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ここはフェジテの街。
石造りの家が多く立ち並び、
その規則正しい様はどこか無機質な印象を与えつつ、
また人の温かい存在感を感じさせるような、
そんな二律背反的なものを持っているような街である。
街の高低差はかなりの物であり、
その平地から見上げればどこまでも広がっていそうな大空が高台の上にはみえて、
またその高台から見下ろせばどこまでも広がっているその街並みを支配出来そうなくらい壮大な景色がこちらも見える。
さて、ここでフェジテの街というものの成り立ちを確認しておきたい。
誤解なきよう言っておくが、ここで言う成り立ちとは、貴族街や平民街と言った構成そのものではなく、
まあ例えるならば、海辺の街なら港、などといった街の中心となる施設のことだ。
中心となる施設によってその街並みはガラリと変わる。
とある街は厳格で格式張った緊張感を、どんな人間でも持たざるを得ないような印象を与え。
そして、ある街は自然と一体化していて大地の息吹を感じるような印象を与え。
はたまた、別の街においてはならず者達がそこら中を闊歩しているような不安さを孕んだ印象を与え。
とまあ、このように街の数だけその印象はあり、街の数だけその種類があるのだった。
では、フェジテの街はどうなのか。
結論から行こう。アルザーノ帝国魔術学院という魔術を教える学校がこの街の中心である。
その証拠に、と言ったらいいだろうか。
学校から生徒達が出てきている。
その顔は一様に笑顔であり、
散歩に来ていた青年や遠くから目を向ける老人、
更には備品の買い出しの帰りだろうか、大きい荷物を持ったメイド服を着た女性さえも
その明るい雰囲気に充てられたようで笑顔が広がっていっている。
そんな幸せな雰囲気を持った街なのだ。フェジテという街は。
さて、前述した際は軽く飛ばしてしまったいたが、
学園の名前は『アルザーノ帝国魔術学院』
読んで字の如く『魔術』というものを教える学校である。
と、ここで軽くではあるが魔術について触れておこう。
魔術とは、まあざっくりといえば人の身には過ぎた超常現象を起こすことだ。
しかし超常現象と言っても学校で教えられるのだからきちんと体系が出来ているものであって、
説明のつかないものは世間では異能として異端扱いされていたりもするのはまた別の話。
畢竟、何が言いたいのかというと、
いくら体系化されているとはいえ、その力はやはり人の身には過ぎているのだから、それ相応の見識が必要だということだ。
では、
どこからその答えは?と問い掛けて、
答えたるは、果たして街の中。その中の、具体的には統一された制服を着た子供達の姿にあった。
もう人が閑散としている校内の一室においては、五芒星の方陣を一生懸命に作成している金髪の少女だったり。
変わってこちらは徐々に人が増えてきた図書館においては、考古学の論文だろうか、名うての学者が発表したばかりの論文を吟味する銀髪の少女だったり。
他にも、
雑談に花を咲かせつつも出された課題をこなす少年達や、
学校の中庭では、男女が魔術を教えあっている横で、
3、4人くらいの男子達が爆発系魔法を練習していたりする。
そんな日常風景。まごう事なき平和である。
......平和である。
さて、その日常は、学校の周りだけでなく、
街という大きなくくりの中においても適応される。
ではでは、こんな場所に焦点を当ててみるのはどうだろう?
活気あるフェジテの街の中でも一際賑やかな商業街。
人呼んで『平和における戦争地帯』という場所へ。
「はあ、今日も忙しすぎる......」
ため息まじりにそう呟く少年の名前はエイン=ジェスター。
なぜ忙しいのか?
単純である。ここはレイディ商会の店舗。とは言っても支店ではあるが。
店内には人がひしめき合っていて、雑踏と称するには十分すぎるほどには繁盛していた。
レイディ商会は主に魔術関連の道具を扱っている。
そしてエインはここで事実上の店長をしている。
......バイトなのだが。
街行く人にレイディ商会の人気を聞けば、恐らくは街一番と答えるであろう。
それも当然である。
同じように魔術関連の道具を扱っているフェジテ中の店の売り上げの、なおかつレイディ商会以外の売り上げの合計をしてみても、レイディ商会に及ばないのだ。
こうなったのは、ひとえにエインの商戦略が大きい。
......バイトなのだが。
事実、エインがバイトを始めた5年前と比べて、フェジテ支店の売り上げが2倍となっている。
......バイトなのだが。
ここまでの記述でエインが優秀なのは新たに語るまでもないだろう。
しかし、
「昔よりだいぶ忙しくなったなあ。......今週何回目だろ、このセリフ」
「おーい!兄ちゃん!こっちの触媒を売ってくれよ~!」
「あっ、はーい!かしこまりました!」
彼には自覚というものが足りない。
そのことに気づかないまま、また買い物にきた客に意識を現へと戻す。
かくして太陽が沈んでいく一方で、売り上げはまだまだ順調に伸びていくのであった。
山へと沈んでいかんとする太陽が発した、今日最後の夕暮れ特有の強くなる光が、今日も彼を照らした。
こんなにも綺麗でうっとうしい夕焼けが感じられたのに、ご生憎さま明日は予報では曇りのち雨らしい。
時は過ぎて閉店後。
数時間前とは打って変わって耳が痛くなるくらいに静かな店内にて、エインは今日の売り上げの会計をしていた。
無論一人ではない。
他の店員でもなく、また他のバイトでもなく。
店にいるのはエインと顔を突き合わせて会計を行う少女。
テレサ=レイディ
それが彼女の名前。家名が示す通り、レイディ商会のお嬢様だ。
その流麗な紫髪は綻びを見せるわけもなく、その肢体は同年代の女子と比べても発育が良く、THEお嬢様といった感じである。
「今日も大変そうだったね?」
「ああ、大変すぎてなんか眠かったよ......逆に」
「ふふっ、なにそれ。エインってば変なの。
まあそれはともかく今日もお疲れ様。いつもありがとね」
そう労いの言葉をかけながら、テレサは手元の紅茶を一口含む。
この間もエインはその手を休めない。
そんなこんなでようやく今日の会計を終えつつ、そして勝手知ったる様子でそのまま帰るでもなく料理を作り始めるエイン。
「うん、まあ忙しい事は悪い事じゃないよ。君にとっても......。
......僕にでさえもね」
そう独り言を呟いて......。
魚の焼ける匂いがした。
テレサが匂いの元を辿って、そのときに視界に入った窓の外は、面白さを感じさせないくらいには不気味さを持った、真っ黒であった。
その闇を振り払うかの如くテレサは一瞬目を閉じ、また目と共に口を開いた。
「そういえばヒューイ先生の代わりの先生が明日やってくるそうね」
「うん。セリカさん......アルフォネア教授たっての紹介とあるから期待はしてもいいと思うんじゃないかな?」
そうだね。と相槌をうつテレサ。
「ヒューイ先生が居なくなってしまったのは惜しいけど、気持ち切り替えていかないと、できる魔術も出来なくなっちゃうよ」
かく言うエインの目には、確かな説得力を持たせるには十分な強さが宿っているようにテレサには思えた。
......思えてならなかった。
「おあがりよ」
そういったエインの声と共に、魚料理が運ばれてきた。
その辺のレストランにも勝るとも劣らないような出来栄えの、白身魚のソテーだ。
エインはレイディ商会の商会長にテレサのお手伝いを頼まれている。
ちなみに、テレサが多人数の行動を嫌うため、メイドやら丁稚やらといった住み込みで働く人はエイン以外はいない。
つまりだ、エインとテレサは一つ屋根の下で暮らしていると言う事だ。
このことがエインの親友にバレた時に「羨ま氏ね」と言われたのだが、まあそれはそれ。
いただきます。と儀式を終えて食べ始める二人。
その姿ははたから見てるだけでも親しげな様子が感じられた。
静かであって。それでいてとげとげしさが感じないようなそんな雰囲気が生まれていた。
やがて食べ終えた2人の間に再び会話が始まった。
「おいしかった。今日のは調味料を替えた?」
「うん、よくお分かりで。明日が不安だけどもちょっと楽しみで。とっておきのを使って見たんだ」
「ええと、自作していたものがあったわね。これ、うちで売ってみない?」
そう言ったテレサの顔には期待やら楽しさやらが。
兎にも角にも純粋な顔で見つめられたエインは、気恥ずかしく思えて、思わず顔を背けた。
「やめとくよ。とっておきってのはね、ここぞって時まで持っておくんだよ」
ご馳走さまでした。そういって一足早く片付けにいったエインは風呂場へと向かうためリビングを出た。
後にはエインが何を言わんとしていたか。
その真意に思い至り顔を赤くした、紛れもなく乙女な顔がそこにあったらしい。
「はぁ〜 よく寝た〜」
エインは誰に聞かせるでもなくそう呟く。
まだ薄暗い朝。
彼がいつもより早く起きたのは果たして何故だろうか?
エインはそう自問して窓の外を見る。
しかしてその答えは外にあるわけもなく、
世界は朝を取り戻す......。
「さあ、今日も朝ごはんからかな」
みなさん、刮目しなさい。これが主夫である。(大嘘)
また忙しい一日が始まり、ある者は、
「学院の外で魔術を使っては本当はダメなんですけどもね。秘密ですよ」
親切を分け与えている。
またある者は、
「はあ、珍しく忘れ物しちゃったなあ」
どこぞやから来る動揺であるのかうっかりしてしまっている。
さて、人の数だけの始まりと言う名の朝があって、
さすればその交わりの数だけ出逢いと言う名の物語がある。
ということは、人のいるところにはここでいう物語とやらがあるわけであって。
必然、ここにも物語が一つ。
例えばこう言う話はどうだろうか?
片方は長年連れだった夫婦のような、とあるお嬢様とその付き人。
そしてもう片方はなにかに遅刻しそうな自己管理能力の無いと見なされるような『愚者』。
そんな一瞬の邂逅。
愚者はこちらを一瞥もせずに走っていってしまったが、何かに気づいたらしいその付き人は思った。
「面白くなりそうだ」
そう浮かべた笑みは、いつもの人畜無害っぷりなどいざ知らず。
獰猛と称するにふさわしい、そんな笑みだった。
そしてふと溢れた声は、やはりというかなんというか。
幸い隣の彼女には聞こえず、朝の慌ただしい空気の中に溶け込んでいった。
付き人は言った。
「今日の天気予報の曇りのち雨ってやつ、恐らくは外れるよ。うん、うん。」
付き人はわざわざ二度も頷いた。
「あらあら、そうだといいね」
そう答えるお嬢様を的はずれだと思うのは、
誰に聞いても彼だけだろうと思いながら、
彼は、彼女は日常を始めることにした。
感想などいただければ幸いです。
会話文を次回からはもっと増やすつもりです。
それでは次回をお待ちいただけますか?
ではでは!