ルイズと動く図書館   作:アウトウォーズ

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お待たせ致しました。いつもは粗く書き終えた翌日には、改良案がバンバン浮かんで来るのですが……今回はそれが全然無くて、かなり自信ないです。

前話で書き切れなかったデルフの受難は、3節目です。
1節目はルイズが、2節目ではシエスタ達が苦労します。

どうぞよろしくお願いします。


第18話 心の震え

正式にデルフリンガーの持ち主となったルイズは、彼を透明人間として偽装するのに四苦八苦していた。

ルイズは念力魔法を使って何とかそれっぽく見せかけようとしたのだが……パチュリーが待ったをかけたのである。

 

七曜の魔女が提案したことは、極めてシンプルだった。

無ければ作る。

空想の中にしか居ない存在ならば、魔法で顕現させて仕舞えば良い。そして実際に、それっぽいものが出来上がってしまった。

 

「……ナニコレ。」

 

「透明な人型。」

 

「……そんなの、見れば分かるわよ。私が知りたいのはね、何でこんな、無駄に迫力があるのかって事よ。透明になった意味ないじゃない。」

 

「こっちの方が、示威効果あるでしょう?」

 

「……そうかもしれないけど……コレはちょっと…」

 

今、ルイズの目の前に居る存在は……悪夢に出てきそうな奴だった。

透明な液体が人型を象って、無言で佇んでいる。まるで、どこぞの狩猟型宇宙人が、クローキングデバイスを用いた様な有様になっていた。

 

透明な癖して、違和感がハンパないのだ。見えない事で逆に、存在を主張してくる。隠れるならきちんと、ひっそりしてもらいたい。

 

「ところでこれは一体、どうやったの?」

 

「系統魔法。土と水のラインスペルね。」

 

パチュリー曰く、通常の水よりも遥かに粘性があって、打撃したり剣を振るったりも出来るそうだ。

何だそれ、最早水とは程遠いではないか。

 

「お願いだから、さり気なく新しい魔法を作らないでよ。というよりも……精霊魔法じゃないのね。」

 

「土克水と言って、精霊魔法の枠組みではこの組合せ方は難しいのよ。」

 

「ああ、そう言えば……精霊魔法は強力なかわりに自由度が低いのよね。……それで、コレを操ってデルフリンガーを振れと?」

 

「ち、ちょっと待てや!こんな薄気味悪ぃ〜〜奴に握られんのかよ、オレ様‼︎ 勘弁してくれ!」

 

パチュリーが脅威の技術を発揮して作り出した水人間は結局、デルフリンガーですら薄気味悪がった。

ルイズも、こんな気持ち悪いやつを操るために練習を重ねたくはない。せっかくだが却下の流れとなった。パチュリーは特に何の感慨も覚えていないようで、その幽霊みたいなやつを消し去ってしまった。

 

「……あんまりにもオッデレータもんで、開いた口が塞がんねーぞ。一体どーなってんだよ?いつの間にメイジは、こんな風に何でもアリなことになっちまったんだ?」

 

「この子を基準に考えない方がいいわよ。それに、まだまだこのくらいは、序の口だから。」

 

「……オメーも苦労してんだな、チビピンク。」

 

さて、こうなると。

ルイズがなんとかするしかない。

 

難題である。

普通に念力を使ってスススーと移動させてしまっては、何者かが剣を操っている事はバレバレなのだ。そうは見えぬよう、実際に一歩一歩、背負って歩きながら剣や鞘の動き方をよく観察し。上下動や歩幅などを、それらしく偽装せねばならなかった。

 

何とかそれなりに見える様になるまで、半日以上の時間を要した。

 

「貴女はやはり、妙なところで器用な事をしてくれるわね。」

 

パチュリーにそう言われて、ルイズは彼女の性格を改めて思い知らされた。

透明人間をつくっておいてこの言い様とは、ともすれば完全な嫌味であるが……彼女にそんなつもりは微塵もないのだ。

この魔女は本当に、現状を何とかやりくりして、工夫するという発想に乏しい。というか、持ち合わせていない。壊れた家具とかは、絶対直したりしないタイプだろう。欠点を克服した新品を作ってしまった方が、彼女にとっては手取り早いのである。

 

しかし、逆に捉えると、である。

思わぬ褒められ方をしたルイズは、破顔した。

 

「ところで私のこの念力は、貴女の目から見てどう?結構進歩して来たでしょう?」

 

「その件に関しては現在、仮説を検証中なの。まだ告げるべき段階にないわ。」

 

「何よ、水臭い。勿体ぶらずに教えてよ。」

 

「やめとけって、チビピンク。今の段階で評価を気にして、どうするよ。」

 

このときデルフリンガーが、口を挟んだ。

そしてルイズは、100%褒められる事しか頭なかった。

 

「何よ、慢心なんてしないわよ。」

 

「あ〜〜、オレが言ってるのはそうではなくてね?………ま、好きにしな。」

 

デルフリンガーはこの後何が起こるか分かっているかの様な事を口にし、そして黙った。

そしてパチュリーはいつもと同じ様に無表情なまま、しかし何処となく真剣な眼差しをして問いかけてきた。

 

「魔法を定義してみて。」

 

「……いきなりスゴイ話になったわね……考えた事もないわよ。」

 

「無から有を作り出す事。私はこの括り方から、今一歩先に進めないでいるの。」

 

「貴女にも悩みがあるなんて、意外ね。ところでそれが今の話と、どう繋がるの?」

 

「貴女の使える魔法の殆どが、魔法とは呼べないの。」

 

「……え?」

 

ルイズは余りにも予想外な言葉に、声を失った。何を言われているのか分かっていたが、実感が湧かなかったのである。

この時デルフリンガーに顔があったら、それ見た事かと言わんばかりの表情をしていたに違いない。

 

「右にあるものを左に動かしたり、既にある光を増幅したり、鍵をかけたり外したりするだけ。貴女の得意とするコモンマジックには、創造の要素がないのよ。所謂、児戯ね。挙句にあの爆発魔法に至っては、真逆な事しか出来ないときているわ。」

 

「……そ、そんな……」

 

ルイズはこの時、両の拳を握りしめていた。一瞬で真っ白になった頭の中には、荒々しい言葉が舞っていた。

 

こんな……こんな事を言わせておいて良いのか、ルイズ?ヴァリエール家の三女として、一人のメイジとして、こんな屈辱は受け入れてはならぬだろう。

これまでの必死の研鑽が、にべもなく否定されたのだ。今の言葉は即刻、力付くでも撤回させるべきだ。

 

しかし何故かこの時、彼女を包んだ怒りは一瞬で消え去ってしまった。かわりに訪れたのは、奇妙な頭の冴えである。

 

「それでも貴女は、私の魔法を否定しないのね。何故?」

 

「これまで通りに一段階劣ったものとして切り捨てるには、貴女の念力は成長し過ぎているのよ。この間は力づくとはいえ、魔法を弾き返して見せたわよね?こんなに大きな穴が空いた定義など、役に立たないわ。もっと広く、捉え直すべきなのよ。」

 

「私の為にそこまで……って事はないわよね。私を異常値扱いすれば済む話だもの。まさかとは思うけど貴女………」

 

「私も再現できてしまう以上、そうもいかないのよ。このまま放置すると終いには、自分が何によって成り立っているのか分からなくなってしまうわ。」

 

ルイズは唇を引き攣らせた。

薄々とは感じていた事だ。やはり……これまでルイズが必死で身につけてきた技術の全てが、尽く再現可能らしい。この口振りでは既に、爆発魔法すら完璧にコピーされていると見ていいだろう。

 

要するに、ルイズがコモンマジックや爆発を工夫して使えば使うほどパチュリーも成長してしまい……膨れ上がった領域を定義し切れなくなっているという事か。

そんなこと、知らないよ。完全に自業自得ではないか。

 

いや、事はそれだけに止まらない。

今のパチュリーは……ともすれば微笑みそうなくらい楽しげに見えた。

 

「貴女ね……私の技術を立ち読み感覚で掻っ攫った挙句、その結果自分を見失いかけてりゃ、世話ないわよ。何でそんなに、嬉しそうなの?」

 

「磐石だと思っていた命題が一解釈に成り下がるのは、進化の証よ。今から思えば貴女に召喚魔法を使われた時点で、定義の再構築に取り組むべきだったわ。」

 

「………私の心に負わせた傷には、ノーコメントな訳ね?」

 

「?妙な言いがかりはよしてくれない?人が真面目に話していたのに、失礼しちゃうわ。」

 

言いたい放題言った挙句、再び読書に戻ったパチュリーに……ルイズはもう、何も言う気になれなかった。

いつか絶対に、吠え面かかせてやると心に誓って……それは大変な目標だなぁと苦笑いを浮かべるのであった。

 

「今の話の流れで傷ついた私は、自意識過剰な未熟者なのかしら。貴方はどう思う、デルフリンガー?」

 

「少なくともオメーさん、巷に蔓延ってるブリミル教の坊主よりも余っ程、高尚なこと言ってるよ。平然と聞き流せるようになった暁には、メイジなんてやめて新たな宗教興すことをオススメするぜ。」

 

「……まぁ、受け流せば良いってもんじゃあないわよね。メイジとしてどう向き合うか、それが問題ね。」

 

この時を境にルイズは、少しずつ自分の方向性というものを探り始める事になった。

それが最終的に明確な指針となるには、フリッグの舞踏会での事となるが……

 

デルフリンガーはそんなルイズを、実在しない目で生暖かく見つめていた。

 

 

 

 

 

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兎にも角にも、姑息な偽装工作の準備は着々と進んだ。

デルフリンガーは、透明人間というアイディアにノリノリだった。元より、こうした突拍子もない話には目がないと見える。

 

そうして打ち合わせがひと段落したときに、廊下からシエスタ達の声が響いてきた。以前にルイズが室内で癇癪を起こして以来、建てつけが悪くなってしまったのだろう。会話が漏れ聞こえて来るのだ。

 

「はばかりさん。」

 

「おおきに。」

 

……いや、ちょっと待って欲しい。

何の暗号だコレは?

確かにシエスタ達の声がするのだが、何を言っているのか分からない。

 

そのくせ妙に上品で、ニュアンスだけは伝わって来た。

 

「こちらこそ、どうもおおきに………?こういうときは、あてこそおおきに、なんでしょうか?」

 

「フフフ、不勉強ね、シエスタ。『あて』って言うのは、町娘の言葉だそうよ。お嬢様は”私”でいいんだって。」

 

「ええ〜〜、何でそんな事知ってるんですか、ジェシーさん?」

 

「教えて貰ったのよ、掃除のとき。」

 

「こっそり聞くなんて、ズルイですよう!私も一緒だったのに……」

 

「私は休憩時間中に、個人的に掃除しに行っているの。そのくらいしなきゃ、身につけられないわよ。」

 

「こ、今度からは、私にも声かけて下さいよね!」

 

「………アンタらね、一体何なのよ。」

 

ルイズはとうとう好奇心を抑えられず、部屋の扉を開けてしまった。するとシエスタは、アタフタとお辞儀をした。

 

「あ、ミス・ヴァリエール、騒いでしまい、申し訳ありません。失礼致しました。」

 

「かんにんしとくれやす。」

 

「いや……だからその、無駄に上品な言葉遣いは何かって聞いてるのよ。」

 

ルイズは何だか、聞いてるだけで苛立ってしまった。この喋り方ができないと野蛮だとか下品だとかそんな、あらぬ事を言われそうな気がしたのである。

こうした筋違いな被害妄想に駆られた、そのとき。

 

「おうおう、何だか懐かしい喋り方する奴がいるな………って、何でいこのポテト娘どもは?」

 

鞘に収める途中だったデルフリンガーが、口を出してきた。

 

「アンタ、今の言葉遣いに聞き覚えがあるの?」

 

「おうよ。随分と久しぶりに聞いたぜ。まだ、そんな喋り方する奴がいたんだな。」

 

「………え?こ、この声……何処から聞こえているんですか?!」

 

「ま………まさか悪霊とか何かですか……?」

 

「……な、ナルホド。」

 

ルイズはアタフタとするシエスタ達を見ているうちに、新たな発想を得た。

………幽霊とは、なかなかいいカバーストーリーではないか。

何よりも透明人間と違って、説明が手っ取り早い。そもそもインテリジェンスソードの存在を知らない人からすれば、デルフリンガーは物の怪の類に見える事だろう。

元々のルイズはこんな乱暴な考えの持ち主ではなかったのだが……最近妙に、逞しくなっていた。

 

「シエスタ、それと貴女はジェシーかしら、紹介するわね。こちらが6,000年前の戦で亡くなった騎士の亡霊、デルフリンガーよ。パチュリーによって冥界から呼び出されて、私に忠誠を誓ってくれたの。悪者ではないから、安心して頂戴。」

 

「い、いきなり大嘘ブッこくんじゃね〜〜よ‼︎ 透明なんちゃらはどーしたぁ?!死んじまってるじゃねーかよ、オレ様!」

 

「この通り、まだまだ死んだという自覚が持てないようでね。色々と混乱しているのよ。少々口が悪いけれど、性根は真っ直ぐで好感持てるから。あまり警戒せず、気軽に話掛けるのが仲良くするコツよ。それとデルフリンガー、こちらはポテトじゃなくて、メイドのシエスタとジェシーよ。のほほんとしてる様に見えるけど、仕事を愛するプロだから。一定の敬意は払いなさい。」

 

「あばばばば……や、やっぱり……幽霊さんなんですね?」

 

「ひいいい、わ、私は食べても美味しくないですよう!」

 

「オレの話を聞け〜〜〜! 」

 

メイド達が叫び、デルフリンガーが怒鳴る。その上、頭上の部屋でも何やらドカドカと騒音が巻き起こり始めた。

確かこの上はタバサの部屋だった様な気もするが……まあ、細かいことは気にしないようにしよう。タバサ自身が言っていたことである。………さすがに冷気を垂れ流して来るのはマナー違反だと思うので、明日の授業の際にでも注意しておこう。

 

ルイズはそうして、メイド二人組にデルフリンガーを幽霊騎士として認識して貰った。その際に剣舞と称して、抜き身の刀剣をバトントワリングしたら、本人はメチャクチャ不機嫌になってしまった。

……シエスタ達は、パチパチと手を叩いて喜んでくれたのだが。

 

この際の細々としたやり取りの中で。

シエスタ達の喋り方は、ミス・ロングビルの真似だということが判明した。ふと気が緩んだ時に、かの有能な平民秘書は、はんなりとした言葉遣いをするそうだ。

それだけではなくルイズは、シエスタ達の話の中から新たな事実を見出した。彼女が食事の際に見せる食器の扱い方は、アルビオン式の古風なテーブルマナーだったのである。

 

「や、やっぱりそうなんですよ、ミス・ロングビルは……この大陸諸国では喪われた古語を操る、旧家の御生れなんですよ!」

 

「それだけじゃあないわよ、シエスタ!やっぱり私の睨んだ通り、家名よりも平民との愛をとって、トリステインに駆け落ちされたのよ!きっとご主人は、壮大な逃走劇の中で命を落とされて、その際にお腹に宿った子供のために今、ミス・ロングビルは………」

 

「はいはい、余計な詮索はそこまでにして、もう寝なさいね。明日も早いんでしょう?」

 

ルイズはそのようにメイド達を嗜めると、デルフリンガーとパチュリーを伴って部屋を出た。

 

周囲はもう、真っ暗である。

シスエタと先輩は、そんなご一行を青ざめた目で見つめていた。

 

「そう言えばミス・ヴァリエールのお部屋………ベッドが無かったけど。ちゃんと寝ているの?」

 

「最近、朝一の洗濯でいっつもお会いするのですが……まさかこの時間からずっと起きてるなんて事は、ないですよね?」

 

メイドの二人組はどことなくすら寒いものを覚えながら、そんな会話を交わしていた。……しかし不意に、シエスタがヒャアとかわいい悲鳴を上げた。脅かさないでよ、違うんです、何が違うの、というやり取りの間にようやく、シエスタは首筋をハンカチで拭き終えた。

 

「な、何か冷たいものが上から落ちてきて………」

 

こうして頭上を見上げた2人の目に、入ってきたもの。

それは、天井の一面から垂れ下がった氷柱の数々であった。ヒッ、とジェシーさんが息を呑む音がして、シエスタは本当に震え始めた。

 

「な、何ですかこれは!この上には、氷の女王でも棲んでいるのですか?!」

 

「………風の噂で、ミス・タバサは幽霊の類に弱いと聞いたことがあるわ。おまけに昨日から風邪を引かれているから……恐らく、魔力が暴走したのよ。」

 

「ど、どうしましょうジェシーさん……こんなの、私達じゃあどうしようも……」

 

「触らぬ神に祟りなし、て言ってね。」

 

どうする事も出来ないので二人は、現場を放置した。

もちろんちゃっかり、 上司に報告だけは済ませた。所謂、丸投げというやつである。

 

 

 

 

 

 

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さてさて。

ルイズとパチュリーはデルフリンガーを伴って、真夜中のヴェストリの広場に来ていた。兼ねてよりの課題である、パワーアップを図る為である。

 

「あ~~~、オマエらにはわかんない?こう、なんつ~のかね、グワ~~っとなる感じ?」

 

デルフリンガーは、要領を得ない説明を続けていた。

 

「コノヤローとか、てめ~~コンチクショウ!ってやつ、あるだろ?それだよ。」

 

かろうじてついて来れたのは、ルイズだけである。七曜の魔女さんに至っては、何をか言わんや。

 

「要するにアンタ、感情の高まりって言いたいの?怒ったりするとそんな感じになるけど。」

 

「そうそう、それ。オレ様が実力を発揮するには、使い手が心を震わせるのを、直に感じる必要があるんだ!オメーさんみたいに、魔法で柄握って振り回されても、アツくなれねーのよ。いわゆる興醒めってやつだな。」

 

「成程ね。パチュリー、今のでだいたい分かったでしょう?つまりはキュルケって事らしいわ。」

 

「その結論で納得しろ、と言われてもね。」

 

「見事な喩えだと思わない?気分屋なところなんか、そっくりじゃない。」

 

そうは言ったものの彼女の高笑いが脳内に木霊してきそうで、ルイズはゾッとなった。完全に自爆である。

ところで、とパチュリーは前置いた。

 

「買う前から時からずっと見ていたけど。私達の中で心の震えとやらが一番大きいのは、多分この剣よね。」

 

「確かにそうね。」

 

「だったら自分で震えればいいじゃない。」

 

ルイズはパチュリーが何を言っているのか分からず、首をかしげた。それはデルフリンガーも同じ様だ。まぁ、当たり前か。

 

「ハッ!これだからド素人は困るぜ!物事には道理ってモンがあってだな?!剣は動けない、こいつは常識だ!」

 

剣のくせに喋っておいて、良く言う。

ルイズはそろそろ頃合いかな、とパチュリーと立ち位置を交換した。

 

何しろデルフリンガーを鍛えると言いだした、張本人なのだ。果たして一体、どんな仰天の手法をお披露目してくれるのだろうか。

 

「本人もこの様に申告してるけど、どうするの?」

 

ルイズは、ちょっとワクワクしながらパチュリーの行動を待った。

すると彼女は面倒臭そうに、人差し指をデルフリンガーの刀身に押し当てた。

 

そうして……たった一言、こう呟いた。

 

「アグニシャイン」

 

と。

 

それだけで、異様な魔力が周囲を駆け巡った。ルイスがもう少し未熟だったら、気絶してしまっただろう。いや、既にもうしかかっている。

 

何しろ余波だけで破格な威力だと分かる攻撃魔法が……デルフリンガーだけに放たれており、周囲には塵ひとつ舞っていなかった。さながらドラゴンの炎でパンを焼いておきながら、余熱ひとつ漏らしていないに等しい。

 

「な、な、な、な………」

 

何て事するんだ、危ないじゃないか、とルイズは言いたかった。いつも通りに声を大にして、元気に喚こうとしたのである。

 

しかし、仮にも精霊魔法が使える様になった今だからこそ。コレがどれだけ埒外な所業かという事が分かってしまった。

 

無理だ。

 

こんな真似、一生かかっても出来そうにない。

周辺一帯をどうこうする様な魔法を、指先だけに収束させるなんて。少しでもミスをすれば、肘から先が蒸発するだろう。

あまりの彼我の技術差に、立ち眩みを起こしそうだった。

 

そしてこんな魔法を接射されたデルフリンガーは、堪らずに悲鳴を上げ始めた。それもちょっと、尋常ではないレベルで。

 

「ん?初めて聞く魔法だな………………って、アチ、アチチチ?!アッヅッ!うわっ、ヤバいって!溶ける溶ける!マジ溶ける!やめろ!ヤーメーロー!」

 

「ちょ、ちょっと……」

 

ルイズは流石に不安になった。

痛みを訴える声というのは、本当に心臓に悪いのだ。聞いてるだけで、蝕まれるものがある。

 

「安心なさい、一歩手前で終わるから。」

 

「……今ので手加減してたの……」

 

パチュリーは涼しい顔をしていた。当初から、この反応が分かり切っていたのだろう。

 

ルイズはこの時、激昂するデルフリンガーの声を聞きながら、全く違うことを考えていた。

杖無しでコモンマジックを使えることから、この技術だけはパチュリーに比肩していると思っていたが……ことはそう簡単な話ではなかった。彼女はまさしく、その全身が杖なのだ。魔力を増幅するのも極少化するのも、思うがまま。

 

元より競り合おうなんて思ってはいないが、何も考えずに背中だけ追いかけている現状は、絶対に何か違う。もっと、ルイズはメイジとして何を目指すのかハッキリさせねばならない。そうでもしないとこのまま一生、パチュリーのやる事なす事にビックリ仰天を繰り返して終わってしまうだろう。そんな人生は、願い下げである。

 

「い、イキナリ何すんだ、オイ!今のは冗談じゃ済まねーぞ?!」

 

「そのあたりが閾値だから、よく覚えてくといいわ。それ以上は吸い込まない様にね、多分ポッキリ逝っちゃうわ。」

 

「スカしてんじゃねーぞ腐れ魔女!そこのチビといいメイジってのは、姑息なヤローばっかだぜ!不意打ちバッカじゃねーか、真っ正面から掛かってこれねーのかよ?!」

 

「リクエストとあらば、何度でも。元よりこれで終わらせる気はないから。」

 

再び指先を押し当てようとしてきたパチュリーに対して、デルフリンガーはカシャンと大きな音を立てた。

 

そして声のトーンを落とし、告げるのであった。

何となく、ちょっとカッコいい感じの響きを滲ませて。

 

「ちっ……たく、これだからガキは困るんだ。もう、ここらで勘弁しといてやっからよ、大人しくやめておきな?!仕方ねーやつだぜ、テメーの限界すら、まるで見えちゃいねー。もう、オメーの魔力はスッカラカンだろーがよ。」

 

物思いに沈んでいたルイズは、少し苦し過ぎるデルフリンガーの口上に顔をしかめた。

 

「アンタね……どんだけ負けず嫌いなのよ?言っとくけどこの子、やるったらやるわよ。魔力とか減ってる気配ないから。」

 

「ま、マジかよクソったれ……」

 

ルイズの呆れ声に、デルフリンガーはいよいよカチカチと音を立てて震え始めた。

ハッタリを効かせてみたはいいが、まさかそこまでとは……という具合だろう。

 

しかし突如として、これまでにない大声で、やかましく喚き始めた。

 

「ハッ?!ちょ、ちょっと待てや!オレ様なに今、ブルったの?」

 

「………そうとしか見えなかったけど。」

 

ルイズは、極めて中立的に客観した結果を伝えた。

 

「な、……だ……何だ……け、剣たるオレ様が、こんな小娘にブルっただとぉ?!フザッッケんな!そんな事、ある訳ねーだろ!認めねー‼︎そんなの絶対、認めねーぞ?!オラ、何十発でも撃ち込んで来いよ!ブチ折れるもんなら、やってみやがれ!逃げも隠れもしねーぞ!」

 

いやいや、そもそもアンタはしたくても、逃げも隠れもできないでしょうに。

ルイズは最早、いちいち声を掛けるのも面倒臭くなった。

 

それにこの有様を見れば、パチュリーの言いたいことは立証された様なものだった。

こんなに活き活きしている奴なんて、人間だってそうそう居ない。剣士の心の震えに頼る必要が、どこにあるというのか。

 

「マッジであぁったまきたぜ!手加減なんて、アジな真似してんじゃね〜〜よ!メイジ如きがオレ様を試そうなんざ、千年早いわ!こちとら常に、鉄火場の最前線で身体張って来たんだ!こんな、戦場のセの字も知らんよーな小娘に見下されて堪るかよ!」

 

このときカチャカチャと震えていたデルフリンガーの振動が、変わり始めた。

 

「これしきの事で根を上げてたら、ガンダールヴの相棒は務まんねーんだよ!オレは剣であり、盾だ!これまでどんな魔法にも、膝を屈しなかった!そうだろサーシャ!やってやる………オレだけだって、やってやるぞ。」

 

今やデルフリンガーは有体に言って、ちょっと普通ではない事にっていた。

 

何しろ段々とカチャカチャ音の間隔が短くなっていき、次第にブーンという連続音に変わっていったのだ。

やがてはそれすら聞こえなくなり……

流石にこの事態に、デルフリンガー自身も違和感を感じ始めた様である。

 

「っておいおい、何じゃこりゃ?オ、オレ様の身体が震えて……コレ、どうなっちまってるんだ?」

 

「はいはい、タンマタンマ!」

 

ルイズは大慌てで、デルフリンガーをヒョイと空中に逃がした。これに対して、パチュリーは不満そうだった。

 

「今ので大体、10kHzくらいかしら。あと2倍は欲しいわね……」

 

「う〜〜ん、なんだか良く分からないけどそれ、後回しにしてくれない?今確かめておかないと、後々困りそうなのよ。コイツ、忘れっぽいから。ねえ、アンタ今、ガンダールブって言ったわよね……って聞いてる?」

 

「………」

 

デルフリンガーはいつになく大人しくなっており……

 

「は、はぁっ?!おい、今、何かスゲーこと出来かけてたんだぞ?!空気読めよ、空気!」

 

「何をバカな事を、気のせいでしょ?それよりも……」

 

ルイズはそうして、始祖ブリミルに纏わる伝説の、真偽を確かめようとした。そっちの方が、よほど大事な事に思えたのである。

正しく、その瞬間の事であった。

 

大音が轟いた。

 

ズシーンズシーンと 何か巨大な足音の様なものが響き。

のっそりと、魔法学院の城壁を乗り越えて、超巨大な人型が姿を現したのである。

 

「な、なななな何よあのモノスゴイのは?!戦争でもおっぱじまったの?!」

 

ルイズはもう、完全に泡を食った。

何しろ全長50メイルはあろうかという前代未聞のゴーレムが、ヤル気満々で近づいて来るのである。コレはどう見たって、只事ではない。

 

「……何とも凄まじいこって。」

 

対照的に、デルフリンガーは冷静だった。

 

いや、ルイズとて何も、慌てふためくばかりな訳ではなかった。彼女は……選択肢の多さに迷っていたのだ。

攻撃しかできなかったら、間違いなくそうしていただろう。しかし今や、応援の呼び方ひとつとっても色々とやりようがある。照明弾みたいに強力なライトの魔法を使うも良し、巨大な爆発を起こして爆音を轟かすも良し。単純に迎撃するにしたって、目の前のデカブツに無駄撃ち覚悟で牽制を加えることもできるし、術者を見つけ出してからそちらを叩くというのもある。何れにしろ現時点では、圧倒的に情報が不足していた。

 

「せ、戦争ってことはゲルマニアの仕業よね?!て、いうことはキュルケを人質に取って交渉に持ち込むべき?それとも一匹狼的の仕業なら、術者を叩くしか無いわよね?!こんなヤツに目を奪われている場合じゃ……いや、それともコイツをこの場に足止めした方が良いの?!やっぱりここは、取り敢えず応援を……」

 

「良かったな、チビピンク。コレが初陣だったらオメーさん、今頃死んでるよ。」

 

デルフリンガーは、ヤレヤレという様に溜息をついた。ボンボンな新米の貴族士官には、こういうタイプが多いのだ。変に色々考えて、右往左往して決め切れない。

せめて自分で何とかしようとせず、先任下士官や知識豊富な同胞に、判断を仰ぐべきだったのだ。

 

「拙速を尊ぶオレとしては今すぐ突撃したいんだけど。つかもう、こっちの位置が露見してるからやり過ごすこともできんから、それしかないよな?」

 

「バカ言ってんじゃないわよ!あんなデッカいの相手に、剣一本で何しようってのよ!」

 

「あのなぁ…」

 

デルフリンガーはいい加減に、痺れを切らした。

 

「慣れないことに頭使って、結局何もしのかよ?だっらもうここで、オレは降ろさせて貰うぞ。腰抜け野郎に付き合ってケツまくるなんざ、冗談じゃないぜ。」

 

「な、何てこと言うのよ!私は現状で一番良い手段を取ろうと………」

 

「うるせー!ヒヨッコが一端な口きくんじゃねーー!そういう判断は、そこのパジャマにでもやらしとけ!それとな、勘違いすんなよチビ。オメーさんは確かにオレの持ち主だが……主人として認めたつもりはねーかんな。オレ様の使い手なら、それらしいとこ見せてくれよ。」

 

ルイズはムッとした顔つきになり……そうしてスッと目を細めた。

デルフリンガーはその表情を目に留めると、鷹揚に頷こうとして……自分には首肯するための身体がないことに気がついた。仕方がないので、カシャンと小気味良い音を立てる。

 

「それでいいんだよ、チビピンク。現場も知らねー奴が、状況判断なんざできるわきゃねーんだ。できる事をやれよ。何していいかわかんねーなら、取り敢えず目の前の敵と戦おーぜ。それが、戦士ってもんだろ。」

 

「………うるっさいわね。言われなくても、分かってるわよ。それに私は、貴族よ。」

 

そうしてルイズは、懐から杖を取り出した。

先ほどからノホホンとしているパチュリーに目を向けると、釘をさす。

 

「パチュリー、余計な手出しはしないでよ?」

 

「何でよ。戦力の逐次投入は、ダメじゃないの?いっせーのせで、焼き払いましょうよ。」

 

「それだと私が、いつまでも貴女頼りになっちゃうでしょうが!いいのよコイツは、私がぶっ倒すんだから!」

 

ルイズはキッパリと告げると、杖を握りしめた。土の塊を消し炭に変えるとか言い捨てるメイジとの共同作戦なんて、完全に依存ではないか。恐らくここで頼ってしまっては、今後も同じことを繰り返してしまうだろう。

 

「見てなさいよ……。」

 

そうしてゆっくりと落ち着いて、爆発呪文を唱え始めた。

 

その隣ではパチュリーが本を開き、読書の傍らにデルフリンガーを支えていた。さしものデルフリンガーも、このヤル気の無さには口から砂を吐きそうになっていた。

 

「……あのさ、オマエさん。チビピンクが頑張るって言ってるんだよ?見守ってあげようとか、そういう心遣いは……」

 

「視界は共有しているから、問題ないわ。」

 

「……そういう問題じゃあないんだけどな。まあ、お手並み拝見といきますか。結構良い線行くと思うんだけどなーー」

 

デルフリンガーはため息をつくと、ルイズの健闘を願ってカチャリと音を立てた。




以前読んだ二時創作でミス・ロングビルが東北弁喋っているのがとても可愛くて、それをやろうとしたのですが……完全に失敗しました。
イギリス人的な発音をするせいで、ヤンキーなルイズがヤキモキする場面を描きたかったのです。

次話は本日中にアップできると思います。

7/22 色々と勘違いしており、申し訳ありません。1日で更新するつもりが、一週間近くかかってしまいました。
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