俺は彼女を知っていて、彼女は俺を知ってる   作:ローマ戦隊あるば☆ろんが

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にわめ

「現実ってのは変わるべきか変わらざるべきか…悩ましいモンだねこれは」

 

「何を言ってんのか知らんがね、また遅延でも起きて欲しいとか思ってるんだろ?」

我が友、畠中、よそんなことを言うでない、俺はあの時、確かにユートピアを見たのだ。

自分で書いてはなんだが、正直言ってアレである。

件の、組織的犯罪組織(悪の秘密結社)による遅延テロから早1週間。

俺のような学生身分はモラトリアムの時間にノスタルジーを覚える程には、遥か数日後の休日を待ちわびる、こんな程度にはいつも通りの時間を享受していた。

(数年ぶりに)3次元へとたなびきかけていた俺の心はというと、すっかり2次元世界へと連れ戻されている。

変わらぬ時刻に、変わらぬ列車、乗客。

以前と差して変わらぬ日常は、先日の3次元的理想郷の体験を消し去っている。

現実と言うのは怖いものだ。

毎日毎日懲りもせず、同じ電車に乗って来る。願わくばブサ子(仮名)、先日の2.5次元生命体(美少女)と変わってくれはしないだろうか…

別に3次元に浮気したなどと言う気持ちは毛頭ない。ちょいと3次元にも希望を見出しただけだ。

だが現実は酷である。

スマホに支配された視界の、ちょっと上の方に写り込むセイラー服。

誰もが画面を覗き込むこのご時世の中、文庫本を黙々と読んでいるその存在。

ページを捲る動作にすら洗練された気品を感じるこのサマは、まさに現代社会の紅一点。

立ち振る舞いを見れば、どこぞのライトノベルにあるような知的なヒロインのそれだ。

だがしかし、問題なのはその顔である。

なんとも言葉では言いづらいのだが、顔がクッソ不細工なのだ。

到底、もう来る頃などと考えつつ待ち惚けできるような顔ではない。と、一言書いておこう。

しかし、かれこれこのブサ子とは2年程同じ時を過ごすだけあって顔のインパクトはもう既に感じず、むしろ居ないと病気の類を心配する程度には彼女は俺の日常へと溶け込んでいる。

で、ある訳だが彼女について最近一つ気づいた事がある。

制服がこの前の2.5次元生命体(美少女)と同じなのだ。

彼女の立ち振る舞いといい、ブサ子の立ち振る舞いといい、余程の学校なのだろう。

別にどうと言う訳ではないのだが、ふと彼女が視界に入った時、俺はかつて確かに存在したオアシスの残像を見て、ノスタルジーに浸るのだ。

そう、変化しつつある日常に気がつく事が出来ずに。

 

結局のところ俺という存在が、自らの日常を崩壊へと導いたのである。

それは今日の午後、昼休みも後半で窓から注ぎ込む日光になんとも言えぬ眠気を感じている時だった。

柔らかい日の光は人のやる気すら減衰させるのだろうか…午後の授業なんてやってられんな

こんな事を考えつつ、実際は殆ど何も考えないで時間を浪費していたその時だったのだ。

飯館、プライバシーの関係で友人Bと呼ぶ事にするが、唐突に彼は俺に向かって歩いて来た。

そしてこう、2006年頃に一世を風靡したライトノベルにあるように顔をグイッと俺に寄せた。

例を挙げるならば、

そう、「お前はどこの古泉だ」

という言葉が出てくるくらいには、だ。

内心どうせどうでもいい事なんだろうと勘繰りつつも、そんな俺の態度を知ったこっちゃないと言ったように飯館は語り出した。

「我らの同志、松下いるだろ、アイツ俺らを裏切ったんだ」

「アイツはもう同志じゃない、タダの松下に成り下がっちまったんだよ!」

 

「何を言ってるんだお前は…」

仮に何か起きたとして、一体何が起きたのか、主語を言え主語を

 

「ヤツに彼女ができたらしい」

 

何を言いたいのか知らんが、男子校生なのに彼女が出来た。

めでたいじゃぁないか、何処に怒る要素があるのかと、俺はそう思った。

「彼女くらい別にいいじゃぁないか、」

 

「俺は別に彼女の存在を妬んでるワケじゃぁない。2次元には嫁までいると公言しているにも関わらず、彼女を作るヤツの浮気根性に腹が立ってるんだよ!」

 

その時、俺の心がプツンと切れた。そんな音が聞こえた。

松下、テメェを殺す

 

友人飯館は俺の気持ちを知ってか知らずか、唐突にこう切り出してきた。

「そこでだよキミ、此処に置き傘が俺とお前合わせて2本ある」

「ヤツは我ら(妻帯者)を裏切った、一矢報いるのが筋ってヤツじゃないか?」

 

「我が友Bよ、話を聞こうじゃァないか」

 

「いいか心して聞けよ親友、決行は今日の放課後、下校中。」

「スマホなんか開いてニヤニヤしてる松下(ヤツ)に後ろから声をかけ、手持ちの傘で殺るんだ」

「流石に殺しはしないが、落とし前ってのを付けて貰わにゃ気が済まんだろ?」

 

「やるに当たっては雰囲気も重要だろ?」

「そこでだ、このネタで買ったが使い所がさっぱりわからなかったこの、目出し帽を使って悪の秘密結社(ソレ)っぽさを演出するワケだ。」

「どうよ、中々計画立ててるだろ?」

 

「あぁ、はっきり言ってパーペキだよ親友、よし乗ってやろうじゃないか」

「いや親友どうか、この仇討ち参加させてくれ!」

側からしたらバカみたいに見える事なんぞ俺は十二分に知っている。

だが、一つ言うとしたら俺は絶対に後悔しないだろう。そして絶対に反省もしない。

そう、絶対にである。

何せ正義は我にあり、妬みこそ非リアの特権だからだ。

 

午後の授業は眠気とともに過ぎ去って教室に西日が差した頃。今日の授業が終わりを迎えたのだった。

終礼をパパッと済ませた後、遂に俺は俺で無くなった。

西日が照りつける街の中、復讐の鬼が2頭、傘を構えて立っている。

俺は俺であって俺でない。目出し帽(コスチューム)にこの身を任せしヒーロー。

俺とこの友人こそが、全世界の非リアの代弁者である。

スマホのメッセージアプリなんぞを開いてニヤニヤする松下、最高に妬ましい。

俺と友人の二人には、文化祭のお化け屋敷で培ったテクニックがある。

気付かれずに近づくなど造作もない筈だ。

駅まで続く坂道の中、山手線のフェンス越しに微風の吹いているこの瞬間

松下との距離は直線にして20メートル弱、10メートルを切ったところで名乗りを挙げる。

復讐の始まりである、そもそも落とし前ってのは必ず着けさせるものなのだ。慈悲はない。

今一度、目出し帽(コスチューム)を整える。

忍び足で近付き、名乗りを挙げる

「マツシタサン、ちょっと宜しいでしょうか?」

「彼女が出来たそうですネッ!」

声と共に傘を振り下ろそうとした次の瞬間だった

 

「風から騒ぎを聞き付けて、参上したのはこの瞬間、ここで会ったが100年目‼︎」

 

声のする方を振り向くと、真紅のヘルメットを身につけた人物が一人、間違いないヤツ(ヒーロー)

東京23区北部担当3代目担当者(ヒーロー)のレッドブロッサム

そして特に役立つ情報でもないが、俺は知っている、ヤツの正体が先日の2.5次元生命体(美少女)である事を

…ほんと、どこかで役に立ちませんかね?

 

だが、今回は何か様子が変だ、ヘルメット内に髪を仕舞う余裕が無かったのかヘルメットの下からは綺麗なロングヘアが顔を出し、何時もの装甲服ではなくセイラー服を身につけ、鞄からはコスチュームが見え隠れしている。

よほどの緊急時なのだろう、ヒーローが緊急で現れると言うことは、余程近くに悪の秘密結社がいるらしい。しかし、辺りを見回せど不審者なんかは俺たち以外に誰もいない。

…あっ、もしかしてこれ勘違いされてるパターン?

 

今代のヒーローである彼女の能力はヒーローの公式サイトを見るに不穏察知(ネガティヴ・レーダー)

瞬間、俺は全てを、そして自らの敗北を察した。

察した以上やるしかない、やられる事が確定した以上精々カッコつけるぜ、俺は

「こうなった以上話は早い飯館ッ、お前はヤツを追え!ここは俺が引き付ける、テメェのその妬み(意地)ってのを見せてやれ」

「ヒーローさんよ、こいつァ必要悪ってヤツだ、だからな、俺を倒してから進むがいいさ、」

「行け、親友‼︎」

 

「ッお前…生きて帰ってこい、約束だからな」

 

「おうよ親友、俺は必ず生きて帰るさ、明日の朝礼で!」

「「さらば友よ、明日の朝に!」」

 

「話は済んだかしら?組織的犯罪組織(悪の秘密結社)。まずは貴方から、手始めにやってやろうじゃない!」

戦隊モノのドラマのように空気を読んだ絶妙なタイミングで切り出した彼女のセリフ、テンプレと言えども様式美の類を感じずにはいられないほど見事だ。

ならば俺も精々テンプレで返そうか、ノリは重要だからな

ノリにはノリで返す。これが男子校生の礼儀って訳だ。

 

「この制服を見ても分からんのか、こんな小市民の悪戯に構ってる暇があったら悪の組織早く潰していただきたいものだね?」

 

「ハッ、どの口がそんな事を言うのかと、貴様その目出し帽からして、見るからに悪の秘密結社ではないかっ」

 

正直に言って凄く怖い、怖いくらいに彼女は本気だ。

そして彼女の華麗なる殺陣が…始まらなかった。

普通に蹴られた。

テンプレ的に言うとまずは小手調べってやつで避けて普通なんだろうが、一般人には無理だ。

もう一度言うが、無理だ、速すぎる。

都市の雑音の中、ヒーローさんの蹴りの音だけが響いた。

 

「ふっ、その程度ですか、まあ良いでしょう。これで懲りたなら二度と組織的犯罪組織(悪の秘密結社)なんかになろうと思わない事ですね。」

「はっきり言いますが、私の手をくれぐれも煩わせないように、我ら担当者(ヒーロー)の任務は更生ですから。」

ヘルメットの中からでも透けて見えんばかりのドヤ顔をした後、彼女はバック片手に駅の方へと歩いて行った。

まだ世界が揺れている。視界が安定しない。これでも多分手加減されて蹴られたのだろうが、小市民にはきついものがある。

セイラー服を着て、ヘルメットからは長い髪がたなびいている。

やがて彼女は俺の視界から離れたと思っているのか知らないが、ヘルメットを脱いでカバンへとしまった。

そこには先日の美少女が…と、思った刹那、彼女はおもむろにカバンからパックのようなものを出して顔に貼り付けた。

それこそ、スパイ映画でよく見るシリコンのお面みたいに、だ

そこには先日の、つい先ほどまで見えていた2.5次元生命体(美少女)は居なかった。遠くで微かに見えるのは、何時もの電車でよく見る顔、ブサ子(仮名)によく似た、寧ろ本人そのものだった。

痛みを堪えて頭を整理すると…

未だに現実を現実と受け止められないせいか、頭がこんがらがりそうになってしまう。

ブサ子(仮名)=23区北部担当3代目担当者(ヒーロー)のレッドブロッサムさん。そしてレッドなんとかさん=先日の2.5次元生命体(美少女)

言ってみてはナンだが未だによく分からん。

俺はふらつきながら立ち上がって先日の台詞をもう一度、

 

「それでイイのか担当者(ヒーロー)さん…」

 

 

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