夏を思わせるほどの暑い天気の日、カフェテリアの屋外テラスにある丸テーブルにてセルピルの対面にアレクサンダーとテオドールが座っていた。『第二ステージは二日後』と告げられて今日は試合もなくセルピルたち選手はゆっくり羽を休める日であったが、セロの一声で予定が変わった。
そして今の状況を作った張本人であるセロは、鼻歌交じりにトレイの上にチョコフラペチーノを乗せてセルピルたちのいる席にやってきた。
「セロ、なんで俺たち四人を集めたんだ? 俺とお前とだけならともかくなんでライバルであるこいつらも一緒なんだよ」
「親睦会だよ親睦会」
「親睦会?」
セルピルがオウム返しで返すと、セロが「うん」と首を振ると、席に座り一口フラペチーノを吸うとアイスクリーム頭痛が起きて、こめかみを手で抑えた。
「キーンって来た。そうそう、集めたのはみんながどんな人なのかおしゃべりしたかったからなの。だって、僕らセルピルの友達で、テオドールもセルピルの友達、でアレクサンダーもセルピルの昔の友達。つまり僕も二人の友達の友達ってことで」
「なんだそりゃ」
「昔の友達……か」
アレクサンダーはポツリとそう呟きながらストローでドリンクを吸い込んだ。
「確かにこうやって直接話すことは初めてよね。セロにはアレクサンダーのことは話したけど、テオドールのことは話してなかったし。二人にはいろいろとオリント地方でお世話になったし」
「まあお互いのことを知るという意味では道理にかなっているが、つか何をするんだ? バトルは出場者は敗退した人以外は禁止されているし。作戦会議でもすんのか?」
ポケモンリーグでの規定によって、バトルは禁止されていたがテオドールが言ったように作戦会議などのバトルに直接関与しない事柄なら許容範囲ないであるのだ。この休息日も二つの地方の出身のトレーナーのことを知るために設けられたという側面が大きい。
だがセロはぶんぶんと首を振って否定する。
「そういうんじゃないよ。せっかくの休みだから、どこか遊びに行ったりとかしようよ。せっかくこんな大きい街に来ているのに、どこも遊びに行かないなんてもったいないよ」
セロの意見にセルピルも同意だった。たしかに、この街というかデミルシティからはフリーのせいで全然遊びとかに行ってなかった。ずっとバトル続きでストレスも溜まっているし、セロの言う通り思いっきりはねやすめしたいと心の中で思っていた。
「いい考えね。モールとかでショッピングとか。あ、でもお金が心配かも」
「……温泉とか」
「遊園地とか。あ~でも全部回れるところあるかな」
「遊園地ってお前ら小学生かよ」
「「「小学生だよ!!」」」
三人が同時に一斉に訴えたことに、テオドールはひるみ小さく「そうか悪かった」と苦し紛れに先ほどのアレクサンダーと同じようにドリンクをちゅるちゅると吸う。
セルピルが中央都市の地図を広げてみんなが行きたい場所を探していく。セルピルたちがいるカフェテリアは、本会場である大聖堂があるオリント側の陸地。一方セルピルとセロが宿泊している選手用のホテルがあるのは、ここから海峡を挟んで向こう側アニヤ側の陸地だ。こうしてみると中央都市は、二つの大陸をつないでいるだけでなく二つの地方をもつないでいるように見える。
「遊園地はなさそうだね。デパートとかはいろいろあるけど」
「う~ん、公共施設は選手特権で無料だけど、さすがに買い物は割引はないよね」
「ね、ねえここ。温水プールがあるよ近くにコンビニとかあるし」
アレクサンダーが地図に指さすと、中央ドームよりは小さいがなかなかの規模の大きさのドームがあった。セルピルは温泉には以前入ったことはあるが、あの時はステンノーのせいでじっくりと浸かることができなかったので今度こそはゆっくり出来そうと思いをはせた。
「トラムで十五分か。そんなに遠くないな」
「じゃあここに行こうよ。けってーい!」
セロの意見に皆が同意した時、タイミングよくカフェテリアの前を通るトラムが滑り込んできた。それを見てセロが一気にドリンクを吸い込んで紙コップの中を空にすると垣根を飛び越えて先に駅へと走っていく。
「ほら早く、早く電車出ちゃうよ」
「急かすな。バトルでも俺と歩調合せろよ、出ないと四天王戦と準決勝で足すくわれるぞ」
置いてけぼりにされて三人もセロの後を追いかけて、トラムに乗り込んだ。
二度目トラムは空いていた。四人が一度に座れるほどの座席が確保できるほどであった。しかし、市街地の中を走っているため周りの車と足並みを合わせなければならないため、少し速度が上がったと思ったら急に減速するという具合にトロトロと走っている。
本当に十五分で着くのか怪しいとセルピルは思ったが、このトラムもリーグ挑戦者による特権で無料で乗れるのだから文句は言わなかった。隣に座っているセロの方はというと、こういうのに乗ったことがないからかもの珍しく感じているようで、しきりに中央都市の街並みを窓から見たりこじんまりとした車内をキョロキョロ見ている。
「あんま物珍しい顔すんなよ、田舎者かと思われるぞ」
「自慢じゃないけど、ラーレタウンは漁村の田舎町なので僕は田舎者だよ」
「それって私も田舎者っていうわけ? 同じラーレタウン出身として」
私の質問に対してセロはあははと笑って誤魔化した。
「ねえ、準決勝で足をすくわれるってどういうこと? たしか四天王戦は片方のパートナーが四天王の一人に対して挑む三対三のシングルバトルのはずよ」
「セルピルお前、ちゃんと試合の内容を読み込んだのか? まあ確かにあれは変則的すぎるけどな。シングルバトルなのは確かだ。けどもし四天王のポケモン三体倒しきったら、次の四天王のポケモンと一体バトルできるんだ」
テオドールの言わんとすることがようやく理解できた。もし全部倒しきれて、次のポケモンも倒せたらパートナーの負担が減り試合を優位に進めるということだ。
四天王戦はポイント制という方式が採られている。四天王一人勝てば三ポイント、引き分ければ一、負けたらなし。加えてトレーナー側には二試合で六ポイント、パートナーと合わせて十二ポイントが初めから付与されてあり、倒された自分のポケモンの数が多ければポイントが減るという仕組みだ。仮にすべてのポケモンを失わずかつ四天王すべてに勝利したときの総ポイント数は二十四ポイントと言う具合だ。
「それに準決勝が、四天王戦で勝ち取ったポイントの多かった二チーム同士でのダブルバトルになるんだ。そして決勝は……」
セルピルの左側に座っているアレクサンダーが加えて説明したが、決勝の部分でまた声が小さくなった。
どうしたんだろうとセルピルは疑問に思った。オリント山では多少なりとも元気はあったのに、今のアレクサンダーは委縮しっぱなし。それに私の顔もあんまり見てこないし。
ガタンとトラムが大きく揺れる。バスの簡易停車場のような細長い石の上からはみ出るほどの長蛇の列をつくっていた人たちがぞろぞろとトラムに乗り込み、空いていた席をブロック崩しのように空間を埋めていく。
人が増えたことで隙間をつくろうと左右から人が寄せ合ってきて、その波の飲まれる形でセルピルもアレクサンダーの方に寄せていく。そしてトラムが動き出した反動でアレクサンダーの体がセルピルのいる方に倒れてきた。窮屈になった座席に辟易しながら体を起き戻すが、アレクサンダーは謝りもせず耳が真っ赤に染まっていくのが見えていた。
もうなんなのよ一体。さっきから黙って。
トラムが温水プールのあル最寄りの駅に着き、道なりにちょっと歩くと地図で見たように半円上の天蓋で覆われた建物が見えた。プールの入り口で四人はそれぞれ入場料千円とレンタル水着代を支払うと右が男性、左が女性と青と赤で色付けされて書かれた看板が張り付けられていた。その下に『ポケモンを連れ歩くことができるのは一匹まで』や『当プールでは水が苦手なポケモンが入れるスペースはご用意されておりませんので、事故防止のため水が苦手なポケモンは預けておいてください』という注意書きがあった。
「ここ水が苦手なポケモンはダメなのね。エシリタウンはそれ用の場所があったのに」
「へー、エシリタウンって水がだめなポケモンでも入れる温泉あったんだ」
「セロは入らなかったの?」
「あの時は、急いでポケモンリーグに行きたい一心だったから温泉に入る暇もなくて」
そうかあの時フリーのせいで交通がぐちゃぐちゃになって時間の余裕がなかったからゆっくりする暇もなかったんだ。
「オリントにもそういうところないもんな。やっぱ温泉が多いアニヤだからこそだからか」
「そうかもね」
オリント出身の二人もそういう施設はなかったと供述する。セルピルはエシリタウンでバトルを止めるように叫んでいたオリント人のことを思い出した。あの人も水が苦手なポケモンのためにわざわざアニヤに来たのかな。半国交断絶状態なのにわざわざアニヤに来たのを楽しみにしていたのかもしれない。
男子三人と別れて更衣室で、荷物をロッカーに入れてレンタルした水着に着替えようとする。水着はレンタル品だからかデザインはあまりよくなくスクール水着のようで好みじゃない。不満はあるがこれしかないため水着を足から入れて、肩紐をひっかける。すると体が水着で少し引き締まるような感覚が伝わってくる。
「ん?ちょっとキツイかな。けど去年はこのサイズですんなり入れたはずなのに、ここの水着が合わないからかな」
「成長期だからじゃないの?」
昨日聞いたばかりの声がロッカーの脇からあり、隣を覗くと長い栗毛の髪を後ろで一つに結んで、赤ビキニに腰にパレオを巻いてと明らかに借り物でない水着姿のハリカが隣のロッカールームにいた。
「ハリカさんも来ていたんですか?」
「昨日であなたに負けちゃったから、やることないのよ。ここから出られないし、来年の大会までまだ一年あるから今の大会が終わるまで間、観光とバカンスでもして思う存分遊ぶ予定よ」
ハリカも初戦で敗退したスレイマンと同じように大会が終わるまで中央都市から出られないということを思い出し、ああそうかと手のひらの上でポンっと叩いた。
「まだあなたはツルペタの子供と変わんないからいいけど、この先きついわよ子供用の下着とか水着とか全然体に合わなくなるから」
始めの子供という言葉にカチンときたが、後半のアドバイスを聞いてすうっと頭がそっちの方向に切り替わった。確かに旅に出る前よりも下着の丈が合わなくなっていた。最近胸のあたりが少し引きつったような痛みが起きるようになりハリカの言う通りかもしれないと感じた。
もし自分が成長したらどうなるんだろうと想像してみるが、セルピルの将来図を全然想像もできなく参考に目の前の人を観察してみる。肩や脚に至るまでふっくら焼きたてのパンのように丸く、指の先が細い。一方顔は縦長で丸くない。人もポケモンのように全く別の姿になるのかなと思ったが、イワンのことを鑑みるとそうでもないかもしれない。答えが見つからない。
じっと体を見つめられていたハリカは同じ女性と言えども恥ずかしくなったようで、手でセルピルの顔を隠して自分の体の観察を止めさせる。
「私のようになるにはまだ八年早いわよ」
「進化するのに八年もかかるのか」
「は?」
セルピルの意図を理解できずハリカは小首を傾けた。
ようやく着替えを済ませ、ゴトラを引き連れてプールの入り口へと入っていく。中は意外と広く目の前の流れるプールでは、ランターンやテッポウオなどの水ポケモンと人が歓喜の声を上げながら流れていき、遠くにはうねうねとハブネークの姿をあしらったウォータースライダーがドームの天井付近にまで届いてあると他にも遊具施設が充実していた。
「セルピル遅いよ」
「まったく女の着替えは遅いんだから」
「あ……ん」
セルピルを待っていた男三人組が、体育座りしてセルピルを待っていた。すると、テオドールの傍にいたトゲキッスが地面すれすれで飛び出してセルピルの周りをグルグル回りはじめた。
「もしかして、オリント山のトレーナースクールにいたトゲキッス?」
「キッス」
思い出してくれたことにトゲキッスは嬉しくなってセルピルに抱き着く。見た目よりも意外と重く危うく倒れかけたが、後ろにいたゴトラが受け止めて大事には至らなかった。
「母さんからポケモンリーグのために送ってくれたんだ。うちのスクールに来たと言ってたから、こいつの世話になっていたかもと連れてきたが正解だったな」
「ありがとうねテオドール。そういえば、セロとアレクサンダーのポケモンは?」
「僕はダッチを連れてきていたんだけど、向こうの泡の出る温水プールが気に入ったみたいで」
プールサイド脇にある円形の他のプールとは異なり濃い緑のお湯に気泡がブクブクと泡立つ湯の中で、ダッチがおっさんのように腕を広げ、壁に背中をもたれてリラックスしていた。ゴトラもそれを見て、ドスドスとダッチのいる温水プールに近づきザブンとお湯の滝を放出させてゴトラも入浴した。その際、お湯を半分ほど減らし、他の入浴者とポケモンをずぶ濡れにしてしまった。
ではアレクサンダーの手持ちのポケモンはというと「いない」とだけ告げた。
「相手に手持ちのポケモンを見せるのは、バトルに支障が出るから」
連れてくるのは義務ではないが、カフェでセロがバトル抜きでと言ってたのを忘れているのだろうかとあまりのバトル至上主義に小腹が立った。
「ほら、ここで立っているのはもったいないよ。あそこのハブネークスライダーに行こう!」
セロが先頭に立って先に進み行く。セロの行動力の早さにアレクサンダーは少し戸惑いを見せていたが、彼の行動の早さには慣れているセルピルは慣れた様子でセロの後をついて行く。だが、テオドールは三人の後をついてこなかった。
「俺パス」
「なんで?」
「……高いのは苦手なんだ」
年上の癖にとセルピルは内心呆れたが、自分を救ってくれた恩人かつ年上の友人にそれを言う勇気はなかった。
「キャー!」
「次の方どうぞ」
悲鳴上げながらハブネークの顔をあしらった入り口の中に流れ込んでいうのを見送って、係員がアレクサンダーを呼ぶ。だがアレクサンダーは膝がガクついて行くのをためらっていた。無理もないこのウォータースライダー実際に登ってみると以外と高く、セルピルがちょっと下を見ただけで足がすくんでしまうほどだ。
小心者であるアレクサンダーでなくても、ためらってしまうのは当然のことかもしれない。しかし、いつまでも留まっていては後ろのお客に迷惑なるのはセルピルでもわかっていたが、無理意地はできないとアレクサンダーに声をかけようとした。
「大丈夫だって、僕も一緒に滑るから」
「い、いやでもすっごく高いし。僕ポケモンじゃないし」
「滑ったらすっごく面白いかもしれないじゃん。ほらほら」
セロに押される形で二人一緒にハブネークの口の前に入り、係員の助力もあって二人が滑っていく。
「ああっー!!」
「ひゃっほー!!」
アレクサンダーの悲鳴とセロの楽しむ声を残しながら姿が見えなくなった。
少ししてセルピルも、同じようにやや仰向けになった状態で口の前に座ると、係員が背中を押した。
「きゃー!!」
半透明のチューブの中をセルピルは滑り落ちていく。右に曲がったと思ったら左にとまるでジェットコースターに乗ったように怖くて楽しい気分だった。すこし背中を倒すと、今度は水流の流れに沿って横にスライドしてチューブの側面を滑走した。
「あはは。たのしいー!」
調子に乗って一本の棒のように完全に仰向け状態になると、抵抗をなくした水流が一気にセルピルを運び出して速度を上げる。突然速度が上がり最初は面白くなってきたと感じたセルピルだが、奥の方から光が入ってきて出口が見えた時このままいくと危険だということに気付いたときには遅かった。
ポンっと勢いのまま外に出たセルピルは、水切りの石のように水面を跳躍していく。どうしようと考える暇もなくなにか柔らかいものに激突してしまった。
「ホエ?」
ボヨンと柔らかくしっかりとした弾力があるクッションがセルピルを包んでくれた。クッションの正体はホエルコのボディーであった。
「あはは。セルピル、すっごい滑ってたよ」
「ホエルコがいてよかった」
セルピルの無事を確認に来た二人がセルピルを心配しつつ、セロは笑いごととして、アレクサンダーは安心した表情を見せていた。
少しひやひやしたセルピルは、プールサイドに上がって少し休憩するためテオドールの所へと歩く。
「ほんとあんなところでよく遊べるなお前」
「高いところだめならそらをとぶもできないんじゃないの?」
「うん。無理、ほんと足に地面ついてないとだめなんだ」
遠い目でドームの方を見つめるテオドール。おそらくアレクサンダーとは異なり、本当に高いところはダメなんだろうなと察した。
「おや、セルピルじゃないですか」
「列車以来ですね」
同じような口調の声で、セルピルを呼んだのはポルックとヘレネだった。二人は男女の貸し水着を着ていて、肩に同じ貸しタオルをぶら下げていた。
「二人も来ていたのね。今日は何かの潜入?それとも調査?」
「こんなバレバレな格好で潜入などするものですか」
「休暇です休暇。新しいボスの護衛という暇な任務を勤めて、やっとのことでもらえた休暇なのですよ」
「知り合いか?」
「まあそんなとこ」
まさか、元フリーにいたとはさすがにこんな人の多い場所では言えないのであえてはぐらかすような紹介をした。
「これでも年上のなのです。敬うのです」
「十三歳なのですよ」
「俺は十五だけど。なら俺の方がもっと敬うべきじゃないのか?二歳も年上だし」
この中では最年長であるテオドール
「年上……ふ、ふん。我々は大人なのです。自分で金を稼ぐ立派な大人なのです」
「そうなのです。高給取りなのですよこれでも」
「ほーん。なら大人なら ほら大人買いとか立派な大人ならできるだろ」
大人という言葉に琴線が触れたのか、ズイッと二人がテオドールの前に
「もちのろんです」
「お前ら二人や三人の昼飯ぐらいおごれる余裕はあるのですよ」
「やったぜ。セルピル、あの二人も呼んでくれ昼飯がただになったって」
まさか二人をやり込めて昼食をおごらせるとはと驚きあきれて声も出なかった。
プールから出ると、外は建物の明かりが一面に照らされて夜の街を輝かせていた。煌々と川沿いに光る夜の中央都市の風景を眺めながら、セルピルらが泊っているホテル近く行のバスが来るまでおしゃべりをしていた。
「今日は楽しかったね」
「意外と楽しめたな」
「私女同士以外で遊びに行ったの初めてだったわ」
自分で言うのもなんであるがと心の中で思うが、確かに今まで女子同士でしか遊んだことはなかった。しかも場所はいつもブッスシティかラーレタウンのどちらかで、思いっきり外で遊びまわることを親に禁止されていたこともあってか、ショッピングだったり喫茶店に入ってデザートを食べておしゃべりするとかしか記憶になかった。
もし旅をしていなかったらこんな風に、男の子と一緒に走って泳いでということはなかっただろう。ふと旅の始まりにセロに呼び止められたのを思い出した。あれから私の旅が変わったかもしれない。もしセロがたまたま十三番道路にいなければ心淋しい旅になってたかもしれない。セロとの関係もただのクラスメイトになっていた。セロとはもう友達に、ううんそれでは言い表せない旅の仲間でもたりない大事な人になっていた。
ちょっと視線をセロに向けると、なぜかぶぅっと膨れていた。
「僕は?ねえ僕は?一緒にジム戦勝利祝いにバーガーショップ行ったりとか、遺跡を見に行ったりとか。あれノーカウント?」
「あ~ごめんごめん」
セルピルが不機嫌なセロを宥めさせている。相変わらずこういう部分は子供な面があるセロだなと思うセルピル。
「セルピル!セロ!」
街灯が照らすアスファルトを一人の白衣を羽織った女性がセルピルとセロの名前を呼んだ。その女性の顔が街灯の光に映し出されると、呼ばれた二人は同じに叫んだ。
「「ミュケーナ博士!」」
「ごめんなさいね、こっちでの仕事がいろいろと入って全然試合を見れなかったの。たまたま歩いてたら偶然にね。そちらの二人は?」
「テオドールとアレクサンダー。私の恩人で」
「セルピルの友達で、セルピルは僕の友達だから、僕と二人はえ~っと。僕の友達でもあります」
「名前からして二人はオリント人ね。ここの街の名前にぴったりね」
「どういうことだ?」
テオドールの質問に博士は答える。
「中央都市の正式名称がフィリヤ・ドスルックシティて言うの。これは両地方の同じ意味の方言である『友情』とうことなの。今は半国交断絶状態の二つの地方だけど、ここだけはその垣根を超えた友情で結ばれるようにという願いを込めてつけられたの。そしてここに四人のアニヤとオリントの出身の子供たちがそれを実現した証明よ」
思い返してみると、奇妙な出来事でつながった友情だなとセルピルは思った。そして博士の説明が終わったとちょうど良いタイミングでアニヤ側行のバスがバス停にやってきた。
「じゃあねみんな。まあ明日」
セロが先に乗車したのを皮切りにセルピルもステップを踏み乗り込む。
「セルピル、本当に僕と戦うの?」
「え?」
ようやくアレクサンダーがセルピルに対して口を開いた。バスのほんのりと薄暗い照明に照らされたアレクサンダーは、今までのおどおどとしたものでも、バトルの時のような冷たい機械のようなものでもない、真剣な表情でセルピルを見ていた。
「四天王戦、準決勝を勝ち進んだチームは決勝でお互いと戦うんだよ。もしかしたら僕たち決勝戦で戦うことになるんだよ。本当に、本当に友達の僕と戦うの?」
決勝で戦う。すなわちこの旅の目的であるアレクサンダーとの挑戦をするということだ。セルピル自身はその覚悟はある。そのためにここまで来たんだから当たり前ではあった。しかしそんなまだ確定していないことを話されてもと同時に思っていた。
「そうなるかどうかは、明日とあさっての結果次第じゃない。それまでに勝たないと何もならないわよ」
アレクサンダーの返事が来る前にバスの扉が閉じ、静かに二人を橋の向こう側へと運んでいく。
アニヤ側の選手用ホテルに戻ってきた二人。
明日に備えて早く寝るように部屋につながるエレベーターのボタンを押そうとすると、カウンターにいるフロントが二人を呼び止めた。
「セルピルさんとセロさん。お二人にビデオメッセージが届いております。それとセルピルさんにはこちらを」
フロントが二つの封筒を差し出す。片方は正方形状に、もう片方は横に長い長方形で差出人にはセルピルの母親の名前が書かれていた。また何かお小言がぎっしりと詰まった手紙でも入っているのではないかと手紙を開くのをためらうセルピルであったが、捨てるとまたあとで何か言われるのを恐れて封を開ける。
そこは五と零が四つ書かれた細長い紙きれと一通の手紙が入っていた。
『セルピルへ、先にポケモンリーグ出場おめでとう。ミノアさんから色々と話してもらったけど、お母さんはまだ許していないからね。お説教はセルピルが家に帰ってからすることにします。もう一つ、すでにイワンを餞別に出したけどお金足りなくなるころだと思うから小切手を送っておくからね。大事に使うんだよ 母より』
改めて小切手を見ると、五万円もの大金が記載されていることにセルピルは目が飛び出そうになった。この紙切れが五万円。五枚の万札がこの一枚に集約されていると思うとセルピルの手が震えてきた。
興奮冷めやらぬセルピルの代わりにセロがビデオメッセージを受け取った。そっちには『学校一同より』と差出人の名前があった。
「これDVDだけどどこで見れるんだろう」
「でしたらここを真っすぐ行って左に視聴覚ルームがございますので、そちらでご視聴くださいませ」
フロントが指し示すとおりに行くと、四台のビデオデッキが詰まれているコーナーがあった。DVDをセットし、セロが椅子に座りその後ろでセルピルがビデオの中の物を見学する。
暗かった画面に青く色がつくと、次の画面では教室が映し出されていた。
『セルピルとセロ、ポケモンリーグ出場おめでとう!!』
一斉に大音量で二人の名前を告げて応援する声がビデオから響いてくる。前列には校長と担任の先生が、その後ろでは、セルピルとセロのクラスメイトが三列に並んで整列していた。
「クラスからの応援メッセージか。なんか大騒動になっているわね」
「そりゃ、僕たちテレビに出るもの。大騒動になるよ」
クラスの代表が数人セルピルとセロについてのエピソードや応援の言葉を話すと、画面が担任の先生に代わった。先生はどこかこわばっている様子で着ているスーツもカチンコチンだ。
『まさかこのクラスで二人がポケモンリーグに出場するとは思いもしませんでした。クラスの担任として誇りに思います』
別にクラスのためにここまで来たんじゃないんだけどと思いながらも、少々照れ臭く感じるセルピルであった。もちろんセロも同じ気持ちのようであった。
『もう夏休みは終わって、二学期が始まっていますが夏休みの宿題は済んだでしょうか?お二人だけは公休と言う形で夏休みが延長されていますがちゃんと夏休みの宿題は提出するようにお願いします』
宿題? あ……
じりじりと後ろに後ずさりしていくセルピルは一目散にエレベーターホールへと駆け出す。背後から『頑張れセルピル!セロ!』という応援の声が虚しく聞こえてくる。
「セルピルどうしたの?も、もしかしてセルピル……夏休みの宿題あれから全然やってないってことは」
後ろにセルピルがいないことに勘付いたセロは、DVDを取り出すことも忘れてセルピルを追いかける。エレベーターはもうセルピルを迎え入れてその口を開いていた。そのままセロの制止も聞かずに得れビーターに乗り込み、『閉』スイッチを狂ったかのように何度も押す。
「セルピル待って!どこまで――」
エレベーターの扉が閉まり、セロの言葉が遮られる。
「明日の四天王戦に集中しなくちゃ、夏休みの宿題なんてものにかまってられないのよ。そうそんなものは始めからなかった。なかったのよ」
現実逃避して夏休みの宿題を忘れようとするセルピル。しかしどうあがいてもその日はやってくる。夏休みの宿題の提出日という運命の日が。