ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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設定補足:アニヤ地方のモデルはトルコをモチーフにしています。
また、フィリヤ・ドスルックシティは略称で中央都市とも呼ばれます。


第八話『スヨルの森の一夜』

『繰り返し申し上げます。本日のファトゥラシティ行のバスでございますが、本日の夕方四時半ごろに発生しました土砂災害により、道路が封鎖され運行を見合わせております。現在、町役場にて臨時バスによる振替輸送を実施していますので、ご利用の方は役場までお越しください』

 その放送を聞いたセルピルは、危うく優勝楯を落としそうになった。乗る予定のバスがなくなってしまったのだ。繰り返し放送される案内に従って、セルピルは優勝楯を脇に持って小走りで町役場に向かう。同じく会場にいたセロは放送を聞いてからぼんやりとしていた様子だった。

 町役場は入口の所にまで人であふれていた。並んでいる人たちは、携帯電話で連絡を取ったり役所の人に当たり散らしていたりと様々だ。特に、職員に罵声を浴びせているのは並んでいる人だけでなく役所から出てきた人たちまでもが含まれていた。

 セルピルは、その惨状を見て本当に臨時バスが出ているのか不安な気持ちで溢れそうになった。セルピルは、近くを通りかかった疲れかかった男性職員に声をかけた。

「あのすみません。今臨時バスは出ているのでしょうか?」

 突然自分の目線にいないところから声をかけられられた職員は、吃驚していたが視線を低くして赤毛のサイドテールの少女の姿を見つけて彼女の質問に答えた。

「ふえっ、ああ。失礼。お嬢ちゃんは、ファトゥラシティ周辺の出身の人かな?」

 セルピルは首を振り、ポケモンジムのあるファトゥラシティへ行くためだと伝えた。

「ごめんだけど、お嬢ちゃんは多分乗れないと思うよ。ファトゥラシティの近辺に住んでいる人たちを重点的に乗せているから、お嬢ちゃんのような旅が目的の人は乗せれないんだよ」

「でも、ファトゥラシティの周辺に住んでいる人はそんなに多くないでしょ。今すぐじゃなくてもいいから乗せれるようにしてよ」

 職員の答えにセルピルは食い下がるが、職員は首を振り無理だと答える。

「ごめんね。使っているバスがマイクロバスで乗れる人が限られるし数もないんだ。おまけにファトゥラシティへ行く迂回路が時間がかかって戻ってくるのが今晩か明け方になるらしいんだ。それに結構人がいてね」

 するとそれを聞いていた人が、職員につかみかかってきた。どうやら、役場から出てきた人が職員に向かって怒鳴り散らしていたのはこうしたことが原因だった。セルピルは巻き込まれないようにその場から離れていく。

 あたりがだんだんと赤く染まりつつあるスヨルタウンをセルピルは会場の入り口の階段に腰かけて、ため息をついた。

 セルピルが見つめる先には、会場の向かい側にあるポケモンセンターに長蛇の列ができていた。臨時バスで帰れなくなった人が宿を求めてポケモンセンターに集まってきたのだ。だが明らかにポケモンセンターが受け入られるほどの人の収容力を超えている。セルピルが部屋を追い出されることはないが、列の中で文句を言う人たちが出てきているようで今入れそうになかった。

「おや、セルピルさんどうされましたのかな?」

 途方に暮れていたセルピルに近づいてきたのは、町長だった。セルピルは、もしかしたらバスに乗せられるかもと考え事情を話した。

「ほうほう、それは大変でございましたな。しかし、私の力ではどうにもならないですな。すでに決定されたことですし、道路が開通するのもいつなのかわかりませんしな」

 セルピルはがっくりとうなだれた。やはりスヨルタウンで逗留するしかないと諦めかけて、そうですかと立ち上がった。

「ですが、この時期にジム挑戦とは、確かに死活問題ですな。ならここから西のタッシーマシティへ向かうのはどうでしょうか。スヨルの森を抜けた先のコンヤストリートにならバスがありますから」

 町長の時期という意味を理解できなかったが、その提案に思わず耳を傾けた。

「そこにもジムがあるんですか?」

「ええ、スヨルの森を早く抜けましたらすぐにコンヤストリートに着きますし、早ければ一日で着けますでしょう。あ、でも」

 それを聞いてセルピルは胸が高鳴り始めた。いつ乗れるかわからない状態から確実にジムのある街へ行ける方法ができたのだ。

「町長さん、ありがとうございます」

 セルピルは町長の手をつかんで感謝を伝え、大慌てでポケモンセンターへと向かっていく。その途中、セロがセルピルを呼び止めようとしたがセルピルは無視して走り去った。

 

 スヨルの森は、トリ湖の南西にある森である。そこから流れる川からの恵みを受けて大小様々な木々が生い茂っている。また、トリ湖の近くに行くと湿地帯になりニョロモやマッギョなどのポケモンが生息している。

 そのスヨルの森を息を切らしながら進んでいたのはセルピルだった。セルピルは、なんとか日が沈む前にコンヤストリートへ急ごうとしたのだが、自転車がなくなってしまい寝袋やボストンバッグと重いものを手で運ばなければならなかったせいで息も絶え絶えの状態だった。

「イッシー!」

「ゴトラ、アイアンクロー!」

 飛び出してきたイシズマイに対してセルピルはゴトラを出してバトルをする。彼女は最初、イシズマイがニチャモのひのこが効かないことに驚愕していたが、ポケモン図鑑のおかげでイシズマイに有効なタイプが判明できたため、だいぶ優位に森を進めていた。

「ムイッシ」

「やっぱり一撃では倒すのはできないか」

 イシズマイの特性がんじょうによって、弱点や大ダメージを与えても耐えてしまうことでたびたび時間を食ってしまっている。そしてイシズマイがすなかけを放つことで、ゴトラの視界が奪われアイアンクローを外してしまった。

「落ち着いてゴトラ、イシズマイはそんなに素早くなさそうだから私が誘導するわ。すこし左、そうそこ!」

 ゴトラは、セルピルの誘導に従いその方向に向かってずつきを食らわせる。岩タイプのイシズマイに効果はあまりないが、ゴトラの鋼の体からの攻撃とイシズマイの残り少ない体力ならば十分だった。イシズマイはずつきの威力で吹き飛ばされ、これ以上は危険と判断して森の奥へ逃げていった。

「戻ってゴトラ」

 ゴトラをボールになおして先を急ぐために再び歩み始めるセルピル。コンヤストリートへの道は、幸いにも他の人がわかりやすいように看板や明らかに人が整備してつくられた小道があったためそれに沿って歩いているため迷うことはなかった。

 だが、所詮は土の小道。重い荷物を持って歩くには歩き辛く、たまに草が道を覆いそうになっている個所もあった。足が切れないように長ズボンを穿いていて肌へのダメージを防いでるがこんな対策をしないといけないほど不便で仕方がなかった。

 そして悪いことに、太陽が地平線の向こう側にへと落ちてしまう時が来てしまった。あたりは朱に染まった森から、トリ湖の水のような青みのかかった色へと変貌していった。

 セルピルは、近くに小さな太鼓橋が掛かった川の周辺につくと荷物をどさりと落として腰を下ろした。今日中に森を抜けることを諦めて野宿することを決めたのだ。 

「ニチャモ出てきて」

「チャモ」

 セルピルが近くにあった落ち葉や折れた小枝・ある程度の大きさの石をかき集めて、石を円状に並べてその中に落ち葉や小枝を入れる。それに向かってニチャモにひのこを出して火を起こさせた。

 セルピルは、ポーチを開けてその中から『入門初めての旅の準備と心構えと楽しみ方』という本を取り出す。初めての野宿ということもあり、焚火のやり方は頭に入っていたが、その後にすることを調べるために取り出した。

 本を開けて、本に書かれていた水を汲むというページを見て、バッグに入っていた残量が後一口ぐらい残っていた飲みかけのペットボトルを取り出し一気に飲む。女の子としてははしたないが誰も見ていなかったので気にしなった。

 そして空のペットボトルに水を入れようと川に近づくと、少し上の方にある光景に目を輝かせる。

「ニチャモ来て」

 セルピルがニチャモを呼ぶ。言われるままニチャモが近づきセルピルが向いている方向を見ると、ポケモンでさえ美しいと感じる光景が広がっていた。

 バルビートとイルミーゼが集団で求愛のダンスを川の上という舞台で披露していた。この時期になるとホタルポケモンである二種類が河原で求愛行動をするために集まってくるのだ。イルミーゼがバルビートを誘導させ、バルビートはお尻の発行体を点滅・発光させて幾何学模様を浮かび上がらせる。

 舞台にいる二種類のポケモンたちは、眼下にいるセルピルとニチャモに関心がないのか、それとも観客としてみているのか全く意に介さず、今夜もイルミーゼの匂いに引き寄せられたバルビートたちが闇夜を背景に自然の花火を表現させる。それは、人間の技術では再現できない自由な広がりと点滅の連続である。

 一列からの蛇行。そこから円になったかと思えば一瞬光が消えて花火のようにパッと散る。最後のは、他のイルミーゼが近づいてきたためバルビートがそれに追いかけていったのだった。

 こんな美しげなダンスをたった一人と一匹だけで独占できるのをセルピルは喜ばしいかったが、逆にここには知っている者はニチャモとボールにいるポケモンたちだけということなのだ。

 幻想的な光景を堪能したセルピルは、先ほど汲んだ水を焚火にかけて火を消した後、腕を広げてニチャモを抱きしめて一緒に寝袋の中に入る。

「一緒に寝ようニチャモ。心細いの」

 少し大きめの寝袋を買ったものの、今まで寝てきたベッドとは異なり動けるところがなかった。それでもニチャモの温かいぬくもりがじんわりと肌に伝わる。夏の夜ということで冷えはしないが、ポケモンと抱き着くことで安心感を得られた。

 ニチャモも嫌そうな表情をしていなく、むしろ喜んでいる様子だった。まるでセルピルを本当に親として認識しているかのように。

 セルピルは、目をつむり眠りにつくまでに不安感を紛らわそうと、明日の予定を考え始める。

 目覚まし時計を持ってこなかったが、家に目覚ましがあっても起きることがなかったセルピルには意味がないものだ。もう親もいないことだから頑張って早く起きようと心の中で決心する。

 そして森を抜けてバスに乗れば、遠回りになったがようやくジムに挑戦できる。中央都市に行くための旅がようやく始められると高揚感が湧き出てきた。ふと、両親の顔が浮かび悶々とした。そうだ、なぜ両親は私の好きなことをさせてくれなったのだろうか、そうすれば私が内緒で旅に出ることなんてなかったのにと考えた。

 そしてセルピルは過去を振り返り始めた。最近ではこの瓶の手紙をセルピルが見て挑戦すると言った後の両親の表情。それからさかのぼって八歳ぐらいの時に、地元のサッカークラブに入りたいと母にお願いしたが危ないからという理由で入らせれもらえずずっとお願いしたが諦めてしまったこと。他には七歳の時に町の郊外に行こうとしたら、鬼気迫る勢いで怒られて泣いてしまったこと。あの時の出来事は今でもわからなかった。

 思えば六歳の時には結構外に遊ばせてくれたのに、急に家で遊びなさいとかスポーツに興じさせてもらえなかったと思い始める。レイの家の牧場で遊ぶ時も最近まで渋い顔をしていた。そんなに家に閉じ込めておきたかったのかと頭がふつふつと湧いてきた。

 だが急に冷や水を浴びせられたかのように急速に冷静になる。そういえばレイの牧場は、ずっと前からそう記憶にある限り六歳の時には普通に遊んでいた。その時にはニチャモと郊外にまで遊んでいた。どうしてこんな変化があったのだろうか。

 そしてセルピルは記憶を手繰り寄せてもっと昔を思い出そうとする。しかしそこに行きつく前に、セルピルの意識はまどろみの中へ消えていった。

 期限まであと五十一日。

 

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