルピルはレイに知り合いだと伝える。
「あの人はジムリーダーのグアバさんよレイ。私も顔を知っているから大丈夫」
そういわれてレイはしぶしぶ椅子に座るが、グアバから少し席を外すように言われてますますふくれっ面になりながら一時部屋を出た。
レイが病室から出るのを見計らうと、グアバが新聞を取り出してそれをセルピルに見せた。そこにはフリーの壊滅という見出しが一面にそれもかなりの大見出しで載っていた。詳細が書かれている小さい字を読み進めていくと、ジムリーダーと四天王そして町の住民やトレーナーの活躍で三日に及んだフリーの襲撃事件は収束したとあった。
フリーの本拠地であるオリント地方にも同様にジムの襲撃があったが、オリントのジムリーダーとトレーナーの活躍があって返り討ちにしたともあった。しかもその決定打となったのが、フリー幹部の裏切りとオリント山の有志が動いたことによるものだと書かれて、セルピルは驚きと喜びが交って言い表せない気持ちになった。
「アレクサンダーが、アレクサンダーがやったんだわ!しかもオリントのフリーも潰れたって本当!?」
あまりにも衝撃が大きすぎて、思わず丁寧な言葉遣いを忘れてしまうほどセルピルは興奮していた。グアバはそれを気にせず、セルピルの言葉に答える。
「アレクサンダーという人物がやったかは定かではないが、フリーが完全に壊滅したというのは真実だ。次の経済面も見たほうがよいぞ。なにせ二日も新聞が止まっていたから記事も大見出しばかりだ」
言われるがまま、普段は見ることのない経済面も見ると、そこにはカタス社のことが書かれていた。そこには、フリーのボスであるアレスの逮捕によるオリントのカタス本社がアニヤ支社に吸収合併というものであった。
どういう意味かわからなかったが、次の段にあのヘルメスがコンヤストリートで見た時とは違うほどパリッとした服装にポマードで固めた髪の姿で新聞に載っていた。どうやらそこにはアニヤ支社のカタス社は、オリント本社とは距離を置いていたこともあり、フリー襲撃事件の際には一時乗っ取られていたがすぐに取り戻して打倒フリーを掲げて戦ったとある。財界も巨大企業カタス社の倒産危機の回避と社長経験者が引き継いで運営をするので歓迎するとあった。
距離を置いていたとあるが、自分を監視していたりフリーの動きを黙認していたのに社長の座に居座るなんてと納得がいかなかった。
その後も新聞をペラペラとめくるが、同じような記事が延々と続いていた。だがそこにはセルピルやセロのことが示唆された記事が一つとして載っていなかった。それを聞こうとするとグアバの赤くもじゃもじゃの長い顎髭が迫ってくる。
「君たちのことは伏せさせてもらったよ。今後の君たちのような若い子が、無鉄砲な輩に絡まれたり警察の世話になるのは心苦しいからだとな。四天王やジムリーダー間で検討した結果だ」
つまり、今後セルピルたちを狙う犯罪者がまだ子供ことで狙われる恐れを考えての判断だということだ。自分も誘拐された経験があるためそういうことになるのは二度とごめんだった。そこは理解も納得もできた。
「それにポケモンリーグに間に合わせないといけないだろうしな」
「そ、そうだ。セロは?セロも病院にいるんですか!?」
セルピルが掛け布団を払いのけて点滴がつるされたキャスターを持ってセロを探し出そうとしたが、グアバがセルピルを抑えてベッドに引き戻す。そして懐から一枚の封筒を取り出した。そこにはへたくそな字でセルピルへと書かれていた。裏を見ると、セロと書かれていてセルピルは慌てて封を破り手紙を読み始める。
『セルピルへ、本当は手紙じゃなくて直接言いたかったんだけどセルピルのポケナビツーが壊れているのとポケモンリーグがもうすぐ控えているんだ。僕まだバッジが二個しかないし、フリーのせいで道路や鉄道がボロボロでかなり時間がかかるみたいなんだ。セルピルが目覚めるまで待ちたかったんだけど、それをしたらポケモンリーグに間に合わないってグアバさんに言われて先にジムに行くことにしたんだ。本当にごめん。けど必ずバッジを集めてファトゥラシティに戻ってきて、セルピルのエレキブルも必ず返すから。セルピルも早く起きて最後のバッジをゲットしようね。 セロより』
手紙を読み終えると、思わず力が入り紙にしわができてしまった。
セロは未だバッジを二個しか持っていない。この意味は、自分がアニヤに戻ってくるまで一緒にジム巡りしたかったという意味の裏返しだった。けどそれを捨て去ってまで一人でジム巡りを再開したということはよほど切羽詰まっている状態なんだと認識した。
グアバがセルピルが読み終えた新聞をキチンと折り目通りに畳んで脇の机の上に置くと病室の扉に手をかける。
「とにかく、君はリハビリをきちんと負えないといかん。なにせ腕や脚を凍らされただけでなく、急激な低温症になったのだ。体を休めないとジムにすらたどり着けないぞ。まあ、リハビリが負える頃にはオリニア鉄道も通常通り再開を始めるだろうからゆっくり休みたまえ」
そうしてグアバが出ていくと、見計らったかのようにレイが入れ替わりに入ってくる。
「ジムリーダーの人、何の用事だったの?」
「う~ん、友達からの手紙を渡したぐらいかな」
「手紙?セピの友達からの?ねえねえ誰なのか教えてくれない?」
さすがにフリーのことに関して伏せたのだが、レイは自分の知らない親友の友達に喰いついてきた。興味津々で喰いついてきたレイにもう引くことができず、セルピルはセロのことを話した。
「へぇ~、まさかセピが男子と友達にねぇ。しかしセロの奴め、男子と一切関わらろうとしなかったセピを結構いい関係に持っていくなんて、人たらしなのかな」
「そんなんじゃないよ。純粋というか天真爛漫なだけよ」
「ホントかな~。おっと忘れてた。セピこれおばさんから」
レイが渡したのはまたしても封筒だった。だがセロのものとは異なり、僅かに重さがあり中でジャラジャラという金属がこすれる音までしていた。封を開けて中を見るとそこには万札と大きい小銭が何枚か入っていた。
封筒を逆さまにして正確な数を数えようとすると、お金とともに一枚の紙が入っていた。折りたたまれていた紙を開くとそこにはセルピルの母親からの言葉が書かれていた。
『セルピルへ、多分溜めていたお金が底をつきかけていると思うから餞別のお金をいくらか入れといてレイちゃんに渡したから。ミノアさんからいろいろ話を聞かされて、セルピルが頑張っていることは分かった。けど今度そんなことをしたら承知しないから。レイちゃんにもきつくいったからセルピルもポケモンリーグから帰ってきたらたっぷりお説教するからね。最後までやり遂げるんだよ。 お母さんより』
ポケモンセンターの時にはもう怒っていないといいつつお説教するんだと呆れる一方で、旅を続けることを許されたことにセルピルは心の底で安堵と初めて親に感謝の念が生まれた。しかも、餞別として旅の資金を渡してくれた。
もうセルピルはもう後腐れもなく、何も追われることもなくただポケモンリーグへ向かえることで嬉しさがこみあがってきた。
「いや~、おばさんにたっぷり絞られちゃってね。セピのおばさんの雷すごかったよ。もうドカーンと来たよポケモンのよりすごいかも」
「うん。きっと私のレイレイのよりも強力だと思うわ。だから」
セルピルは手紙を今度はキチンと折りたたみ、封筒と一緒にセロの手紙の横に置いた。
「早く体を治して、ポケモンリーグへ行ってもう一人の友達の約束を果たして。家に帰らないとね」
体を柔らかいベッドに身を投げて力を抜く。早く体を治して最後のジムバッジを手に入れるためにセルピルは再び目を瞑った。
これで第四章は終了です。
そして次章が最終章、ポケモンリーグ編です。ついにセルピルの旅が終わりを迎えようとしつつあります。予定ではだいたい十話前後でポケモンリーグ編が終わると思いますので、皆様最後まで応援よろしくお願いします。