ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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第七十二話『準決勝、対戦相手はセロとテオドール!』

 準決勝の舞台であるセントラルドームは超満員だった。囂々とうねりを上げる観衆の歓声が選手控室にまで届いて控室をわずかに揺らしている。控室の天井から吊る下げられたテレビでは出場選手のプロフィールやこれまでに使用したポケモンの映像が繰り返して映されていた。

 セルピルとアレクサンダーは同じベンチに座って試合開始まで待機していた。だが、二人の間には谷間のように一人分の空白があった。

 

「いよいよね。今のところ私はセロもテオドールにも全勝している。アレクサンダーは去年のチャンピオン。戦績上では勝っているけど油断しないようにね」

「あっ、うん……そうだね………」

「どうしたのよ、ここしばらく元気ないわね」

 

 プールの帰りから様子がおかしいことを知っていたが、試合直前までこの調子であった。このままでは試合に支障が出てしまいかねなくそのわけを

 

「セルピルは友達と戦うことに抵抗はないの?」

「セロと?ないない、もう何度も戦っているし、気にしてもいないわ」

「もし、もし、負けて彼が泣いてしまうことになったとしたらどうするの?」

「え?う~ん、なんか想像できないよね。セロが負けて大騒ぎするなんてこと。悔しいとか次は絶対に勝つとかまたすぐに起き上がってくるのよね。セロってそういう人だから」

 

 アレクサンダーの質問に答えようとするが、一向に彼の顔色は良くなることはなくむしろ沈んでいく様子だ。

 控室のスピーカーが鳴り響き二人の名前が呼ばれる。

 

「ほら、行こう。ここで遅れて不戦勝だなんてかっこ悪いわよ」

 

 アレクサンダーの手を引いて、ベンチから立たせて試合会場にへと臨んでいく。あと一戦、あと一戦すれば旅の目的を、アレクサンダーとの約束を果たせる。そのためにここまで来たのだから負けちゃダメなんだとセルピルは心の中で言い聞かせて光が差し込む通路へとアレクサンダーと共に入っていく。

 

 

 

 セントラルドームのバトルフィールドに入ると観客が一斉に色めき立ち、歓声のボリュームを最高音量にする。

 モンスターボールをあしらったマークの上に四人の選手が固い地面の上に足を並ばせた。セルピルの正面に位置するセロはふんっと鼻息を出して意気揚々と、その左隣のテオドールは本選開始時の時と同じバンダナを頭に巻いていた。セロと違うのは深く息を吐いて殺気立った気配がないということだ。それだけで、ドラゴンタワーで戦った時とは明らかに違うとセルピルは感じ取った。

 

 審判がまずは正面と、次に隣の選手と握手するように促す。セロの手を握ると不意にスヨルタウンでの大会のことを思い出した。あの大会でもこうして手を握っていたな。ほんのひと月半前のことなのに、何かすごく遠いことのように思える。今握っているこの手も、前の時よりももっとごつごつして手も大きくなっている気がする。

 セルピルが感慨にふけっていると、セロが喚くような声を突然上げた。

 

「ぜえぇぇったいに、セルピルに勝つ!!僕、セルピルと旅をしてから一度もセルピルに勝ったことないし、このままこの旅で一度も勝ったことなく終えるのは嫌だもん」

「同意見。ドラゴンタワーでの敗北忘れてないぜ。アレクサンダーにも、去年トーナメント戦でぶち当たって敗北したから借りがあるんだ。トレーナースクール再興宣伝のためにも、決勝に行くんだからな」

「私も負けてたまるもんですか」

 

 こちらは年相応という感じで筋肉質だ。テオドールもやっぱり男の子なんだ。二人の男の手を握り終えて両者がトレーナーポジションにへと入っていく。

 

「さぁ、あの二人を倒して決勝に行くわよ」

「……信頼があるんだねセロとには」

「え?」

 

 アレクサンダーの言葉に一瞬気を取られてしまったが、審判の試合開始の笛が鳴ったためその言葉の意味を聞く暇もなくポケモンをフィールドに出現させる。

 

 

 

 イワンとサザンドラがセルピル陣営、ワマっちとラグラージがセロ陣営に座し、四人のトレーナーと四体のポケモンが一堂に会するダブルバトル。相手二人の手持ち四体をすべて倒して勝利となる。ダブルバトルは何度かしたことはあるものの、セルピルが公式戦で戦うのは初めてである。アレクサンダーのサザンドラとうまく連携が取れるかが懸念材料だ。

 腕を上下に組んでストレッチをしていたセロが元気のいい声で最初の先制攻撃を仕掛ける。

 

「さぁーて、ワマっちシャドーボールをイワンにぶつけるんだ!」

「ラグラージも続いてだくりゅうをルガルガンに流し込め!」

 

 両者が一斉にイワンに攻撃の矛先を向けて、漆黒の玉を土が混じった濁り水を吐き出す。先に弱点があるイワンを一体確実に倒す算段だ。イワンが体を屈めてファイティングポーズを取ると、シャドーボールの流星群を次々に撃ち落としていく。決して逃げようとしないのは、特性ノーガードという真夜中の姿のルガルガンが持っている決して引こうとしない本能がそうさせている。

 だが、いくらシャドーボールを撃ち落としても濁流相手にはどうしようもない。フィールドの地面を巻き込み泥水の色をより汚し、呑み込んでしまう。

 

「ドラ」

「ワゥン!?」

 

 イワンが一驚の声を上げた。サザンドラがイワンの身を挺してだくりゅうを自分だけに受け止めたのだ。泥水に呑み込まれたサザンドラの体から茶色い水が滴り落ちていたが、不快な顔をするだけで手ひどいダメージを負っていなようだ。

 

「サザンドラ、あくのはどう。左右をラグラージに、主砲をヨノワールに」

 

 サザンドラの三つの首がそれぞれ向きを変える。左右の首はラグラージに、中央の首はワマっちに、あくのはどうを放射する。二発の砲撃がラグラージの脚に当たり、ズンっと音を立てて転倒。ワマっちもあくのはどうの砲撃を受けるが、弱点ではあるが相方のラグラージほどのダメージは受けていない。

 

「のこったのこった。のこっての、あやしいひかり!」

 

 ワマっちの目が光り怪しい幻影を生み出し、サザンドラをあやしいひかりで混乱させた。

 

「自分の首にかみつけ」

 

 アレクサンダーが命じるままサザンドラは右側の首にかぶりついた。その衝撃でサザンドラは目覚め混乱から回復した。自傷を命令するという行為にセルピルは驚きを隠せなかったが、これがチャンピオンの戦術かと思い知らされた。

 むくりとあくのはどうでひるんでいたラグラージが起き上がり、テオドールが指示を飛ばす。

 

「ラグラージ、だくりゅうでもう一度ルガルガンを押し流せ!」

「イワン、組み付いてラグラージのあごにストーンエッジ!」

 

 ラグラージの口が開き切る前にイワンがぴったりくっついてあごにストーンエッジを組み込んだ拳を叩き込みだくりゅうを封じた。

 

「水タイプに岩タイプは効かん!じしんを繰り出すぞ!」

「物理技、それが狙いよ!」

 

 口をいったん封じられ代わりにラグラージの両腕が地面を叩きつけてじしんを起こす。じしんの周波が敵味方関係なくすべてのポケモンを巻き込んでいき、ダメージを与えていく。震源地に一番近いイワンなど堪ったものではない。しかし、イワンの闘争本能がじしん攻撃を耐え、一発逆転のカウンターをラグラージに叩き込んだ。

 

「ラグラージ!!」

 

 反撃が完全に決まったもののセルピルは喜ばなかった。イワンが同時に戦闘不能となってしまったからだ。

 

「サザンドラ、首三つをヨノワールに。あくのはどう」

 

 混乱から目覚めたサザンドラは空を飛んでおり、じしんの被害を受けずに済み三つの首をすべてワマっちに向けることができた。三つの首の砲塔が口を開き一斉放射が行われる。

 狙いはすべて当たり、ワマっちは抵抗らしい抵抗もせずあくのはどうに撃ち倒されてしまった。

 結果を見れば、サザンドラを除いて全滅という想像以上のバトルとなった。しかし、相手は残り二体一方でセルピル側はまだ三体も残っている。数で言えばまだ有利の状態だ。

 

「まずいね、僕たちの方が追い詰められちゃったよ」

「だが、戦法は変わらずだ。相手一体を確実に倒す。そうすればまだ勝機がある」

「だね、それにただじゃ終われないもの。ラっち!」

 

 セロ陣営の残り二体が姿を見せてくる。ラっちとそしてやはりテオドールの手持ちに加えられていたトゲキッスがその場に出ていた。トレーナースクールの近くでセルピルはあのトゲキッスがフリーのオンバーンをトレーナーの命令もなく一撃で倒したことがまだ脳裏に刻まれていた。

 そして今、場にはそのトゲキッスの得意としているドラゴンポケモンが場に出ている。

 

「こっちだって、レイレイ!」

「レキブー!」

 

 ブンブンと登場と同時に腕を回して力強さと電気の充電満タンをアピールと同じに先制攻撃を仕掛けた。

 レイレイの頭にある二つの角から電気がバチバチと火花を上げて、十万ボルトを放電する。が、電気が直撃する寸前で、ラっちがトゲキッスに飛び掛かって体重でトゲキッスの高度を下げて寸での所でかわされてしまった。

 

「なるほど、先にサザンドラの天敵である俺のトゲキッスを倒そうとする算段か」

「でも、もうサザンドラは動けないよ」

 

 サザンドラはまだ攻撃を受けていないのに何をとセルピルが言いかけた時、ズズンと重い音が会場に響くとフィールドでサザンドラが地面にうずくまっていた。審判が駆け寄ってみると、戦闘不能判定が下された。

 まだトゲキッスは攻撃をしていないにもかかわらずなぜサザンドラが倒れたのかセルピルは混乱していた。その疑問にセロが代わって答えてくれた。

 

「ふふん、ワマっちののろいだよ。ラグラージのじしんは飛んでいたサザンドラを除いて、味方も巻き込むから先にのろいをかけてじわじわと弱らせておいたんだ。これで一番やばい相手は倒せたね」

 

 反対側にいるセロの声が聞こえてきてセルピルは自分とポケモンがまるで眼中にないように聞こえた。

 

「ちょっとセロ、私のポケモンが大して強くないって聞こえるんだけど」

「そんなんじゃないって」 

「相手同士で談笑している場合じゃないぞ。まだチャンピオンの手持ちがもう一体いるんだからな」

 

 テオドールの言葉に相手だけでなく、セルピルも一堂にアレクサンダーの次に繰り出すポケモンが何かに注視している。いや、トレーナーだけじゃない、会場もチャンピオンの一挙手一投足に注目して視線を注いでいるのがセルピルにはわかった。

 あのチャンピオンが次に繰り出すポケモンは何か。その期待が集まっている。これがチャンピオンの威厳なのだと。

 

「ギルガルド」

 

 ポケモンの名前だけを淡々と告げて呼び出すと、一つ目のついた剣が巨大な盾に格納されたポケモンが現れると会場が一気にざわついた。そしてテオドールが先に渋い顔をつくった。

 

「やべぇ、ギルガルドじゃねぇか。あいつじゃセロのラッタのいかりのまえばが使えないぞ」

 

 ラっちの必殺技いかりのまえばはノーマルタイプ。しかしゴーストタイプのギルガルドには全くと言って効果がないのだ。だがその事実が突きつけられてもセロは余裕の表れなのかそれとも何も考えていないかわからない笑みを続けていた。

 

「面白いね。でも僕のラっちの牙は絶対に砕くよ。テオドールのトゲキッスも大丈夫だって」

 

 どうやらあんまり考えなしで挑むようだった。

 

「トゲキッス、エアスラッシュ!」

 

 早々にトゲキッスが快速を生かしてギルガルドに飛び掛かった。しかし、鋼タイプも併せ持つギルガルドには全く効かない――はずだった。次に飛び掛かられたラっちのかみくだく攻撃にギルガルドは全く反撃もできないまま噛みつかれてしまった。

 

「ひるんだ」

 

 アレクサンダーがすこし動揺して、ギルガルドはトゲキッスのエアスラッシュでひるんでいることを述べた。

 

「へへ、特性てんのめぐみでひるむ確率があがっているんだよね」

「それは俺の言う台詞だ」

「気にしない気にしない。このままギルガルドの盾を壊しちゃえラっち」

 

――バリバリ。

 レイレイのかみなりパンチの電気が弾ける音があとから聞こえて、ラっちをギルガルドから引き剥がした。

 

「私たちを忘れちゃダメでしょ!あなたたちの攻撃の対処法はレイレイが持っているんだから。ひかりのかべ!」

 

 レイレイの角からまた電気は放出されると、ひとつの壁が築かれた。

 

「さあ、これで物理技は効かなくなったわ。これで私たちに通るのは特殊技だけよ」

 

 先ほどのエアスラッシュも、かみくだくも物理技。このひかりのかべの前ではそれらの攻撃は

 レイレイが、また腕をグルグル回して電気を溜めて、トゲキッスとラっちの間に電撃を落とした。相手の二体は攻撃が近くで当たらないようにできるだけ距離を取り始める。

 

「前に出る。ギルガルドの位置に落とせ」

「それってどういう……」

 

 全く言葉の意味がわからないままギルガルドがシールドフォルムのまま移動する。そしてある場所に到達すると、ギルガルドの剣がぐるんと剣先を天に向けて掲げられた。セルピルがギルガルドの剣の向いている方向に視線を仰ぐと言葉の意味が腑に落ちた。

 

「言葉が少なすぎよ。あれじゃわかんないわよ。かみなり!」

 

 本体である剣の剣先に向かってレイレイがそこに向けてかみなりを落とす。その真上には空中を飛んで回避していたトゲキッスがいた。ギルガルドは、かみなりを確実に落とすために剣を避雷針代わりにしてトゲキッスに当たるように移動するというのがアレクサンダーの意図だった。

 

「キッス!!」

 

 弱点でかつ、最強の電気技を受けてトゲキッスは一気に体力を削られてしまい、翼の羽ばたきを止め地面に落下してしまう。

 

「せいなるつるぎ」

 

 その剣が再び攻撃態勢を取ると、残り一体になったラっちに向けて振り下ろされた。

 

「ギャッタ!」

 

 ラッタの断末魔がフィールドに響き、遅れて地面に落ちてきたトゲキッスがその横で小さく鳴き声を上げた。

 

「そこまで、この試合。セルピル・アレクサンダー選手の勝利!」

 

 セルピルたちに勝利宣言をされると、セロとテオドールがバタンと大の字になって地面に倒れた。急に倒れ、何か起こったのかとセルピルが慌てて二人の下に駆け寄ったが、二人はなんともなかった。

 

「まけちゃった~。悔しいなぁ」

「チャンピオンの座は夢のまた夢か。まっ、俺にしてはやっとここまで来れたって感じだな」

 

 二人のどこかすがすがしいと感じ取れる様子は、最初にセロとテオドールが出会った時の最悪の印象とは完全に別物だ。

 

 

「セロ、いるの?落ち込んでいるの?あなたらしくないわよ」

 

 ドンドンドンと、セルピルがセロの部屋をノックする。試合の後セロが顔を見せなかったことに嫌な予感がよぎった。アレクサンダーが試合前に言った「負けて泣いてしまうのでは」という言葉がそれに拍車をかけた。

 三回目のノックをしても返事がなく、ドアノブに手を伸ばしてそれを回そうとするがカギがかかってびくともしない。握っているドアノブの手の中に嫌な汗が流れ始めた。

 

「どうしよう、携帯はないし。もしかしてセロ悔しくてどこかで隠れているんじゃ……」

「そんなことはないぞ。セロなら用事があるからいないだけだ」

 

 振り向くと、テオドールがトゲキッスを引き連れてセルピルの下にやってきた。既に治療を終えたようでトゲキッスは元気に浮遊して、セルピルを見つけるとビュンと滑空して元気になったことを報告するようにセルピルの周りを飛び回っている。

 

「テオドール、なんでここに来たの?」

「別にオリント側の人間がこっちのホテルに入ってはいけないってことはないだろ。セロがちょっと用事があるからホテルに戻るが遅れるって、俺に言伝を無理くり頼まれてよ」

 

 用事という単語に引っ掛かっていたが、先に発したのはセロが泣いていなかったかということだ。しかし、その懸念は杞憂に終わりいつものように笑っていたとテオドールの口から伝えられて、セルピルはドアにもたれかけ力が抜けた。

 

「なによもぅ、心配損じゃない。テオドールもすぐに私にそれを伝えてくれればこんなことしなくて済んだのに」

「すまん。俺も用事があってな。それで俺の目標が達成できたか確認したくて」

「用事って?」

「俺がポケモンリーグで戦っている姿をテレビで中継していたかをな。俺さ、トレーナースクールが閉鎖されてたあとも何とか再興しようと動こうとしたんだけど、あの時のオリントじゃ堂々と再興資金や宣伝ができないし母さんがいなくなって首が回らなくてな。だから唯一の手がポケモンリーグのテレビ中継で俺の姿を映してトレーナースクールの再興を宣伝するしかなったんだ」

「今まで何度も出場していたじゃない」

「オリントじゃ、フリーが支配していたから準決勝と決勝でしか放映されないんだ。今年も準決勝からでしか放映されなかった。けど十分な宣伝になった。母さんも助けられたし、うちのポケモントレーナースクールが再興できた、セルピルたちのおかげだ。母さんやトレーナースクールにいるポケモンたちに代わって礼を言う」

 

 突然改まってテオドールに深くお辞儀されるとセルピルはとまどってしまう。三つも年上であるテオドールが、気を払わなくていいからと年下のセルピルたちため口で話してきた。もちろんテオドールの方も年が上だから当然セルピルたちに対してもため口だった。

 それが急に感謝の意思を評してしまったのだからどうやって返事をすればいいのかわからなくなったのだ。

 

「やめてよもう、急に改まったら私もどう返していいかわかんなくなるから。セロのようにいつもの調子でないとこっちが困るわ」

「はは、だよな。たしかにいつものようにした方が良いかもな。あいつのマイペースさを分けてもらいたいぜ」

 

 

 

 部屋の中はパソコンの画面の光以外は全くと言って暗闇だった。カーソルを次の対戦相手のポケモンの画像に乗せると、今まで使用してきた技の種類が表示される。別の画面に自分のポケモンの手持ちの方に視線を移動させて、明日の試合につかうポケモンを変更する。

 アレクサンダーのバトルは常に事前に相手のポケモンや使う技を分析して使用率や、技の構成を探って自分のポケモンが確実に勝算がある編成にするのだ。ワイスとの一戦でもあえてアマルルガを選んだのは相手の油断と技と炎技を誘発させるために選んだ。

 その作業を一通り終えると背もたれに身を預け、椅子がきしむ声を上げる。

 

「いよいよ明日なんだね。セルピルと戦うのは」

 

 試合前日を明日に控えたアレクサンダーは浮かばれない様相だ。いやずっと前からだ。

 ふいに、ドアがノックされる音が聞こえた。ルームサービスはまだ頼んでいないはずだったので、いったい誰だろうと思った。腰を上げてドアののぞき窓を覗くと、ドアの向こうにさっきの試合の対戦相手だったセルピルの友達のセロがニコニコと笑みを絶やさずに立っていた。

 一体何の用事だろうと、アレクサンダーが疑問に感じながらドアを開ける。

 

「こんばんは」

「セロ君?どうしたの。その、入ってよ」

 

 立ち話をするのは相手に悪いとセロを部屋の中に入れる。

 もしかして試合の悔しさを直接言いに来たのではないかと唾をアレクサンダーは飲み込んだ。冷酷すぎるほどの試合の腕前と普段とのギャップにいつも苛まされてきた。相手への不満や嫉妬、アレクサンダーはそれを幾度ともなく受けてきた。きっと今回もと歯を食いしばった。

 

「今日のバトルありがとうね。それとセルピルを助けてくれてありがとう」

 

 へ?っと気の抜けた声を上げそうになった。第一声が見るも爽やかな笑顔で呆気に取られてしまったのだ。

 

「僕ね、セルピルがフリーに攫われたとき何もできなくてさすっごく悔しくて。周りの大人の人からセルピルは絶対に助けてやるって言われても全然眠れなくて。何もできない自分が嫌で嫌でたまらなかった。でも来てくれたのが昔の友達よかった。おかげで、僕はセルピルとまた出会えた。ありがとう」

「え、あっ、どうも」

 

 しどろもどろにセロのぱぁっと明るい笑顔に気圧されながら返事をし、頭の中を整理する。

 後者の意味はよくわかる。友人を助けたのだからお礼を言うのは至極まっとうなこと。だが問題は「バトルありがとう」という言葉に違和感があった。ポケモンバトルは名門である家の名を穢さないように強くあらねばならない、そう教えられてきた。それなのにどうしてありがとうなのか、ただの一手段でしかないというのに、その答えをアレクサンダーは求めていた。

 『バトルありがとう』とは何かを。

 

「セロ君、どうしてバトルをしてありがとうなんていうの?」

「う~ん、感謝と尊敬、いや一期一会かな。セルピルもたしか一学期の終業式の翌日に初めてバトルしてセルピルってこんな人なんだったって初めて知り合えたことにバトルありがとうって言ったし」

「一学期の始め?今年の?セロ君はセルピルとの友達だよね、何度もバトルしているって聞いたからずっと前からしているものだと」

「ううん。セルピルと友達になったのはこの旅が始まってからだよ。だからもっと昔からのセルピルのことを知っているアレクサンダーが羨ましいなぁ」

 

 あははと一笑するセロに対してアレクサンダーは、目が点になった。セルピルとセロとは長年も一緒にいる存在だと思っていたのに、それがそれも相手の方から羨ましいなんて言われるなどと。

 自分は高々六年前に一度と今になって数日だけ一緒にいただけで、そんなに長い付き合いはない。

 

「羨ましいのは僕の方だよ。セロ君の方がきっと長くセルピルといたはずだし、そう言う資格はないよ」

「そんなこと言ったらしたらセルピルが怒るし僕も怒るよ」

 

 不機嫌な顔をした。それは本気の怒りでなく、諭すような温和さのある怒りだ。

 

「セルピルはアレクサンダーとの約束を守るために旅を続けてきたんだよ。それに、僕もセルピルが戻ってきたときまた笑って一緒に旅しようって最初に言うように決めたんだ。僕が泣いてたらセルピルが心配するし、旅を辞めてしまうかもしれない。だからいつもの笑っている僕でまた旅をしようってね。でもバッジの数が足りなくてポケモンリーグに間に合わなくなりそうだからセルピルと一旦別れて、それから」

「それから?」

「走って間に合わせた」

 

 セロの返しに思わず吹き出してしまった。

 影もない人だ、とアレクサンダーはこの数日間でセロいう人となりを理解できた。自分から相手の手を引き、相手のことを思いやる良い人だ。彼になら、過去の自分とセルピルのことを話してもきっと受け入れて話しくれるだろうとアレクサンダーは意を決した。

 

「セロ君。僕はね、セルピルとまた会えて、彼女が昔の約束を果たそうとしてくれて嬉しく思うんだ。だけど僕は、昔セルピルとバトルして怪我させてしまったんだ。だからまたセルピルを傷つけてしまうかもしれないって決勝に近づくたびに怖くなったんだ。でもどうして君は友達とバトルしてもも大丈夫なの?傷ついてしまうのが、嫌われるの怖くないの?」

「う~ん。あんまりうまく言えないけど友達っていうのは――」

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