この章が実質最終章です。今話のジム戦からポケモンバトルの連続です。
さて、セルピルの旅とその戦いを最後までお付き合い下さいませ。
第六十話『崖と風の街カリチィンシティ 最後のジム戦』
つむじ風が岩肌に吹き付けられる。その岩肌の上に立ち並ぶ家々には、ついこの間までフリーに襲撃された形跡がなかったかのように修繕されている。人々の話の内容もフリーのことからいつもの日常の話に戻り、フリーのことなど過去のものになりつつあった。
岩山の間にできた渓谷の間に流れる大きな川の六番水道、下流にあるデミルシティから上ってきた一隻の船から降りてきたセルピル。腕を大きく伸ばして数時間ほど座りっぱなしで固くなった体をほぐす。
「やっとカリチィンシティだ。リハビリが長くて時間かかっちゃったよ。うぉっと、ストレッチの手伝いありがとうイワン」
「グアン」
セルピルの両腕を持ち上げて体を伸ばし、背骨がポンという音が鳴る。程よく体を伸ばしたところで船着き場から出ると、すぐ近くにある長い長いエスカレーターに乗り込んだ。
カリチィンシティは高低差のある岩山の上に住宅が作られていて、昔は飛行ポケモンに乗って住民の移動手段としていた。今ではポケモンの負担を軽減するために、街を縦断するようにつくられた複数のエスカレーターで移動している。
しかし、生活の一部として飛行ポケモンを乗りこなしていた技術はカリチィンシティの郵便局が文化継承をしていて、列車や車が発達した現在でも、交通の妨げにならないとして各町の支局にいるペリッパーなどが郵便物を配達しに回っている。
セルピルとイワンが長いエスカレーター脇にある窓から見えるカリチィンシティの景色から、最上段にそびえたっている郵便局から飛行ポケモンが郵便物を持って飛び立つ姿が見えていた。ペリッパーの白やヤヤコマの赤、ピジョンの緑が飛び回る様は、まるで満艦飾のように灰色の岩肌でできている街を彩っているようだった。
久方ぶりにのんびりと景色を眺めているセルピルの目にある看板が目に入ってきた。
『カリチィンシティ郵便本局兼カリチィンジムまで、このままあと十五分』
ここカリチィンシティも他のジムの例外に漏れず、ジムが郵便局と合わさっているのだ。むしろ、ジムと職場を別途に造っていたデミルジムが例外であるといわざる得ない。そして郵便局にはジムリーダーのモミが立ちはだかっていることはセルピルの知るところだった。
「もう時間がないもの、絶対に今日ジムバッジをゲットするんだから。飛行タイプに有利なレイレイがいないけど、イワンやゴトラがいるもの」
セルピルが一段下にいるイワンに握りこぶしを差し出すと、イワンもそれに応えて拳を突き合わせた。
ようやく最上段に到着すると、そこにはポケモンセンターを彷彿させるような赤い色で塗られた体育館ほどある建物がデンと構えていた。自動ドアが開き、セルピルは総合案内の受付嬢にジム戦を申し込んだ。
「ジム戦の申し込みをお願いします!」
「お客様申し訳ございません。ジムの申し込みは、外を出て反対側のほうにございますので」
「あ、あれそうなんですか?」
ふと横に立てられているの看板を見ると、『ジムの受付は総合案内でなく迂回してジム受付口へとお回りください』とご丁寧に地図まで添えて書かれていた。
なにせいつもジムは正面から入ってきてすぐに案内係に案内されてきたものだから、いつもの調子でいいだろうとして意気込んだのが、空回りしてしまいセルピルは耳を赤らめてしまう。すると後ろの方でホホホと老い声で笑うが聞こえてくる。
「あらま、あなたモミさんとバトルするのかい?」
「なんなら、ワシらがついてってやろうか?」
唐突にに老人たちに絡まれたセルピルは遠慮しようとするが、どうしてもこの老人二人の勢いに気圧されてしまう。
「いいんじゃて。どうせ私らここでお茶しばいているだけで、この爺さんと一緒に居ても昔話ばっかりだしねぇ」
セルピルは老婆に背中を押されながら郵便局を出ていく。
「まぁ、三つ!ということはポケモンリーグにいくんね」
「は、はいそうです」
「最近の若いやつはいいのう。旅の目的が簡単にあって、ワシなんか惚れた女のあとばかりを追っていたらいつの間にこんな年になってもうて」
老人が青い空を見上げて、昔を思い出していると、老婆が語尾を伸ばしながら老人の昔話に呆れる。
「そんなこと言っているからますます老けるんだーて。ほらここが入り口だよ。モミさんや、ジム戦だーよ!」
老婆が声高にジム前の門に向かって声を上げると、ジムの入り口がひとりでに開く。セルピルは老人たちと一緒に無機質な廊下を歩いていくと開けた場所に出る。
ジムのバトルフィールドには、モミがファイアローに指示を飛ばしながら、手に持っていたボールを次々に空中に投げつけていく。ファイアローは飛びながら、飛んできた球を嘴から放たれるひのこで十個のボールに火をつけていく。
火のついた球がファイアローが羽ばたかせた翼から生じる風で飛ばされていく。刹那、飛んでいた五つの火の玉がぱっくりと二つに割れて地面に落ちていった。何が起こったとセルピルは目を丸くしたが、老人が「少し斜めに見るんじゃ」とアドバイスして体を傾けてみる。
透明で薄い一枚の羽根のようなものが空中に回転しながら舞っていた。その軌道はまるでブーメランのようで、空中でUターンすると残りの火の玉を真っ二つに裂いて撃ち落とす。
「あれはエアームドの羽じゃ。自分から羽を飛ばしてブーメランのように攻撃できるのじゃ。あの芸当ができるのはモミさんのエアームドだけじゃよ」
老人が説明すると、ジムの奥からエアームドが滑空しながらモミの下へと降り立っていく。
「いい調子だよエアームド」
「相変わらず上手じゃなモミさんや」
老人が手を叩いてエアームドとモミを褒め称えると、モミがそれに気づき声の主が誰だかわかると、瞼を弛ませて見据える。
「おんやま、隣のジジイと婆さんじゃないか。それにセルピルまで」
「つれないのぅ、せっかくこうしてモミちゃんに逢いに来て、ジム戦志望の子を連れてきたのに」
モミがふんと老人に向けて鼻息を鳴らし、ようやくこちらに振り向くとセルピルは一礼する。すると、足元に先ほどエアームドの翼で切られたボールが転がってきた。エアームドの鋼鉄の翼で切られた半球の切り口は、空中で切られたにも関わらずまるで機械で切られたかのようにきれいに二つに切られていた。
フリーの事件の時にその実力は目にして、その対策のために戦略やポケモンの選定をあらかじめ行ってはいた。しかし、実際戦うとなると、今魅せられた技量にセルピルの手は震え始めていた。
後ろから老婆の声がセルピルに向けて応援してくる。
「セルピルちゃん、がんばって勝つんだにぇ」
応援の声で我に返り、老婆に手を振った後、ぴしゃりと両手で自分の頬をたたき渇を入れた。
「さあ準備はいいかい、お待ちかねのジム戦だよ。これがセルピルにとって最後のジム戦となるさね。さて最後のジム戦と行く前に、最後のジム戦を行う際の特殊ルールと言うよ。それはジムリーダーもトレーナーもお互いメガシンカが使えることだ」
セルピルは胸のメガシンカデバイスに指が触れる。メガシンカは、メガストーンを持っているポケモンと共鳴してさらなる力を得るアイテム、しかし、メガストーンを持っているポケモンはニチャモしかいない。しかもそのメガストーンは特定の種類のポケモンにしか効果を発揮できない。つまり場合によってはジムリーダー側が先にメガシンカを使う恐れがあるということだ。
相手がメガシンカを先に使わせられたら敗北する恐れがある。だが、ジム戦はもう始まる。ここで引くことなどできない、なぜなら。
「ここで勝たなきゃ、ポケモンリーグに間に合わない。絶対に勝ってやる!」
「威勢がいいね。さあ、最初に一体はピジョットお前さんだ!」
――試合開始のゴングが鳴る。
だがモミはボールを出さない。セルピルがどうしたことかと疑問を投げかけようとすると、先ほどまで無風だったジム内に風が吹き込み始める。上を見上げるとジムの屋根がスライドして、青と白が混ざったカンバスのような空が広がり始めた。そのカンバスの中に一点
キンっと耳をつんざく音が聞こえると思ったら、そのポケモン――ピジョットがフィールドに姿を現していた。ピジョットの速度はマッハ二も出るという。その速度に音がついてこれず、姿が見えた時に遅れてその音が届いたのだ。
イワンが未だキーンというつんざく音が残りつつもバトルフィールドに出て勝負をしようと足を踏み入れる。だが、それをセルピルはイワンの手を引いて制止させる。
「イワン、待って。まだあなたが出るのは早いわ」
セルピルが止めた理由、それはピジョットのあまりにも速い素早さである。おそらくあの速度で攻められたらいくら飛行タイプに抵抗力があるイワンでも動きについてこれないだろう。
「だからピジョットには、ゴトラで!」
セルピルがフィールドにボールを投げ入れる。ボールが開き中からゴトラが出てくる。だがゴトラは四足歩行でなく二足歩行で立っていた。頭の先には鉄の二本の角が生え、ドサイドンのように鎧に身を包み、鉄の尻尾は一メートルはあるであろうものに変わっていた。
ゴトラの進化した姿を見てモミは腕を組んで感心する。
「ボスゴドラに進化したんかい。ここにくるまでにずいぶん修行したみたいだね」
「はい。友達が頑張っているのを思ったら私も負けないと思って。さあゴトラピジョットを倒すわよ!」
「ゴ、ドラー!!」
ゴトラの咆哮がフィールドに響き渡る。
鋼と岩の複合タイプに加え、生来の頑丈さがあるゴトラ。いくら速度が勝るピジョットでも鋼鉄の城塞のごときゴトラにちょっとやそっとでは倒せないそう目論んでいた。
「相性の不利は、他で補う。――それがポケモンバトルだよ、メガシンカ!!」
頭の帽子にかけていたゴーグルをつけるとモミの手が光り始める。すると、ピジョットの体が光り輝くと同時に変化を始めた。
鶏冠の内の一本が異様に伸びて尾っぽにまで届くほどで、翼の羽の先端が青く変色していた。体もメガシンカ前よりも引き締まり、スマートな印象を受ける見た目であった。
「ジョット!!」
「メガシンカ!?いきなりですか……」
「安心おし、メガシンカは一回しか使えないよ。元々メガシンカはトレーナーの体力をかなり使うからそうせざる得ないんだよ」
セルピルの不安を宥めさせようという魂胆かもしれないが、嫌な予感が見事に的中したことに、セルピルは嫌な汗をかく。
「こうそくいどうだ!」
モミの指示が伝わると同時に、メガピジョットの姿が消える。――遅れてやってくる風を音速で突き抜ける音がセルピルの耳に届くと、ゴトラは頭部を何かに殴られたかのようでバランスを崩しかける。ゴトラが自分を攻撃した敵はどこかと辺りを見回すと、メガピジョットが翼を羽ばたかせてホバリングしていた。
メガピジョットは、嘴から舌を根元まで出すと勝ち誇ったかのように威張って鳩胸を前に突き出す。
明らかな挑発、怒りの沸点が低いゴトラはすぐに挑発に乗ってしまう。怒りに身を任せてメガピジョットに拳を一突き入れようとするが、あらぬ方向にへと拳は飛んでしまいメガピジョットにかすりもしない。今度はアイアンヘッドによる頭突きを喰らわせようとするが、またも当たりもせずジムの壁に追突してしまう。
「ゴトラ、何をしているの!ピジョットは
メガピジョットは動いていない。しかし、ゴトラの攻撃がセルピルが何度も指示しているのに当たらない。この光景をセルピルはどこかで見たことがあった。
ゴトラがドンドンと今度は地面に向かってすてみタックルをかましているのを見て、思い出した。――セロのワマっちがまだナックラーだった時のナライにあやしいひかりをかけた時と同じ光景だった。つまり今のゴトラは混乱しているということだ。
モミはメガピジョットの攻撃が通らないことを分かって、混乱による自傷でゴトラを倒そうという腹積もりだった。
「ゴトラ、敵は前よ前!そこは地面だって!」
「いばるによる混乱が消えちまう前に仕留めないとね。エアスラッシュ乱れ撃ち!」
メガピジョットが両翼を大きく広げると、突風のような風の刃がゴトラに向かって飛んでくる。飛行タイプであるため鋼の装甲に傷はないものの、特殊技ということもあり装甲の下の肉に確実にダメージが入っている。ボスゴドラに進化したとはいえ、やはり特殊技の抵抗力自体は薄いのは進化前と同じであるのだ。
混乱による自傷とエアスラッシュに耐えきれず、ゴトラは膝を屈してしまう。
メガピジョットは上昇すると、止めを刺すため翼を折りたたみ、ブレイブバードをマッハ二を超える速度で急降下する――その姿はさながら弾丸のようで一直線にゴトラに向かって行く。
「ゴトラ!避けて!」
だが、ゴトラは避けない。もはや万事休すか。そして、ゴトラの腹に向けてメガピジョットが来襲する。
――その直前に、メガピジョットはゴトラの目に精気が宿っていたのに気付いた時にはも遅かった。ゴトラの頭がハンマーのようにアイアンヘッドを振り下ろされメガピジョットを地面に叩き落した。
今までやられた分のお返しと言わんばかりに、混乱で壊した地面からできた岩によるいわなだれをメガピジョットにすべてぶつけた。空では音速を超えるメガピジョットでも流石に地面の上では分が悪く、敗北と相成る。
「混乱が解けたのにギリギリまで隠し通すとは、なかなかやり手だねお前さんのボスゴドラは。次はファイアロー、行くんだ!機動力と火力であの城を爆撃しな!」
モミの隣の大きな鳥籠に止まっていたファイアローがそこから出ると同時に、嘴から火球が焼夷弾のようにゴトラの上に降ってくる。さながら、基地から飛び立った爆撃機のようでゴトラの装甲を焼き尽くす。
「流石に今のゴトラじゃきついわね。なら交代、イワン頼んだわ!」
ゴトラをボールに戻すと、待ってましたといわんばかりにイワンがのっそりと、フィールドに入場する。フィールドは、ファイアローの爆撃による衝撃でできた穴から小さなの石が転がっていて好都合な状況だった。
「さあ新技いくわよ。ストーンエッジ!」
――小粒の岩がイワンの手の中に納まると鋭利な岩にへと形状を変化させる。イワンの赤い目がファイアローが次に移動する所を予測する。特性ノーガード、相手の攻撃を避けず当たるデメリットがあるが、自身の攻撃は外さない一長一短の特性が今長所をの面をむき出している。
流石にまずいと察したのか、ファイアローは上昇しそらをとぶ技を使って回避しようとする。だが、イワンはそれを見逃すはずはない。ボクサーのように両腕をぶらぶら垂れ下げたのが臨戦態勢をとると、ジャブを打つような感覚で鋭利な岩を投げつける。
岩の対空射撃が次々にファイアローの傍を通過する。何度か翼や背中にかすりはするものの本体にまでは届いていない。ファイアローはますます上昇し、ジムの開いた天井付近にまで到達しようとする。――だが、特性ノーガードは絶対だった。イワンのストーンエッジによる岩が三つファイアローの右翼と腹部に直撃する。
右羽をやられて、バランスを崩すファイアロー。もう一度ストーンエッジを発令しようとセルピルは口を開く。――だが、先に声が発せられたのは客席の方からだった。声の主はセルピルに付き添っていた老人からだった。
「負けるなモミちゃん!!あんたが負けるのは嫌なんじゃ!!もし負けたらワシは……ワシは」
「やかましいよジジイ!男がべそ書くんじゃないよ。あたしだって、そう簡単にやられはしないんだよ。ファイアロー、かえんほうしゃによる直上急降下爆撃!」
ファイアローの翼が折りたたまれる。そのままイワンの脳天に向かって急降下してくる。メガピジョットと異なり、音が遅れてやってくることはないが、ひゅうぅという風を切る音が低い音を鳴らして恐怖を煽り立てる音に変化する。
――嘴からかえんほうしゃの火球が投下される。イワンに向けて一直線で焼き払うその様は、機銃掃射さながらである。
「イワン、穴に隠れて砂で身を守って!」
ファイアローが作った穴の中でイワンが潜れそうなほどの大きさの穴に入ると、かえんほうしゃを吐くファイアローの攻撃を、後ろ足で地面の砂を掛けて消火する。だが、かえんほうしゃの攻撃が通じていないのを見てもファイアローは向きを変えようとしていない。
「ファイアロー、かえんほうしゃを絶やすんじゃないよ。ギガインパクトで突っ込め!」
文字通り火を噴き続けながら、低い風切り声が迫ってくる。セルピルはファイアローがぶつかる寸前「耐えてよイワン、カウンター!!」と声を張り上げた。そしてファイアローがイワンのいる穴に衝突する。
――砂埃がフィールドを覆う。セルピルもモミもお互いのポケモンの状態が全く把握できてない。砂の量が減り始め二匹の姿が見え始める。イワンの腹部にファイアローの嘴が刺さっているのが見えた。モミは賭けに勝ったと微笑をする。
だが砂埃の濃さがより一層薄くなると、イワンがファイアローの背中にカウンターを決めていた。二匹は全く動かずどちらが勝ったか全くわからなかった。
「あら~セルピルちゃんの勝ちんね。老眼鏡掛けないとわかんなかったねぇ」
審判が駆け寄ろうとする前に客席にいる老婆からの声で勝敗の結果が伝えられた。ファイアローはゆっくりとイワンの体から崩れ落ちる。審判が改めてファイアローの敗北を宣言する。
残り一体、セルピルの手持ちは未だに三体が戦闘できる。ついに最後のバッジに手が届く。そんな期待が胸の中に膨らんでいた。
だが、モミは冷静に悔しい表情も浮かべずにファイアローを労ってボールに戻す。
「やるね。だけどこのポケモンの技に耐えれるかい?ルチャブル」
モミの残声に呼び答えたポケモンは、空からではなくジムの後ろからプロレスラーの登場よろしく空中を何回転も回って地面に着地する。
試合が再開される。ルチャブルは、マントのように開いた翼を一回羽ばたかせるとフライングプレスをイワンに与える。先制で格闘技を喰らうものの、イワンは耐えぬき、手に隠し持っていた岩からストーンエッジで尖らせて相手に突き刺す。
――ルチャブルはひるむ。だが、それでも致命的なダメージではなかった。ルチャブルの弱点には岩タイプは含まれていないのだ。ルチャブルがスライディングによるローキックでイワンの脚を崩して倒れさせると、その隙をついてフライングプレスをもう一度お見舞した。
ファイアローのギガインパクトのによる蓄積ダメージと幾度も弱点の格闘技を掛けられ、イワンはK.O.負けを喫してしまう。セルピルがイワンに駆け寄って容態心配しながら、肩を貸す。
「イワン!大丈夫?立てる?」
「ルガガ」
イワンは弱弱しい声で返事を返すが何とか立ち上がり、セルピルの肩つかまりながらフィールドを出る。イワンをトレーナーポジションのとこ下ろすと、あのルチャブルの対策を考え始める。はっきり言って、ルチャブルに関しては図鑑で見ただけで対戦経験がない。飛行・格闘という全く独自の組み合わせのタイプ、格闘タイプのみならむーんを出せるのだが、飛行も持っているとなると弱点を突かれてしまう。ナライは空中戦でも戦えるが、メイン技のじしんが使えないリスクがある。
セルピルはボールを取り出して、あるポケモンを繰り出す。――出てきたのは覆面の中から赤い一つ目が覗くワマっちであった。セロがレイレイを返却していないため、ワマっちもセルピルの手持ちに残っていたのだ。ワマっちならば、ルチャブルの格闘技をもろともしない。
「ほほう、ゴーストタイプかい。それでうちのルチャブルを防ぐつもりかい?つるぎのまい!」
ルチャブルの両翼が大きく開くと、手の先をパンパンと叩き自らを鼓舞する。
「これはきついぞぅ。ルチャブルのつるぎのまいが出たらもう止められんからなぁ」
「爺さんはとことんモミちゃんに肩入れするねぇ。セルピルちゃん、がんばって~」
観客席から両者を応援する声が上がると、ルチャブルが飛び上がってワマっちに接近する。シャドーパンチ百裂拳で迎え撃つが、隙間隙間を縫うようにルチャブルはかわしていく。そしてワマっちの体を二本の脚でがっちりとつかむと、ワマッチをつかんだまま空へと飛んでいく。
「ヨノワールさえ倒せば、あとは手負いで相性で優位に立てるボスゴドラだけだ。フリーフォールでのしちまいな!」
ヨノワールが抵抗して黒い塊を形成しようとするが、ルチャブルがワマっちの体を左右に揺らしてシャドーボールをつくらせないようにさせる。いよいよ開き切った天井を抜けてしまうと、ルチャブルは向きを反転させてワマっちとともに落下する。
ルチャブルが二本の脚の先を離し、ワマっちを地面に叩きつける。土煙と砂が舞い上がる。ワマっちはふらつきながらも、まだ自力で建てる体力が残っていた。
ルチャブルが戻ってきたのを見て、モミはルチャブルにフリーフォールを再び命令する。――だがルチャブルは動かない。
「ルチャブル?どうしたんだい、フリーフォール……まさか!?」
モミが気付いたときにはルチャブルは自分で自分を攻撃していた。セルピルは、グッと手を握りしめワマっちの攻撃がうまくいったことの喜びをかみしめた。
「ゴトラにしたことへのお返しよ。混乱しているうちに、シャドーパンチ!」
混乱で自傷しているルチャブルの隙をついて、ワマっちのシャドーパンチ百裂拳が再び炸裂する。混乱が解けてしまう隙を与えぬほどの影の拳を絶えず振るう。最後の一撃でルチャブルが仰向けになりながら地面に倒れると審判がワマっちの勝利とセルピルの勝利宣言をする。
「やったねワマっち……ってあれ?」
セルピルの視界にワマっちの姿が見えなくなったと思ったら、いつの間にかぬっとワマっちの黄色い顔のような腹の部分が現れ、セルピルは腰を抜かした。それを見てワマっちはゲラゲラ笑いだす。
「ヨワワワワ」
「もぅ、やっぱりヨマワルのころから全然変わってない!」
「仲がいいことさね。さあ立ちな、これが最後のバッジ、フライトバッジだ」
モミの手からバッジが授与される。羽を模した銀のバッジがセルピルの中に転がる。ついに、最後のバッジ、セルピルはフライトバッジをバッジケースの中に入れる。
アニヤ地方の四つのバッジとオリント地方のコキノスジムで獲得したウェーブバッジ。長い長い旅の終わりへの扉のカギがそろったのだ。
「さて、喜んでいる暇はないよ。今晩ファトゥラ中央駅行きの列車が出ちまう。それに乗らないとポケモンリーグに行けないよ。ほら、急いで切符を買いに行っちまいな」
まだそらをとぶが不慣れなセルピルはポケモンに乗って別の街に行くのができないので、ファトゥラシティへ帰るには列車に乗るしか方法がないのだ。
すると、客席からモミを応援していた老人が客席から降りてくるとモミに近づき肘でつついてくる。
「いじわるじゃなモミちゃん。表の郵便局でも汽車の切符なぞ買えるじゃろうて。昔からいじわるじゃのう。そこが好きなんじゃが」
「いつまで彼氏面しているんだいこのジジイ。冗談はその禿げ頭だけにしな!」
セルピルは、モミと老人とのやり取りにじっと目を見据えていた。そして老婆も客席から降りてくると、セルピルは耳打ちして二人の関係を尋ねる。
「あの爺さんがジム戦前に惚れた女のあとばかりを追っていたって言ったじゃろ。その女というのがモミさんなんじゃて。けど、全く相手にされてなくてね。爺さんはるばる他所の地方にまで追っかけてきたのに振り向いてすらなくてね」
全く分からなかった。何十年もプロポーズしているのに、今もこうして足蹴にされているのにどうしてそんなに執拗にモミを追い求めることをあの老人はしているのだろうか。
「なんでそこまで夢中になれるんですか?」
「まあ恋は盲目って奴だねぇ。セルピルちゃんは、まーだそんな経験がないと思うからわかんないかもねぇ」
駅の公衆電話にお金を入れて博士の番号を打つ。発信音が何度か鳴ると博士の声が応対する聞こえ、セルピルは喜びの報告をした。
「博士、最後のバッジゲットしました!」
「よかったわ。セルピルも無事にバッジをゲット出来て」
博士の「も」という言葉にセルピルは引っ掛かりその言葉について問い合わす。
「も、ということはセロも最後のバッジをゲットしたのですか?」
「ええ。けど問題は間に合うかよね。セルピルもタッシーマシティまで行ったことがあるから知っているでしょ。エシリタウンまで交通機関がないから時間がかかるのを」
そう、もうあれから一か月以上経った今でもセルピルの脳内には鮮明に思い出せる。砂飛び交う二番道路、自転車で漕いでいると目の中に砂が入って痛かったことやトレーナーのお姉さんたちとのバトルにロゼさんとの出会いが思い浮んでくる。
「昨日の夜にタッシーマシティを出るという電話があったから時間としてはギリギリね。自転車でエシリタウンにまで着けばあとはそこから列車に乗ればいけるけど」
セルピルはエシリタウンからタッシーマシティまでをロゼにトラックで送ってもらったので時間短縮ができた。しかし、セロの場合はそれがない状態で あの中をたった一人で今ファトゥラシティに向かっている。
ポケモンリーグに行くという約束を果たすために今セロがどんな思いで二番道路を走っているかと思うと、セルピルはなんだか胸が苦しくなってきた。
『まもなく、カリチィンシティ発ファトゥラシティ行きの列車が発車します。お乗りの方はお早めにご乗車ください』
駅のアナウンスがセルピルの乗る予定の列車が発車することを告げる。
『セルピル、もう列車が出発しちゃうんじゃない?』
「ああそうでした。すみません電話切ります。博士、次はファトゥラシティで」
受話器を置くと、プラットホームにへと駆けていく。太陽はすでに上ってなく、代わりに半分になった月が夜空の星とともに駅舎と列車を照らしていた。
ホームには人影はなく、客車の明かりに先ほどまでここにいた人たちの影が映し出されていた。荷物はすでに預けていて、後はセルピルが乗り込むだけであった。カリチィンシティ駅からヴァディタウンを経由して一日近くかけてファトゥラシティに向かう。
ステップに足を掛けた時、セロがいる方角である南西に顔を向ける。
「間に合ってよセロ。約束を守ったんだからあなたが破っちゃ意味ないでしょ」
セルピルが乗り込んだのを確認すると、駅員が笛を吹く。赤い機関車がセルピルを乗せた客車を引いて岩山の急な坂をゆっくりと下りながら暗闇の中へと走り去っていく。