『ファトゥラ中央駅、ファトゥラ中央駅でございます。ファトゥラ地下鉄にお乗りの方は駅の改札口から。ポケモンリーグ行きの特別列車オリニア急行は十三番・十四番ホームでございます』
駅のアナウンスがポケモンリーグ行きの列車の場所を教えてくれる。セルピルは跨線橋を上り、十三番・十四番ホームの方に向かっていく。すると、目的の場所に白煙がもうもうと立ち込めていた。火事か!?と思って駆け寄ってみると全く違っていた。
その正体はあまりにも時代錯誤的で威風堂々としているものだった。黒鉄の円柱状の上部構造の車体と一つの煙突、そしてクランクのついた車輪の間からあふれ出ている蒸気がその煙の正体であった。電気機関車や電車が立ち並ぶこの駅の中、オリニア急行を牽く蒸気機関車は異彩を放っていた。後ろの客車には乗務員がせわしなく荷物を積み込んでいた。セルピルが跨線橋から降りて辺りを見回しても、未だセロが来ていない様子で先に客車に乗り込もうとする。
「お客さんすまないけど、乗車口はこっちじゃないんだ。後ろの方にまで行ってくれないと」
「どうしてここじゃダメなんですか?」
「それは秘密だ。さあ早くしないと乗り遅れるぞ」
乗務員に止められたセルピル。これ以上取り合ってくれそうにないので、しぶしぶ最後尾まで再び歩き始める。
客車は全体を深い緑で彩られ、シックな演出を醸し出し、それぞれには一本の色の異なるラインが振られていた。最初に客車には黒が、次は赤の車両が二両で一等車という文字が金文字で刻まれていた。次は同じく金文字で食堂車と刻まれ、黄色のラインが入った客車だった。次は白のラインの二階建ての客車、次に青のラインの二等車が、そして次の橙のラインが入った客車には異様さが際立っていた。
端的に言えば、客車が長いのだ。今まで連結部分があったのにこの橙の客車にはどこまでもそれらしきものがなく四両分もあった。あまりにも長く同じ景色が続いてしまい、気が遠くなりそうだった。
ようやく最後尾が見えると、夏なのに白のコートのような車掌服を身にまとい同じく白の帽子をかぶった男性がセルピルに近寄ってきた。
「お客サマ、ジムバッジを拝見させていただきマス」
片言の口調で少し奇妙であったが、周りにいる人もセルピルと同じトレーナーであるようで、ジムバッジを見せていたので恐らく大丈夫であろうと判断して白服の男に今まで獲得したバッジ四つを見せる。
ファンタスティックバッジ、スピリットバッジ、メタルバッジ、そしてフライトバッジを男が帽子の間からまじまじと見つめる。口角が吊り上がっていて笑っているように見えるので不気味に見えたが、次の時にはにこりと本当に笑ってみせたので少し安心したセルピルである。
「確認しまシタ。お荷物をお預かリします。こちら控えの番号札デス。どうぞ素敵ナ、オリニア急行の旅をご堪能下サイ」
審査も終わり、荷物を車掌に預けて列車に乗り込もうとする。
「セルピルー!!セルピル!!」
セロがわき目もふらずに大声を発しながら、セルピルに向かって一直線に走っていく。そして一メートルを切ったところでセルピルに飛びついてきた。
「よかった!間に合ったんだ!本当に良かった!!」
「ちょっと、セロ離れないさいよ。暑いでしょ。それにこっちが心配したんだから!」
セルピルは恥ずかしさもあったが、それが先に顔に出てくれたおかげでセロが間に合ってよかったという安堵の表情を浮かべずに済んだ。しかし、セロは離れようともせず、セルピルを少し宙に浮かせたりと再開の喜びを抑えられていなかった。
すると、背後からミュケーナ博士がやってきてセロを諫めた。
「セロ、セルピルを降ろしてあげなさい。困っているでしょ」
「ご、ごめんセルピル。つい嬉しくなって」
セロがセルピルをコンクリートのホームの地面に降ろすと、先ほどの車掌がやってきてセロも審査を受けることになった。その間にセルピルはミュケーナ博士と話を始めていた。
「セロはいつこちらに到着したんですか?」
「ついさっきよ。二人を見送りに駅に着いたら、セロ君が列車から降りてくるのが見えてね。セルピルはどこって私に何度も聞いてね。……さて、いよいよポケモンリーグね。予選必ず勝ち抜いてよ二人とも」
「持っちろんだよ博士!二人で本選行ってワンツーフィニッシュだよ!」
審査が無事に済んだセロは無邪気に博士にそう豪語した。しかし、セルピルにはもう一つ大事な約束をしている相手と再会するためにポケモンリーグに行く使命があった。
『まもなく、中央都市、ポケモンリーグ行きのオリニア急行が発車しマス。お乗りの方はお早めにご乗車くだサイ』
先ほどの車掌が出発のアナウンスをする。
「博士、それでは行ってきます!」
「私も遅れて中央都市に行くからね!」
二人が客車に乗り込むと車掌が列車のドアを閉める。どうやらセルピルとセロが最後の乗客だったようだ。
機関車が二回空転すると、重量のある車体がレールと接地してがっしりとつかむ。汽笛が鳴ると、線路にうろついていたポッポたちが一斉に飛び立ち機関車が客車を引っ張り、真っすぐ真っすぐ中央都市へ行く専用路線を白煙を吐きながらひたすら走りぬいていく。
セルピルたちが入っていった客車の中は狭苦しいというのが第一印象だった。左右に設置されたロングシートにはすでに参加者のトレーナーが座り込み、座れなかった人は座席の間の通路を通勤通学しているように吊革につかまって立っていた。後ろの客車は車掌車兼貨物車と書かれていて後ろの客車への入り口にはあの白い服の車掌が立ち、二台のパソコンが置かれていた。
二人は人と人との間を通り、客車の前へ前へと進んでいく。
「僕、ポケモンリーグ行きの列車だからもっとリッチで快適だと思っていたのに」
「そうよね。でもなんでポケモンも出しているのかしら?セロそこ気を付けて」
「おっと、ごめん尻尾大丈夫?うわっぷ!ご、ごめん。でもありがとう」
この車両には人だけでなく、ポケモンも並んで立っていたのだ。そして先ほど、セロがシャワーズの尻尾をうっかり踏んでしまい顔にシャワーズのみずでっぽうを当てられてしまうが、セロにとって逆にありがたかった。
セロがタオルで顔を拭きながら前へ進むと、途中で止まってしまった。セルピルがどうしたのかと聞くと、ドアが開かないという。セルピルが試しにドアを押したり引いたりスライドさせたりしたが全くびくともしなかった。
すると、ロングシートの傍に立っている緑で統一された服と見かけた顔の男がいた。
「スレイマンさんだ」
「おや?セルピルちゃんとセロ君、あの事件以来だね。二人ともバッジを集められたんだ」
「はい、今朝までバラバラに行動していたんですけど、やっと今日再会できたんです。にしても人多いですねクーラー利いていないみたいですし」
セルピルの額や腕からは汗が大粒でぼたぼたと落ち、ハンカチで汗を拭き取るが収まる気配がない。よく見るとスレイマンやほかの乗客も汗をかき、ポケモンも舌を出して熱を放出していた。
この客車は異様に蒸し暑かった。人の熱もあるが全くと言ってクーラーがかかっていないのだ。だから先ほどセロがシャワーズに水をかけられたのはむしろ体を冷却できてありがたかったのだ。
「これじゃ、ポケモンリーグの予選会場まで持たないよ。車掌さんにもっとクーラー利かせてもらうように言ってもらわないと」
セロがそう不満を言うと、スレイマンは何やらクスクスと笑い始めた。
「ふふ、君たち何か勘違いしているみたいだね?」
二人が首をかしげると、車内にアナウンスが流れ始めた。
『皆さまお待たせいたしました。これよりポケモンリーグ予選会を開始させていただきます』
今まで沈黙していたトレーナーたちが一斉に歓声を上げ始めセルピルとセロは困惑し始める。まだ出発して数分も経ってないのにもう予選会場に着いたのかと思っていた。だが、列車は減速する気配がない。
『それではルールをご説明いたします。現在お客様方がおられます三等車は、あと三十分後になりますとオリニア急行と切り離されます。三十分以内に二等車へと移動できませんと三等車に取り残されて予選敗退となります』
予選敗退という言葉に二人は驚いた。この列車は、予選会場へ行く列車でなく予選会場そのものだったのだ。
『三等車には障害となる試験官が控えておりまして、対戦するのもうまく避けて二等車へ急ぐのも自由です。ただし、お客様同士のバトル並びにお客様への直接な暴力による妨害は禁止とされておりますので、ご理解とご協力をお願いします。それでは二等車へ繋がるドアが開きます。ご注意下さい』
前を見ると、先ほどまで開かなかったドアが左右同時に開く。その向こうにはパッと見て十人は妨害するが待ち構えていた。
ドアが開いたと同時に、挑戦者たちが一斉に次の車両へと駆け込む。挑戦者が三列や四列になって連結部分に押し寄せていく姿を見てセルピルとセロもつられて進もうとした時、スレイマンが待ったの声をかけた。
「二人とも、壁際に移動するんだ!」
どういう意味か分からなかったが、言われるがままスレイマンのいる壁際に移動した瞬間、異変が起きた。先ほど次の車両に移動したはずの挑戦者が次々に戻ってきていたのだ。しかも挑戦者たちは、どんどん後ろへ後ろへと後退していっているではないか。
「なんで?なんでこの車両の後ろに行く人がいるの?後ろには車掌さんしかいないのに」
「情報通りだね。ポケモン預かりシステムのあるパソコンがメインだよ。人の波が落ち着いてきたようだね、その理由は前に行けば分かる」
スレイマンの言葉にまだ理解できない二人は言われるがまま予選会場である隣の車両にへと進む。
連結部分をまたぐと、次の車両にはロングシートや吊革や手すりといったものは一切なく、試験官が二列縦三人並んで待ち構えていた。
そこで挑戦者がスーツ姿の試験官に一対一でバトルをし、うまく試験官の隙間を抜けて前へ進んでいくトレーナーが見られていた。そしてスレイマンが指さした方向に目を向けるとゴローニャを繰り出したトレーナーに向かって、試験官が大慌てでゴローニャをボールに戻すように命令した。
「君!早くゴローニャを戻しなさい!」
「何を言ってやが……って床がぁ!」
ゴローニャがいる床がメキメキと音を立ててゴローニャごと沈み始めていた。それを見てゴローニャのトレーナーは、ゴローニャを急いでボールに戻した。
「重量オーバーだね。三等車は体重が重過ぎるポケモンを出すとああなってしまうんだ」
だが、セルピルはまだ納得がいかなかった。体重が重すぎるポケモンなんて数えるほどしかないはず。なのにどうして何十人もののトレーナーが後ろに行ってしまうのか分からなかった。
「ねぇ、なんか他のトレーナーが出ているポケモンあんまり大きいポケモンが出ていないみたいだね」
セロがそう指摘すると、確かに場に出ているのはみんな腕の中に入れそうなほどの大きさのポケモンや人間と同じぐらいのポケモンばかりだった。大きいポケモンを使用しているトレーナーは皆無と言っていいほどだった。
「その通り、ここの攻略法はどれだけ早く二等車に行けるかということなんだ。連戦になるから一々ボールに入れるのはタイムロスになる。だから足の遅いポケモンを連れて行くのは時間的不利だし、体の大きいポケモンはそれだけで試験官に目を付けられてしまいやすい。後ろに行ってしまったトレーナーたちはその準備を怠ったんだろうね」
「逃げたもの勝ちってことですね。でもそれだったら、他の試験官全員がトレーナーと相手をしている間にすり抜けてしまえば勝てるじゃないですか」
「あら、ポケモンバトルの鉄則を知らないの?あんたたち」
背後から挑発するような声が聞こえ振り返ると、腰まである長い栗毛にジャージのようなパーカーを羽織り中は体操服を彷彿させるブイネックのシャツとハーフパンツを着ている二十前半ぐらいの女性が連結部分に立っていた。
「どういう意味ですか?」
「目と目があったらポケモンバトル。百戦錬磨の試験官がそう簡単に抜け駆けできるトレーナーを見逃してくれるかってこと。この番号札もらったでしょ」
女性が取り出したそれは、あの車掌から手渡された荷物の番号札だった。
「これ発信機。今まで試験官と戦ってきたかをこれで見張っているの。そしたら連絡がすぐに他の試験官に届いて、一斉に勝負を仕掛けに行くわ。ほら今取りつかれたわ」
見ると、先ほど試験官と一度もバトルすることなく抜け駆けできたトレーナーが一斉に二人の試験官に絡まれてバトルが行われてしまう。絡まれたトレーナーは悔しがっている様子で、抜け駆けは難しいということがうかがい知れる。
「しかし、君は意外と余裕があるんだね。普通なら先を急ぐのが普通の判断だと思うけど」
スレイマンがそう指摘すると、女性は自分の胸に手をあてて何か自信があるかのようだった。
「これでも、ポケモンリーグ本選経験者だからね。それで提案があるの、あなたたち私と手を組まない?」
女性からの提案にセルピルは何か怪しんだ。経験者なら、テオドールのようにこの列車に以前ポケモンリーグに参加した顔見知りの人が一人ぐらいいてもおかしくないはず、なのに今回初出場のセルピルとセロに声をかけるのは不自然だと感じたからだ。
「どういうことですか?」
「そんなに目くじら立てなくても。いい、私の経験上試験官に睨まれやすいのはバトルが少ない人。もし単独で進んだら抜け駆けはしやすいけど、バトルの回数が多くなるし、さっきのリスクが大きくなる。だから四人でローテーションを組んで進んでいくの。これならポケモンの体力の消耗も少なく確実に前に進めるの」
さらに詳しく方法を説明されると、先に三人が一斉に片側一列の試験官に挑み、その間に残りの一人が次の車両へ進み試験官にバトルを挑む。これを繰り返すだけというのだ。
「乗ろうよセルピル、上手くいったら一緒に二等車へ行けるんだよ!」
「お互いにメリットはあるね。乗らせてもらおうか」
男二人が早々に同意してしまった。セルピルはまだ考えすえていたが、もたもたしていると後ろの車掌車に戻っていったトレーナーたちが戻ってきてしまいかねなかったので、彼女の手を取った。
「取引成立ね私はハリカ。ヨロシクね」
ハリカの指示通りセルピルたちは動く。提案者のハリカが信用のために自ら先頭に出ると名乗りを上げ、初めに先頭に立って試験官に挑む。その次にセルピル、セロ、スレイマンと続く。
「ニチャモ、ブレイズキック!」
セルピルが選択したのは、ニチャモだった。動きやすさと何より最も古参でこのローテーションによる複雑な動きをついてこれるという信頼感から選ばれた。初戦の相手はかなり幸運で草ポケモンのワタッコ、炎タイプのニチャモのとって最も有利なポケモンで、開始早々ブレイズキック一発でワタッコはノックダウンした。
「ポケモン戦闘不能。通ってよし」
相手が出してくるポケモンは一体のみ。周りを見ると、隣に立っている試験官のポケモンが先ほどとは異なるポケモンを繰り出しているため出してくるポケモンはランダムなのである。ジム戦とは異なり、相手が出してくるポケモンが分らない戦い方になるため、不利なポケモンや耐久型のポケモンが相手になっては時間のロスになってしまう。
「一発で蹴りがついちゃったね。けど抜け駆けはダメよ」
「分かっています」
先ほどまで後ろで戦っていたハリカがセルピルの肩をポンっと叩くと先へ進んでいく。セルピルも後に続いて次の車両へと移っていく。
次の車両に行くとスレイマンが試験官と戦っていた。スレイマンが出しているポケモンはテッカニンで、スピードの優位性を活かして相手に攻撃の隙を与えない。その一歩向こうではハリカがランクルスにサイコキネシスを命じていた。
そしてセルピルが相手する試験官が繰り出したポケモンは、ヌオーだ。水・地面の複合で相性は悪いが、格闘技で押し切る考えだった。
「マッドショット!」
「口を開けさせないで、かわらわり!」
ヌオーの口がゆっくりと開く、ニチャモがそうはさせまいと手刀をヌオーの頭に振り下ろす。しかし、ヌオーのぬるぬるとした体の表面がニチャモの手刀を滑らせ、加えてヌオーの頭が柔らかいこともあって、あちこちにマッドショットの出しそこないが洩れていく。
口から洩れたマッドショットがニチャモ足にかかり、ニチャモの口が歪む。このままではまずいと思い、セルピルはニチャモにある新技を伝える。
「口を上に向けさせるのよスカイアッパー!!」
ニチャモがいったんしゃがみ込むと、ヌオーの顎に向けて拳を叩き込む。狙い通りヌオーの口は上に向きマッドショットは天井に向かってすべて噴き出していく。仰向けになったヌオーの表情は変わらない、まだ戦闘続行かとセルピルとニチャモは身構えていた。
すると、ヌオーの持ち主の試験官が様子を見にヌオーに近づき体をあちこち触れると、両腕でバツをつくる。
「ヌオーは戦闘不能です。この子表情が変わらないから倒されたか全然わからなくて、いつもこうして触って反応するか確認しないとわからないんです」
ヌオーのあまりにもわかりにくい表情に脱力するセルピル。勝ったことに喜ぶべきであるが、まだセロが来ていないので先に進めない。
そう、このローテーション方式はたとえバトルが早く終わっても、後ろにいる仲間のバトルが終わらないと前へ進めないのだ。早く前に進みたいのに進めない歯がゆい気持ちがセルピルに起き、ポケモンの体力の温存とセロたちと一緒に次へ進めやすいこのローテーション方式のデメリットが現れてしまった。
すると、先ほどのアナウンスとは異なり機械音声のような無機質な音が『あと十五分です』というアナウンスが車内に響き渡る。
ようやくセロがダっちを引き連れて今いる車両に乗り込んでくる。
「セロ、遅いわよ」
「ごめんごめん。ちょっと手間ちゃって」
セロが自分の手で自分の頭を抑えながらペコペコ謝りながら試験官の目をかいくぐり次の車両へと進む。それに続いて三人も次の車両へと進むがセルピルにとってここが正念場だ。
次の車両ではセルピルは戦う必要がない、三人が戦っている間に試験官の目をかいくぐってその次の車両へと移らなければならないのだ。もしそこで試験官につかまったら大幅なタイムロスだけでなく、ローテーションが崩れてしまう恐れがある。
次の車両に入りセルピルは身を屈めて、こそこそと奥へ奥へと進む。今セロの隣にいる試験官は今戦っている。その奥のスレイマンの隣も大丈夫そうだと安心しきっていた。
だが、セルピルがその横を通り過ぎようとした時ちょうど試験官が別のトレーナーとのバトルを終わらせてしまい視線が合ってしまった。
「待て、私と――」
隣にいた試験官と目があった!すると、セルピルの体が急に宙に浮いた。顔を上げてみるとニチャモがセルピルを腕で抱きかかえながら跳び上がっていた。その距離はハリカがいるところを悠々と飛び越え次の車両への連結部分に届くほどだった。
「やっぱりあなたでよかったわニチャモ」
「シャモ」
降り立ったニチャモがセルピルを下ろして、共に次の車両へと進む。そしてすぐさま次の試験官とバトルとなる。だが、出してきたポケモンが厄介だった。エスパー・水の複合でかなりニチャモに相性が悪いヤドキングが相手だった。
「交換する時間が惜しい、ニチャモメガシンカ!ブレイズキックで押し切って!」
セルピルが深呼吸してニチャモのメガストーンと共鳴させてニチャモをメガシンカさせる。その勢いのまま水平に跳んでブレイズキックでヤドキングを蹴り倒す。
だがヤドキングはまるでダメージを追っていない様子でむくりと起き上がると、ピンクの両手をニチャモに向けると垂れた目が光り始め、サイコキネシスがニチャモを襲う。メガシンカしたとはいえ、やはり弱点のエスパー技には太刀打ちできなかった。
後ろからスレイマン、セロが奥の試験官とバトルを挑み始めると、後ろからハリカが追ってきた。彼女はこの車両では戦う必要はないので、試験官の目を掻いくぐって次の車両へと戦いに行くはずだったが、ハリスがセルピルにあることを告げて一瞬時が止まった。
「じゃ、先に
「え?」
その言葉を聞いて、奥にある次の車両への扉を目を凝らしてみると、薄っすらと二等車という文字が見えた。はめられた!自ら先頭に立ったのは一番先に二等車に行くためだったんだと気付いたセルピル、ハリカが二等車への扉に手をかけると三人に向かって小さく手を振った。
「それじゃ三人とも早く二等車に追いついてね」
ハリカの行動に呆気にとられる三人。すると、車内に再びあの無機質なアナウンスが響き渡る。
『あと、五分で車両を切り離します』
無機質なアナウンスが無情なアナウンスを告げた。未だにヤドキングはサイコキネシスをニチャモにかけ続けている。このままでは時間切れとなる。セルピルはタイムロスを分かりつつもニチャモを交代させて、ワマっちを出場させる。
「ワマっち、シャドーパンチ」
「ワァ、ワマワマワマワマワマ!!」
ワマっちのシャドーパンチ百裂拳がヤドキングの体に食い込み、シャドーパンチの勢いだけで宙に浮かんでいく。止めの一発を入れると、ヤドキングは動かなくなりバトルに勝利した。そして先に二等車に入っていくセロがセルピルを急かせる。
「セルピル、早く!」
『あと、一分で切り離します』
扉の向こうにいる乗務員が扉を閉めようとする。セルピルやほかのトレーナーたちが一堂に閉まる扉に駆け込んでいく。すると、後ろのトレーナーが、先頭を行っていたセルピルを無理やり押しのけて前に行こうとする。
「どけっ、俺が乗るんだ!」
「ワマー!」
「あんぎゃぁ!!」
セルピルを押しのけたトレーナーが、突然目の前にぬうっと出現したワマっちに驚き、そのままワマっちの弾力のある体に突撃してめり込んでしまう。ワマっちのおかげで再び先に進めたセルピルはワマっちにお礼を言ってボールに戻す。扉が閉まるまであと三十秒しかなかった。
「待って!」
セルピルが手を伸ばす。
――扉が閉まった。
セルピルはぜいぜいと過呼吸になりながら地べたに座って息を整えていた。そして先に二等車に着いていたセロがセルピルの背中をさすって呼吸を整えるのを手伝う。セルピルはギリギリ間に合ったのだ。
乗務員がカギをかけて指さし点呼を行うと、扉の横にあるレバーを下げる。レバーが下がったと同時に三等車との連結が外れ離れていくのを扉のガラス窓から見え仰天する。
「走行しているのに、切り離しちゃうの!?」
「僕たちの荷物が!」
「ご心配なく、車掌車にはブレーキがついております。車掌は凄腕なので安全に止まれます。荷物も次の停車駅で合流できますので」
二人の心配をよそに、先ほどまで争っていた三等車の車両の姿がだんだんと遠く小さくなっていくのであった。