ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

7 / 75
第七話『花のフェスティバル決勝戦』

 太陽が傾き始め夏の日差しが緩やかになってきた頃、会場に集まる観客は夏の猛暑が和らぐ時期である決勝戦を見るためにその数を増していた。増えていく大観衆の眼下にあるのは二人の同い年の男女のトレーナー。奇しくも、同じ町の出身にしてつい昨日会ったばかりであるセロとセルピルがその舞台に上がっていた。

 セロは、にこやかにセルピルに向かって手を振っていた。セルピルにとって彼が大会に参加していることは、驚愕だった。セルピルがセロの存在を知らなかったのは大会の主催者が、知り合いが参戦することが多く対戦相手の名前で出すポケモンを知ってしまって面白くないという理由で、試合本番まで対戦相手の名前が伏せられるローカルルールがあった。そのためセルピルは、セロが大会に参加していることを知れなかった。

 だが、それを差し引いてもセルピルが驚く理由はそれだけでなかった。セロが、昨日別れた後の道中でセルピルと会わずにこの町に到着したことだ。

「驚いたわ。あなた私を追ってこの町に来たの?」

「ううん。いったん準備のためにラーレタウンに戻ったんだ。僕もこの町の大会に興味があって、それに間に合うように今朝の四時からずっと自転車で全速力で漕いだんだけど。まさかセルピルが参加しているなんて驚いたよ。もっと先に行ってたかと思ったよ」

 セロはニカッと白い歯を見せて、セルピルの質問に答えた。もし自分の後をついてきたなら立腹していたのだが、まさか朝からずっと自転車を漕いで大会に間に合わせた体力と彼の屈託のない笑顔を見て呆れというか脱力感が湧いてきた。

「それでは、セルピルさんとセロさんによるポケモンバトルを開始します。両者握手を」

 審判の合図により、二人は一歩前に出て握手を交わす。握った手は、同い年とは思えないほど少しごつごつしていた。父のエホバほどのごつさではないが、男の子というのはこの年ぐらいから違ってくるのかと思った。 

 すると、セロが小さく笑みをして口を開いた。

「いいバトルしようね。僕のコラッタ前よりもっと強くなっているから」

「対戦相手に使うポケモン言っていいの?」

「大丈夫。僕一匹しかポケモン持っていないから」

 審判はセロの方を睨んではいたものの、何も言わなかったのでどうやら見逃してくれたようだ。両者の握手が終わり、自身のバトルポジションへと移動してモンスターボールを取り出す。

 そして審判が旗をひと振りすると、両者が同時にモンスターボールをフィールドに投げつける。互いのポケモンが、モンスターボールから姿を現す。セルピルはゴトラをそしてセロは先ほどの言葉通りコラッタだった。

「すごーい!そのココドラどこで捕まえたの!?」

 試合開始直前だというのに、セロの大声が響いてくる。セルピルも向こう二十五メートル先にいるセロに聞こえるように声を発する。

「朝日の洞窟よ。私の自転車にずつきさせられてたからゲットしたの」

「すげー!あそこにココドラいたんだ!僕も、ポケモンゲットしようとしたんだけど時間がなくて」

「両者静粛に!ポケモンの話は結構ですが、せめて試合開始後にお願いします。試合直前にトレーナー同士がおしゃべりして、試合が遅れたこともあったんですからね」

 会場が若いトレーナーの微笑ましいエピソードと自由奔放さに微かに笑い声がこだまする。セルピルは、思わず自分の自転車が直接的ではないものの壊された話を大勢の人に聞かれてしまい恥ずかしくなった。

「では、改めて。試合開始!!」

 審判の合図と同時に、セロがコラッタに指示を与える。

「コラッタ、でんこうせっかで先制攻撃だ!」

 命令と同時に、コラッタの姿が見えなくなった。セルピルがフィールドを見渡すと、コラッタの体の特徴である紫色の体毛の残像が、フィールド上をジグザグに動き回ってゴトラに向かっていく。

「ゴトラ!コラッタが来る前にかわすのよ」

 だがゴトラは、鼻息をふんっとしてそっぽをだけで相手のコラッタの残像が目の前に来てもよけるそぶりを見せない。

『おっとどうしたココドラ。トレーナーのいうことを聞かないみたいだ』

 そしてコラッタのでんこうせっかが決まる。と思われた。コラッタがゴトラにぶつかった瞬間、ゴンという鈍い音が会場中に響き渡った。コラッタの頭の上に小さなたんこぶができ、星が飛んでいた。

『おう!?なんとコラッタ、ダメージを与えようと思ったら逆に与えられてしまった!やはりココドラの鋼のボディーは文字通りの鉄壁。生半可な攻撃は効かないぞ!』

「ゴトラ、反撃よ。ずつき!」

 セルピルは、コラッタがひるんだ隙を逃さないようにゴトラに命じる。だが、ゴトラは全く動く気配もなかった。

「ゴトラ!ずつき!今がチャンスよ。攻撃して!」

 それでもゴトラは動かなかった。セルピルの命令を意に介さずあくび一つだけ出した。

『おっと、どうしたココドラ?まったくセルピルさんの言うことを聞かない』

「コラッタ大丈夫?」

「ラッタ!」

 セロの励ましで正気に戻れたコラッタは、ゴトラとの合間を取る。コラッタが正気になったことで好機を取り逃がし、セルピルは渋い表情をした。

「くっ、せっかくのチャンスを……」

 セロは、再びコラッタにでんこうせっかを繰り出しように指示した。だがその動きはさっきとは異なり、ゴトラの周りをグルグルと回っている。ゴトラはコラッタに攻撃を与えようとするがゴトラの足では全く追いつけなかった。

「ゴトラ!追いかけちゃだめ!そこでコラッタが攻撃するまで守りを固めるのよ」

 だがやはりゴトラはセルピルの言うことを聞かない。

「潜り込むんだ!」

 セロの合図で、コラッタが紫の残像を残してゴトラの横原の下に潜り込む。コラッタは、どんな場所でも生息できるように自分の頭が入り切れるわずかな隙間でも潜り込めるような体格をしている。地面が土と砂であることも加わり、ゴトラのわずかな隙間にも入り込めたのである。

「そこで、ひっさつまえば!」

 コラッタがその特徴である牙をゴトラの腹部に一気に突き刺す。やわらかい腹部を攻撃され、そしてその勢いも合わさりゴトラは吹き飛ばされて、仰向けの状態で地面に落ちていった。

『うまい!ココドラの鋼に覆われていない下腹部にうまく潜り込んだ!』

 セルピルの体に緊張が走る。このまま無様に負けてしまうことに恐れてしまっていた。セルピルは、ポケットに入れていたミノアからくれたハンカチを取り出し落ち着きを取り戻そうとする。負けるのも経験・いっぱい失敗しなさいその言葉が頭によぎった。確かにゲットしたばかりのゴトラを決勝で出したのは失敗だった。ゴトラもセルピルのことを信頼していなかった。だからその失敗がこの舞台で現れて負ける状況になるのは当然だった。それは理解していた。

 だが、セルピルの中でこんな形で負けることが許せなかった。なんとしてでも勝ちたいという気持ちが、一気に燃え上がったのだ。

「ゴトラ!あなた負けてもいいの?さっきも自分で攻撃して失敗したじゃない。あなたを勝たせてあげる。だから私の言うことを聞いて!」

 ゴトラは、仰向けの状態でセルピルの方をじっと見た後、体を横に転がし体勢を元に戻した。

「セルピル、一気に決めさせてもらうよ。きあいだめだ!」

 コラッタの体の体毛が逆立ち、雄たけびにも似た鳴き声を上げた。コラッタの攻撃を高めて、一気に蹴りを付けようという戦略だ。そしてコラッタが三度でんこうせっかを繰り出す。今度は先ほどと異なり紫の残像が

 動きでは相手に負けるゴトラに対して、でんこうせっかを止める方法を考えた。そして昨日の洞窟の一軒のことを思い出した。

「すなあらし!」

 ココドラがセルピルの指示通り、後ろ足で大きく蹴り上げた砂が舞いすなあらしが出現する。フィールドがすなあらしに包まれ、ゴトラの姿が見えなくなったことに加え、全身に大粒の砂がぶつかりコラッタはその動きを止めてしまった。

 動きが止まったコラッタの姿をとらえたゴトラは、すかさず小さな鋼の前足でアイアンクローを放つ。油断したコラッタは、攻撃を食らい、今度はコラッタの方が仰向けになってしまった。

「ずつき!」

 ゴトラは、命令通り腹を向けていたコラッタに向けてずつきを放つ。追撃のずつきを食らってしまったコラッタはもう動けなくなってしまった。そしてすなあらしが収まると、そこには勝ち誇った様子のゴトラがフィールドに立っていた。

 審判がコラッタの方に詰め寄り、状態を確認すると、セルピル側の旗を揚げて宣言した。

「勝者、セルピルさん!!よって、スヨルタウン夏の花のフェスティバル優勝者はセルピルさんです!」

 会場が歓喜に包まれた。若い女性のトレーナーが優勝者であるということ、そして両者のバトルに対して感銘したこともありボルテージは最高潮だった。

 一方のセルピルは、優勝したことよりも脱力感が勝っていた。まだ自分が優勝したことに頭が追い付いていなかった。セルピルは、ゆっくりとゴトラをモンスターボールに戻して頭を整理するために再びポケットに入れたハンカチを手に取ろうとする。

「いや~おめでとうございます!セルピル選手。私『ポケモン自由新聞』の記者ケナンと申しますです。今回の優勝とバトルの感想を一言お願いします」

 セルピルが振り返ると、フラッシュがたかれた。そこには小さな手帳とボールペンを携えた浅黒い肌の男と太めで眼鏡をかけたカメラマンがセルピルに取材を申し込むために立っていた。

 セルピルは、状況の整理がつかなかった。優勝と同時にインタビューと今まで経験しなかったことが次から次へと起こり、少々パニックとなりながら記者の質問にしどろもどろと答えていく。

「ねぇねぇ取材?僕にも受けさせてよ。僕もコラッタも頑張ったんだよ」

 しかし、ケナン記者はセロの方には目もくれずセルピルに取材を迫っていた。だが、その態度はセロだけではなく審判や他の大会関係者や記者をも寄せ付けないほどであった。

「なるほど、それでは私の方からも質問を……セルピル選手、ポケモンに命令を下すというのはどんな感じですか?」

 突然質問の内容に、もうセルピルの頭はついてこれなかった。ポケモンに命令を下すというということはどんなことか、全然頭が回らなかった。とにかく頭を働かせて、自分がしてきたことをなんとか述べようと努める。

「え、えっと。バ、バトルの指示ですか?えっとですね。その、とにかく勝つようにポケモンを回避させたり、反撃して相手のポケモンに有効な技をですね。その、出そうと考えながらバトルしまして」

「しかし、それは相手のポケモンを傷つけてしまう行為です。お互いのポケモンに対して傷つけてしまったと申し訳ないとか感じないのですか?」

 記者は反応の反応で返した。バトルはポケモンを傷つける行為である。セルピルは、確かに初めてセロとバトルしてやけどをさせてしまったときはその感情があった。しかしこの大会のバトルは、いやポケモンバトルに対してそんな感情はみんななかった。特にミノアはセルピルの健闘を称え、試合前にはアロマグッズを渡していたではないか。一発で倒してしまったパラセクトのトレーナーも嫌な顔をしてなかった。ポケモンバトルは、相手も理解した上で行っているんだと振り絞って考えをまとめた。

「え、ええと、でも。相手も、ポケモンもそれを理解してやっていることですし。その、野生のポケモンに襲われた時も同じようにバトルしますし」

「どうしてポケモンも理解していると思っているのですか?それに、野生ポケモンと同じ考え方でバトルするなんて、愛情を込めたポケモンたちに失礼ではないですか?」

 次から次へと言いにくい質問を繰り返され、疲れが起きた。加えて、記者が話すペースが早くなり、もうセルピルの頭が回らなくなってきた。その一部始終を見たセロが、記者たちの間に割って入り込み止めようとする。

「ちょっと、セルピルが困っているじゃないか?!それにそれが大会優勝者にする質問?ポケモンバトルを否定しているじゃないか!?」

「うるさい!子供はあっち行ってろ!」

 記者と一緒にいたカメラマンの態度にカチンときたセロは、手の動きでコラッタに合図を出した。コラッタは記者二人に対して砂をかけた。通常のコラッタはすなかけを覚えないのだが、セロは、野生のポケモンから逃れる合図として技としては不十分なであるがすなかけができるのだ。砂を浴びせられた記者二人は、目をこすったり、口に入った砂を出そうと唾を吐いて咽ていた。

「何をするんだ!?この、ペッペ?!、コラッタ、っぺ!」

 コラッタはそそくさとセロの体を上り、頭の上にちょこんと乗っかていた。セロは、あっけらかんとした表情で睨む記者たちに応対した。

「スヨルタウン自慢のグラウンド整備じゃないですか?僕のコラッタも町の人の技術をものまねしたみたいで、僕の方からコラッタに言い聞かせますから」

「失礼な!人に向かってすなかけをするポケモンなんて、いったいどうゆう育て方を!!」

 ケナンがセロに対して、口の中に入った砂を出しながら怒鳴り声を上げたが、それよりもひと際大きい罵声が会場の方から湧き上がっていた。

「失礼なのはどっちだ!!」

 その怒声は、観客席の方から鳴り響いていた。セロと同じく記者の無礼な質問と大会関係者を困らせた行動に対して観客はカンカンに怒っていた。すでにセルピルは記者の手から離れ、大会関係者の人達の後ろに隠れていた。

「「帰れ!!帰れ!!」」

 会場から鳴り響く帰れコールが記者二人に向けて浴びせられる。すると、二人の記者の前に片眼鏡をかけた初老の男性が訪れていた。初老の男性は、スヨルタウンの町長だった。

「ポケモン自由新聞社さんですね。また協定違反を犯して取材をいたしましたね。これ以上参加者や観客にご迷惑をおかけするのでしたら、もうポケモン自由新聞社さんは会場の出入りを禁止させていただきますからね」

 ケナンはばつが悪いと判断し、供をしていたカメラマンを引き連れて会場から去っていった。

 

 試合後の一波乱が収まり、ようやく表彰式が行われた。表彰台は学校の朝礼台とまた簡素であるが、今のセルピルにとって朝礼台が神聖なものを帯びた物に見えていた。その横には、

『それでは、優勝者のセルピルさんに優勝の楯を授与します』

 町長が台に上がり、セルピルにノートほどの大きさの楯が渡された。セルピルは、少し緊張した手つきで町長から優勝楯が手渡された。

『また、優勝者のセルピルさんには、副賞として賞金二万円を。そして敢闘賞は、決勝までコラッタ一匹だけで勝ち進んだセロさんに、副賞としてたいようのいしとおはなのおこうが贈与されます』

 賞金は、白い封筒に入れられて女性の大会関係者から渡された。セロの方の副賞は、紙袋に入れられて渡された。

「えへへっ、頑張って良かったねコラッタ。でも二つとも今必要ないかも」

「セロさん。たしかにどちらもコラッタには不要な道具です。でもセロさんが将来その道具が必要なポケモン、もしくは人と出会ったときに必要となるかもしれません。」

 セロの独り言を聞いていた町長は、助言を与えた。セロは、感心するよりも独り言を聞かれていたことに驚いていたようだが。

『それでは、記者の皆様これよりインタビューの場を設けます。どうか参加者の方々の失礼のないようにお願いいたします』

 さっきのようなインタビューが来るのではないかと身構えてしまう。すると、町長がセルピルの耳元で囁いた。

「大丈夫ですよ。今ここにいる記者さんたちは顔見知りの方々です。もし取材が嫌でしたら記者の方に伝えておきますので」

 町長の言うとおりだった。懇切丁寧な取材で、急に写真を撮られることもなく、ひと呼吸置かしてもらえるほどのびのびとした取材が取り留めなく行われた。

 取材する記者がいなくなるとセルピルは、そろそろポケモンセンターに戻ってバスに乗る準備をしようと会場を出ようとした。その時、セルピルの隣にいて失礼な取材がないか監視してついていた町長に町の職員が町長に何か耳打ちしていた。そして同時に会場に放送が流れだした。

『会場の皆様にお知らせがございます。本日のファトゥラシティ行のバスでございますが、本日の夕方四時半ごろに昨夜の雨の影響で土砂災害が発生し、道路が封鎖され運行を見合わせております』

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。