ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第七十一話『四天王戦後半戦 アザミ&オレア』

「ニチャモスカイアッパー!」

 

 ニチャモが、ケッキングの顎めがけて拳を叩き込む。アッパーカットで叩きつけられた拳がケッキングを押しのけて天に掲げるようにして真っすぐ上がり、反対にケッキングは地に倒れこんでしまった。

 四天王のオレアがケッキングが起き上がるよう檄を飛ばす。

 

「頑張れケッキング!ここを耐えればきしかいせいで」

「ケッキ……ング」

 

 ケッキングは横に倒れてしまった。審判が駆け寄ってみると、ケッキングが特性なまけで横になったわけでなく戦闘不能で倒れたのを判断してセルピルの勝利を告げた。

 

「ケッキング戦闘不能。バシャーモの勝ち。よってセルピル選手の勝利!」

 

 四天王戦二日目の試合会場は二つの地方をつなぐ橋がよく見えるリバーサイド広場。満員の広場だけでなく、橋の上から双眼鏡や携帯を通じて観戦している観衆の歓声と、惜しむ声が交り合う中でセルピルは小さく吐息を漏らした。

 

「勝った……一体も失わず勝利だ」

 

 四天王オレアはノーマルタイプの使い手で、ニチャモを筆頭にバトルに臨んでいたが、結果ではまさかのニチャモ一体でのストレート勝ちで終わった。ニチャモがノーマル技に対して有効な格闘技を持っていたからか、それとも相手のポケモンとの具合が良かったのか定かではないが結果的には一体も失わず勝利したことで、この調子ならもしかしたら四体目もいけるという可能性が芽生えていた。

 次の四天王アザミは、事前の調査で電気タイプの使い手でありそれに有効なポケモンが一体いる。地面とドラゴンタイプのナライなら電気に耐性がありかつ電気タイプの弱点のじしんを放つことができる。勝てば、アレクサンダーの負担も抑えられて、昨日の借りも返すことができる。

 

「セルピル選手、次の四天王アザミに対して一体のみのバトルを申し込むことができますが……」

 

 セルピルの腹の中では挑戦するつもりであった。ところが、審判がなにやら警戒しているような動きをして、セルピルに耳打ちをする。

 

「あの、私が言うのもなんですが。ここで引いた方が良いかと思います。アザミさんは本当に強い四天王ですので、おそらく前回チャンピオンしか倒せないかと」

 

 親切心で言ったつもりであろうが、その言葉にセルピルはムッと心の中で怒った。なにか馬鹿にされているように感じて、しかもアレクサンダーにしかアザミは倒せないということを告げられて自分には役不足であると、大会の審判直々に言われて侮辱されたようだった。

 セルピルは審判の意見を払いのけて挑戦することを審判に告げた。

 

「挑戦します。公平であるべきの審判さんのアドバイスは聞かなかったことにしますので」

「は、はい。わかりました。では……」

 

 審判がセルピルの低く怒りの混じった言葉に気圧されて、下がりマイクでセルピルの継戦を四天王と会場に伝える。

 ほどなくアザミとの握手も済んで、トレーナーポジションに立つとボールを手にする。

 

「私に臆することなく挑戦するのは、かつ算段があるということですね」

 

 先にセルピルがボールを投げ入れて、その問いの答えを示す。ナライが姿を現すと、アザミは「ほぉー」っと腕組みをして感心する構えを見せている。

 

「なるほど、電気には地面。おまけに空中戦も可能とセオリー通り、しかしだ。その計算は甘い考えだよセルピルさん!このジバコイルで相性優位を覆して見せよう!」

 

 宣言と共にジバコイルが姿を現す。相手は電気と鋼。アザミの言う通りセオリー通りならば、ナライの方が圧倒的に有利。しかし、なぜ自らあえてその誘いに乗ったのか、幾分怪しんだ。

 

「……何か罠が。でも素早さならナライの方が早い、一発で終わらせてやる。ナライ、じしん!」

 

 地面に負荷をかけて、レンガの床を揺らしてメキメキときしみ声を上げて地面を揺らす。一直線に地震がジバコイルに向かって襲い掛かるが、アザミは全く動じず何もジバコイルに命じない。ジバコイルも中央と左右の一つ目が全く揺れることも驚いたりもしない。

 メキャっと大地が裂けて、大地の敵意をむき出しだ蠢きが顔を出した。

 

「十万ボルトを地面に向けて放て!」

「ジジ」

 

 無機質な鳴き声がまるで指示命令を受けたロボットのように働き、ジバコイルの左右の磁石が地面に向けられ、真っ黄色な電気の塊が放射された。

 爆風と煙が一瞬広場を包みジバコイルの姿を消した。ナライがどこにいるのかと翼を羽ばたかせて上空から様子を見ようと飛ぶ。上空まで立ち上る黒煙の前まで到達すると、黒煙の中から一筋の目を覆うほどの光線がナライに向けられた。

 黒煙からはジバコイルがのっそりと姿を見せてきた。

 

「すでにでんじふゆうで、こちらも空中戦は可能となった。空中戦の優位も同格、決めてのじしんも塞がれたというわけだ」

 

 でんじふゆうで空中を飛んでいるジバコイルは、その風体からUFOと見間違うほど不気味に空を浮遊しており、本当に生き物かと言うのを疑うほど静かに浮遊音もなく飛んでいる。

 

「ジバコイルをつかんで、地面に叩き落して!」

 

 地上でも空中でも優位が削がれたが、まだ可能性は残っている。ナライがジバコイルに食らいつこうと翼を羽ばたかせると、ジバコイルの両側から砲撃が飛んでくる。

 うちの一つがナライに当たるが反動ぐらいで少し後ろに下がるがダメージはなかった。

 

「電気?ナライには電気は効かないわよ」

「そうだが」

 

 アザミが当然のように言う。ますます理解できないとセルピルはアザミの意図が読めず、その悠然と構える不気味さに嫌な予感を感じるが、じしんを封じられているナライにはジバコイルを再び地面に落とすしか方法がない。

 ナライがグイグイと高度を上げてはジバコイルに接近するが、翼で動くナライと異なりジバコイルは文字通り浮遊しており、一度攻撃をかわされると旋回するときにジバコイルの砲撃が来る。しかもその攻撃が地面タイプに効果がない電気技なので、一瞬動きを封じるだけと空中戦の優位をなぜか放棄していた。

 旋回しては少し硬度の高いところから意味のない攻撃を撃たれ、攻撃してはかわされとナライは次第にイラつき、一気に上昇をし始める。すると、ゴツンと何か物にぶつかった。一瞬ナライがひるむとナライの足が着いた。

 

「どうだ、ジバコイルのバリアーで作った見えない壁の牢獄は!」

 

 あの無意味な攻撃は、ナライを見えない壁の牢獄に閉じ込めるための陽動で――ナライは見えない空中にできた壁に閉じ込められてしまったのだ。

 

「そんなもの、ドラゴンクローで叩き壊して!」

 

 ナライの爪が光り、バリアーを破壊しようと爪を立てる。瞬間、ナライの背中に一筋の光線が壁を貫き直撃を受けた。

 壁があるのにどうしてとセルピルがジバコイルを見ると、ジバコイルは電撃ではなく、金属の光沢のような光を中央の体にあつめていた。

 

「ラスターカノンだ。この攻撃は、光を集めた攻撃技。光は壁をすり抜ける!」

 

 そのままジバコイルがラスターカノンを連続で放射してバリアーの牢獄の中に叩き込み、出られないナライを袋叩きにする。そして、透明な牢獄の中でナライが羽も動かさず空中に伏っしてしまう。

 

「な、な、ナライ!」

「ふ、フライゴン戦闘不能。ジバコイルの勝利!」

「くそぅ」

 

 セルピルがナライをボールに戻すと悪態をついた。自分の相性の優位だけで勝てると踏んでしまった自分の愚かさに嫌になった。この失敗は高くついた。なにせ、三体生き残って三ポイントの得点が入るはずが、貴重な一点を不用意に失ってしまった。

 入れ替わりに入るアレクサンダーとすれ違うと、あのジバコイルに似合いそうな冷たい声でしかし、どこか人間じみた温かみが含まれた言葉で慰められた。

 

「大丈夫、全部ポケモン失わずに勝つから」

 

 その宣言通り、アレクサンダーは残りのポケモンを一体も失わずにオレアを倒してしまった。四天王四人を倒したことには倒せたが、セルピルの中では後味の悪い試合内容で終わった。

 

 

 

 

 

 日も朧に暮れて夜は七時を回ろうとしていた。四天王戦二日目の試合の集計と結果は、午後七時ちょうどにテレビで発表されるため、セルピルはホテルの自室でベッドの座りながらミックスオレを片手に発表を待っていた。その隣にはセロが今か今かとテレビの結果発表を待っていた。

 

「なんで自分の部屋で見ないのよ」

「だってこういうのは喜びを分かち合いたいもん。セルピルだってフロントの大画面のテレビで見ればいいのに」

 

 一階のフロントにある大画面テレビでも結果発表を確認できるにはできた。だが、大画面の前はほかにも結果を待つ選手だけでなく野次馬や観戦者も含まれて、セルピルは昼間の一体倒されてしまったことが準決勝に進めない原因となり、群衆の中で罪悪感と重圧で感情が押し出されてしまわないか危惧していた。

 

「そうだけど……でも出られるのは二チームだけだから、最悪私もセロも出場できないってこともありえるのよ」

「だ、大丈夫だって。セルピルも僕とテオドールのチームも四天王四人倒せたし、出場できるって。……たぶん」

 

 その可能性を完全に失念していたのが最後の言葉に顕著に表れていた。だがその可能性が一番あるのは自分の方であることは決して口にしなかった。

 画面の中ではアナウンサーが、一枚のA四用紙を一枚スタッフから手渡されて、結果を読み上げた。

 

『結果発表されました。さあ全チームの中でどのチームが準決勝に進出するのか――』

 

 固唾を飲んで、二人は手を合わせてながら祈り始める。どうか準決勝に進めてますようにと祈る一方で、セロも進出してますようにと隣のライバル(友人)のことも一緒に祈っていた。

 

『第一位、総得点ニ十点セロ&テオドールチーム!そして第二位が僅か一ポイントの差十九点でアレクサンダー&セルピルチーム!』

 

 同時進出の祈りが通じたのか、二人とも準決勝進出ということにセルピルは信じられないという思いでベッドに体を沈み込ませる。一方のセロは喜びの感情がベッドのスプリングのバネで体ごと跳び上がり万歳三唱を声高に叫んだ。

 

「イエーイ!バンザーイ!セルピル。準決勝だよ準決勝!僕ら準決勝に出られたよ!」

「いや落ち着きなさいよ。敵同士としての出場でしょ。私とセロがペアじゃないんだから」

「……あっ、そうか」

 

 セルピルの言葉に、喜びに膨らんでいた感情が針で突かれたように急速にしぼみベッドの上でその体と共に萎んでいく。

 

「不思議ね。十三番道路から戦った相手とこんな大きな舞台で戦うだなんて」

「うんうん。それもまだ二か月も経たないうちにね。あの時僕がセルピルを木の上から見つけてなくて、あの時間にセルピルが通ってなくって、僕がバトルをしなくて負けてなくて、ジョーイさんからセルピルのポケモントレーナー認定の封筒を渡してくれなかったらこうしてここで出会えなかったもんね」

「ん?セロ、なんであの封筒の中身を知っているのよ」

 

 セルピルがブッスシティのモールでセロから受け取った封筒の中身を言わなかったはずなのに、それをどうして知っているのかと疑心の目を向けると、セロは顔じゅうからドバドバとクーラーが効いている部屋の中にも関わらず汗を噴き出していた。

 

「あ、あ、ごめん!ジョーイさんから中身を聞いて、ポケモントレーナーとジム挑戦のこととか聞いて……その」

「コラァ!というかそれを知って私の後を追ったのでしょ!」

「ご、ごめんなさい。でも本当にセルピルと一緒に行きたかったんだもん。同じクラスメイトと旅できたら、きっと楽しいだろうなって」

「……まあ、もう許してあげる。実際楽しかったもの。ただのクラスメイトから、友達になったことだし」

 

 本心からセルピルはそう言った。一人での旅はワクワクもあったが、不安もあった。しかし、目の前の彼と一緒に旅をしてから心細いという感情はどこかに消えていた。誰かと共に旅する

 セロがニカっと笑うと、買ってきたミックスオレのプルタブを開けて、セルピルの前に出して乾杯の合図を勧める。

 

「明日頑張ろうね。僕もポケモンも頑張るよ。それにテオドールもいるし」

「こっちには前回チャンピオンだっているのよ。私だって、今日の最後のバトル不甲斐ない結果に終わったから明日で挽回するわ」

 

 コチンとアルミ缶が軽快な音を部屋に響かせた。

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