ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第六話『花の町スヨルタウン』

 夜はもう午前の一時を回っていた頃、この時間となるとポケモンセンターの受付広間はジョーイさんを含め基本的には誰もいない。売店も閉まり、自動販売機も宿泊施設に設置していてあり、電話も基本的に個人が携帯電話を持つかそれよりも早い時間に電話をかけるので宿泊客も広間に出歩かないのだ。

 しかし、今夜は一人の少女だけが広間にいた。セルピルである。セルピルはポケモンセンターに設置してある電話を利用してある人物に掛けていた。電話の相手がつながるないなや、セルピルは受話器を手で覆ってその中で声が漏れないように小さく話す。

「レイ、起きてる?今おじさんたち起きていない?」

『大丈夫よセルピル。てゆうか、セルピルが声小さくしなくても大丈夫でしょ。むしろ気にするのはあたしの方だし』

 セルピルは「あ、そっか~」と思わず照れ隠ししてしまう。

『にしても、ポケモンセンターってサービスいいそうね。泊まれるだけじゃなく、その寝間着もついてくるなんてまるでホテルじゃない』

 たしかにポケモンセンターのサービスはホテル並みだ。しかも、その設備の利用が格安の宿泊費だけで全て利用できるという金銭にあまり余裕がないセルピルにとってありがたいものだった。このサービスがなかったら、砂と土まみれの服をカバンに入れて汚れた体で泊まる羽目になっていただろう。セルピルはシャワーで砂を洗い流してきれいになった髪を一房手に取り、綻んだ表情を見せていた。

「ほんとほんと、洗濯機も利用できて助かったわよ。ジョーイさんに聞いてみたら、ポケモン協会やいろんな企業がたくさんの人やポケモンが気軽に利用できるようにお金を寄付してくれてるおかげなんだって」

 こうした取り組みは、ほかの地方でも行われておりショップの売り上げやポケモン協会公認の大会の収益やポケモンの研究によって得た成果への報酬によって保障を賄っているのだ。こうした保証がより顕著となるのは、ポケモンリーグ開催時で選手や関係者が宿泊費だけでなく食事や洗濯まで無料という大盤振る舞いをしている。セルピルの場合は、学校に通っていることとジム挑戦ということもあってほかの利用者よりも費用の負担が少ないのだ。

 アニヤ地方では、ほかの地方と比べてまだポケモントレーナーやポケモンの治療などに対しての負担はあるものの一般の民間業者と比べてみると破格のサービスを提供している。

『けどさセピ。本当にアレクサンダーって人の挑戦受けるの?今ならまだ引き返せると思うけど……セピのパパとママをごまかせるなんて思えないけど』

「もぅ、レイったら。私は挑戦を受けることが目的じゃないの。親の目から離れて自分の思うがままに一人で旅がしたいのよ。ケータイなんて贅沢なものが買えないから親からの電話がちょくちょくかかってくることなんてないし。少し前に親に連絡したけど感ずいた気配なんてなかったし」

『だったらなおさら、挑戦受ける必要ないじゃないの!?今ならご両親に旅させてほしいっていえば』

 セルピルが画面の向こうにいるレイにむけてゆびをふる技を出すかのように指を揺らしチッチッチを音を鳴らた。

「あまい!ミツハニーの蜜よりあまい。私には当てもなく旅をするなんてできないもの。観光地見て食べ物食べて終わってしまいそうだもの。そんなのつまらないじゃない!挑戦状を受けたのは、旅の目的と変わったことをするため。それに、費用はできるだけ抑えておきたいもの」

 レイは溜息一つして、頭部をひと掻きして少しセルピルの目線を外した。そしてレイは一寸目をつむるとセルピルの方に目線を向けた。セルピルの目には眩しいほどキラキラした目の中に不転退の決意が見えた。

「わかったわよ。こっちも二月分ポケモンたちの世話を代われる交換条件もあるし、セピの覚悟も理解した。そこまで来たら私も本気で応援する」

「ありがとうレイ。やっぱり持つべきものは親友よ」

 親友の言葉にセルピルは思わずうれしくなり、持っていた紙をぐしゃっと握ってしまった。

『セピ、その手に持っている紙はなに?』

「これ?明日スヨルタウンで開かれる祭りのチラシ。で、その催しものの一つにポケモンバトル大会があるから、ジム戦前の腕試しにそれに参加しようと思って。優勝したら賞金も出るみたいだし」

 セルピルの持っていたチラシは、夕食前にポケモンセンターの広告チラシが入ったラックからとってきたものだった。チラシに大きく書かれたタイトルには『花のフェスティバル――夏の草花とポケモンたち』と書かれていて、各催し物の内容が写真付きで載せられていた。

 セルピルが目をつけたポケモンバトル大会には、参加者募集中当日参加OK。優勝者には賞金と副賞を!参加者にも参加賞を差し上げます!と書かれていた。

「それで大会の後は、この町から出るファトゥラシティ行のバスに乗ってジムに挑戦の予定なの」

『なるほど。じゃあ、明日の祭り応援するわ。それと朝には止むけどもうすぐ雨が降るから、地面がぬかるむから気を付けて、おやすみセピ』

「ごめんね。遅くまで付き合わせちゃって。レイ、借りているニチャモ絶対に返すから大切にするからね」

 セルピルが電話を切ると、雨粒がぽつぽつという音が聞こえて、降ってきたのかなと窓を見ると、まるでバケツをひっくり返したかのように大粒の雨が大量に降り注いだ。あまりの雨の量に明日の大会が中止になるのではないかと心配するほどだった。セルピルの計画では、挑戦の日まで余裕を持たせるために、この町には明日までとどまる予定なのだ。

 

 昨夜までのセルピルの考えは杞憂であった。雨が上がった後の町の人たちの動きは迅速で、雨が降った後の祭りの会場の土がぬかるまないように町の人やポケモンたちが総出のすなかけで問題ない程度に整備されていた。元来、スヨルタウンはトリ湖という豊富な水資源がある反面、土地がぬかるみやすい場所や湿地があるところだったが、ポケモンとともに築いた造園・農耕技術によって干拓して支えてきた町であり、こうした雨上がりでも迅速に対応できたのは長年の経験で得た賜物である。

 セルピルは、目的のポケモンバトル大会への登録を済ませ、始まる時間までの暇つぶしに祭りの露店巡りをしていた。セルピルが興味示した露店は、色とりどりの手に収まるほどの大きさの陶器が置かれていてそこから匂いのついた煙が何本も立っていた。

 セルピルは、金色の陶器を手に取ってみる。陶器から出てくる煙を嗅いでみると、意外にも煙臭くなく爽やかさと気持ちが落ち着くような軽やかさを持った香りだった。セルピルは初めて感じるその香りに心安らかな感覚に包まれていた。

「こんないい匂いは初めて」

「お嬢ちゃんおこうが気にいったみたいだね。そいつは幸運なおこうだ。結構人気商品でね。ひとつ一万一千円」

 店員のお兄さんが持っていたおこうの値段を明かされ一気に現実に引き戻され、その高額な値段に目が飛び出た。

「い、いっちまんえん……」

「まあそんな小さいものが一万もするのはわかるけどな。けどこいつは、金運上昇の効果があってなこれを買っていったお客さんは効果あったよて聞くしな。まあうちは他にもそれよりも安いものがあるし、線香もおこうもいいもの使っているから見ていきな」

 恐る恐る、幸運なおこうを震える手つきで元に戻した。ほかのおこうの値札を見てみると、一番安い物でも二千円と安易に買えない値段であり、そそくさとセルピルはおこう屋を去っていった。

 ほかの露店を巡ろうと一つ一つ値段を見ながら回っていく。祭りということもあって人通りも多く、人気のある祭りであることがわかる。露店には小物・雑貨を売る店だけでなく食べ物屋も出店していて、ケバブ屋だけでなく小麦粉を水で練った生地の中にチーズを詰めて焼くブレク屋にバンズをトマトソースに浸して間にパテを挟んだウルスラックブルゲルという見たこともない食べ物屋も出店していた。セルピルは、頭にお盆に乗せて販売していたお姉さんからドーナツ状にしたゴマパンを買いそれをほおばっていた。

 ふと、ほんわかと焼きたての甘い匂いが鼻を刺激しどこから来たものかと反対側を向いた。すると一瞬、人ごみの中にコラッタを連れたセルピルと同じ年ぐらいの短パンの少年がセルピルの目に映った。セルピルは、まさかセロがここに来ているのではと思いあたりを見回してみたがさっきの少年の姿はなかった。

 セロと出会って昨日の今日であるが、セルピルはセロの服装を思い出してみると荷物のようなものは持ってなく遊びの格好であった。セルピルと別れた後、スヨルタウンに行く準備のためにラーレタウンに戻ったならば間違いなく朝日の洞窟に入る時間には夜になっている。太陽の光の反射で明るいおかげで照明設備がない朝日の洞窟は、夜中になると真っ暗になり危険であるから朝を待たなければならないので、今の時間には間に合わない。たとえ準備なしにセルピルの後を追ったとしても、セルピルは朝日の洞窟でひと悶着あって時間がかかったにもかかわらず彼と鉢合わせしていない。セルピルは、気のせいだと考えて甘い匂いのする屋台の方へ駆け出した。

 

 正午となり、待ち望んでいたバトル大会が始まった。司会の男性がマイクを手に取りキーンと高音の機械音を鳴らし、開会の宣言をする。

『さあーみなさん!!お待たせしました!スヨルタウン花のフェスティバルのイベント!ポケモンバトル大会が始まります!!』

 バトルの会場の観客席では多くの人々が集まっていた。老若男女問わず様々な人々が観客席に詰め寄せていた。中にはカメラを持った新聞記者のような人も混じっていてここでも祭りの人気さがうかがい知れる。

『バトルはトーナメント方式で、使用するポケモンはお互い一試合一匹だけとなります。他の試合で使用するポケモンは前の試合で使ったポケモンでなくても構いません。また公平性保つために参加者は試合前に使用するポケモンを係員に提示してください。もし異なるポケモンを出した場合失格とみなします!』

 司会者が一通りの説明をして祭りの経緯などの前口上をしている間、セルピルは手持ちのポケモンが入ったモンスターボールを手にして、初戦のバトルに使うポケモンの選定に悩んでいた。

 代えのポケモンなしで相手の情報もない中での一回きりの勝負。事前に知らされてはいたものの、本番となってみると緊張や不安や躊躇が頭の中でグルグルと回転して煮詰まりそうである。なにせ、初めての多くの人の前でバトルするのに選んだポケモンが負けてしまっては、そのポケモンにとって恥である。だから慎重に今の体調や

「ニチャモならバトル慣れしているけど、昨日のことでバトルに不安があるんじゃないかな。ゴトラは、あの気の強さと体の頑丈さがあるからへこたれはしないと思うけど捕まえたばっかりだから私の言うこと聞くかな?イワンは……そうだイワン全然バトルしてなかった」

 セルピルが頭を抱えながら、ポケモンの選定に悩んでいると審判が待機場にやって来た。

「最初の試合をする選手の方は、ポケモンの提示をお願いします!」

 セルピルの体が震えあがった。その最初の試合の選手がセルピルだからだ。参加者は先着順に関係なく、くじ引きで対戦相手が選ばれるという当日参加者に公平さを出した選び方だ。しかしこの時ばかりは、自分のくじ運を恨んだ。

 セルピルは、勢いよく立ち上がり審判向かった。審判は、持っていたボードを一瞥するとそのボードをセルピルの方に向けて渡した。

「セルピルさんですね。では、こちらのボードに使用するポケモンに丸を付けてください」

 ボードには、一枚の書類とクリップで留められたセルピルの写真が挿まれていた。書類にはセルピルの手持ちのポケモンが種族の名前で記載されている。セルピルは、書類に勢いよく使用するポケモンのところに丸を囲んだ。審判は、セルピルから返却されたボードを受け取り書類を確認するとセルピルをバトルフィールドへ案内した。

 

 会場は地元のお祭りということもあって、設備自体は簡素であった。バトルフィールドは、学校に使われているラインパウダーで引かれた線でつくられ、選手の待機場所も運動会で使われるような真上の日差しだけを遮るテントに観客席もパイプ椅子であった。しかし、会場の盛り上がりように設備の豪華さは関係なかった。

 観客は季節ごとに行われるこの祭りを楽しみにし、このイベントだけを楽しみに来ている者もいる。その中には、かつてこのイベントの挑戦者だった者やこの町を去り祭りのためだけに戻ってきた者もいる。観客は、この町も祭りも愛しているのだ。その大歓声に包まれながら、このイベント最初の挑戦者が姿を現した。

 一方は、緊張で体がカチカチに硬直しながら歩いてくるセルピル。反対側のテントから現れたのは、肩までかかったセミロングの髪にロングスカートを穿いた二十代ぐらいの女性が観客に手を振りながらフィールドの中央へ悠々と歩いていく。

 二人がフィールドの中央に白線でモンスターボールを表したセンターポジションに立つと、審判が試合開始の宣言をする。

「それではセルピルさんとミノアさんによるポケモンバトルを行います!!両者握手を!」

 セルピルの緊張のゲージがいよいよ高まり始め、差し出した右手がプルプルと震え始めた。すると、ミノアはセルピルの手を両手でやさしく握り顔を近づけた。セルピルは一瞬驚いたが、それはミノアが突然手を握ったからだけでなく彼女から漂う香りも要因であった。それは昼前に嗅いだあのおこうから出てきた煙に似たような安らぐ匂いだった。

「緊張してますね。手がこんなに震えては、ポケモンにも影響しますよ」

 ミノアは、ポケットから小さな瓶とハンカチを取り出してそれをハンカチに一滴落とした。ミノアがそのハンカチをセルピルに渡し、そのハンカチを嗅ぐように促す仕草をした。

 セルピルが渡されたハンカチを鼻の前に近づかせ、息を吸うと鼻の中にすうっと酸っぱい匂いが広がった。果実の爽やかな酸っぱさが鼻腔を刺激させ、いつの間にか震えていた体が収まっていた。

「勝っても負けても大丈夫。それがあなたの経験になるのよ。だから精一杯戦いましょう」

 そう言い残すとミノアは、踵を返してトレーナーの立ち位置であるバトルポジションへ歩いて行った。セルピルは少し呆けていたが、我に返り同じように自分が出てきた待機場所の方向にあるバトルポジションにへと向かっていく。

 審判が両者にポケモン開示を促すと、同時にボールを投げポケモンがフィールドに現れた。セルピルの選んだポケモンはイワンだった。一方のミノアは、大人の身長より少し高くまるで大きな植物のような首が長い四足歩行のポケモン――トロピウスを繰り出した。

 セルピルは苦虫をつぶしたような顔をした。今まで見たことのない怪獣のような体格のポケモンであるが、背中の大きな葉っぱに首の下にある房を見て明らかにイワンの苦手な草タイプのポケモンだった。昨日の夜にポケモンセンターで購入したポケモン図鑑を開いたもののまだナンバー百までしか見れてなく、ポケモン図鑑をもっと見れば対策ができたのではと後悔の念を滲ませた。

「それでは、試合開始!!」

 審判がそう告げると、先手を取ったのはトロピウスだった。背中の大きなヤシの木のような葉から不思議な色をしたいくつもの木の葉がイワンに向かって放出される。イワンは回避しようとフィールドを駆け回るが、木の葉はイワンを追尾して回避できない。

『おっと、放ったのはマジカルリーフだ!放ったら当たるまで絶対のに逃さない攻撃だ。あのイワンというポケモンは…………イワンコという岩タイプポケモンです!確実に弱点を突く戦法できましたね』

 未だキンキンという音を出しながら実況がトロピウスの放った技を解説した。解説は、イワンコというポケモンを知らないようで資料を覗き見ながらイワンのタイプを解説していった。

「トロ、かぜおこしで動きを鈍らせなさい」 

 トロピウスはニックネームであるトロと呼ばれて、ミノアから技の指令が伝られると、背中の羽を大きく動かし大きな風が発生した。その風圧に、体重の軽いイワンは地面に掴りきれず飛ばされてしまう。無防備になったイワンをマジカルリーフは逃さない。マジカルリーフがイワンに直撃する。

 イワンの叫びがフィールドに響き渡る。弱点の草タイプの技を受けたダメージは大きかった。かぜおこしが止み、空中から地面にへと叩きつけられたのの、イワンは立ち上がった。

「イワン大丈夫!?」

「ワンッ!」

 セルピルの呼びかけに、イワンはまだ元気な声で返した。

 試合前の優しさと柔らかな言葉使いとは裏腹に、ミノアという人物にセルピルは恐れおののいた。弱点のポケモンに対して絶対に当たる技と岩タイプに効果が今一つなかぜおこしを動きを封じて技にあてさせるというコンビネーション。セルピルは初戦になんとも手ごわいトレーナと会ったことだろうか。

「もう一度、マジカルリーフです!」

 ミノアは、再び命令を飛ばすとトロの背中からマジカルリーフが放出される。回避しても当たるまで逃れないものをどうすればいいかと先ほどのかぜおこしで顔に飛んできた砂を払い落として考えた。そしてふとあることが思いついた。

「当たるまで追いかけるなら……イワン!すなかけをマジカルリーフにかけて!」

 イワンが後ろ足で砂を蹴り、マジカルリーフにすなかけをする。すると、マジカルリーフは砂に当たってすべてが落ちていくではないか。セルピルの読み通りだった。当たるまで追尾するなら先に当ててしまうのがいい、すなかけなら広い範囲でマジカルリーフを当てられると判断した。

「イワン、こっちも攻撃よ!いわおとし!」

 セルピルが命令を下すと、イワンの首の棘が光り周りに小さな岩が形成されて、イワンがその岩に向かって体当たりし、岩がトロに向かって落下する。大きな体格で四足歩行という素早い動きが苦手であるトロはいわなだれを回避できず直撃する。すると、トロの表情が痛苦の表情をした。

『セルピル選手、トロピウスの弱点を突きに行きました!しかし、体格差ではトロピウスのほうが優位。これはトロピウスのほうが体力の違いで勝利するのか?』

 驚きの朗報だった。まさかトロピウスが岩タイプが弱点だとは思わなかったのだ。これなら勝機はあるとセルピルは読み取り、再びイワンにいわなだれを命じる。

「かぜおこし」

 しかし、トロがかぜおこしで岩を吹き飛ばし、攻撃を防ぎ切った。その攻防に会場は盛り上がりを見せ始める。実況もその興奮を隠しきれないほど機械音交じりに声を発する。

『なんと見事な戦いっぷり!初戦でこんなバトルを展開するとは両者素晴らしいバトルだ!!』

 周囲の歓声に対してセルピルの精神は研ぎ澄まされていた。いかに相手の攻撃を避けつつ、攻撃を当てれるかのみに集中していた。

「イワン、トロピウスの下のほうへ走って!」 

「させません。マジカルリーフ!」

 イワンがトロに向かって駆け出すと、すかさずトロがマジカルリーフを放った。セルピルは持っていたハンカチをぎゅっと握りしめ、落ちつくように自分に暗示をかけて指示を出す。

「全力ですなかけ!トロピウスの方にもめがけてね!」

 イワンが急停止して、前足も後ろ足も使ってすなかけ始めた。両方の足を使ってのすなかけは、砂の量が多くフィールドに砂が舞っていく。マジカルリーフは、またもや砂によって全て落ちてしまう。

「トロ、ふみつけです!イワンコちゃんが足元にいるかもしれません」

 ミノアの指示は的確だった。まさにその下にイワンがいたのだから。だがトロには見えてなかった。先ほどのすなかけよる砂がトロの視界を奪い闇雲に地面を踏みつけるだけだった。一方のイワンは、発達した嗅覚によりトロの居場所を感知しており、うまく潜り込めたのであった。

「いわおとし!」

 イワンは、自分の周囲に岩を形成して岩にぶつかり、それを飛ばしていく。トロピウスの体の下から放たれるそれは、いわおとしならぬいわあげである。下腹部から弱点の攻撃をまともに食らったトロは、よく見えないながらも回避しようと努めるが、ついにはバランスを崩し転倒してしまった。これを見てミノアは、モンスターボールを取り出し審判のほうを向いた。

 ミノアのサインを確認した審判が試合終了の笛を吹いた。そして持っていた旗のうち、セルピル側の旗が上げられた。

「トロピウス、トレーナーの試合続行不可の申し出により勝者セルピルさん!」

 ミノアはトロをモンスターボールに戻すと、セルピルに向けてスカートのすそを摘まんで膝を小さく折って一礼して去っていった。

 

 待機場所にあるパイプ椅子にどっかりと座りギィと音を出して背もたれにもたれ掛かった。初めて大勢の人に見られるバトルという経験をし、トロピウスという見た目では判断できなかったポケモンとのバトルと初体験づくしで一気に気疲れが出てきた。

 すると係員がセルピルを呼び、係員のもとに来てみるとそこにはミノアが微笑みながら小さく手を振って待っていた。セルピルはさっき渡されたハンカチのことを思い出し、それを返しに来たのだと思いポケットに入れていたハンカチを取り出す。

「ミノアさん、さっきはハンカチありがとうございました」

「あら、セルピルさん。トロを心配してくれてありがとう、大丈夫ですよ。ポケモンバトルは互いの力量を見せあう場、あの時に勝負が決まって降参しましたし大けがなんてしてませんわ。それに。ふふっ、ハンカチはよろしいのですよ」

 ミノアは口元に手を添えてくすくすと品のある笑いをしながら返還を断った。

「それはあなたにあげるつもりで渡したのですから。それにここに参りましたのはこれを渡そうとしたのです」

 ミノアが持っていた籠から取り出したのは、試合前に取り出していた小瓶と似たものだった。

「これは私からの餞別です。トレーナーが動揺したり、不安になってしまっては、ポケモンも自分の主人が大丈夫か不安になります。そんな時にはアロマで気持ちを落ち着かせる。ポケモンにも効くから、あなたのポケモンにも使ってね」

 セルピルは、目の前にいる素晴らしいトレーナーに感動を覚え尊敬した。気品と強さ、そしてトレーナーにもポケモンにもやさしさ見せる姿を兼ね備えた高潔な女性をまじかで体験したことに、喜びを隠せなく。その興奮を抑え着ないほどやや早口で返答した。

「ありがとうございます。実は私、初めて大勢の前でバトルして負けたらポケモンがかわいそうになると思って不安で。けどミノアさんのおかげで落ち着きました。これ大事に使わせていただきます」

「あら、私結構常連なのに初めての人にしてやられちゃった。初めての大会であそこまでトロを追い込めるなんて、あなたは素晴らしいバトルトレーナーになれるわ」

 

 第二戦は、セルピルも拍子抜けするほどあっという間に勝負が決してしまった。

 次に選択したポケモンはニチャモで、相手のポケモンはパラセクトだった。はじめパラセクトが背中の大きなキノコから放出したしびれごなでニチャモの動きを封じようと先制したが、それを回避した。ニチャモが反撃してひのこをパラセクトに向けて放ったがこれが決定打だった。

 虫・草タイプであるパラセクトにとって炎タイプは一番相性が悪い。しかもそのひのこが運悪く急所に当たってしまい、戦闘不能になった。試合開始からわずか数分のことだった。

 そして最終戦となる第三戦。セルピルは迷いなくボードに丸を付けた。次に使うポケモンはゴトラにした。最終戦はバトルらしいバトルをしなかったニチャモにリベンジさせてもよかったのだが、ゴトラにもバトルの経験を積ませておきたかったからだ。優勝よりも経験を積ませたほうが良い。ミノアからもらったアドバイスおかげかアロマグッズのおかげか、落ち着いて考慮して出した結果だ。

 セルピルは、相手側のテントから見えないように椅子の下にゴトラを出した。出てきたゴトラは、鼻息を鳴らしていた。

「ゴトラ、次の相手がどんなのを出してくるかわからないけど、思いっきりやっちゃおう」

 それに対してゴトラは鳴き声一つすら出さなかったが、鼻息だけは出した。

 

 会場の拡声器が選手の入場を興奮気味に読み上げた。

『さあー!!みなさん、いよいよ決勝戦です!今バトルフィールドに向かいますは、大会最初のバトルでいきなり盛り上がるバトルを見せ、二回戦では相手のポケモンをものの数分で撃破しました。セルピル選手です!!』

 司会の声に機械がついてこれなようで、たびたびキーンと機械の高い音が飛び出ていた。そのキンキン声にセルピルは耳を塞ぎながらセンターへ歩み寄る。そして対戦相手の姿を見て目を丸くした。セルピルは、ミノアからもらったハンカチを取り出して、匂いを嗅いで落ち着こうとする。 

『そして対するは、なんとここまで一匹だけで決勝まで勝ち進んだというなかなかの強者。しかもセルピル選手と同い年という珍しい巡り合わせ!決勝ではどんな戦いを見せてくれるのか!セロ選手です!!』

 そこにいたのは、ブッスシティで別れ、スヨルタウンの屋台村で見かけたセロの姿だった。

 

 戦いの期限まで後、五十二日。




補足設定を。
ポケモンセンターは、基本的には誰でもポケモンの治療を受けられます。ただしトレーナーでない人は、最大で一割から二割負担。トレーナーは、一割負担。ジム挑戦者は無料。
ポケモンセンター宿泊も、一般トレーナーはそうでない人の半額。ジム挑戦者は四分の一とめっちゃお得です。
だだし、ジム挑戦者は月に一回はジムの挑戦をしないと権利をはく奪される。
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