ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第六十二話『ポケモンリーグ予選 二等車勝ち抜き戦』

 二等車は先ほどいた長い長い三等車よりもかなり待遇が良かった。目に優しい木目調の床で敷き詰められた対面式コンパートメント内はクーラーもよく利き、人一人分は座れるほどのスペースが確保されて三等車を突破したトレーナー全員が座れるほどの柔らかいシートがある。

 ほかのトレーナーが三人ほどいる中、ハリカを除いた三人がハリカのことについて三者三葉に口にしていた。セルピルはハリカについて思いっきり不満をぶちまけていた。

 

「あのハリカって人とんだ卑怯者ね! 自分が先にここに行けるように順番に狙いを付けていたなんて」

「うんうん。もう少しでセルピルが三等車に取り残されそうだったよ。ハリカさんずるい」

 

 セルピルとセロが憤慨する一方で、スレイマンは冷静にハリカの行動について答える。

 

「たしかに彼女は策士だ。けど約束は果たしているよ。三等車の攻略法は、相手をいかに出し抜けるかだったよね。けど追い越しも裏切りもなく、作戦通りの行動をした。言い方は悪いけどセルピルちゃんが乗り遅れかけたのは運が悪かったと思う」

 

 違反行為はしていないからそこまで責めることはないというのがスレイマンの言い分だ。だがそれに納得いかない二人だった。

 

「「でも!」」

「ほら、車内販売の弁当が来たようだよ。ここはポケモンリーグの予選、内容はどうであれ結果が大事ということが味わえたからよかったのではないかい?今後もそういうことが起きるかもよ」

 

 スレイマンが言葉を遮り、カートを押してお昼の弁当を販売するお姉さんを呼び止める。ふたりはしぶしぶ大人しく従いスレイマンから弁当を受け取る。

 この弁当はポケモンリーグが配給してきてくれたものでお金いらずだったので、懐を気にしているセルピルにとってそこはありがたかった。弁当は黒のプラスチックの蓋を輪ゴムで止められていて、輪ゴムを引き抜き蓋を開ける。すると、銀のアルミホイルの上に数字が書かれたカードが置かれていた。

 プラスチックのカードを蛍光灯の明かりにかざしてみると二十二と書かれていた。

 

「この番号ってもしかして」

 

 列車側から渡された荷物の番号札の発信機、そしてこれも何か仕掛けや意味があるのではないかと思案を巡らせていると、車内にアナウンスが反響する。

 

『ご乗車のお客様に申し上げます。まもなくリーグ予選第二回戦を始めさせていただきます』

「やっぱりね」

「この番号札って、なんの番号だろうねセルピル」

 

 セロは口元に弁当のご飯粒をつけながら疑問を投げかけると、それに答えるかのようにすぐアナウンスから説明が入った。

 

『第二回戦は、先ほど配られました弁当に入っております番号の小さい順に二人ずつ奥の戦闘車に入って三人の試験官全て勝ち抜いてください。第二回戦は、リーグ本選枠十名と敗者復活八名の制限が過不足なく決まるまで制限解除はされません。ですので、全勝したといたしましても気を抜かないように安全確認、最後に一敗しましても気を落とさないようにしてくださいませ。もしそのような事態が起きた場合、追ってその際のバトルの放送させていただきます』

 

 次の選考で本選が決まる。内容は純粋な勝ち抜き戦。大きな仕掛けや戦略はなさそうでセルピルは少しホッとする。

 

『それでは番号札一番と二番の方、お食事中失礼ではございますが戦闘車へお入りください』

 

 弁当が配給されて数分も経たないのにもうバトル。いきなりバトルに入る人は気の毒だなと思っているとセルピルの隣にいるセロがしきりに喉を叩いて顔が青くなっていた。セルピルはもしやと思い、弁当に付いていたセロのミネラルウォーターを渡す。

 ゴクッゴクッと大きく喉を鳴らしてあっという間に飲み干してプハァーと止まっていた息を吐き出すと番号札をセルピルに見せる。そこには一番という数字がくっきりと刻まれていた。

 

「う、うん。よし飲み込めた! 僕一番だ。セルピル先に一等車で待っているからね」

 

 セロが自信満々の表情で、去り際に本選出場を宣言したことにセルピルは驚きを通り越してしまった。はっぱをかけたのだろうかと思ったが、あの天真爛漫という文字を体現した彼がそんな考えができるはずはないと踏み、セルピルと一緒に行こうという意思表示の表れだと受け止めた。

 スライドドア越しにセロの後姿を見ると、自信満々の表れか無邪気か、ステップを踏んで通路を歩いて行き奥を曲がると、隣の車両へと入っていった。

 

 

 

 セロが出ていってからしばらくたち、スレイマンもほかのトレーナーも出て行ってしまいコンパートメントにはセルピルしかいなくなった。孤独のセルピル、番号がだんだん自分の番号に近づいてくると心臓がドクンと一つ大きくなるのが聞こえてくる。まるで学力テストが行われる数分前の気分だった。

 しばらくすると、二等車が騒がしくなってくる声が聞こえてくる。隣の車両に向かって怒声を浴びせる声、鼻をすすり低く唸るのような声で嗚咽を上げる声、ちょっと通路を覗いてみると自失呆然となって通路にある大きな窓に背中をもたれかけているトレーナーがいた。大半が自分のコンパートメントに戻る気力がない人ばかりだ。それを見てセルピルは自分もああなるのではと思いを巡らせ、こわばっていた体がいっそう固まった。

 

「むーん出ておいで」

 

 あまりの緊張で体がこわばりすぎて手慰みにむーんを呼び出したセルピル。ふんわりとしたモンメン特有の柔らかさを味わうセルピル。相変わらずむーんは呑気そうで、セルピルがあっちこっち綿の部分や葉っぱを触っても嫌な顔も喜ぶ顔も見せずただ「モワ~ン」と声を発するだけだった。

 

『それでは、二十一番と二十二番のお客様、隣の戦闘車へお入りください』

 

 そして、アナウンスがセルピルが持っている番号を告げた。

 ゴクリとつばを飲み込むと、セルピルはカチッと立ち上がり右足と右腕両方を前に出してまるでロボットのように通路を進んでいった。

 

 

 

 戦闘車は、セルピルがファトゥラ中央駅のホームで見たあの二階建て車両だった。二階部分には窓があるものの、一階部分に相当するところに天井はなく、おおよそ四メートルはる吹き抜けになっていた。床はほかの車両と異なり、土で敷き詰められていた。階段を降りると、三等車のスーツを着ていた試験官とは異なり、乗務員だと一目でわかる紺のスーツに乗務員帽をかぶっていた。

 

「それではお客様に、改めてルールをご説明いたします。当車両では、我々乗務員三人勝ち抜ぬき、お客様のみが奥の食堂車へと進むことができます。ポケモンが一体でも敗北しましたら失格となります」

 

 一回ではなく手持ちのポケモンが一匹でも負けたら終わり、改めて本選への出場条件を鑑みると厳しいといわざる負えず口の中の唾が苦くなる。

 むーんをぎゅっと抱きしめると、今度は手の中に汗がにじみ出てくる。セロもスレイマンも二等車に戻っていないということはポケモンを一体も失うことなく勝ち抜いたということ、セロはそれを実行した。自分も追いつかなくちゃと言う使命感であふれてくるセルピル。

 

「なお、当戦闘車は、三等車と異なり飛行ポケモンもカビゴンクラスの体重のポケモンでも対応できておりますので自由にポケモンをお出しくださいませ」

 

 隣にいるトレーナーがすでにボールを構えてバトルの準備を整えていた。セルピルも合わせて準備すると、乗務員が向こう側の白線内に書かれたバトルポジションに立つ。

 

「まずは私から、使用ポケモンは一体。ポケモンは同時にお出しください」

 

 三等車と同じポケモン同時出し、後攻による相性の有利は活かしにくい仕組みだ。言われたとおりにセルピルがポーチからボールを構える。そして審判が笛を鳴らすと両者一斉にポケモンが出現する。

 相手のポケモンはモココ。そしてセルピルは腕の中にいたむーんをそのままバトルフィールドに出した。ムーンを出したタイミングは試験官がモンスターボールを出した時と同時に呼んだはずだったので、審判は違反の笛は鳴っていない。

 むーんは特性いたずらごころで早々にコットンガードで己の綿を増幅させて守りを固める。電気タイプならばむーんには通じなく他の物理攻撃がきても守りを固める算段だ。

 

「モココ、モンメンの綿が膨らみ切る前にとっしんです」

 

 試験官が命じると、綿が膨らみ続けているむーんに走ってくる。むーんの綿が先に完全に膨らみ切りそうではあるが、ここは念を入れてくるセルピルだ。

 

「むーん、しびれごな!」

「ムワン」

 

 プシュっとむーんの頭から黄色い粉がモココに降り注ぐと、それに当たったモココは体がしびれが回り、痙攣を起こして脚をもつれさせてしまう。その隙を狙いむーんはギガドレインでモココの体力を吸い取る。

 

「ムンムン」

 

 だんだんと、モココの体力が減ってきてなりふり構わずモココの尻尾の電球からほうでんが流れてムーンに当たるが、やはりむーんには効かない。  

 

「モココ、闇雲に放ってはだめです。シグナルビームです」

 

 試験官がモココを諭すと虫タイプ技、シグナルビームを命じた。むーんに取って致命傷になりかねない光線がモココの尻尾の電球がむーんに照準を定め、変色させて放たれようとしていた。

 

「むーん、やどりぎのタネを出して!」

 

 また、むーんの頭から小さな種がモココの尻尾のあたりに落ちると、さっそく生えてきたやどりぎのタネが伸びてきてモココの尻尾を地面に抑える。抑えられた尻尾はあらぬ方向にシグナルビームを放ち、あちこち車内に跳ね返って隣のトレーナーに当たりかけそうになるが自然消滅した。

 

「おいおい、危ないなあ!気をつけろよ!」

 

 最後の抵抗もむなしく、モココの体力はむーんの吸い取られ力尽きてしまった。

「勝者、二十二番のお客様!」

 

 

 

 勝利したセルピル。だが喜びもつかの間、今度は女性の乗務員がトレーナーポジションに入れ替わってくる。

 

「次のポケモンは二体使用したします。準備はよろしいでしょうか?」

 

 使用するポケモンの数が一体増えた。三戦ということは、次もまた一体増えるのかと思うと額から流れ出る汗が増えてくる。

 今度は両者ボールを構えて、同時にボールを地面に投げる。相手はノクタス、こっちはニチャモ、相性の面では明らかに有利だ。余裕が出たのか少し息を吸い込み吐くと、ニチャモにブレイズキックを命じた。

 

「シャモ!」

 

 高々ととんだニチャモは、あっという間に戦闘車の二階部分まで到達して足の先から炎がまとい始め、落下速度と合わさって苛烈な炎のキックが舞い降りてくる。

 

「相性が有利でもノクタスは簡単にやられませんよ。ニードルガード!」

 

 ノクタスが身を屈めると、全身から棘が伸びてくる。ニチャモが列車の半分まで降り立って来たときには、ノクタスは剣山のように守りの針で固められていた。

 ――このままでは剣山に足を突っ込んでしまう。

 

「ニチャモ!外して!」

 

 セルピルがそう叫んだものの、時すでに遅くニチャモはノクタスの棘に足を突き刺さってしまう。炎と落下速度による勢いをつけたブレイズキックの技の組み合わせが裏目に出て、ノクタスの棘が四本もニチャモの足に深々と刺さり、涙を交えてのたうち回る。

 

「ジャモー!!」

「待っててニチャモ、すみません応急治療します」

 

 棘の痛みに泣き叫ぶニチャモにセルピルは駆け寄って棘を抜く。一本、また一本と棘を抜くごとにニチャモの嘴からうめき声が上がる。棘を抜いた跡をきずぐすりを振りかける。

 

「ごめんねニチャモ、今度は近づかないようにかえんほうしゃで」

 

 傷がふさがり始めのを見てニチャモに耳打ちしてトレーナーポジションに一度戻る。再度バトルを始めると、ニチャモの嘴から火の放射が放たれるとノクタスの体に火が回り始める。

 

「しっぺがえし!」

 

 試験官が技を告げると、ノクタスは未だに伸びている棘を振り回しながらニチャモに突撃してくる。燃え尽きる前に反撃を敢行したようであるが、ニチャモは火の勢いを弱めず、かえんほうしゃを吐き続ける。

 だんだんとノクタスの体から喉元にまで炎が回り焼け焦げてきた。足の速さも緩慢になりつつある。この調子なら確実に勝てる。

 

「タクッス!」

 

 二本の腕を前に出すと、棘が一斉にミサイルのように放たれニチャモの体に何本も突き刺さる。ニチャモは呻きかえんほうしゃを止めてしまう。だが、ノクタスもすでに限界が近かったようで、全身が火に包まれ仰向けに倒れてしまう。

 試験官が黒焦げになったノクタスをボールに戻すと、別のモンスターボールを手にする。

 

「お客様、交代なさいますか? それとも続投なさいますか?」 

 

 ちらりとニチャモを見るが、腕や腹に先ほどのノクタスが最後の力を振り絞って射出した棘が未だに残っていてダメージは相当喰らっている。このまま続投すればノクタスの棘の痛みを背負ったまま戦うことになりバトルに支障が出てしまう。

 

「はい、交代します」

「ではバシャーモをしまい、また同時にポケモンをお出しください」

 

 ニチャモをボールに戻し、別のモンスターボールを手にして投げる構えをする。

 

「いきなさいゼブライカ」

「ナライ、行って!」

 

 またも相性有利。だが、先ほどのノクタス同様気を抜いてはいけないのはわかった。速攻で攻撃を仕掛けなければとある技を頭に浮かべる。

 

「じしん!」

 

 ナライが背中の羽を空中で止めると、ナライの体が地面に自重もつけて揺らす。揺らした地面が波のように波及して地面が盛り上がりゼブライカがじしんによってできた土の波にのまれてしまい弱点も相まってそのまま戦闘不能になった。

 

「お客様、まだ立ち上がらないでください、体を屈めてください。この客車はじしんにも耐えれるように設計されておりますので」

 

 外と異なり車内では隣のバトルにも影響が出るようで、揺れが収まるまでバトルは一時中止になった。さすがにこれはお咎めが来るかと思われたセルピルだったが、審判が安全確認をすると何事もなかったかのように隣のバトルが再開された。

 

「私に注意とかはないのですか?」

「ポケモンバトルですので、仕方ありません。こういうことを想定されている戦闘車ですので」

 

 それを聞いて怒られずに済んだとほっとしたが、「じしんはちょっと気をつけたほうが良いわね」とじしんを使うのは控えようと考えた。

 

 

 

 二戦目も勝利し、いよいよ最後の戦いとなった。ふと、隣を見るとすでに三戦目に入っていた。そして入れ替わりにトレーナーポジションに入ってきたのは、乗務員ではなく調理師が交代に入ってきた。

 

「最後はワタクシ、隣の食堂車のシェフがお相手いたしまショウ。使用ポケモンは三体です! ムッシュ、準備はよろしいですか?」

「はいっ!」

 

 このシェフさえ突破で切ればセロたちと同じところに行ける。だが、隣はもう三人目のトレーナーを相手にしている。早くしないと定員オーバーになるかもと焦り始める。

 

「グライオン」

「ゴトラ!」

 

 ドスンとゴトラが現れた途端にその重量で客車が少し揺れる。だが先ほどのじしんのようにバトルを一時止める事態にはならず、セルピルは安心する。

 

「グライオンつるぎのまいで包丁を研ぎ、シザークロス」

 

 グライオンは左右の鋏を交互に研ぎ澄まして鋭利にすると、空気を切る音もなく飛び回り、ゴトラの背後に回る。動きが鈍いゴトラではグライオンの動きと静粛性には対応できない、だが、空を飛ぶ相手の対戦は昨日のモミとの戦いで経験したばかりだ。

 

「――まもる!」

 

 ゴトラの体が硬化をはじめ全身が鉄の要塞のようになると、グライオンのシザークロスがゴトラの鉄の膜の表面を削るだけに終わってしまう。そのまま逃げ立つグライオンに目を向けるゴトラ、地面を持ち上げていわなだれをグライオンに向けて放つ。大小の落石が落ちる中グライオンは隙間を見つけては避け、背中に落ちる岩も一回転してはシザークロスで岩を切って逃れるばかりで当たる気配すらない。

 

「くっ、素早いわ。でも背中の岩も見切れるのはどうして……」

 

 ひらりひらりと躱すグライオンの動きを注意深く観察するセルピル。――グライオンの片方の耳がわずかに動くのが見えた。次の時には、グライオンは空中を一回転してまた背中に落ちてきた岩を交わした。

 

「そうか、耳でゴトラ、最大限に吠えて!」

「ゴドドラララ!!」

 

 ゴトラの耳を塞ぐほどの咆哮が車内に響き渡る。その咆哮は効き目がありグライオンの耳を刺激して悲鳴を上げると、ゴトラのいわなだれを喰らい。弱点の岩技とその重みでいわなだれと共に地面に落下してしまう。

 敵を倒したのは良いが、またも隣のトレーナーに迷惑をかけてしまい、ぺこぺことセルピルは謝罪をした。試合とはいえ、車内のバトルは、一々使う技や作戦にも気を使わないといけないなんてと少し理不尽を感じた。

 

 続いて繰り出したのは、赤いダルマのポケモンのダルマッカがフィールドに現れた。今度は交代せず続投をしたセルピルであるが、このダルマッカ出てきて早々小さな拳で腹のあたりをドンドコドンドコと太鼓のように叩いて自分を虐めていた。

 

「いいですよダルマッカ、はらだいこで気合を入れたらフランベでボスゴドラを調理してあげなさい。フレアドライブ」

「ママッカ!」

 

 威勢よく声を上げたダルマッカは、グルンと体を回転し始めると体に炎をまとい始めた。それは文字通りの火の車いや火のついた車輪だった。ゴトラに一直線で転がり始めてくるのを見て。ゴトラがいわなだれを落とすが小さい体のダルマッカにかすりもしない。

 

「ゴトラまもる!」

 

 それが間に合ったかどうかの瀬戸際だった。

 ダルマッカのフレアドライブがゴトラに直撃し、大きな火の手が上がっていた。ゴトラは炎技は弱点でなく、かつ最強の鉄の鎧あるとはいえ、はらだいこで攻撃を最大限にあげて炎タイプ最強技フレアドライブの直撃に耐えれるかセルピルはわからなかった。

 ようやく火の気が消え始め、両者の姿が見えてくる。

 

「ゴード、ラ。ハァハァ」

「マ、マママ」

 

 ――ゴトラは受けきっていた。ゴトラの両腕の下にはダルマッカがのびた状態で呻いていて倒されていた。はらだいこは、攻撃を最大限まで高めてくれるが体力を半分も削るハイリスクハイリターンな技、ゴトラはフレアドライブを受けきり反撃のすてみタックルをダルマッカにお見舞してやった。

 だが、ゴトラは息が上がってきた。流石のゴトラとは言え、二戦連続でしかも最大火力のフレアドライブを受け止めたとあってはもう体力が残っていなのは明らかだった。

 

「もう限界よゴトラ戻って。次のバトルで本選入り決めてやるわ」

 

 次で本選に行ける。最後は絶対に落としたくないと思いが募り、絶対にみんなに追いついてやる気持ちがあふれていた。

 

「ナライ、もう一度行って!」

「バイバニラ」

 

 相手のポケモンの名前をを聞いて一瞬息が止まった。ナライは先ほどのバトルでは一撃の先制で相手を屠りダメージは一つもない。だが、相手のバイバニラは氷タイプ――ナライに最大の大ダメージを与えることができるタイプだ。

 早く相手を倒さないとナライが倒されてしまいかねない。

 

「ナライ、もう一度じ」

 

 じしん、と言いかけたもののまだ隣はバトルをしている。また隣に迷惑をかけてしまいかねないし、この客車が本当にじしんに耐えれるか不安だった。もし仮に大丈夫だとしても車輪はどうだろうか?脱線するのではないのかと、疑心暗鬼がセルピルの中で起きていた。

 

「いや、そらをとぶで氷技から避けるのよ!」

 

 ナライが飛翔し、客車の二階部分まで上昇する。バイバニラの右側は上を見上げて呆然と見ており、左側はちょっと悔しがっているのか眉をひそめて手をパンパンと自分の体を叩いてナライを挑発している。

 

「ナライ、急降下で降りて攻撃して!その後また上昇!」

 

 翼を折りたたみ、勢いよくバイバニラにそらをとぶ攻撃を仕掛けるナライ、だが試験官であるシェフは動じることなくバイバニラに技を命じた。

 

「しろいきりで身を隠すのですヨ」

 

 バイバニラのアイスのトッピングのような串から白い霧がナライに向かって吹きつけられる。霧はドンドンセルピルの前まで広がり、バイバニラだけでなくナライがどこにいるのかさっぱり見当がつかなくなった。

 

「ナライ、ナライ!しろいきりを自分だけでなく、トレーナーとも分断させるなんて……霧の中にいたらいけないわ。もういちどそらをとぶをして!」

 

 だが、まだ霧がかかっていない二階部分にナライの姿が見えない。もう一度声を張ってナライを呼びかけようとする。

 

「二十三番のお客様突破!」

「嘘っ!?」

 

 隣の審判の宣告に気を取られてしまった時に、一瞬の隙が生まれてしまった。霧の向こうから「フリーズドライ!」という技が出てくると、一気に冷たい空気が流れ込み霧に小さな結晶のようなものがキラキラと落ちてきた。セルピルがそれを手に取ってみるとそれは、綿の城で見た雪の結晶だった。

 ようやく霧が薄くなると、そこには、体の上に氷の結晶がかき氷のように積もって、手足の一部が氷漬けになったナライの無残な姿が転がっていた。

 

「フフン、食品の鮮度を保つにはフリーズドライですヨ」

 

 勝利したバイバニラが――片方は笑顔で握手をしている。

 信じられない様子で、セルピルがナライににじり寄りその体を触るが、触れたとたんに冷たいの感覚と氷に引っ付きそうで痛いという痛覚が襲われた。その二つが合わさったと様な感覚は、セルピルが綿の城でアレスのフリージオに左腕と左足を凍らされたのとどこか似ていた。

 そして審判がシェフの方に勝利のフラッグを上げると、ただぼんやり、力なく一言呟いた。

 

「……負けた」

 

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