ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第六十五話『襲来!フリーの残党!』

 スリーパーの三白眼と黄色い鷲鼻がセルピルに向けられ、サイコキネシスを送って天井に磔にさせる。体全体を押しつぶされるようで胃の中のものが吐き出さしそうになり、喉のあたりに苦く酸っぱいものが逆流してくる。

 

「あっら、どうしてわたくしがいるのか疑問に思っていらっしゃるようですね。いいですのよ、おっしゃらずに冥途の土産に教えてあげますので。もっともその状態じゃ声を出すのも難しいでしょうに」

 

 耳障りなキンキン声がセルピルの磔された姿を仰ぎ見ながらあざけらわす様子にはらわたが煮えくり返った。しかし、見えないエスパー技に体を封じられてポケモンを出すこともできずステンノーの話を遮ることもできない。わざとらしくステンノーのつり上がった眼鏡をくいっと上げると説明が始まった。

 

「ことの始まりは綿の城にてアニヤにいたフリー本隊が壊滅したとの報告を聞いた時のことです。コンヤストリートから撤退したわたくしたちは体勢を立て直すために本隊から離れた場所に待機して無事でした。このまま迫害されることを恐れて密かにオリントに避難しようとしたのでした」

 

 ステンノーが一呼吸を置いて仰々しく腕を開いて金切り声に似た声を叫びあげる。

 

「しかし!あろうことか、本部のあるオリントまでもが背教者の手によって瓦解、壊滅!オリントもフリーを迫害するジムリーダーや四天王、トレーナーによって潰されてしまった!そしてこの壊滅の原因を作ったのは誰かと、考えました。すべては、すべてはあなたの責ですのよセルピル!!あなたがフリーと接触して以降から我々の崇高な計画は破綻続き。そしてオリントのフリーへと教化させるために送ったのにまた戻ってきた!」

 

 一方的に自分のことばかりを話すステンノーに腹が立ち、顔に力を込めて、セルピルは声を絞りだした。

 

「迫害て、ポケモンバトルをする人を虐めてたあなたたちが言う言葉?自業自得でしょ」

 

 ステンノーの眼鏡の鼻緒の部分に皺がよると、スリーパーに命令してセルピルを床に足がつくかつかないかにまで下ろすと、セルピルの頬を引っ叩いた。

 

「黙れ!フリーの教えを根絶やしにさせないためにも、あなたを生かしてはおけないのですの。鉄道員の我々の支持者に手伝ってもらって、バー車両に潜んでいた時にあなたがのこのこと現われ、部屋の番号を聞き出して睡眠薬入りのドリンクをお持ちしましたの」

 

 ヒリヒリと叩かれた頬に血がたまり赤く腫れているのを感じながら、車掌車に向かう扉を塞いでいたウェイターのことを思い出した。そうか、それでしつこく塞いで部屋の番号を聞き出そうとしていたのか。

 そのままスリーパーによって宙に浮かされたまま蛍光灯一つ灯されて通路に連れていかれると、見張りの乗務員が椅子に座ってぐったりと首を垂れている姿が月の明かりで見えた。寝息が聞こえているため生きてはいるようであったが、ステンノーの手によって眠らされたのでだろう。

 

「最後にお教えしましょう。私たち最後の目標はこの列車を人質に取りポケモンリーグを中止にさせることです。もうまもなく、あなたのお友達も捕えてあげます。御安心なさい後で一緒になりますからね」

 

 そういうと、ステンノーは客車の緊急開閉スイッチを押して扉を開けると、走行で発生する列車風の風圧がなだれ込み、セルピルのスカートが大きく捲れ上がる。サイコキネシスで手足を封じられ、スカートを抑えることもままならず辱めを受けて顔を赤らめるセルピルの様子をステンノーは銀の月明かりに照らされてテカテカとその嘲笑う姿が映された。

 そして、セルピルを扉の縁に寄せるとスリーパーのサイコキネシスが止まり、床に足を付ける。しかし、足の半分が外に出ていることに加え列車がゴトンと揺れるとバランスが崩れかけそうになる。おまけに列車風が吹き荒れ風がセルピルを外に連れ出そうとしているようでセルピルは怯えつばを飲み込む。

 

「なんと淑女として恥ずかしい姿、そんなはしたない人は……この豪華列車にふさわしくありません。降りていただきましょう!」

 

 ステンノーがセルピルの背中を押すと、セルピルの体はバランスが崩れ、列車の外に突き落とされた。

 

 外は深淵に包まれていた。列車の照明はすべて消されて沿線沿いには明かりのようなものもなく月の光も遮られていて闇が広がっていた。ただ、薄っすらとセルピルの目に細長いもののような輪郭が見え始めていた。

 近づくにつれてそれが樹木の幹だとわかったとき、セルピルは目をつぶった。

 

「ごめん、みんな」

 

 今度こそ終わったと思考も体も空っぽにした時、不思議にも体に固いものも叩きつけられた激痛も走らなかった。ただ柔らかい湿ったものがセルピルの体の下に横たわっていた。

 

「ギルダ!」

 

――さっきまでの死の予感を切り裂いたようなポケモンの声。目を開くと、青い包帯をグルグルに巻いた体とピンクの頭がそこにあった。

 

「アギルダー!?」

 

 なぜアギルダーが私を助けてくれたのかという疑問を与える暇もなく、アギルダーは長く生い茂る自然の柵を水上を滑るかのように沿線から見えるオリニア急行を一点にセルピルを巻貝のような渦巻状の頭の上に持ち上げながら駆け抜けていく。

 漆黒の闇のような木々の間をすり抜けて線路の上に上がると、遠ざかろうとしていくオリニア急行の最後尾車両の展望台から人の姿が見えていた。アギルダーは線路の片側の鉄に乗ると沿線にいたときよりもスピードが増していて、あっという間にオリニア急行に追いついた。

 

「セルピル!」

「ヘレネちゃん!?」

 

 展望台の縁から手を伸ばしていたのはヘレネだった。ヘレネの髪は列車風で前髪の部分が捲れ上がり、おでこがすべて見えて顔の皮膚も風圧で小さく波打っていたが、そんなことを気にすることなく必死にセルピルに向けて手を伸ばしていた。

 アギルダーが展望台に近づいてちょうどヘレネの手が届く所まで跳びはねた。セルピルはそれを逃さずヘレネの手を取り、同じぐらいの年なのにどこからそんな力が出ているのかと驚くほどの力で展望台に引っ張られた。

 腕の関節が外れそうなほどの力で引っ張られたがそれはほんの一瞬のことで、すぐ車両の壁に背中を叩きつけられた。背中がジンジンと痛むが、釣りで引っ張り上げられた水ポケモンの気持ちがほんのちょっぴり理解できたかもとセルピルは自分が無事であることをそう考えて気を紛らわせた。

 

「間一髪なのです」

 

 ヘレネがひと呼吸おくと腰のボールベルトからボールを取り出してアギルダーを戻す。

 

「ヘレネちゃん、変装して乗り込んでいたの?」

「いいえ、私とポルックはこの貨物車にこっそり潜伏していたのです。フリーの残党がこの列車を狙うとにらんで今夜捜索しようとしたのですが、相手の動きが早く……」

 

 ヘレネが車両の方に振り向いて、貨物車へ通じる扉を開く。貨物車は両端に天井まで到達する棚の中にトレーナーの荷物であるトランクや大きめのバッグが整然と並べられ、名札を取っ手のところにぶら下げらている。少しでも列車が大きく揺れたら荷物が落ちてしまいそうだ。

 ヘレネは早足で棚の間を通り抜けるが、足を速めた理由は荷物が原因ではないであろう。彼女の運動神経ならば荷物が落ちてきたところで素早くかわせるだろうだからだ。

 そして貨物車の奥の扉を開くと、眩い明かりが入り込んできてセルピルは目がくらんだ。

 パチパチと入ってくる光に目を慣らすとそこにはクダリとショートカット金髪が明かりで煌めているポルックの姿があった。

 

「お客様、申し訳ございまセンが、ご助力をお願いします。この先のバー車両ニフリーが陣取ってイマス」

 

 クダリが今まで絶えず保ち続けていた笑顔を崩すほどの形相に事態は深刻であることが物語っていた。バー車両へつながる連結部分にて、クダリのシビルドンがほうでんを放っているが、前に進む気配がない。

 

「連結部分の出口の前で残党が待ち構えているのです。奴ら、バリケードを連結部分に置いて出口を小さくして袋叩きにする戦法のようです」

 

 ポルックが説明した通り、連結部分の入り口が広いにもかからわず、奥に行くごとにテーブルやら椅子やらが道を狭めて向こうに出るころには人一人出れるかどうかの大きさになっている。しかもバリケードはポケモンの糸でがんじがらめに固定されていてちょっとやそっとでは壊せそうにない。

 

「ザングースで切り裂いているのですが、バリケード自体がが複雑に絡み合って崩せないのです」

「なら隙間から援護させるわ。むーんバリケードの隙間をかいくぐって援護して!」

 

 セルピルがむーんを出現させてバリケードの間を入っていく。体長が三十センチしかないむーんだからこそできる芸当だ。バリケードの隙間をくぐっていくむーんであるが、いかに小さいといえバリケードに使われた椅子の脚にむーんの体の綿が引っ掛かっては千切れると困難があった。

 バリケードを奥へ奥へと進んでいくと、むーんの体にビリッとしびれる感覚が伝わってくる。それはシビルドンのほうでんによるものだった。かなり前から伝わってきていたのだが、のんびり屋なむーんが鈍感なゆえか近いところに来てようやく感じ取れたのだ。

 むーんが目を凝らすと、バリケードの奥でガーゲイルとモルフォンの二体がシビルドンの行く手を阻んでいるのが見えた。むーんは狙いをすましてやどりぎのタネを放出させて、二匹に植え付けると、さっそく種が芽を吹いて羽に絡みつき二体を墜落させる。

 二体への猛攻が止んだことでシビルドンがバー車両に進入でき、続いてクダリやヘレネたちがあとからやってくる。

 セルピルが、むーんをバリケードの隙間から回収すると、クダリがフリーの団員に険しい形相で睨みつけた。

 

「緊急時以外デ列車のダイヤを乱させはしまセン!シビルドン、最大出力でほうでんデス」

 

 シビルドンの体が黄色く変化すると、あたりに電気が飛び散った。飛び散った電気は地面に、団員に、天井にへと当たり設置されていた蛍光灯が電圧に耐えきれず割れてガラスが散るとの惨状を見せ、クダリの怒りを現しているかのようであった。

 

 

 

 二等車に入ると、幾人かの二等車のトレーナーがフリーの団員と交戦していた。フリーの団員の数は三人とトレーナーの数に対して多くなく、フリーの残党がそこまで多くないことがわかった。

 だが、戦っているトレーナーの数は二人と圧倒的に少なく。その中にはハリカの姿があった。ハリカのロズレイドがあまいかおりで団員たちを油断させて倒していく。

 

「車掌さん……のほかにぞろぞろといるわね。そしてどうして一等車にいるはずのセルピルちゃんが後ろから来ているのかしら」

「話すと長いのでこいつらのせいとだけ言っておきます。二等車にいる他のトレーナーさんたちはどうして出てこないのですか?」

 

 ハリカが切れ長な目でロズレイドに倒されたフリーの団員を蔑んだ目で見る。

 

「こいつらが二等車に眠り粉のようなものをまき散らしたのよ。幸い、私は起きていたから同室の人も眠らずに済んだわ。他の二等車の奴はみんなまだ夢の中よ。まったく、こんな時にまだ寝ているだなんてゴーストに悪夢でも見てうなされていればいいわ」

 

 フリーのせいで起きるにも起きられないということにそれは言い過ぎはと内心思ったが、フリーを倒している功労者に口には出さなかった。

 グランと客車が大きく揺れた。セルピルが不意に窓の外を見ると明らかに景色がゆっくりと移っていき、列車の速度が落ちているのが判別できた。フリーと戦っていた全員も列車の異常事態に気付いた様で、クダリが通信機を取り出してどこかに連絡していた。

 しばらくすると、クダリがまるでカゴの実を齧ったかのように渋い顔をして白の乗務員帽を被りなおした。

 

「一号車のノボリから事情が分かりマシタ。フリーが少年を人質にして一号車との連結部分を外しマシタ。応援自体は、すでに本部から要請を出しているのですが、まだその少年が人質のままト」

 

 少年と言う言葉を聞いて、セルピルは即座に緊急開閉スイッチを押して扉を開けた。

 セロだ。ステンノーが「あなたのお友達も捕えてあげます」と言ったから間違いない。そしてその後の処遇もきっと私と同じことをするであろうと。さっきより弱まってはいるが未だ列車風が吹きすさぶ車外にセルピルはナライを呼び出してその背中に乗る。

 セルピルの突飛な行動にハリカが叫んだ。

 

「セルピル!?どこに行くの!」

「セロがフリーに人質にされているの!このままじゃ二号車に間に合わないから飛んで助けに行くの!」

 

 ナライの二枚の羽が銀色の輝きに灯されながら大きく羽ばたく。すると、半開きにしか開かない列車の窓からモンスターボールが覗き出てそこからアギルダーが線路の砂利の上に参上する。そして窓の隙間からヘレネとポルックが顔を出す。

 

「アギルダーを応援につけるです」

「必ずセロを助けるのですよ!こっちも後から追いつきますので」

「二人ともありがとう!」

 

 ナライが列車の屋根まで上昇すると、羽を折りたたみ飛行機のように滑空する。半円形の屋根と架線が一本の太い線のように見えるほどの速さで飛び続けていると、太い線が途中で切れ二本の鉄の線が広がっていた。動力がなくなり慣性で動いていたためナライの飛行速度よりも遅くなり、勢いあまって列車を追い越してしまった。

 旋回して元に戻ろうとすると、二号車の扉が開いているのが見えた。そして真っ黒な長方形の中からセルピルと同じようにスリーパーがセロをサイコキネシスで手足を十字に縛って出てきた。

 

「離せ!セルピルをどこにやったの!」

「ええもうすぐ合わせてあげますよ。けど彼女の肉体はとっくに後ろの方に転がっていますけど……ね!」

 

 ステンノーがセロを列車から突き落とし、セロの体が落ちていく。

 ナライが翼を折って急降下して列車の車輪際にまで降下を始める。何度も慣れない急降下でセルピルであるが、嫌だなんて言葉は浮かんでいなかった。ただ、助けたい、間に合え!ということしか頭になかった。

 やや行き過ぎたのか、セロの体はセルピルの背中で受け止めてしまい、落下と体重の重みがのしかかった。だが重いという言葉より先に「大丈夫セロ!」というのが口に出た。

 

「セルピル、助かったんだね!ナライもありがとう!」

 

 背中越しにセロがギュッとセルピルに抱擁する。こんな時でさえもやっぱりセロはセロだとセルピルは彼のことを理解させられた。

 

 

 

 だがそれを快く思っていない輩がいた。

 

「おのれ、生きていたのですね~!?スリーパー、わたくしを屋根に上げなさい!」

 

 スリーパーがサイコキネシスでステンノーを屋根に上げると、ステンノーは二体のポケモンを屋根の上に繰り出す。

 

「ムウマージ、ブラッキーあいつらを仕留めるのです!」

 

 ムウマージが陰に潜むと、ナライの下にできていた月の影から目が開き、ゴーストダイブでナライを突き落とす。ナライはゴーストダイブの攻撃で体勢が崩れて屋根の上に不時着する。

 ほかの団員もステンノーに加勢しようと自力で屋根の上に上がろうとした時、アギルダーが毒液を客車の扉横に吹きかけて茶色の外壁を溶解させて塗装の下の鉄の部分を露出させた。

 

「ギルダ!」

 

 アギルダーが取り残された団員と戦っている間に、屋根の上での攻防は続いていた。

 セロがダっちをブラッキーに差し向け、かわらわりを込めた手刀を振り下ろす。すると、月が雲に隠れて一瞬闇が広がったとき、ダっちに手ごたえがなかった。雲が通り過ぎるとそこにはムウマージがブラッキーの代わりに前に出て攻撃を受けていた。無論、ゴーストタイプに格闘技は効果はない。

 

「ムウマージはナライが相手させるわ。ナライ、かみくだく!」

 

 ナライは首を伸ばして前に出ていたムウマージに四本の牙を噛みつかせる。だが、その攻撃はブラッキーが代わりに受けてムウマージへのダメージを阻害した。そしてブラッキーの黄色に光る月の紋様が月の光にさらされて輝くと、かみくだくでできた四つの傷が治っていく。

 

「つきのひかりですのよ!」

「もぅ、前に出たり後ろに出たりと。まるでディグダ叩きだよ」

 

 人質も解放され、追い詰められているはずのステンノーが未だに抵抗するのにセルピルは疑問を持った。先ほど扉の奥から見えた団員の数はステンノーと合わせても三人しかいなかった。セロが人質にされたとはいえ一号車にはあのノボリがいるから数の面で少なすぎる。見張りもそれぞれの車両に裂いているから綱渡りにもほどがある。

 もうフリーも壊滅して助けも来ないはずなのに、どうしてそこまでしてフリーの企みを継続しようとしているのか理解できなかった。

 

「もうフリーはお終いよ!さんざん人やポケモンを虐めていたことが知れ渡ったのに、どうしてまだそんなことができるの!」

「そんなの決まっておりますわ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 理解できないわけである。信仰のために不利有利も公序良俗も鑑みない()()()であるからだ。

 雲がまたムウマージがまた影の中に隠れ姿を消した。二人と二匹が辺りを見回してムウマージがどこに潜んでいるか探すが、見つからない。

 

「シャドーボール!」

 

 セルピルの背後から黒の塊が放たれ、セルピルに襲い掛かる。セロがセルピルに飛びついて寸でのところでかわすことができたが、狙いはポケモンだけでなくトレーナーにも向けられていた。

 

「もう一度シャドーボールであの二人に鉄槌を!」

 

 ステンノーがまたも二人に向けてシャドーボールを撃つようにムウマージに命令する。そしてムウマージが再び影の中に沈み始める。

 途端に列車の明かりが灯され、眩しさにムウマージがたまらず影から飛び出す。列車の窓の外からハリカの声が聞こえてくる。

 

「セルピル!電気をつけたわ!今のうちに」

「はい!ナライ、かみくだく!」

「ダっち、ブラッキーにかわらわりだ!」

 

 隙ができたのを見計らってナライがムウマージに噛みつきダメージを与える。これが急所に当たり、ムウマージは屋根に伏し、もうブラッキーの身代わりができなくなった

 同時にダっちの手刀がブラッキーに刺さり、手を返して下段からブラッキーの腹を刺して吹き飛ばしてステンノーの上に覆いかぶさり下敷きになった。ステンノーがブラッキーを労ることもなくブラッキー押し退けて這い出ると、歯ぎしりさせながらセルピルたちにキッと鋭い目線を送った。

 

「まだ……終わってはいませんのよ。スリーパー、サイコキネシス!」

 

 車内にまだ残っていたスリーパーがサイコキネシスで線路の分岐が変更された。変更された数百メートルには車止めと小盛の砂利が置かれていた。慣性で動いているとはいえ、いまだに速度があるこの列車では脱線するのが目に見えていた。

 

「ヨっち、ダっち!列車を止めて!」

「ナライも!」

 

 セロがヨっちを呼び出し、先に出ていた二匹と共に客車を押して勢いを殺す。後方からギィーと金属がこすれる音が響く、車掌車のブレーキが作動した音だ。だがそれでも勢いは止まらず車止めまで二百メートルを切っていた。

 

「このままじゃ間に合わないわ。大きなクッションがあればいいんだけど」

 

 すると、セロが「クッション」とつぶやきポンっと手を叩き、屋根から身を乗り出して車内に向かって伝えた。

 

「僕の部屋からバッグを持ってきて!」

 

 セロの呼びかけから一分とたたないうちに、ポルックがセロのバッグを携えて屋根の上に乗り上げ、ヘレネがステンノーを押さえつけて拘束した。

 

「持ってきたですよ。ホラ」

「大人しくするのです」

 

 切羽詰まっている状況なのかありがとうの言葉もなくセロがバッグを奪い取る。

 

「セルピル、むーんを出して」

「うん」

 

 言われるがまま、むーんをボールから出すと、セロは太陽のような形をした赤い石を出してむーんにかざした。それは、スヨルタウンの大会でセロが準優勝して獲得したたいようの石だった。

 たいようの石は赫々(かっかく)と本当の太陽のがそこにあるかのように発光してむーんを包み込んだ。その輝きが収まると、むーんの姿は今までの綿そのものとは異なり緑の体と手足が生えて羊のような妖精のようで、特徴であった綿は背中に背負うようになっていた。

 

「よし、むーん。おっきい綿のクッションをだして」

 

 だが、イメージができていないのか腕を組んで首を傾けて悩んでいた。そこにセルピルが「コットンガードを出して列車を止めるの」と助け船を出して、むーんは理解して背中の綿を膨らませて列車の前に飛び降りた。

 むーんの背中の綿はモンメンの時よりも何倍に膨れ上がり、列車の正面をあっという間に包み込んだ。そしてむーんの綿が車止めに当たると、それをも包み込みポケモンも列車も包み込んでしまった。

 グンっと客車が一回揺れる。列車は脱線せずに済んだようで、二人がポケモンたちがどうなったかを確かめに前を覗くと、綿の中からナライやダっちたちが無事だという鳴き声を上げていたのが聞こえ肩をなでおろした。

 

「良くむーんを進化させることを思いついたわね」

「むーんの綿ならと最初考えてたんだけど、普段出している綿じゃ足りないから進化させたら増えるんじゃないかって。それにいつかセルピルに渡そうと思ってたんだあの石」

 

 

 

 本来走る線路の方から早暁(そうぎょう)が見えてくる。夜が明けるほどフリーとの戦いに没頭していたことがうかがえる。そしてその方角から一両の客車と共にバックで戻ってくるオリニア急行の機関車が見えてきた。

 

「これでフリーの残党は捕まえられ、我々の贖罪の準備ができました」

「しょくざい?料理でもふるまってくれるの?」

「贖罪です。罪を悔い改めることです。列車が中央都市に到着したら……我々もフリーと一緒に檻の中に入るのです」

 

 どうして!と二人は詰め寄った。

 

「そ、そんな!だって二人はフリーを倒すのに協力してくれたじゃない!」

「そうだよ。二人が逮捕されるなんて、僕たちが絶対に止めて」

 

 だが二人は首を振ってそうではないと答える。

 

「自首するのですよ。我々は裏の仕事をしてきましたから叩けば埃がわんさか出てきますです」

「言いましたよ贖罪と。フリーに属してポケモンや人々に迷惑で済むほどのことをしてきたのですから。それに、あなたたちは我々より年下の子供なのですよ大人が逮捕しないでと聞いてくれると思いますか?犯罪者を目の前にして」

 

 改めて、二人は双子がフリーの人間であったという無情な事実を思い知らされた。そして今ほど自分が子供であるということを恨めしく思うことはなかった。

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