ポケットモンスター ノース・サウス   作:wisterina

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コンヤストリートは、実在の町コンヤの名前をそのまま引用しています。
まだ九話にもなってジム戦が遠回りとレジギガス並みにスロースターターですが、もうちょっと待ってて。


第九話『道の町へ』

 夏の朝特有のしっとりとした湿り気のあるぬくもりの中、寝袋から出てきたのはニチャモだった。セルピルはまだぐっすりと眠ったまま、寝袋の中に小さな水たまりをつくっていた。下ろした赤毛の髪はあっちこっちはね上がって見る影もない。

 ニチャモはセルピルに傷をつくらない程度につつく攻撃をして起こそうとするが、セルピルは手を払いのけるだけであった。一向に起きそうにないセルピルの様子にニチャモはひのこを吐き出すほどに頬を膨らました。ニチャモは器用にセルピルのポーチのチャックを開けて、中に入っていたモンスターボールの開閉スイッチを嘴で押した。ボールから出てきたイワンが体をブルリと回転させて体をほぐす。

 ニチャモがイワンに寝ているセルピルを一緒に起こそうと頼み、イワンもワンっと吠えて二匹でセルピルを起こしに行く。イワンはいつものように首の近くの岩をセルピルの顔の近くに当ててこする。ニチャモは先ほどやったつつくを頭に向けて間を置かずに攻撃する。

 しばらくして、セルピルが目覚めると同時に彼女の顔中に痛みが走り出す。

「いった~い!?痛い痛い痛い痛い!!」

 セルピルは、痛みの原因である二匹を大慌てで引き離し、寝袋を飛び出して川に顔を突っ込む。川の水から顔を上げた後もまだ顔や頭はヒリヒリと痛んでくる。

「イワンだけでも痛いのに、ニチャモのつつくまでされたらたまんないよ~」

「チャモチャモ」

「ワン」

 寝坊助のご主人を起こす身にもなってくれと言わんばかりに二匹は、セルピルに向けて鳴き声を放つ。

 セルピルは朝食に昨日ポケモンセンターで買ったパンをポケモンたちにはポケモンフーズをやって朝食を取り、はね上がっていた髪の毛を整えてサイドテールを結び出発の準備を整えた。『入門初めての旅の準備と心構えと楽しみ方』の通りに、火の不始末がないか、ゴミや忘れ物はないかを確認して出発といいたいところだったが。

「うっ、なんで、閉まらないの?!」

 寝袋を何度も折りたたんで筒状に巻き込んでも、なかなかベルトが届かなかったり袋に入り込めず悪戦苦闘していた。その頃には日はだいぶ高くなっていた。最終的には長時間悪戦苦闘するセルピルを見かねたゴトラが、寝袋に向かってずつきをして無理やり入れたのだった。

 予定よりも時間をとってしまい、野生のポケモンとの戦闘を極力避けてスヨルの森を抜けようと駆け抜ける。

 しかしそれでも野生のポケモンは自身のテリトリーに入った者を排除しようと襲い掛かってくる。特にちょっとしたことで怒るマンキーは……

「ムッキャー!」

「なんでマンキーが私に怒っているのよ?!」

 マンキーの群れは、自分たちのテリトリーに入ったセルピルに怒っていた。だがセルピルは入ろうとして入ったわけではない、コンヤストリートへ向かうための小道の一部がマンキーたちによってテリトリーと化していたのだ。セルピルは目測で二十匹以上いるマンキー達と戦うのを避けて、重たい荷物が負荷になりながらも走り抜ける。

 マンキーは自分たちの怒りをセルピルにぶつけようと、木々を伝って追いかける。そしてそのうちの一匹がセルピルに向かってけたぐりを食らわそうとする。

「ニチャモお願い!」

 ボールから出たニチャモが、マンキーに向けてひのこを放ち不意を突かれたマンキーは火の玉の直撃を受けてしまった。だが、マンキー達の追撃は止まらない一匹倒れても次のマンキーが、またやられても他のマンキーが標的を追いかけていく。進化系のオコリザルが、逃げてく相手を追いかける習性は群れでの生活の名残だとも言われている。

 だいぶ走り続けたセルピルの脇に看板が立てられていて『この先コンヤストリート。道の町へようこそ』と書かれていていた。それを見たセルピルは、もうすぐ森を抜けられると理解し、最後の力を振り絞り走り抜ける。そして木々が途中で切れたと思ったら地面の感触が急に変わり危うく転びそうになった。

 後ろを振り返ってもマンキーの鳴き声が聞こえるだけで、追いかけてくる様子はなかった。正面を向くと、石のタイルが敷き詰められた道路とそれに沿って一直線に店や露店が立ち並んでいた。そしてゲートの上の方に『コンヤストリート』と書かれていた。

「や、やっと着いた……」

 緊張の糸が切れたのか、セルピルはへたり込みバッグにもたれかかる。それでもその時間は一瞬だけだった。とにかくバスに乗らなければと立ち上がろうとするが、生まれたての小鹿いやシキジカのように脚が震えてしまっていた。立ち上がった後も、震えは止まらずそんな奇妙な状態のまま歩まなければならなかった。

 コンヤストリートは街道の街ともいわれている。成り立ちは、広大なスヨルの森を向けた先の原っぱに一組の夫婦が宿屋を建てたことがその起こりとされている。そこに人が集まり店が立ち並ぶようになった。今でも町の建物の三分の一が宿場や元宿場なのだという。

 向こう側まで障害物が見えないほどの真っすぐな道と、今では珍しい石造りの街並みを観光しながら歩いていると、つま先が石畳に引っ掛かり目の前にいた女性にぶつかってしまった。その反動で寝袋や荷物を落としてしまった。

「ご、ごめんなさい」

「大丈夫?」

 ぶつかった女性は、セルピルが息をのむほど美しいという一言で表せるしかできなかった。紺のタイトスカートにデニムシャツという普通の服装であるが、上のボタンを二つほど外して解放さを表し、ボリュームのある褐色の髪がその美しさをより引き立たせ、セルピルの若い赤毛がくすんで見えるほどだった。

「荷物は大丈夫?けがは?」

「……は、はい大丈夫です。そうだ、バス間に合うかな」

 セルピルは慌てて寝袋とバッグを拾い、またヨタヨタとした足取りで通りを進んでいった。セルピルは転んだ原因の石畳に文句を言いそうになったが、先ほどぶつかった女性の姿を思い浮かんでしまいそんなことなど忘れそうになった。

 だがセルピルが転びそうになった石畳の街道もコンヤストリートの象徴でもある。街道に使われている石材は、イシズマイや進化系のイワパレスの脱いだ殻を加工して敷き詰めている。街並みもそれに合わせた石造りで統一されているのだ。

 石畳の道が弧を描くようになると、そこには二人の乗務員がバスの前で乗客の荷物の整理をしていた。ようやく目的地にたどり着けたセルピルは、ふらつく足取りでバス停に荷物をどさりと置いた。セルピルは深呼吸をして乗務員に出発時刻を尋ねる。

「すみません。バスはいつ出発しますか?」

「あと、二十分で出発だよ。さ、荷物をこっちへ」

 乗務員が腕時計をちらりと見て、セルピルのバッグを受け取ろうと手を伸ばす。

「すみません。バッグに入っている物を手荷物に加えたいので少しだけ待ってくれますか?」

 セルピルはいったんバッグを地面に置き、チャックを開ける。バスの中だと長時間揺られて眠ってしまうと思い、櫛と手鏡といった化粧品やマイ枕をバスの中に入れておこうと考えた。

 だが、そこにはそれらは入っていなかった。それだけではない、セルピルが入れていたはずの代えの下着や服にパジャマにタオルといったものまで中身が入れ替わっていた。明らかにセルピルのものではない大人が使うような化粧品や何冊物のノートやノートパソコンにモンスターボールといったものが入っていた。

 セルピルは一瞬動揺したが、すぐさまハンカチを取り出し、アロマエキスをかけて匂いを嗅ぐ。鼻腔が、柑橘系の爽やかな酸っぱい匂いで満たされていく。その匂いが頭の方にまで到達し、急速に冷やされていく。

 スヨルの森では間違いなく自分のバッグだった。マンキーの群れに追いかけられた時も、バッグを落とすことはなかった。バッグを地面につけたのはこの町に来てからで、落とした可能性が高い。町のゲートでは人の往来はあまりなく、バッグもすぐに持って行った。そして次に置いたのは……

 その瞬間、セルピルはハッと気づいた。あの時、女性とぶつかったときに入れ替わったに違いないと気づいた。

「すみません。どこかでバッグが入れ替わってしまって、すぐに戻りますから待っててくれませんか!?」

「その必要はないわ」

 その背後で女性のやさしい声が聞こえた。振り向くと、先ほどぶつかったあの美しい女性がセルピルと同じバッグ――いやセルピルの物であるバッグを持っていた。

 女性はセルピルに近づき、中身を確認するように促す。チャックを開けてみると、間違いなくセルピルの服や枕が入っていた。

「あの後わたくしのバッグと違うことに気づいてすぐに追いかけていったの。コンヤストリートの東側から来る人の大半はバスに乗るはずだしね」

「ごめんなさい。急いでいたので、間違ってお姉さんのバッグと間違えてしまって」

「やだっ、お姉さんだなんて。いいわよ。わたくしもこのバスに乗る予定だったし、ちょうどこの町の用事も済んだことだしね」

 女性は取り間違えられたバッグの中身を確認すると、それを乗務員に渡した。セルピルも続いて自分のバッグも乗務員に渡して乗り込もうとする。

「あなた、お弁当は買わないの?一緒に行きましょう」

「私も一緒にですか?」

「これも何かの縁よ。ほら、時間もないし早く早く」

 女性はその美しい顔に似合わず、セルピルの腕を引っ張ってコンヤストリートへ引きずっていく。

 

「なるほど、ジムに挑戦しているのね」

「そうなんです。でも私の故郷から一番近いファトゥラシティ行のバスが止まってしまって、それでスヨルタウンからならタッシーマシティへ行こうと思いまして」

「あらまぁ。ということは、わたくしの待ち人も遅れてくるかもね。その子もスヨルタウンを通ってくるって言ってたからね。南の方出身だから」

 走行するバスの中でセルピルは女性と同じ座席に座って話していた。女性の名前はミュケーナというポケモン博士という偉い人だった。その肩書を聞いて身震いしたセルピルだがミュケーナ博士は気さくに話しかけてきて、コンヤストリートで買った弁当を食べながら好きなものなどの話などで打ち解けていた。

「その子と何か約束しているのですか?」

「ええ。その子の母親がわたくしと顔なじみでね。セルピルちゃんと同じくジム挑戦のためにアニヤ地方を巡る旅に出るって言ってね」

 ミュケーナ博士は、手提げカバンからモンスターボールを取り出した。

「その子のために推薦状を出したの。ポケモン協会もジム挑戦者の増加を奨励しているからね。ポケモン協会の承認が出たからファトゥラシティでポケモンを渡すために行くの」

「じゃあ、ミュケーナ博士はコンヤストリート出身なんですか?」

 セルピルの質問に、ミュケーナ博士は笑って手を振り否定する。

「ううん違うの。わたくしがコンヤストリートに来たのは研究のために来たの。わたくしオーキド博士とかのポケモンの生態学的な分野じゃなくて歴史学の研究をしているの」

 二人が話をしていると、バスの乗務員がマイクロホンを手に取り乗車案内をする。

『お客様に申し上げます。このバスは、ゴキューズシティ行高速バスです。タッシーマシティへは現在道路の全体検査によりタッシーマシティへは連絡船をご利用ください』

 だが、乗務員の放送はミュケーナ博士の話に夢中になっていたセルピルの耳には届かなかった。

 期限まであと、五十一日。

 

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